- 更新日 : 2026年6月22日
給与レンジの設計方法とは?設計するメリットや手順、ポイントを解説
下限・中央値・上限の3要素で等級ごとの給与幅を定め、市場水準をふまえて設計します。
- シングルテーブルとマルチテーブルから運用方式を選ぶ
- 重複型・接続型・分離型で昇格時の給与変動が変わる
- 市場給与を年1回以上調査し、給与レンジを見直す
職務記述書を整え、等級ごとの要件を明確にしておきましょう。
給与レンジは、職種や等級ごとに給与の範囲を定められるため、従業員が納得できるような給与体系を整備できます。
一方で、「給与レンジはどのように設計すればよいのか」と疑問に感じている方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、給与レンジの概要から設計すべき理由、設計する際のステップなどを解説します。
給与レンジとは?
給与レンジとは、特定の職務や等級に対して、企業が支払える基本給の上限額(最高額)から下限額(最低額)までの幅を指します。
各等級の給与は「下限」「中央値」「上限」の3つの要素で構成されるのが一般的です。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
| 等級(役割の目安) | 下限額 | 中央値 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| L1(新人・ジュニア) | 20万円 | 22.5万円 | 25万円 |
| L2(中堅・メンバー) | 25万円 | 27.5万円 | 30万円 |
| L3(リーダー) | 30万円 | 35万円 | 40万円 |
| L4(マネージャー) | 40万円 | 45万円 | 50万円 |
企業はこの範囲内で従業員のスキル、経験、市場価値、責任の大きさなどを考慮して個々の給与を決定していきます。
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給与レンジの考え方
給与レンジの考え方には、シングルテーブルとマルチテーブルの2通りが挙げられます。
全等級で統一する「シングルテーブル」
職種や部門を問わず、全社でひとつの共通した給与レンジを用いる形式です。
設計がシンプルであるため、運用負荷が少なく、社内で公開した際にも従業員の理解を得られやすい傾向にあります。
一方で、柔軟性に欠けるという懸念点もあります。
エンジニアや専門職など、特定の職種の市場価値が急騰した場合、全社一律の給与レンジでは外部の給与水準と乖離してしまうでしょう。
職種ごとの専門性よりも、汎用的なスキルや社内での役割を評価軸にしたい会社におすすめです。
職種や部門ごとに設計する「マルチテーブル」
エンジニアやPMなど、市場価値の異なる職種グループごとに、独立した複数の給与レンジを設定する形式です。
市場の給与水準を意識して設計できる点が特徴です。
たとえばAIエンジニアや管理職など、希少価値が高く、自社で重要な役割を担う人材に対して、ほかの職種よりも高い給与レンジを設計するといった運用もできます。
ただし、複数の給与レンジを設計・管理する必要があり、人事部門の工数が増えたり、運用時の負荷も多くなったりする恐れがあります。
職種ごとの市場の給与水準の格差が激しく、一律の給与レンジでは人材の確保が難しい企業におすすめです。
レンジレートごとの取り扱い
隣り合うレンジレートにおける、給与の取り扱いには以下の3種類が挙げられます。
重複型(オーバーラップ型)
隣り合う等級の給与範囲が重なっている形式です。下位等級の上限給与が次の等級の下限給与よりも高く設定されます。
昇格・降格時における給与変動が少なく、不満の少ない移行が可能です。
また、同じ等級に長く留まっている従業員に対しても、一定の昇給インセンティブを確保し続けられるのも特徴です。
一方「下位等級の部下の給与が上位等級の上司を上回る」といった逆転現象が発生しやすく、役職と報酬のバランスが崩れる懸念もあります。
大企業や中堅企業のような、上位ポストの空きが少なく、昇格の難しい企業におすすめです。
接続型(コネクテッド型)
下位等級の上限額と上位等級の下限額が同額に設定されており、レンジ同士が重ならない形式です。
給与の重なりがないため、役割と給与を連動できます。
