• 作成日 : 2025年9月9日

建設業会計と一般会計の違いとは?会計基準や計算方法、勘定科目を解説

建設業の会計処理は、他の業界に比べて会計処理が必要になります。工事の進捗に応じた売上計上基準や複雑な原価計算方法など、建設業会計と一般会計で異なることが理由です。

本記事では、建設業会計と一般会計の違いや基本的な概念、実務でよく使う売上計上基準や勘定科目について詳しく解説します。

建設業会計の基礎知識

建設業会計とは、建設業特有の会計処理方法のことです。

建設業では長期間にわたる工事が多く、売上や原価の管理が複雑になりやすいため、一般企業の会計とは異なる特別なルールや方法が使われます。

なお、建設業会計を用いることは、建設業において以下の項目で役立ちます。

  • 売上、利益の把握
  • 工事ごとのコスト管理
  • プロジェクト別の収益分析

これにより、経営者や経理担当者はどの工事が利益を生んでいるのか、どの工事がコストオーバーしているのかをすぐに確認でき、効率的な工事管理や正確な意思決定ができます。

次では、建設業会計の特徴や一般会計との違いについて解説します。

建設業会計の特徴

建設業会計には、以下のような特徴があります。

特徴内容
工事ごとに収益や費用を管理各工事の売上やコストを個別に把握でき、プロジェクトごとの収益性を明確にできる
収益は進行状況に応じて計上長期の工事でも、進捗にあわせて売上を計上することで、経営判断に必要な収益情報をタイムリーに把握できる
原価管理が複雑建設業は、材料費労務費・外注費・間接費などを工事ごとに正確に管理する必要があるが、建設業会計によりコストの過不足を早期に発見でき、工事の効率改善に役立つ
プロジェクトごとの収益把握が可能工事ごとの利益や損失の把握により、効率的な工事計画や次年度の予算策定に有効的

以下の記事で建設業会計の特徴をさらに詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

関連記事:建設業会計の特徴とは?仕訳や勘定科目の具体例を簡単に解説!

建設業会計と一般会計の違い

建設業会計と一般会計の大きな違いは、「収益認識のタイミング」と「原価管理の方法」です。

比較項目建設業会計一般会計
売上計上の基準工事の進捗に応じて計上(進行基準・完成基準)商品販売や役務提供時に計上
原価管理工事ごとに直接費・間接費を把握部門別や商品別の原価管理が中心
勘定科目完成工事高、未成工事支出金など建設業特有の勘定科目がある売上、仕入、各経費科目など一般的な勘定科目

建設業会計では、「どの工事が利益を出しているか」「どの工事でコストがかかりすぎているか」を正確に把握できるため、経営判断や工事管理に直結します。

一方で、一般会計は商品や部門単位での管理が中心なので、長期プロジェクトの収益や原価管理には向いていません。

こうした建設業に特化した会計ルールがあるからこそ、複雑な工事の収益管理が可能になるのです。

建設業会計における2つの工事基準

建設業会計では、収益をどのタイミングで計上するかによって、工事基準が2つに分かれます。

次では、2つの基準についてみていきます。

工事完成基準

工事完成基準では、工事がすべて完了した時点ではじめて収益を計上します。たとえば、新しいビルを建てる場合、工事が完了するまでは売上を計上せず、ビルが完成した時点でまとめて収益として計上するのです。

工事が完成するまでは売上として計上されないため、長期間にわたる工事では収益の反映が遅くなり、適用されるケースが少ないです。

一方で、工期が1ヶ月程度の短期で終わる小規模工事であれば、完成時にまとめて売上を計上するだけで済むため、管理が簡単で適しています。

以下の記事では、完成工事基準について、詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:工事完成基準とは?メリット・デメリットまとめ

工事進行基準

工事進行基準では、工事の進捗に応じて収益を計上します。そのため、長期にわたる工事でもリアルタイムで収益状況を把握できるのが特徴です。

たとえば、3年間にわたる大型ビル建設工事では、各年度ごとの進捗に応じて売上を計上します。1年目に建物の基礎工事が50%完了した場合、その進捗分を売上として計上することで、工事全体が完成する前でも年度ごとの収益や利益をタイムリーに確認できます。

