- 更新日 : 2025年4月23日
借地権は償却できる?減価償却の方法や会計処理、税会不一致についても解説
建物などの不動産は減価償却が認められているのに対し、借地権はどうなのか疑問に思う方もいるでしょう。結論からいうと、借地権は税務において減価償却はできません。
本記事では借地権とは何か、借地権と減価償却の関係を解説します。借地権を深く知りたい方、税務上の処理を適切に行いたい方はぜひ参考にしてください。
目次
借地権は償却できる?
借地権・減価償却のそれぞれの意味、借地権の減価償却が原則として不可能な理由を解説します。
借地権とは
借地権とは、建物を建設するために第三者(地主)から土地を借りる権利のことです。借地権が有効でも、土地の所有権が借地人(借地権者)に移ることはありません。ただし、その土地の上に借地人が建築した建物は、借地人に所有権があります。
借地権を取得するには、下記のようにさまざまな費用を支払うことが必要です。
- 地代(賃借料):毎月支払う賃借料
- 権利金:借地権を設定するための一時的な費用
- 登録免許税:借地権取得により、借地権を登記する際に支払う税金
地代は地主と借地人の交渉で決まるもので、相場はありませんが、周辺の土地の価格をもとに算出されます。
借地権のメリット・デメリットなど、詳細を知りたい方は以下の記事を参照してください。
減価償却とは
減価償却とは、事業で使用する固定資産の取得価額を、その資産の使用可能期間に応じて分割し、毎年の経費(減価償却費)として計上する会計処理のことです。
減価償却は「固定資産は時間が経過するとともに価値が徐々に下がる」という考えのもとで成り立っています。資産の購入費用を数年にわたって分割し、少しずつ計上する決まりです。
減価償却ができる資産・できない資産の例をあげると、以下の表のとおりです。
減価償却できる資産 | |
---|---|
減価償却できない資産 | 土地・借地権・歴史的価値を保有する骨董品など |
減価償却可能な資産を取得するときに支払ったお金は、使用可能な期間で1年ごとに分割して費用計上します。このときの使用期間として利用するのが「法定耐用年数」です。各資産の法定耐用年数や償却率などは、税法で定められています。
減価償却の仕組みや用語について、詳細を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
借地権の種類によって減価償却の方法が異なる
建物は有形固定資産として、減価償却ができます。ただし、土地を借りる権利である借地権は、税務上で減価償却の対象として認められていません。
しかし、借地権の種類により、経費の処理方法が異なります。借地権には「旧借地権」「普通借地権」「定期借地権」の3つの種類があります。
旧借地権
旧借地権とは、1992年8月1日よりも前に成立した、旧借地法における借地権のことです。旧借地件はコンクリート造などの「堅固建物」、木造などの「非堅固建物」の2種類で区分され、各種類で借地権の存続期間が異なります。
旧借地権でも存続期間は定められていたものの、借地人側が法律上強く守られていました。このため、地主は正当な理由がない状態で契約解除や明け渡しを要求できませんでした。
普通借地権
普通借地権は、1992年8月1日に改正・施行された、現行の借地借家法により制定された借地権です。普通借地権では「堅固建物」「非堅固建物」の区分はなく、存続期間は一律30年以上と定められています。
契約期間が満了すると更新も可能で、1回目の更新時の存続期間は20年以上、2回目以降の更新時は10年以上です。
現行の借地借家法における借地権は、旧借地権で地主側に不利な状況が続くことを防止するために制定されました。
普通借地権も、地主が正当事由のない状況で強制的に契約解除はできません。しかし、火災で建物がなくなった場合、借地人が勝手に契約期間を超過して存続する建物を建てた場合などは、地主は契約解除を求めることが可能です。
定期借地権
現行の借地借家法では、普通借地権に加えて定期借地権も認められています。定期借地権とは、更新できない借地権のことです。
旧借地権や普通借地権では、当事者の合意により契約を更新できました。一方で、定期借地権の場合は契約満了を迎えると、土地を更地にして地主へ返還する必要があります。
定期借地権についても、地主に不利な状況が継続するのを防ぐために設立されました。
普通借地権(旧借地権)の減価償却
普通借地権自体は減価償却できないものの、賃貸借契約を更新する際の更新料は、減価償却の対象となります。
普通借地権は減価償却の対象とならない
普通借地権は、更新を継続すれば半永久的に土地を借りられます。また、土地が売却されて所有者が変わったとしても、原則として普通借地権はなくなりません。
減価償却額は、残存する固定資産の使用年数によって計算します。ただし、半永久的に借りられる状況では使用年数を定められないため、計算式に算入できず、減価償却は不可能です。
更新料は一定額を損金算入できる