上の等級に昇格することで給与が上がるという「昇格インセンティブ」を従業員に与えやすく、出世意欲のある人材に好まれる仕組みです。
ただし、重複型に比べると、各等級内での昇給上限に達しやすく、特定の職種を希望する人材はモチベーションの維持が難しくなってしまいます。
役割や職務に基づいて給与を反映したい企業におすすめです。
分離型(ディスジョイント型)
隣接する等級のレンジが重複せず、さらに下位の上限と上位の下限の間に明確な間隔がある形式です。
等級が上がると大きく給与が上がるため、出世や昇格に大きなインセンティブが発生します。
上位等級へ上がることで大幅な年収アップが見込めるため、従業員の成長意欲を強く刺激できるのが特徴です。
ただし、昇格できなかった従業員からの不満が溜まりやすく、離職につながるリスクも高いのが懸念されます。
コンサルやスタートアップ企業など、従業員に強い成長意欲を望み、成果主義を徹底する企業におすすめです。
給与レンジを設計するメリット
給与レンジを設計することで、企業や従業員にどのようないい影響を与えるのか紹介します。
公開することで採用力を強化できる
給与レンジを設計し、その一部を公開することで、明確な報酬基準を候補者に提示でき、採用力を強化できます。
また、報酬体系を公開している企業は、求職者から信頼できる誠実な企業と評価され、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
ただし、すべての給与レンジを公開する必要はありません。採用時には以下のような情報を公開するのがおすすめです。
- 募集する職種の想定年収(給与レンジの下限と上限)
- 基本給、固定残業代、諸手当など、月給の割合
- 「メンバー:450〜600万円」「リーダー:650〜850万円」といった各キャリアの給与幅 など
そのポジションで採用したい人物像が、自社でどの等級に該当するのかを明確にし、その等級内での給与幅を公開するところからはじめましょう。
従業員が自身の給与に納得できる
給与レンジを設計することで、等級や役割ごとに給与の上下限が定まり、従業員が「自身の給与はどのように定まっているのか」が理解できるようになります。
また、各等級に求められるスキルや成果が明確になることで、何を目指せば給与が上がるのかが可視化され、モチベーションが向上します。
給与の不公平感や将来の不透明性もなくなることで、会社へのエンゲージメントが高まり、離職率低下も実現できるでしょう。
給与レンジに納得感を持たせるためにも、マネージャーや管理職が「この等級はなぜこの金額なのか」を部下に説明できるようにしておきましょう。
人件費の総額管理がしやすくなる
給与レンジを設計し、各等級の従業員が何人所属しているのかを把握すれば、総額人件費を算出できるようになります。
また、「今後5年間で人件費がどの程度増加するのか」といった人件費の変動を、昇給や昇格、採用などを踏まえながらシミュレーションすることも可能です。
人件費の変動が想定の範囲内に収まっているかを常に検証できるため、キャッシュフローの予測が立てやすく、健全な経営を維持できるでしょう。
一方で、全従業員が高い評価を得て各レンジの上限に片寄ると、想定以上に人件費が高騰してしまいます。
評価制度を適正に運用し、給与レンジ内での従業員分布を定期的に分析することが、人件費のコントロールには欠かせません。
給与レンジの設定方法
各等級内の給与の設定方法には、主にレンジレートとシングルレートの2種類に分けられます。
等級内で幅を持たせる「レンジレート」
等級や職務ごとに「下限額から上限額までの幅」を設け、その範囲内で個人のスキル、経験、成果に応じて給与を決定する仕組みです。
等級が上がらなくても、同一等級内で経験年数やスキル、成果を踏まえて給与に差をつけることが可能です。
ただし、昇給の基準を明確にしていないと、評価や昇給の判断を行うマネージャーや人事の負担が大きくなり、不公平感も生まれてしまいます。
エンジニアや営業など、個人のスキルや成果によって貢献度に大きな差が出る職種においておすすめです。
各等級で一律の給与にする「シングルレート」
等級や職務ごとに「一律の給与額」を定める方式です。
たとえば、「課長職=年収700万円」と決めた場合、同じ等級であれば全員が同じ金額を受けとることになります。給与を上げるためには、上の等級への昇格が必要になる仕組みです。
ルールが明確かつ簡潔で透明性が高いのが利点です。