この収益計上方法では、経営者が進捗状況に応じた進捗状況や利益を正確に把握できるため、進行状況の管理と収益予測の策定が可能です。

工事進行基準の会計処理方法については、以下の記事で解説しています。

関連記事:工事進行基準の会計処理方法について

建設業会計における2つの原価計算方法

建設業では、工事ごとのコストを正確に把握するために、原価計算の方法が重要視されています。代表的な方法は、「直接原価法」と「間接原価法」の2つです。

それぞれの方法には特徴や向き不向きがあるため、工事の規模や管理の目的に応じて使い分けが求められます。次章より、それぞれ詳しく解説します。

原価計算法とあわせて理解しておきたい「工事原価と4つの構成要素」については、以下の記事をご覧ください。

関連記事:工事原価と4つの構成要素をわかりやすく解説

直接原価法

直接原価法とは、工事に直接かかる費用だけをその工事に割り当てる方法です。

たとえばAビルを建設するにあたって、必要な資材費や作業員の給与など、工事に直接関係する費用のみをAビル建設工事の原価として計上する原価法になります。

しかし、ビルの建設をするためには、資材や給与以外にも、現場事務所の管理費や本社の管理費も当然かかります。

一方で、直接工事に関係しない原価である間接費は、直接原価法では各工事の原価には反映させません。

直接原価法を活用するメリットとデメリットは、以下のとおりです。

メリットデメリット
  • 工事ごとの原価把握が簡単
  • 間接費の按分計算が不要なため管理の負担が少ない
  • 工事にかかっている費用が明確
  • 間接費が反映されないため、利益が課題評価されるリスクがある
  • 長期工事や複数工事には不向き

直接原価法は、目に見える費用だけを簡単に管理したい場合には便利ですが、全体の利益管理には限界があります。そのため、工事の規模や原価管理を目的別に使い分けることが重要です。

間接原価法

間接原価法は、工事全体で発生する間接費(共通費用)を、それぞれの工事に按分して割り当てる方法です。たとえば、現場事務所の光熱費や管理費など、すべての工事に共通する費用を按分して計上します。

以下で、間接原価法を採用するメリットとデメリットを整理しましょう。

メリットデメリット
  • 工事ごとの原価を正確に把握できる
  • 経営判断に活用しやすい
  • 原価計算が複雑
  • 各工事への配分方法をどう決めるかが課題になる
  • 短期、小規模工事にはオーバーワークになりやすい

間接原価法は、長期工事や複数工事を同時に進める建設業で、正確な利益管理が必要な場合に最適な方法です。

一方、短期工事や小規模工事では、直接原価法の方がシンプルで管理しやすい場合があります。必要に応じて、適切な手段をとりましょう。

建設業会計特有の勘定科目

建設業会計では、一般企業の会計にはない独自の勘定科目があり、工事の進捗や収益状況を正確に把握するために使われます。ここでは以下の主要な勘定科目と、その使い方を確認していきます。

  • 完成工事高
  • 完成工事未収入金
  • 完成工事原価
  • 完成工事総利益
  • 未成工事支出金
  • 未成工事受入金
  • 工事未払金

完成工事高

完成工事高は、建設業会計において売上額を管理する勘定科目です。

たとえば、工事完成基準の場合、工事が進行中の段階では売上計上されず、建物が完成した時点でその工事にかかった売上をまとめて「完成工事高」として記録します。

イメージとしては、工事完了までは売上ゼロで、完成した瞬間に収益が一気に反映されると考えるとわかりやすいでしょう。

完成工事高を把握することで、工事ごとの利益や収益の状況を明確に確認でき、経営者や現場管理者はこれをもとに次の工事計画や予算策定に役立てることが可能です。

ここまでの内容を踏まえ、実際の会計処理を具体的にみてみましょう。たとえば、契約金1,000万円の工事が完了し、代金の入金が後日行われる場合は、次のような仕訳になります。

