- 作成日 : 2025年1月7日
個人事業主が法人化するメリットは?法人化のタイミングや手順を解説
法人化とは、法人を設立して個人で行っていた事業を法人に引き継ぐことです。法人化は「法人成り」とも言われ、節税メリットを享受したり、社会的信用を高めたりするために行われることがあります。今回は、個人事業主が法人化するメリットやタイミング、手順について解説します。
目次
個人事業主の法人化と起業による法人設立はどう違う?
個人事業主の法人化と起業による法人設立の違いは、法人設立前から事業を行っているか、新たに事業を行うかです。個人事業主の法人化は、個人で行っていた事業を法人に引き継ぐことです。一方で、起業による法人設立は、法人を設立して事業を開始することを意味します。
法人設立前から個人として事業を行っている場合は「個人事業主の法人化」と言えますが、法人として新たに事業を行う場合は「起業による法人設立」というのが正しい表現となります。
個人事業主が法人化するメリット
個人事業主が法人化することによるメリットを6つご紹介します。
節税対策になる
多くの方にとって最も関心が高い法人化のメリットの一つが節税対策です。税率の観点からみると、所得税は超過累進税率で所得が多いほど税率が高くなります。一方、法人税の税率は基本的に一定であるため、所得が大きくなると法人化によるメリットを受けやすくなります。
役員報酬や退職金を損金に算入できるのも、節税対策の一例です。また、法人設立により消費税の免税事業者になると消費税の納付が最大で2年間免除されたり、個人名義の生命保険を法人名義にして損金に算入したりすることなどで節税することもできます。
社会的な信用度が高くなる
法人は個人事業主より、社会的な信用度の面で高く見られることがあります。例えば仕入先との掛取引、銀行からの借入、ファクタリング会社への債権の譲渡などの場面において法人のほうが信用を得られることがあります。
欠損金を10年間繰越できる
節税効果と考えることもできますが、法人は欠損金の繰越期間が長いこともメリットの一つです。青色申告の個人事業主が純損失を3年間繰越できる一方、青色申告の法人は欠損金を10年間繰越できます。そのため、多額の損失が出るような場合、法人のほうが欠損金の期限切れのリスクが低いと言えます。
有限責任となる
株式会社・合同会社などの法人形態の場合、役員が保証した債務などを除いて、会社債権者への責任は出資額が限度となります。(※株式会社の役員・持分会社の有限責任社員の故意または重大な過失による責任までは免除されません。)
決算期を自由に設定できる
個人の場合、決算日は12月31日ですが、法人の場合、決算日を自由に設定できます。法人化により、自社の業界の繁忙期を避けて決算日を設定できるのもメリットです。
社会保険に加入できる
社会保険に加入できるのも法人化の大きなメリットでしょう。個人事業主・フリーランスなどは基本的に国民健康保険に加入しますが、法人化して会社の役員になった場合、社会保険(健康保険)に加入します。
社会保険は国民健康保険と異なり、家族を扶養にできるため、報酬額や扶養の人数などによっては社会保険の保険料のほうが低くなることが多くあります。このような方にとって、法人化することはメリットの一つになるでしょう。
個人事業主が法人化するデメリット
ここからは個人事業主が法人化することによるデメリットについてご紹介します。
手続きに費用が発生する
会社を設立するにあたっては、定款作成・定款認証・登記などの手続きに費用が発生します。参考として、専門家などに依頼せず自分で会社を設立した場合の費用は以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
定款作成手数料・印紙代 | 4万円 | 4万円 |
定款認証 | 3.2万円 | 0円 |
登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
合計 | 22.2万円 | 10万円 |
赤字でも法人住民税の支払いが発生する
法人に課税される住民税のうち、均等割については赤字でも支払う必要があります。均等割は資本金等の金額・従業員数などによっても異なりますが、標準税率の地方公共団体の均等割は以下のとおりです。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割 従業者数50人超 | 市町村民税均等割 従業者数50人以下 |
---|---|---|---|
1,000万円以下 | 20,000円 | 120,000円 | 50,000円 |
1,000万円超1億円以下 | 50,000円 | 150,000円 | 130,000円 |
1億円超10億円以下 | 130,000円 | 400,000円 | 160,000円 |
10億円超50億円以下 | 540,000円 | 1,750,000円 | 410,000円 |
50億円超 | 800,000円 | 3,000,000円 | 410,000円 |
出典:法人住民税|地方税制度|総務省を加工して作成
つまり、赤字でも毎年最低70,000円の均等割を支払うことになるのです。
事務作業に手間がかかる
法人は、個人事業主に比べて事務作業に手間がかかります。特に税務申告は法人のほうが複雑なため、法人成りのタイミングで顧問税理士を付けるケースも少なくありません。また、株式会社の場合は、株主総会の開催と議事録の作成をするなど運営上の事務作業も発生します。
個人事業主が法人化を検討するタイミング
ここでは個人事業主が法人化を検討するタイミングについて解説します。
所得金額が800万円から900万円前後になった時
一般的に個人事業主・フリーランスとしての所得金額が800万円から900万円前後になった場合、法人化したほうが有利であると言われています。所得税が超過累進税率を採用する一方、法人税の税率は一定であることなどが理由です。
所得金額800万円が見え始めたタイミングで税理士などの専門家に相談したり、シミュレーションをしたりしてみましょう。
課税売上高が1,000万円を超えた時
前々年の課税売上高が1,000万円超の事業者は、消費税の納税義務が発生します。そして、先述のとおり、法人設立により消費税の免税事業者になると、消費税の納付が最大で2年間免除されます。
したがって、課税売上高が1,000万円を超えた時は、納税義務が発生する年より前に法人成りをすることで事実上消費税の納税義務を遅らせることが可能です。
なお、実際には消費税の納税義務の判定は上記以外にもあるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
個人事業主が法人化する手順
ここからは個人事業主が法人化する手続きの流れを解説します。
法人の設立
個人事業主が法人化する手続きとして、最初に行うのは法人の設立です。具体的には以下の手続きが必要となります。
- 定款の作成
- 定款の認証
- 資本金の払込
- 設立登記
なお、法人設立にかかる期間は2週間~3週間を目安に考えておきましょう。
廃業手続き
次に、事業を廃止したことを税務署や税事務所に届け出ます。具体的には以下の届出を行います。
- 税務署への個人事業の廃業届
- 税務署への所得税の青色申告取りやめ届(青色申告の承認を受けていた場合)
- 税務署への事業廃止届(消費税の課税事業者であった場合)
- 税務署への所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請(必要な場合)
- 税事務所への事業廃止申告(法定業種の事業を行っている場合)
資産等の引継ぎ・名義変更
法人の設立が完了したら、資産等の引継ぎ・名義変更を行います。例えば個人事業主の売掛金や車両などを法人へ売却したり現物出資したりすることで行います。また、個人の名義で契約していた事務所・保険・リースなどの名義変更なども必要です。
法人化にはメリットもデメリットもある!
法人化にはメリットだけではなく、デメリットもあります。一度法人化をすると、個人事業主に戻るにはそれなりの時間・費用・労力がかかります。法人化することでどのような影響があるか精査して、メリットがデメリットを上回るようであれば法人成りを検討してはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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