- 更新日 : 2024年8月30日
電子帳簿保存法とインボイス制度の違いは?保存要件や対応するポイントを解説
電子帳簿保存法の改正と消費税のインボイス制度は、同じような時期に開始しました。それぞれ全く異なる法律ですが、実際の運用においては接点が多く、理解するのに混乱しても無理はありません。この記事では、それぞれの要点をおさらいした後、インボイス制度においてどのように電子帳簿保存法のルールを守っていくかを解説します。
目次
電子帳簿保存法の要点
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データ保存する取り扱いを定めた法律です。電子帳簿保存法は1998年に導入されて以来、幾度も改正を重ねて現在に至っています。
この法律が制定された目的は、情報化社会に対応し、納税者等の国税関係帳簿書類の保存に関する負担を軽減するためとされています。
この法律において「保存義務者」とは、所得税や法人税において、国税関係帳簿書類の保存をしなければならない者となります。電子帳簿保存法には任意規定もありますが、電子保存が義務化されているものもあり、ほとんどの事業者に関係のある法律です。
電子帳簿保存法の区分
電子帳簿保存法は、3つの制度に区分されています。
| 制度 | 任意or義務 | 概要 |
|---|---|---|
| 電子帳簿保存 | 任意 | 自分で最初から一貫してパソコン等で作成している帳簿や国税関係書類は、電子データでの保存が可能。 |
| スキャナ保存 | 任意 | 決算関係書類を除く国税関係書類は、紙の書類を保存する代わりに、スキャナ等読み取った電子データでの保存が可能。 |
| 電子取引データ保存 | 義務 | 申告所得税・法人税に関して帳簿・書類の保存義務者は、注文書・契約書・領収書・請求書等の電子データによってやり取りした場合、その電子取引データの保存義務がある。 |
参考:電子帳簿保存法|国税庁、「電子帳簿保存法の内容が改正されました」
2024年1月1日以降、電子取引への対応が義務化
税制改正により2024年1月1日以降は、電子取引をした事業者は電子データを保存する義務が発生します。個人事業主や法人において、注文書、契約書、領収書、見積書、請求書等につき、電子取引をした場合には電子データとして保存しなければなりません。
この義務化は電子取引のみが対象となるため、書面での取引は電子取引の保存の対象ではありません。また、電子データを受け取った側だけでなく、電子データを送った側も控えとして電子データを保存する必要があります。
参考:電子帳簿保存法|国税庁、「電子取引データの保存方法をご確認ください」
電子取引の対象例
電子取引の対象となる取引を挙げておきます。
- 電子メール(添付ファイルを含む)
- EDI取引
- インターネット上での取引
- FAXにより電磁的記録により送受信し、電磁的記録を保存する場合
送信側・受信側双方において、これらの取引データをハードディスクやクラウド(ストレージ)サービス等に一定期間格納することを、電子取引データにおける「保存」と言います。
参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(問2および問3ご参照)
インボイス制度の要点
インボイス制度とは、消費税の複数税率に対応した仕入税額控除の方式を言います。なお、この記事では「インボイス」を「適格請求書」と同じ用語として使っています。
消費税において税額を求める場合には、基本的には次のように計算します。
上記の式において、差し引く計算の部分を「仕入税額控除」と言います。
インボイス制度では、買い手が仕入税額控除をするためには、ルールに沿った帳簿と受領したインボイスの保管が必要となります。また、インボイスを交付できるのは、登録されたインボイス発行事業者に限られます。
インボイス制度の目的は、複数税率における消費税率や消費税額を正確に把握し、税法の透明性を高めるためとされています。さらに、免税事業者に支払った消費者が納税されない「益税問題」の解消もインボイス開始の後押しとなっています。
インボイス制度での課税事業者の義務として、次のことが挙げられます。
【売り手側】
- 売り手である登録事業者は、買い手から求めに応じインボイスを発行しなければならない。
- 発行したインボイスの写しは保存しなければならない。
【買い手側】
- 買い手は仕入税額控除のために、原則として売り手が発行したインボイスの保存をしなければならない。
適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)がインボイスを発行できる
インボイス制度においては、インボイス発行事業者のみがインボイスを発行できます。基準年度の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、消費税の課税事業者になりますが、その時点では課税事業者であってもインボイス発行事業者ではありません。
インボイス発行事業者になるには、登録申請を行う必要があります。申請後にインボイス発行事業者として登録されると、登録番号等が記載された「登録通知書」が送付されます。
インボイスは7年間の保管が必要
インボイスを受け取った場合、または発行したインボイスの控えがある場合、保存しなければなりません。
インボイスやその控えは、交付日等の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存することになっています。例えば個人事業主で、2024年8月1日にインボイスを受領した場合には、課税期間の末日の翌日は2025年1月1日となり、そこから2カ月経過した日は2025年3月1日となります。その日を保存期間の開始日とするので、2032年2月29日まで保存することになります。