借方貸方
完成工事未収入金:1,000万円完成工事高:1,000万円

借方には、工事は完了したがまだ代金が入金されていないため、未収入金として計上し、貸方には完成した工事に対する売上として計上します。

この仕訳により、工事が完了した自店で収益が記録され、同時に未収入金の管理もできる状態になるのです。

完成工事未収入金

完成工事未収入金は、工事は完了しているが、顧客からの入金がまだの売上債権を管理する勘定科目となります。工事自体は終了しているため、売上としては完成工事高に計上済みですが、実際の入金は未処理として扱うのが特徴です。

この科目を用いることで、工事完了後の未収金の状況を明確に把握でき、入金管理やキャッシュフローの確認に活用可能となります。とくに長期工事や高額工事では、入金タイミングの管理が重要で、経営上の資金計画にも役立つ情報となります。

ここまでの内容を踏まえて、完了済みの工事1,000万円が普通預金に入金された場合の仕訳方法をみていきましょう。具体的には、以下のとおりです。

借方貸方
普通預金:1,000万円完成工事未収入金:1,000万円

借方には、実際に現金が入金されたため、資産として計上し、貸方には入金により未収金が消滅した仕訳を記載しましょう。この仕訳により、入金の発生とともに未収金の管理が完了し、キャッシュフローも正確に反映されます。

完成工事未収入金の仕訳については、以下の記事でより詳しく解説しています。

関連記事:完成工事未収入金とは?仕訳・勘定科目や、建設業の会計基準の違いも解説

完成工事原価

完成工事原価は、工事にかかった直接的な費用を管理する勘定科目です。たとえば、以下のような工事に直接関係する費用が対象となります。

  • 材料費
  • 作業員の給与
  • 外注費
  • 工事用機械のレンタル費用 など

この科目を用いることで、各工事のコスト構造を明確に把握できます。完成工事高から完成工事原価を差し引くことで、工事ごとの利益を算出することも可能です。

また、原価の内訳を詳細に管理することで、材料の無駄遣いや外注費の過剰支出を早期に把握できます。コスト削減や効率化の判断にもつながるでしょう。

完成工事総利益

完成工事総利益は、完成工事高から完成工事原価を差し引いた額で、工事がどれだけ利益を生み出したかを示す指標です。

工事ごとの利益状況を把握できるため、経営者や現場管理者は、次年度の工事計画や予算策定、採算管理に活用できます。

また、複数の工事を並行して管理する場合、工事ごとの利益率を比較することで、どの工事が効率的かを判断することも可能です。

なお、売上総利益の仕訳例や詳しい計算方法は以下の記事でも確認できます。

関連記事:売上総利益(粗利益)とは?計算方法や他の利益との違い

未成工事支出金

未成工事支出金は、工事が完了していない段階で支払った費用を資産として計上して、費用を把握するための勘定科目です。

たとえば材料費や外注費、作業員の給与など、まだ工事が完了していない段階で発生した費用が対象になります。

未成工事支出金を用いて各工事にかかる原価を把握することで、工事完成前でも正確な利益の把握が可能です。

なお、未成工事支出金で資産計上していた原価は、工事が完成した段階で完成工事原価として振り返り、経費計上します。

未成工事受入金

未成工事受入金は、工事が進行中でまだ完成していない段階で受け取った入金を管理する勘定科目です。

工事完成前に受け取ったお金は、現金として記録できる一方で、売上としては計上されません。そして工事が完了した時点で、未成工事受入金を「完成工事高」に振り替える仕組みです。

ここまでの内容を踏まえ、工事未完成の段階で契約金が入金された場合の仕訳例を確認します。契約金として500万円が入金された場合は、次のとおりです。

借方貸方
普通預金:500万円未成工事受入金:500万円

借方には、入金があったため資産として計上し、貸方は工事未完成のため売上ではなく、負債として記録します。

次に、工事が完成し、売上として振り返る場合の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
未成工事受入金:500万円完成工事高:500万円

これにより、工事進行中でも入金状況を正確に把握でき、売上との区分も明確になります。

以下の記事で未成工事受入金について、さらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:未成工事受入金とは?どんな勘定科目?仕訳や消費税の取り扱いまで徹底解説!

