- 作成日 : 2024年8月30日
与信管理規程とは?作り方や運用・変更の方法を解説
ビジネスにおいて、売掛金等の代金回収は極めて重要です。そのため会社は与信管理規程を設けて取引先ごとに与信限度額を定め、未回収となるリスクを管理しています。この記事では、まず与信管理規程の中身を丁寧に解説します。規程の作り方、業務フロー、運用方法なども紹介しますので、ぜひ経理実務の参考にしてください。
目次
与信管理規程とは?
与信管理規程とは、その名のとおり「与信」を「管理」するための社内規程です。「与信」とは、会社がビジネスをしていくうえで行う種々の取引において、その取引先が有する信用のことです。分かりやすいのが売掛金です。
会社がモノやサービスを提供した際、その対価として取引先から代金をもらうことが通常ですが、一旦売掛金として処理し、代金の回収は後日まとめて行うことが慣例化しています。これができるのは、取引先が将来決めた期日に支払ってくれるという信用があるからです。
そして、その与信を判定し、取引先の信用が揺らぐ事態が起こっていないかをモニタリングし、与信に基づいて取引先に認める債権の額を決めたり、代金を回収する措置をとったりすることが「管理」です。与信管理規程には、この与信管理に関する実務が詳細に記載されています。
与信管理の目的とは
与信管理の目的は、取引先からの代金や債権の回収リスクを低減し、会社が保有する債権の安全性を高めることです。具体的には、取引先の状況を調べ、第三者格付機関からの判定を参考にすることで、どの程度の量・額の取引とするのが適切なのかを判断し、債権が回収できなくなるリスクを最小化します。
取引先を開拓し、取引を増やしていくのは営業部門が担う仕事のため、この与信管理についても営業部門が主体となることが多いようです。一方で、資金繰りについては財務部門が貸倒れリスクを判定し、引当金を計上するのは経理部門が担うことが多いため、複数の部門に幅広く関係してくるのが、与信管理の実務と言えるでしょう。
与信管理規程を締結するケース
与信管理規程は、取引先との間に信用取引が発生する際に締結しておくことが望ましいものです。その理由は、代金の支払いや貸付金の返済能力が十分備わっているかどうか、客観的な判断基準がないまま取引を始めてしまうことを防ぐためです。
そのため、現金での取引に限られる小規模な小売店や、取引先が親会社に限られているような会社については、与信管理規程がなかったとしても実務上ただちに不利益が発生することはないでしょう。
一方で、取引先が複数にわたり、今後信用取引が発生する可能性がある会社は、前もって与信管理規程を準備しておくことを推奨します。
与信管理規程はなぜ重要か
与信管理規程は、取引先の信用力を客観的な指標で一律に判定し、取引先に対する売掛金等の債権を適切な額に保ち、貸倒れ等の会社にとってのリスクを最小化するという観点から、極めて重要なものです。
例えば、この規程がなかった場合、担当者によって取引先への与信の金額や取引規模が異なってしまうことが想定されます。このような属人的な判断に依拠した場合、会社の晒されるリスクを客観的に測ることができなくなり、貸倒れを予見できなくなったり、貸倒れが起こった際に、今後それを防ぐための対策をとりにくくなったりするのです。
与信管理規程の作り方
ここでは、会社の担当者が与信管理規程を実際に作成することを念頭において、規程に含めるべき主要な項目と、その内容、作成時のポイントを紹介します。
総則
まずは、与信管理規程全体に係る事項を記載します。具体的には、以下の5点です。
- 目的
まずは「どのような目的で当該規程を定めるのか」を明記します。例えば「信用取引における売掛金の貸倒れリスクを把握し、未然に防ぐ」「取引先への貸付に対する回収可能性の管理と、貸倒れリスクの最小化」といったものがあるでしょう。 - 適用の範囲
「どのような取引先を対象にするのか」「どのような業務を対象にするのか」という2点を記載します。取引先の対象を絞らない場合は「すべての取引先に適用する」とします。子会社等の関係会社を含めない場合は「但し、関係会社は含めない」としてもよいでしょう。また、スポット取引を除き、継続取引のみを対象とする場合は、その旨も明記します。対象とする業務については「新規取引の開始・取引の停止」「与信限度額の設定」「代金回収」等の業務を具体的に列挙します。 - 適用する債権
