- 作成日 : 2025年9月9日
月次決算を早期化するポイントとは?メリットや注意点などを解説
月次決算の早期化には、経営判断の迅速化や業務効率の向上といった多くの利点がある一方で、注意すべき課題も存在します。
本記事では、月次決算の遅れを引き起こす要因を掘り下げるとともに、早期化を実現するための具体的なステップを解説します。また、月次決算に必要な日数など、よくある疑問についてもわかりやすくまとめました。
スピーディーかつ正確な月次決算の実現に向けた、ポイントを解説します。
そもそも月次決算とは?
月次決算とは、毎月の売上や経営成績、財務状況を把握するために行う決算業務のことです。1年に一度実施する年次決算とは異なり、法的に義務づけられていないのが特徴です。
作成義務がないとはいえ、経営状況をリアルタイムに可視化してタイムリーな経営判断ができたり、年次決算の負担を軽減できたりとメリットが多いことから、多くの企業が取り入れています。
月次決算を早期化する4つのメリット
ここでは、月次決算の早期化によって得られるメリットを詳しく解説します。
1. スピーディーな経営判断が可能になる
月次決算により、企業は経営の現状を正確に把握し、タイムリーな意思決定が可能になります。月中の会議で前月の最新業績を確認できるため、課題への即時対応や戦略の見直しが容易です。
財務諸表だけでなく、資金繰りや収益性・安全性といった指標も早期に把握できます。そのため、時代の流れや業界の動きに合わせた、実行力のある判断が可能です。
また、業績の早期把握は、経営会議や社内報告のスケジュール前倒しにもつながります。
2. 金融機関からの信頼を得られる
金融機関は融資先の経営状況を把握するため、定期的な業績報告を求めています。月次決算を早期化し、直近の数値を迅速に提出できれば、経営の透明性が高いと評価され、信頼性の向上につながります。
結果的に、融資の審査で有利に働くこともあるでしょう。
ただし、数値の根拠や内容を十分に説明できない場合、管理体制に不安を抱かれる可能性もあるため十分に注意してください。
3. 予算に対する達成率がわかる
月次決算を早期化することで、予算と実績の差異をきちんと把握できます。予算に対する達成率がわかれば、原因分析や対策立案が可能です。
たとえば、数値が予算を下回っていれば、早期に改善策を検討できます。数値が上回っている場合でも、想定より売上が上がったサービスはどれか、広告や販促施策が有効だったかなど、原因を把握する冷静な分析が欠かせません。
月次決算を早期化する場合、現場の動きと連動したリアルタイムな分析が可能です。そのため、分析精度が上がりやすく、現場での改善アクションにもつなげやすくなります。
4. 業務のミスを早期に発見できる
月次決算を早期に実施することで、日々の会計業務で発生したミスを素早く発見・修正することが可能になります。ミスの原因を分析しやすくなるため、再発防止の対策も取りやすいでしょう。
誤った会計処理があった場合でも、早期に対応できる点は大きなメリットです。
加えて、年度末に作業が集中するのを避けられます。現場の残業や繁忙を抑え、業務負担の軽減にも効果的です。ヒューマンエラーのリスク低減が、月次決算の早期化による大きなメリットといえます。
月次決算を早期化する方法
ここでは、月次決算を早期化するための実践的な方法をステップごとに解説します。具体的な手順は、下記のとおりです。
- 現在の決算方法を見直す
- 経理・会計ソフトを導入する
- 社内の連携を強化する
- 経営層に月次決算の早期化の必要性を伝える
- 従業員に対する教育体制を整える
月次決算をスムーズに進めるには、適切な工夫や仕組みづくりが欠かせません。
1. 現在の決算方法を見直す
月次決算を早めるには、現在の業務フローを見直し、標準化を図ることが重要です。特定の担当者に依存している属人化された業務は、作業の遅れやミスの原因となるため注意が必要になります。
たとえば、社員一人が休むだけで業務が滞るようでは、毎月コンスタントに月次決算を作成するのは難しいでしょう。
業務全体を整理し、誰でも対応できるようにマニュアルを整備しましょう。標準化された手順は、業務の引き継ぎや人員の入れ替えにも柔軟に対応できます。結果的に、月次決算を早期化する土台となります。
2. 経理・会計ソフトを導入する
月次決算の早期化には、経理や会計分野のシステム導入が非常に有効です。