一方で、「出世しない限り、どれだけ頑張っても給与は上がらない」という不満も生じやすく、優秀な人材の離職につながる恐れもあります。
事務や管理部門など、業務内容が定型的で個人による成果が生まれにくい職種でおすすめです。
給与レンジ設計の手順
給与レンジを設計する際には、以下の手順を踏んでいくといいでしょう。
給与制度の目的やポリシーを明確にする
まずは、会社がどのような考え方やルールで報酬を支払うのかというポリシーを明確にしましょう。
具体的には、「どのような人材に、どのような基準で報いるか」という指針を言語化していきます。一般的な指標としては以下が挙げられます。
- 職務の重さに応じる「職務給(Pay for Job)」
- 成果を重視する「パフォーマンスカルチャー」
- 勤続年数に連動した「長期雇用を前提にした年功序列」 など
自社の実態や文化に合わないポリシーを採用すると、給与レンジ制度が形骸化する恐れがあるため、経営層と現場が納得できる評価軸を定めておきましょう。
職務(ポジション)を整理し、「等級」を設定する
続いて、各ポジションの役割や責任の大きさを整理し、「等級」の階層構造を構築していきます。
インタビューやアンケートを通じて各役割を主要なタスクに分解し、求められるスキルや重要度、難易度を評価していきます。
このとき、各ポジションにおける職務名・職務の内容や範囲・求められるスキルなどを記載した職務記述書を作成しておきましょう。
職務記述書を作成しておくことで、各等級内の具体的な要件が明確になり、適切な評価ができるようになります。
等級数が多くなりすぎると管理が複雑になり、少なすぎると昇格のチャンスが減ってしまうため、自社の規模に合わせた適切な設定が大切です。
以下の記事では、等級制度の設計方法について解説しています。設計手順や失敗しないためのポイントを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
市場給与を調査し、各職務の給与レンジを設定していく
外部の市場データを指標にしながら、各等級に支払い可能な給与の「下限」「中央値」「上限」の幅を設定していきます。
公的な統計データや競合の求人票、エージェントのレポートを用いて、同業他社や同職種の水準を把握していきましょう。基本給だけでなく、賞与や諸手当を含めた「総額」で比較していきます。
「職種名」だけで判断せず、実際の職務内容が自社と一致しているのかも確認するのも大切です。
給与レンジを設計する際のポイント
給与レンジを設計する際のポイントとして、以下の2点が挙げられます。給与レンジがしっかりと機能するように、設計していきましょう。
市場給与と比較して、 自社の経営戦略を策定する
市場における同業種・同規模他社の給与水準を調査し、それに対して自社がどの位置を狙い、どのような人材を希望するのか、経営戦略も策定しましょう。
たとえば、「市場の中央値」を意識して給与レンジを設計すれば、同業他社と同じ水準の従業員を獲得できます。
一方、「市場の上位25%」を意識したならば、より優秀な人材を獲得できるでしょう。
客観的なデータに基づいたレンジを設定することで、自社の経営戦略に基づいた人材を採用できます。
なお以下の記事では、中途入社する人の給与の設定方法について解説しています。具体的な設定方法や不満を防ぐ対策などを知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
設計した給与レンジは定期的に見直す
一度作成した給与テーブルは放置するのではなく、社会情勢や自社の状況に合わせて定期的にメンテナンスを行うのが大切です。
具体的には、物価が上昇した際には、実質的な賃金の低下を防ぐために、各等級の給与水準の底上げが必要になります。
また創業期から成長期、成熟期へと移行するにつれ、必要な人材像や企業の支払い能力も変化するため、給与レンジへの反映が欠かせません。
少なくとも年1回以上の頻度で市場の給与水準と、自社の給与レンジに乖離がないかチェックしましょう。
なお、マネーフォワードでは社宅系の福利厚生サービスを提供しています。これから福利厚生の充実を検討している方は、ぜひ一度詳細をご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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