- 更新日 : 2025年9月2日
ストックオプションの給与課税とは?仕組みと計算方法を解説
本記事では、ストックオプションの給与課税を紹介しています。ストックオプション制度を導入する際、多くの経営者や担当者が直面するのが税金の問題です。複雑なストックオプションの給与課税について、計算方法や実務上の注意点を交えながら解説します。
目次
ストックオプションの給与課税は、原則として権利行使時に発生
給与所得として課税されるのはなぜか
ストックオプションの権利を行使すると、その時点の株価と、あらかじめ決められていた権利行使価額(株を買える値段)との差額が、個人の利益となります。この利益は、会社への貢献に対する報酬、つまり給与と同じ性質を持つものと見なされるため、原則として「給与所得」として課税の対象になります。従業員が労働の対価として得る経済的利益である、という考え方に基づいています。
権利付与時・株式売却時の課税との違い
権利を付与された時点では、まだ利益は確定していません。将来株価がどうなるか分からず、具体的な金銭的価値が発生していないため、この段階では課税されません。
一方、権利行使して取得した株式を、その後売却して得た利益は「譲渡所得(申告分離課税)」として扱われます。これは給与所得などの他の所得とは合算せず、利益に対して個別に20.315%の税率で課税されるものです。
つまり、ストックオプションでは「権利行使時(給与所得)」と「株式売却時(譲渡所得)」という、2つの異なるタイミングで課税が発生する可能性があるのです。
ストックオプションの給与課税を左右する税制適格・非適格の違い
ストックオプションの給与課税を理解する上で、避けては通れないのが「税制適格」と「税制非適格」という2つの区分です。このどちらに該当するかによって、権利行使時の給与課税の有無が大きく変わります。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションとは、特定の要件を満たすことで、税制上の優遇措置が受けられる制度です。最大のメリットは、権利行使時に給与所得として課税されず、株式を売却する時まで課税が繰り延べられる点です。株式売却時に20.315%の譲渡所得課税が発生します。
課税タイミングは、株式を売却して実際に利益を得た時まで繰り延べられ、その利益はすべて「譲渡所得」として計算されます。これにより、従業員は権利行使時に納税資金を準備する必要がなくなります。
税制非適格ストックオプション
税制適格の要件を満たさないストックオプションは、すべて税制非適格ストックオプションと呼ばれます。こちらの場合は原則通り、権利行使時にその利益が給与所得として課税されます。設計の自由度が高い反面、権利行使する従業員は、株を売却する前であっても納税資金を準備しなければならないというデメリットがあります。
税制適格ストックオプションの要件と2024年税制改正のポイント
税制適格ストックオプションとして認められるには、複数の要件をすべて満たす必要があります。ここでは、以前から定められている基本的な要件と、2024年の税制改正で変更・緩和された点を合わせて解説します。
基本的な要件(従来のルール)
付与対象者
会社の取締役、執行役、使用人である必要があります(社外協力者などは対象外)。また、大口株主(発行済株式総数の3分の1超を保有)とその特別関係者は対象となりません。
権利行使価額
権利行使価額は、ストックオプションの付与契約時の株価以上の金額に設定する必要があります。
譲渡の禁止
付与されたストックオプションの権利は、他人に譲渡することができません。
2024年(令和6年度)税制改正による主な変更・緩和点
年間の権利行使価額の上限引き上げ
従来は一律1,200万円でしたが、2024年4月1日に施行された税制改正により、以下のように上限が引き上げられました。
- 設立5年未満の非上場企業: 2,400万円
- 設立5年以上20年未満の非上場企業など: 3,600万円
権利行使期間の特例
原則は付与から「2年後~10年後」ですが、設立5年未満の非上場企業に限り、最長で15年まで延長可能になりました。一般企業は従来通り10年です。
株式管理契約の要件
権利行使後の株式管理について、従来の証券会社への委託に加え「発行会社自身が株式を管理する契約」を結ぶ方法も認められました。
ストックオプションの給与課税額の計算方法
税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に発生する給与所得はどのように計算されるのでしょうか。具体的な計算方法を見ていきましょう。
給与所得(経済的利益)の基本的な計算式
給与所得として課税される金額は、以下の計算式で算出されます。
たとえば、権利行使価額が100円のところ、権利行使した日の株価が1,000円であれば、1株あたり900円が経済的利益(給与所得)となります。
税制非適格ストックオプションの計算シミュレーション
以下の条件で、実際に税額がいくらになるかシミュレーションしてみましょう。なお、ここで示した数値はあくまでモデルケースです。正確な税額を算出する際は、最新の税率表・各種控除額を確認のうえ、税理士等の専門家と相談してください。
- 権利行使価額: 1株あたり500円
- 付与された株式数: 5,000株
- 権利行使日の株価: 1株あたり2,000円
まず、給与所得となる金額を計算します。
この750万円 がその年の給与所得(経済的利益)として加算され、その年の給与所得に上乗せされて所得税・住民税が課税されます。この金額は、会社から支払われる給与と同様に扱われるため、累進課税の対象となり、所得が高い人ほど税率も高くなります。
ストックオプションの給与課税に伴う源泉徴収と確定申告
権利行使によって給与所得が発生した場合、会社側と従業員側の双方で税務手続きが必要になります。人事や経理の担当者は、これらの実務を正確に理解しておくことが重要です。
会社側の源泉徴収義務は発生するのか
税制非適格ストックオプションの権利行使による経済的利益は給与所得に該当するため、会社は原則として給与や賞与と同様に源泉徴収を行う義務があります。ただし、権利行使の利益は金銭で支払われるわけではないため、従業員から源泉徴収税額分を別途徴収するか、給与から天引きするなどの対応が必要です。