特に、最新のクラウド型会計システムを活用すれば、仕訳作業やデータ集計の効率が大幅に向上します。システムを上手に活用することで、業務のスピードアップが期待できます。
たとえば、クラウド型の請求書管理システムを使えば、ネット環境があれば、どこでもリアルタイムで書類確認が可能です。働き方に柔軟性をもたせながら、決算業務の早期化を実現できます。
3. 社内の連携を強化する
月次決算を早期化するには、経理部門だけでなく他部門との連携が必要です。請求書や経費データの提出が遅れると、経理の処理全体が滞るため、タイムリーな情報提供が求められます。
共有フォルダの活用やシステムの導入により、経理の進捗や必要なデータを、他部門と常に共有できる環境づくりが重要です。社内の連携体制の強化により、情報の行き違いや二度手間の修正も減少します。
4. 経営層に月次決算の早期化の必要性を伝える
月次決算を早めるには、社内全体で優先的に取り組むために経営層の理解と協力を得ることが求められます。
早期化によって経営判断のスピードが上がり、資金繰りの見通しも改善するなど、会社全体にとっての利点を明確に伝えることが重要です。
経営層への提案時には、業務改善策やシステム導入の効果を具体的な事例や数値で示すとよいでしょう。経営層の協力を得やすくなります。
現場だけで進めるのではなく、全社的な取り組みとしての意識づけが成功への第一歩です。
5. 従業員に対する教育体制を整える
月次決算の早期化には、経理担当者のスキル向上と意識改革を目的とした教育体制の整備が欠かせません。
経理担当者をはじめとする従業員が、月次決算の知識やスキルを身につけることで、業務効率が高まります。
また、意識改革も大切。早期化の重要性を理解していないと、多少の遅れを問題視しない雰囲気となってしまいます。月次決算の早期化が、経営や業務にどのような好影響があるのか説明して、理解を深められれば業務への取り組み方も変わるでしょう。
結果として、全体の生産性向上につながります。
月次決算を早期化する際のデメリット・注意点
月次決算の早期化には多くのメリットがありますが、一方で注意すべき点も存在します。ここでは、早期化によって生じる可能性のあるデメリットや注意点について解説します。
経理担当者の業務負担に配慮する
月次決算の早期化に向けてクラウドシステムを導入すると、経理担当者の負担が一時的に増える可能性があります。
システム導入時に初期設定が必要だったり、システムの新しい操作に慣れるまで時間がかかったりするため、初期段階ではかえって業務が増えるかもしれません。
しかし、システムが定着すれば、業務効率が大幅に改善されます。担当者のモチベーションを保つためにも、導入の目的やメリットを丁寧に説明し、理解を促すことが重要です。
スピードだけでなく正確性を保つ
月次決算を早める際には、処理のスピードだけでなく、正確性も重視する必要があります。急ぎすぎて数字の誤りやデータの漏れが発生すると、修正に時間がかかり結果的に遅延を招くリスクがあります。
スピード感を保ちつつも正確な決算を実現することは、企業の信頼性を高めるためにも欠かせません。両者のバランスを保ちながら、効率的な業務運営を目指すことが重要です。
全体のコストを確認する
月次決算の早期化を進める際は、クラウドシステム導入に伴う初期費用だけでなく、メンテナンスやサポートなどの継続的なコストも考慮しましょう。
システムによって削減できる人件費や作業時間を見積もり、費用対効果を総合的に評価するのがおすすめです。長期的な視点で、導入コストと削減効果を比較します。
セキュリティ対策を実施する
月次決算の早期化には、データの電子化やクラウドシステムの導入が効果的ですが、あわせてセキュリティ対策の実施も必要です。経理情報は機密性が高いため、漏えいリスクに注意しましょう。
たとえばクラウド利用時は、データ暗号化やアクセス権限管理、多要素認証、定期バックアップの有無を確認します。
また、従業員へのセキュリティ教育を実施し、不正アクセスや情報漏えい防止の意識を高めたり知識を学ばせたりすることが大切です。
月次決算が遅れる主な原因
月次決算が遅れる原因はさまざまです。ここでは、主な理由を詳しく解説しつつ、遅延を防ぐためのポイントを紹介します。
証憑の回収および申請・承認処理に時間がかかる
月次決算では、売上や仕入れを証明する請求書や納品書などの証憑を回収・申請する必要があります。しかし、取引先からの提出が遅れることも少なくありません。
