- 更新日 : 2025年2月20日
中小企業の事業承継をM&Aで行う際の実務フローと注意点
中小企業の経営者がリタイアし、事業承継を行う際には、これまでは経営者の子供や経営の中枢を担ってきた社員が事業を継ぐ形で行うことが一般的でした。
しかし、日本全体の景気の低迷などによって中小企業に将来性を見出すことができなかったり、地方の中小企業を継ぐことに先行きが見えず、都市部へ出ていって事業承継を拒否したりするケースが増えていており、従来型の事業承継はなかなか行えなくなってきています。
そのような状況の中で、新たな事業承継の方法として注目されているのが、「M&Aを行うことによる事業承継」です。
M&Aと聞くと、実行後の譲渡先による大幅な人員削減や給与削減などのネガティブなイメージが先行してしまう方も多いでしょう。しかし、友好的なM&Aならば、事業承継後にこのような急進的な改革を行うことはほぼなく、現在の社員の士気を削がないように雇用条件を維持した形で事業を承継することが多くなっています。
M&Aによる事業承継とはいったいどのようなものなのか、さらに実際にM&Aによる事業承継を行う際の実務フローはどうなるのかという点について、詳しく解説していきます。
M&Aの現況
M&Aと聞くと、大企業が海外企業との間で行うイメージが強いという方もいらっしゃることでしょう。ですがM&Aは中小企業でも盛んに行われており、金額は大企業の方が大きいため金額比率では大型案件の方が多くなっていますが、件数比率では中小企業のものがおよそ3割(※)を占めるまでになっています。
(※参考:山田ビジネスコンサルティング監修(2016)「よくわかる中小企業のM&A活用法」日本経済新聞出版社P30-31)
さらに、現在行われているM&Aの大部分を占めているのは国内企業間におけるM&Aであり、海外企業との間で行うM&Aはむしろ少数派であることが現状です。
小さな会社を経営している方であっても、国内企業間で小規模なM&Aを行うことが十分に可能であることは、統計的にも十分に証明されているのです。
事業承継で行われるM&A
中小企業で行うような事業譲渡のM&Aとは、単一事業の全部、もしくは複数事業の一部か全部を売却するようなものをいいます。
事業譲渡のM&Aは事業ごと買収するものになるため、事業の運営会社が変わります。ですから、事務所の賃貸契約など、契約関係は再締結を行うことになります。従業員との雇用契約に関しても同様であり、その際に契約条件を見直す場合もあります。
ただ、前述したとおり従業員の士気を削いでしまうようなことは基本的には行いませんので、従業員の不利になるような形で雇用契約を行うことは少なくなっています。
事業譲渡のM&Aでは会社のすべての事業を買い取るような場合もありますが、事業の一部だけを買い取ることの方が多くなっています。
不採算事業は縮小して売り手が持ったままにする、あるいは不採算事業は廃業するといったことが普通です。また、事業を売却した資金で不採算事業のテコ入れを行ったり、負債を清算したりといったことも普通に行われています。
事業承継におけるM&Aの実務
実際にM&Aを行っていくうえで、実務フローは以下のようになります。
(2)M&A仲介会社・アドバイザーの選定
(3)売却価格の資産・買い手候補の模索
(4)買い手候補の絞り込み
(5)買い手候補への企業情報提供
(6)トップによる合議・基本合意
(7)買収監査の実施
(8)条件交渉
(9)最終契約・従業員への説明
(10)統合作業(PMI)
実務フロー内においてはすべての工程が重要になりますが、特に「M&A仲介会社・アドバイザーの選定」「最終契約・従業員への説明」に関してはM&Aの行く末を占うものになると言えます。
「M&A仲介会社・アドバイザーの選定」では、M&Aの専門的なアドバイスを受けながら実務を進めていくために、全国にある「事業引継ぎセンター」などの紹介を受けて外部専門家とアドバイザリー契約を行います。
契約後、実際に事業譲渡をどういった形で行っていくのかについて、専門的なアドバイスを受けながら進めていくことになります。