この手続きは複雑になる可能性があるため、事前に税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
従業員自身で行う確定申告のやり方と注意点
ストックオプションの権利行使によって給与所得を得た従業員は、原則として確定申告が必要です。特に、2か所以上から給与を受け取っている場合や、給与所得以外の所得が20万円を超える場合に該当します。従業員は、会社から発行された源泉徴収票とは別に、権利行使で得た所得を自分で計算し、確定申告書に記載して税務署に提出する必要があります。
会社としては、従業員に対して確定申告が必要になる可能性があることを、あらかじめ周知しておくと親切です。
権利行使時の会計処理と社会保険料の扱い
ストックオプションの権利行使は、従業員の税金だけでなく、会社の経理や労務の実務にも直接影響します。ここでは、担当者が押さえておくべき会計処理と社会保険料の論点を解説します。
税制非適格ストックオプションの会計処理
従業員が権利を行使し、会社が新株を発行した場合、会社側では会計処理が必要になります。権利行使によって発生した経済的利益(権利行使時の株価と行使価額の差額)は、会計上、従業員への労働の対価と見なされ、「株式報酬費用」などの費用勘定で計上するのが一般的です。
仕訳例
たとえば、権利行使価額20万円の払い込みを受け、時価280万円の新株を発行した場合(差額の260万円が経済的利益)、以下のような仕訳が考えられます。
勘定科目 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
普通預金 | 200,000円 | |
株式報酬費用 | 2,600,000円 | |
資本金 | 1,400,000円 | |
資本準備金 | 1,400,000円 |
※資本金と資本準備金の計上額は、会社法に基づき決定します。これはあくまで一例であり、実際の処理は必ず顧問税理士や会計士にご確認ください。
給与課税と社会保険料への影響
現行の一般的な解釈では、ストックオプションの権利行使益は、社会保険料の算定基礎となる「報酬」には通常含まれないとされています。
しかし、役員報酬としての性質が強い場合など、個別具体的な事情によっては「報酬」と判断される可能性も否定できません。そのため、制度を導入する際には、事前に管轄の年金事務所へ確認することを推奨します。
信託型ストックオプションの税務
近年、特に未上場のスタートアップ企業を中心に活用が広がっているのが「信託型ストックオプション」です。これは、従来のストックオプションとは少し異なる仕組みであり、税務上の扱いにも注意が必要です。
信託型ストックオプションの仕組み
信託型ストックオプションとは、まず会社が発行したストックオプションを、信託銀行などの受託者に預けておきます(信託の設定)。その後、従業員は会社の業績や個人の貢献度に応じてポイントを付与されます。そして、信託期間が満了した時点で、貯まったポイントに応じて、信託からストックオプションが従業員に交付される、という仕組みです。
入社時期が異なる従業員にも公平にインセンティブを付与しやすい、柔軟な制度設計が可能といったメリットがあります。
信託型ストックオプションの課税タイミング
信託型ストックオプションの税務上の最大のポイントは、課税タイミングが従来のストックオプションと異なる点です。
原則として、従業員が信託からストックオプションの交付を受けた時点で、そのストックオプションの時価相当額が給与所得として課税されます。権利を行使する前、株式を手に入れる前の段階で課税が発生する可能性があるのです。これは、従業員にとって予期せぬ税負担となるリスクがあるため、会社は制度導入時にこの点を細心の注意を払って説明する必要があります。
ストックオプションの給与課税で担当者が知るべき実務ポイント
制度を運用する上では、税金の計算以外にも担当者が知っておくべき実務上のポイントがいくつかあります。従業員からの問い合わせに備え、想定される疑問点を把握しておきましょう。
権利行使時に必要となる資金面の課題
税制非適格ストックオプションを行使する際、従業員は「権利行使価額の払込金」と、それによって発生する「所得税・住民税の納税資金」という2種類の資金を準備する必要があります。
特に株価が大きく上昇した場合、納税額も高額になり「利益は出ているはずなのに、権利行使に必要なお金が手元にない」という事態も起こり得ます。会社として直接的な資金援助は難しい場合が多いですが、制度設計の段階からこうした課題を考慮し、従業員へ丁寧に説明しておくことがトラブル防止につながります。
退職者が権利行使した場合の給与課税と手続き
退職者が権利行使した場合の所得区分は一律ではなく、注意が必要です。在職中の勤務に起因すると認められる場合は「給与所得」となり、会社に源泉徴収義務が発生します。
一方で、勤務との関連性が薄いと判断されれば「雑所得」として、退職者本人が確定申告で納税します。実際には契約内容や行使タイミングなどを元に総合的に判断されるため、専門家への相談が不可欠です。
役員と従業員における税務上の扱いの違い
ストックオプションの権利行使益に対する所得区分の考え方は、役員と従業員で同じです。しかし、税務上の扱いは明確に異なり、特に役員の場合は①事前確定届出給与などの損金算入要件、②退職所得としての課税の可能性、③源泉徴収の要否など、従業員とは違う専門的な論点が存在します。
そのため、役員への制度導入時には、必ず顧問税理士などの専門家へ確認することが不可欠です。
ストックオプションの給与課税を正しく理解しよう
ストックオプション制度を成功させるには、給与課税の仕組みを経営陣と従業員の双方が正しく理解することが不可欠です。特に権利行使時の給与所得や納税資金の問題は、トラブルを避けるために重要なポイントとなります。自社の状況に合った制度を慎重に設計し、課税関係について従業員へ丁寧に周知することが、この制度を企業の成長へ結びつける鍵となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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