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁、
「Q&A(問79ご参照)」
電子帳簿保存法とインボイス制度の違い
電子帳簿保存法とインボイス制度は、多くの人が両方のルールに沿って運用します。そこで心配なのが、実際の運用において矛盾がないかという点です。ここでは、実運用における考え方を整理しておきましょう。
電子データとして受領したインボイスの保存方法が異なる
電子帳簿保存法では、電子取引において電子データを保存する義務があると述べました。したがって、所得税法や法人税法においては電子取引による書類等の授受は必ず電子データでの保存が求められます。
消費税法におけるインボイスの保存方法は次のようになっています。
相手方から適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電磁的記録による提供を受けた場合、仕入税額控除の適用を受けるためには、その電磁的記録を保存する必要があります
引用:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁、
しかし、消費税法では電子取引においては電子データ保存を原則としながらも、電子データから出力した紙を保存していても、電子データを保存しているものとして取り扱われます。
このように、所得税や法人税と消費税においては電子取引におけるデータ保存に対する考え方が異なっています。各税法における電子取引の取り扱いに注意したいものです。
電子帳簿保存法に則ると、電子取引データとして保存が必須
電子帳簿保存法では、電子取引をした場合の電子データ保存が必須となり、保存要件にしたがって保存することになります。
電子帳簿保存法の対象である所得税・法人税において、電子取引は電子データで保管しなければならないため、消費税への対応用のためだけに紙に出力することはないと言えます。結果的には、電子取引で授受するインボイスのデータは所得税・法人税、そして消費税でも「データのまま保存する」運用になるのが実情でしょう。
インボイスを電子取引データとして保存する要件
電子取引において電子データの保存を行う場合には、そのデータに対し「真実性」と「可視性」を確保する必要があるとされます。これらの要件は個人事業主、法人を問わず、電子取引を行ったすべての事業者に求められるものです。
真実性の確保
真実性の確保とは、保存した電子取引データが改ざんされていないことを明らかにすることです。改ざんされていないことを明らかにするために、次のいずれかの措置を行うとされています。
- タイムスタンプを付した後のデータ授受
- データ受領後、速やかにタイムスタンプを付す
- データの訂正削除の記録が残るシステム等を利用した授受および保存
- データの訂正削除防止に関するジム処理規程の備え付け
可視性の確保
可視性の確保とは、保存されたデータを検索・表示できるようにすることです。具体的には次の2点が挙げられます。
- モニター・操作説明書の備え付け
- 検索要件の充足
ここで検索要件とは、原則として次の3つを満たす必要があります。
- 取引年月日、取引金額を検索の条件として設定できること
- 日付または金額に係る記録項目について、範囲を指定して条件設定できること
- 2以上の項目を組み合わせての条件設定ができること
ただし、前々事業年度前の売上高が「5,000万円以下」の保存義務者などは検索機能が不要とされます。
参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(問15、問42、問45ご参照)
電子帳簿保存法とインボイス制度の対応方法
電子帳簿保存法とインボイス制度のうち、より多くの事業者に影響するのは電子帳簿保存法の電子取引に係る「データ保存」でしょう。
真実性や可視性の確保のための所定の電子データ保存に対応できなかった場合、税務署長が相当の理由があると認める場合には、単に電子取引データを保存するだけでよいという猶予措置もあります。(ただし、税務調査等における対応要件はあります。)
インボイス制度への対応については、取引相手との関係性もあるため、どこかで対応可否の決断を迫られますが、電子帳簿保存は段階的にやや時間をかけて考えることも可能です。
電子帳簿保存法はまた、社内ペーパーレス・経理DXなどとの兼ね合いもあります。準備が間に合わない場合には、とりあえず電子取引データを保存しておきましょう。
参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(問26、問60-2ご参照)
電子帳簿保存法に対応することでDX化の推進を!
税制改正による電子帳簿保存法やインボイス制度の導入は、事業者にとって負担となることも多いのですが、これを逆手にとって業務効率化や働きやすい環境づくりに活用することも考えたいものです。
ペーパーレス化から業務プロセスのデジタル化、経理DXの推進、テレワークの推進、さらに電子インボイスへの対応など、多くのことに結びつけられる可能性があるでしょう。
税制改正を単なる負担と捉えるのではなく、業務の効率化や働きやすい環境の構築に役立てるきっかけとしたいものです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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