また、いくら経理の担当者が迅速に処理しても、承認作業に時間がかかる場合があります。
特にプリントアウトやダブルチェックなど手作業が多いと、書類の紛失やミスが発生しやすくなるため、結果的に決算作成の遅れにつながります。
月次決算の人員が不足している
人手不足は、月次決算の遅れを招く大きな要因のひとつです。特に、月末の決算期は経理部門の業務が急増し、通常の人員では対応が難しくなることがあります。
中小企業では、経理担当者が請求書の受け取りから内容確認、入金処理や保管まで一手に担うことも多いでしょう。そのため人材不足が顕著で、月次決算の作成にまで手が回らないことも多いはずです。
特に経理に詳しい人材の確保が困難な場合、限られたスタッフで対応せざるを得ません。結果として、月次決算の遅延が発生しやすくなります。
手入力や紙ベースでの処理が多い
手入力や紙による処理が多い環境では、作業に時間がかかり、月次決算が遅れる原因となります。特に、印刷や押印など物理的なフローが多いと、承認までの時間も長引きやすくなります。
業務を効率よく進めるには、システム導入によるデジタル化が効果的です。デジタル化が進めば、作業の標準化や品質維持にもつながります。
もし社内にITやシステムに強い人材がいない場合は、専門知識をもつ経理のアウトソーシング会社を活用するのもひとつの手です。
業務が属人化している
業務の属人化は、月次決算の遅延を招く大きな要因です。特定の担当者しか処理方法を把握していない場合、担当者が不在になると作業がストップしてしまいます。
たとえば、請求書処理や会計データの取りまとめが一人に集中していると、退職や長期休暇などの影響で業務全体が滞るおそれがあります。特に月次決算は毎月の作業のため、担当者が休めないとプレッシャーに感じるおそれがあるのもネックです。
業務の標準化が進んでいない職場ほど、月次決算の作成作業が遅れやすいため、マニュアル作成を進めるなど属人化防止策に取り組みましょう。
社内システムの連携が取れていない
社内で使用しているシステム同士が連携していない場合、月次決算の進行が遅れる原因となります。
たとえば、販売管理や請求書管理、会計などのシステムがバラバラに運用されていると、情報をそれぞれ手動で入力する必要があります。作業負担が増すだけでなく、入力ミスのリスクも高まるでしょう。
結果的に、修正や確認に時間を取られ、決算作業全体が遅れやすくなります。システム間の連携が取れていない環境では、業務効率化が十分に進まないため、オンラインで連携できるシステムへの移管も検討しましょう。
月次決算の早期化に関するよくある質問
月次決算の早期化を進めるうえで、疑問や不安を抱える方も多いでしょう。ここでは、よくある質問に対してわかりやすく回答していきます。
月次決算にはどれくらいの日数がかかりますか?
月次決算にかかる期間は、企業ごとに異なります。理想としては、月初から3〜10日以内に完了するのがひとつの目安です。
所要日数は、売上規模よりもグループ会社の数や事業の複雑さ、取引件数、デジタルツールの活用状況などに左右されます。
多くの処理が手作業で実施されている場合、業務の効率が落ちやすくなります。必要に応じて会計システムなどを導入し、決算作業の負担を軽減することが大切です。
月次決算はいつやればいいですか?
月次決算は、当月末で取引を締めた後、翌月初に処理を進めるのが一般的です。月次決算書の作成は、翌月6〜7日目までに完了させることが理想とされています。
各部署からは、5日目までに必要なデータを提出してもらうと、作業がスムーズになります。
会計の締め後は、可能であれば速やかに月次試算表を作成し、遅くとも3日以内に完成させましょう。
月次決算における経理担当者の主な仕事内容は?
月次決算では、月末に会計を締め、年次決算とほぼ同様の作業を実施します。
日常の経理処理としては支払いや経費、入金、請求などの取引を帳簿に仕訳・集計し、必要に応じて仮勘定や確定費用を計上して月の収支を確定させます。
その後、月次試算表を作成してください。このとき、月別の予算や前年同月の実績と比較し、年間計画とのギャップを把握・予測することが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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