条件交渉を済ませてM&Aが大詰めを迎えた段階で、売り手は「最終契約」を行うこととなります。契約に関する情報は機密事項であり、この段階において外部に情報が漏れてしまうと、M&Aが破談になってしまう可能性があります。
また、契約が無事に済んだら、従業員に対して説明会を開催し、会社の譲渡によって雇用契約がどうなっていくのかということを詳細に説明する必要が出てきます。
M&Aの実務における注意点
これらのM&Aの実務を行っていくうえで、注意しなければならないポイントが以下のようにいくつか存在します。
・契約後の統合作業を円滑に行う
アドバイザリー契約を行う際には、契約形態がその会社にのみM&A先探しを任せることになる「専任」か、同時に複数の支援会社を利用できる「一般」かという部分をよく検討し、契約する必要があります。
また、最終契約を行った段階でM&Aが完結するわけではありません。最終契約後には実際に事業を引き継いだり、実質的な経営をどのように行うか検討したりする「PMI」と呼ばれる統合作業が待っています。
PMIを進める際に、どのような順序で、どのように統合を進めていくかということは事前に詰めて協議しておく必要があります。契約後の流れをスムーズに行えば、従業員への影響も少なくて済みます。
まとめ
少子化や過疎化などの影響により、今後もM&Aによる事業承継の事例はますます増えていくことが予想されます。M&Aを行っていく際には、まずは実際のM&Aの実務フローを押さえることが重要です。
ほとんどの経営者の方が初めて経験することになるM&Aの際には、信頼できる専門家によるアドバイスも不可欠となります。
関連記事
・事業承継には準備が必要!事業者が今知っておくべき基礎知識
・中小企業の事業承継における問題とは
・事業承継税制を活用して承継時の税負担を軽減
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
約定日とは?申込日・受渡日との違いや基準を解説
約定日(やくじょうび)、受渡日(うけわたしび)、申込日など日付に関する用語については、わかっているようでも案外あやふやな部分があるかもしれません。特に金融商品に関係するものは特殊な使い方をします。これらの日付の違いや基準となる考え方を整理し…
詳しくみる飲食業以外の事業者も確認すべき「軽減税率の3つのポイント」
軽減税率が導入され、現在では消費税率が8%と10%の2種類になっています。軽減税率8%の対象が主に「飲食料品」ということもあり、飲食店やスーパー、コンビニなどの支払いで2つの税率が混在するケースが多くなりました。しかし、それ以外の事業者にお…
詳しくみるIFRS(国際財務報告基準)対応の会計ソフトの選び方は?初心者にも簡単に解説
会計ソフトの中には、IFRS(国際財務報告基準)に対応したものもあります。日本基準だけでなく、IFRS対応の会計ソフトを選択するメリットはあるのでしょうか。IFRSに対応するメリットや会計ソフトの選び方、導入時の注意点について解説します。 …
詳しくみるSaaS事業のコスト構造とは?利益アップのためには原価計算が重要!
SaaS事業を継続し、売上を伸ばすには適切なコスト構造の理解が必須です。 しかし、計算方法が複雑で難しい、原価には何が含まれるのかが分からないと感じる人も多いのではないでしょうか。 本記事では、SaaS事業における原価の計算方法や重要性を解…
詳しくみる中小企業向けの会計ルールは2種類!中小会計要領と中小指針について解説!
中小企業の場合、決算は法人税の申告や会社法の規定で仕方なく行うことが多いものですが、経営管理や対外的な信用の面からも、一定のルールに則った決算を行うことは大切です。 この記事では、中小企業に向けた会計ルールである「中小会計要領」と「中小指針…
詳しくみる【これは軽減税率?】バーガーとドリンクのセット。ドリンクだけ店内飲食する場合、消費税はどうなる?
2019年10月1日からスタートした消費税の軽減税率制度。主に「飲食料品」は消費税軽減税率8%の対象になりますが、飲食のシチュエーションなどによっては適用対象になりません。 本シリーズ『これは軽減税率?』では、事業者のみなさんが軽減税率につ…
詳しくみる