工事未払金

工事未払金は、すでに費用として計上したものの、まだ支払いが済んでいない金額を管理する勘定科目です。未成工事支出金とは異なり、工事未払金は費用計上済みで、支払い義務だけが残っている状態を表します。

たとえば外注費として100万円を計上したものの、まだ支払いをしていない場合は、この金額を工事未払金として記録します。具体的な仕訳例は、以下のとおりです。

借方貸方
外注費:100万円工事未払金:100万円

借方には費用として計上し、貸方は支払い義務が残っている負債として記録します。そして、未払いであった外注費を支払ったときは、次の仕訳が必要です。

借方貸方
工事未払金:100万円普通預金:100万円

この勘定科目を使うことで工事ごとの支払い残高を正確に把握でき、キャッシュフローの管理も容易になります。工事現場や経理担当者が、未払い状況を一目で確認できる点も大きなメリットです。

工事未払金の詳しい使い方については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:工事未払金の使い方や仕訳、未成工事支出金との関係

建設業会計と一般会計の勘定科目一覧表

建設業会計では、工事ごとの進捗や利益を正確に把握するために、一般会計とは異なる専用の勘定科目が用いられます。

ここでは、代表的な建設業会計の科目と、対応する一般会計の科目を比較していきましょう。

建設業会計内容一般会計
完成工事高
  • 完成した工事の売上高
  • 工事ごとの収益を明確化できる
売上高
完成工事未収入金
  • 完成工事高のうち、まだ入金されていない。
  • 債権を管理する
売掛金
完成工事原価
  • 材料費、作業員費、外注費など、特定工事に直接かかった費用を計上する
売上原価
完成工事総利益
  • 完成工事高から完成工事原価を差し引いた利益
  • 工事の採算性を把握できる
粗利益
未成工事支出金
  • 工事費用のうち、完成工事原価に計上していないもの
仕掛品
未成工事受入金
  • 工事が完了していない状態で受け取った入金
  • 完成時に売上へ振替
前受金

工事ごとの利益や資金の流れを正確に管理するために、勘定科目の使い分けが非常に重要です。

建設業の実務における注意点

建設業では、以下の点を踏まえて、工事ごとの収益や原価を正確に把握することが非常に重要です。

  • 建設業の工事は長期間にわたることが多い
  • 原価管理を誤ると利益が正確にわからない
  • 未収金、未払金を管理しないと資金繰りが不安定

正しい会計処理をするためには、建設業の特性を活かした建設業会計を把握することが必要であり、とくに工事の進捗や原価管理、未収金・未払金の適正処理が求められます。

各項目の注意点は、以下のとおりです。

項目注意点
進行基準の活用
  • 進行基準を用いる場合、工事の進捗率を正確に見積もる必要がある
  • 誤った進捗率の計上は、売上や利益の過大・過少計上につながる
原価計算方法の使い分け
  • 直接原価法と間接原価法を適切に使い分け、工事ごとの原価を正確に把握することが不可欠
  • コスト管理が不十分だと、工事の利益が正しく算出されない
未収金・未払金の確認
  • 決算時には、未成工事受入金や完成工事未収入金、工事未払金が正確に反映されているか、収益と費用の計上が適切かを再確認

これらのポイントを押さえることで、経営者や現場管理者は工事ごとの利益や資金の状況をスムーズに把握できます。次年度の工事計画や、予算策定にも役立てられるでしょう。

建設業会計の処理を効率化する方法

建設業では、工事ごとの収益や原価、進捗状況の把握が必要なため、手作業での管理は非常に手間がかかります。そこで、効率的に管理できるツールの活用が有効です。

たとえば、マネーフォワードのクラウド型会計ソフトを使うと、建設業会計に特化した機能により、以下のようなメリットが得られます。

  • 工事ごとの原価や利益の自動計算が可能
  • 未成工事受入金や未成工事支出金などの管理の効率化
  • 進捗率や工事別収益のリアルタイム確認
  • 税務申告書類の作成がスムーズ

マネーフォワードクラウド会計を活用すれば、工事ごとの収益性やコスト状況を正確に把握できるだけでなく、日々のデータ管理や決算作業も大幅に効率化できます。

建設業の経理業務を効率化したい場合には、こうしたツールの導入を検討するとよいでしょう。


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