与信管理規程で対象とする債権の種類を明確にします。例えば「売掛金」「受取手形」「未収入金」「仮払金」「貸付金」等が挙げられます。記載の際に、自社で使用している勘定コード等を併記しておくと、今後実務担当者が対象となる債権の残高を抽出する際に役立ちます。 - 主管部門
当該規程を主管する部門を記載します。なお、当該規程がすでに営業部門の内部規程等として策定されており、あえて明記する必要がない場合、当該項目は必要ありません。 - 定義
当該規程内で使用する言葉のうち、専門用語や、自社内もしくは主管部門内でのみ通用する言葉等について、用語の定義や簡単な説明を記載します。 定義する用語が多い場合は、表にすると分かりやすいでしょう。
新規取引の開始と与信の設定
ここでは、新規取引の開始と新規与信の設定に係る事項を記載します。具体的には、以下2点です。
- 新規取引開始の手続き
新規取引開始の際に、どの部門が、どのような情報に基づき、誰の決裁を経て、取引を開始するのかを明記します。
取引開始の際に必要な情報が記載されている決裁申請様式をエクセル等で作成し、当該規程に添付しておくと便利です。代表的な情報としては、取引先の概要、売上高、主要株主、(公開されている場合は財務諸表)、第三者格付機関からの信用評価等です。 - 与信限度額の設定
取引先に対する与信限度額を設定します。設定に際しては、予め会社の規模や第三者格付機関からの信用評価等を基準に、社内でルール化しておきます。これによって「営業担当者が経験則で与信限度額を決める」といった属人的な判断を排除することができます。
与信の管理
ここでは、与信の管理に係る事項を記載します。具体的には、以下3点です。
- 与信限度額の見直し
与信限度額については、定期的に見直しをする必要があります。取引先の会社の状況は、決して一定ではなく、その時々によって業績がよくなったり、悪くなったりするからです。記載する内容は、まずは頻度(1年に1回等)、見直しを実施する部門、そして見直しの実施において利用する情報(財務諸表や格付機関のレポート等)です。 - 与信限度の超過管理
実務においては、与信限度額を超えて取引がされていないかを定期的に確認する必要があります。そこで、この項目では「それぞれの取引先において与信限度を超過した取引が行われていないか」を確認する部門、確認する頻度、そして超過していた場合の対応を記載します。 - 与信限度額の有効期間
取引がしばらく行われておらず今後も行われる見込みのない取引先については、実務を簡略化する観点から、与信を失効させることも検討したほうが望ましいです。そのため、この項目では、与信限度額の有効期間を定め、それを超えた場合は、与信限度額を失効させる等の手続きを記載します。
債権回収の管理
ここでは、債権の回収に関する実務上の手続きを記載します。具体的には、以下3点です。
- 債権回収の方法
「売掛金」等の債権の種類ごとに、債権回収を担当する部門と、債権回収をいつ行うのか、どのように行うのかを明記します。 - 債権回収が遅延する場合の対処
債権回収が予定通り行われなかった場合に備えて、その報告体制と対処方法を明記します。
報告体制については、報告の流れを示すフローチャートが便利です。対処方法については、いくつかのオプションを用意のうえ、表形式で添付しておくと、いざというとき参考にしやすいでしょう。 - 回収が滞留する場合の保全措置
債権の回収について、取引先の経営状況が悪化している等の理由により回収が見込めない可能性がある場合は、その保全措置について、この項目で規程します。具体的には、以下などがあります。- 取引先との間にある債権/債務を相殺する
- 取引先に担保や抵当権を設定させる
- 取引先に貸与している資産(金型等)や商品を引き上げる
- 回収に向けた取引先への督促の計画表を策定し督促を行う
その他
最後に、当該規程の変更等に関する決裁のルールや、改訂の記録等を記載します。
与信管理規程の運用方法