普通借地権は、借地権の取得にかかった費用を減価償却できません。しかし、借地契約を更新した場合、支払った更新料は「その土地を一定期間借りるために必要な経費」とみなされ、一定の額を費用計上できます。
更新料の目安は、更地の価格の3%程度とされています。更新料の損金算入額、以下の数式で算出可能です。
損金算入可能な額 = 更新直前での借地権取得価額 × 更新料 ÷ 更新時での借地権の時価
定期借地権の減価償却
定期借地権に関しても普通借地権と同様、税務上は減価償却ができません。
定期借地権は減価償却の対象とならない
定期借地権は一定期間が満了すれば更新せずに終了するため、耐用年数を計算できるようにも思われます。しかし、税法上は減価償却の対象とはなっていません。
普通借地権では更新料は一定額まで損金算入できますが、定期借地権では契約期間が満了すれば更新せずに終了となります。定期借地権では更新自体の概念がないため、更新料の損金算入も不可能です。
また、毎月支払う地代家賃に関しても減価償却はできません。その理由として、地代家賃は借りる権利の対価として支払うものであり、地代家賃を支払っても賃借権の価値は減少しないためです。
ただし、地代家賃は事業の費用になるため、決算や確定申告では経費として計上可能です。
建物は減価償却の対象となる
建物は時間の経過や使用により劣化し、価値が減少するため、借地にある建物も減価償却が可能です。減価償却費の計算方法は、「定率法」と「定額法」の2つがありますが、建物は定額法で減価償却を行います。
特徴 | 計算方法 | |
---|---|---|
定額法 | 原則として、毎年同額を償却する | 取得価額 × 定額法の償却率 |
定率法 | 償却額は、経過年数が短いほど多く、次第に減少する | 未償却残高 × 定率法の償却率 |
定額法は毎年20万円など、一定の額を償却する方法です。定率法は、償却していない額に対して一定の率をかけて算出する方法のため、毎年計上額が変わります。
借地権の償却に関する仕訳・会計処理
借地権は非減価償却資産で、資産として計上する必要があります。権利金を支払って借地権を取得した際は、借方の勘定科目を「借地権」とし、権利金の価額を記載して仕訳をします。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
借地権 | 8,000,000円 | 普通預金 | 8,000,000円 | 借地権の権利取得 |
なお、借地権の更新料の一部は減価償却が可能です。更新料を減価償却する際の仕訳の例は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
借地権更新 | 2,200,000円 | 普通預金 | 2,200,000円 | 借地権の権利更新 |
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
借地権更新償却 | 1,500,000 | 借地権更新 | 1,500,000円 | 借地権の更新料の償却 |
借地権を更新した場合は、借方に「借地権更新」、貸方には「普通預金」などを用いて、更新のため支払った金額を記載して仕訳をします。更新料を減価償却する際は借方に「借地権更新償却」、貸方に「借地権更新」を用いて仕訳をします。
借地権の償却における税会不一致とは
借地権の償却は、税務と会計で取り扱いが異なります。具体的には減価償却をできるかどうかです。
借地権の税務上の取り扱い
税務において、借地権は減価償却資産には含まれていません。このため、普通借地権・定期借地権のいずれでも、減価償却をして費用を計上することは不可能です。
借地権は税務上で無形固定資産に分類され、資産として計上することになります。さらに、借地権の取得にかかる費用だけではなく、更新料・承諾料・立退料なども資産計上ができます。
借地権の会計上の取り扱い
会計処理において、借地権を減価償却するケースがあります。たとえば更新ができない定期借地権を、その契約期間にわたって減価償却するケースです。
借地権は税務上、非減価償却資産ですが、会計上はその実態に合わせて減価償却するケースがあります。
ただし、会計知識に自信がなく、適切な処理ができるか自信がない方もいるでしょう。その場合は、借地権に関する知識のある弁護士や税理士など、法律の専門家に相談することがおすすめです。
借地権は償却できないが更新料などの例外に注意しよう
借地権は減価償却資産には分類されず、減価償却は不可能です。ただし、契約更新時に支払う更新料の一定額については損金算入でき、借地の上に建物を所有している場合の建物は減価償却の対象です。
借地権は減価償却ができないとしても、それに関連する項目が減価償却できるケースがありますので、処理方法を勘違いしないように注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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