与信管理規程を策定したのちの運用について、基本的には与信管理規程に記載されている主管部門・関連部門が、当該規程に基づいて、日々のルーティンワークの中で粛々と業務を行っていくことが大切です。
そのうえで、定期的な見直しを実施し、内容が実務に即したものになるよう、適宜チェック・見直しをしていきます。
与信管理規程の変更方法
会社は、事業の状況の変化に応じて、当該規程を柔軟に変更していかなくてはなりません。例えば、事業の内容が事業再構築やM&A等によって大きく変わった場合は、与信管理規程内における基準や与信限度額を一律に変更しなければならないかもしれません。
変更に際しては、主管部門が中心となって、どのように規程を変更するか検討するタスクフォースを設置し、関連部門を集めたうえで議論することをおすすめします。これによって、検討事項に抜け・漏れが発生せず、検討が集中的に行われることになるので、変更作業の緻密化・迅速化を期待できるでしょう。
与信管理規程を軽視した場合に起こるリスク
ここでは、与信管理規程が軽視され、この規程通りに業務が行われなかった場合、想定されるリスクを3点紹介します。いずれも会社運営に与える影響は大きく、当該規程を無視して業務を遂行することが、どれだけ会社にとってリスクであるかを理解できるでしょう。
債権回収できない
まず、最も顕著に表れる影響が、売掛金等の債権を回収できないケースです。このような事態が発生する理由は2つあります。
1つは与信管理規程で定められた基準を超える債権を取引先に対して有してしまうことにより、取引先が債権を返済できなくなるというものです。
もう1つは、与信管理規程で定められている与信管理が軽視されることで、貸倒れが発生する前兆に気づきにくくなるというものです。
キャッシュフローの悪化
キャッシュフローの悪化は、取引先に対する代金回収までのルーティンワークが疎かになることで発生する事象です。
当該規程には債権の管理が明記されていますが、それを怠ることで、売掛金等の債権の滞留に早期に気づけなくなってしまいます。ひいては、財務部門等の会社の資金繰りを担当している部署に対して報告が遅れ、結果として想定外のキャッシュフローの悪化につながるのです。
会社が倒産するリスクも
会社の資金繰りにおいて予定される時期に予定される代金が入金されてこないという状況は、会社が倒産するリスクにもつながります。
なぜなら、債権の回収が遅れる一方で、会社の抱える債務の支払いは待ってもらえないため、結果的に支払いのほうが多くなり、いざ支払うときに支払えない、つまり黒字倒産という結末につながるのです。
与信管理規程を遵守させるには
それでは、与信管理規程を会社の従業員に遵守させるにはどうすればよいのでしょうか?具体的には、以下2つの方法が効果的です。
新規取引先の報告会を行う
まず、行うべきなのは、主管部門等の定例ミーティングで、新規取引先に関する報告を行うことです。そのなかで、新規取引先の会社概要や与信限度額の情報共有を行います。
併せて、発表者以外の参加者から、その取引先や取引先が属する業界に関する意見・情報を発言してもらうのも効果的です。これによって、会議に参加する全員が当事者として与信管理と向き合う雰囲気が醸成されます。
取引先の与信が適切かチェックを行う
次に行うべきなのは、定期的な取引先の与信のチェックと見直しです。これは与信管理規程内で「1年に1回」等とルールを決めて行います。担当する部門は、営業部門等の主管部門に加え、監査部門等を参加させ中立性を保つことが望ましいでしょう。
適切な与信管理は、企業業績の向上につながる
与信管理は会社にとって、取引先の信用力を客観的な視点から判定し、それを管理し、適切な取引量・取引額を設定することで、代金や貸付金等の債権の貸倒れを防ぐための重要なプロセスです。
これを実務に織り込み、実施することで、貸倒れのリスクを最小化することができます。その安心感が、営業部門の新規取引先開拓のモチベーションへとつながり、会社はさらに取引先を増やしていき、業績を向上させることができるのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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