• 更新日 : 2026年6月17日

住宅手当の距離条件とは?適法な設定基準と就業規則での注意点

Point住宅手当に「会社から○km以内」といった距離条件を設けるのは、法律上問題ないのでしょうか?

住宅手当は会社が任意で設ける福利厚生のため、距離条件の設定自体に違法性はありません。

  • 直線距離・道のり・通勤時間から判定基準を選ぶ
  • 対象者や測定方法を就業規則に明記する
  • 現金支給の住宅手当は距離を問わず課税される

すでに支給中の条件を厳しくする場合は、不利益変更にあたるため経過措置や従業員代表との協議が必要です。

住宅手当の距離条件に法律上の一律な数値基準はなく、企業が自社の判断で自由に設定できます。

「会社から3km以内」などの制限は、従業員の通勤負担軽減や災害時の対応を目的として採用される一般的な手法です。

この記事では、直線距離や通勤時間といった判定基準の選び方、就業規則への記載、通勤手当との税務上の違いを整理しました。

住宅手当の「距離条件」とは?

住宅手当の距離条件とは、会社から自宅までの距離や通勤時間をもとに、手当の支給対象を決めるルールです。たとえば、「会社から直線距離で3km以内」「会社の最寄駅から2駅以内」「通勤時間30分以内」などの条件が考えられます。

住宅手当は、法律で支給が義務付けられていません。会社が独自に設ける福利厚生なので、付与条件は組織によって異なります。導入や見直しの際は、制度の目的を明確にしたうえで、従業員にわかりやすく説明できる形に整える必要があります。

参照:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

距離制限の設定は違法?

住宅手当に距離制限を設けることに、違法性はありません。住宅手当は会社が任意で設ける制度であり、どのような従業員を対象にするかは、一定の範囲で会社が決められます。

たとえば、「通勤負担を減らしたい」「緊急時に出社しやすい体制を整えたい」「会社の近くに住む従業員を支援したい」などの目的で、距離条件を設けることは可能です。

ただし、距離条件を設ければ、何でも認められるわけではありません。すでに住宅手当を支給している会社が、後から条件を厳しくする場合は、従業員にとって不利益な変更にあたる可能性があります。

制度を見直す場合は、変更の理由・従業員への影響・経過措置を整理し、労働組合や従業員代表との協議が必須です。

基準は就業規則への明記が必須

住宅手当に距離条件を設ける場合は、就業規則や賃金規程に内容を明記する必要があります。とくに、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と、労働基準監督署への届け出が必須です。

また、支給対象者や支給額、距離の測り方の明文化が欠かせません。たとえば「会社の近くに住む従業員に支給する」という書き方では、「近い」の定義が不明瞭です。担当者によって判断が変わると、不公平感やトラブルにつながります。

一方で、「本社所在地から住民票上の住所までの直線距離が3km以内の場合に支給する」と定めれば、判断基準が明確になります。

規程には、少なくとも以下の項目を明記しましょう。

就業規則に明記する項目
  • 対象者
  • 距離の測定方法
  • 起点と終点
  • 支給開始・停止日
  • 必要書類

また、制度の目的や変更の経緯も文書で残しておくと、将来の説明にも役立ちます。

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住宅手当で距離条件を設定する3つの基準

住宅手当で距離条件を設ける場合、主な基準は「直線距離」「道のり・実距離」「通勤時間・利用駅数」の3つです。会社の立地、従業員の通勤手段、制度の目的によって使いやすい基準は変わります。

導入前に複数の基準を比較し、対象となる従業員の範囲・運用負担を確認したうえで、自社に合う方法を選びましょう。

直線距離

直線距離は、会社と自宅を地図上の直線で結び、その距離で支給可否を判断する方法です。「会社から半径3km以内」などと定めると、対象範囲がわかりやすくなります。

地図アプリを使えば距離を確認しやすいため、人事担当者の確認作業も比較的シンプルです。従業員にとっても、引っ越し前に自分が対象になるか、把握しやすい利点があります。

一方で、直線距離は実際の通勤負担とずれることも少なくありません。川や線路、大きな道路がある地域では、直線では近くても、遠回りが必要になるケースもあります。

不公平感を避けるには、地理的な特徴の考慮が必須です。実態とかけ離れた判定になりやすい場合は、距離の基準を少し広めにするなどの調整も求められます。

道のり・実距離

道のり・実距離は、実際に通勤で使うルートの距離を基準とする方法です。
徒歩・自転車・自動車などで通勤する従業員が多い会社では、直線距離よりも実態に合いやすくなります。実際の通勤負担に近い形で判断できるため、従業員の納得感も得やすいでしょう。

ただし、道のりを基準にする場合は、どのルートを使って測定するのかが問題になります。同じ自宅から会社まででも、最短距離のルート、最短時間のルート、普段使っているルートで距離が変わることは珍しくありません。

そのため、規程には「指定した地図サービスで表示される最短距離を基準とする」など、客観的なルールを記載する必要があります。徒歩ルートを使うのか、自動車ルートを使うのかも決めましょう。

通勤時間・利用駅数

通勤時間や利用駅数を基準にする方法は、公共交通機関を使う従業員が多い都市部の会社に向いています。たとえば「会社の最寄駅から2駅以内」「自宅から会社まで30分以内」といった条件です。距離だけではなく、実際の通勤ルートを反映しやすくなります。

とくに都心部では、直線距離が近くても乗り換えが多い場所や、反対に距離はあってもアクセスがよい場所があります。そのため、通勤時間や駅数を基準にすると、従業員の体感に近い制度設計が可能です。

ただし、電車の種別や乗り換え時間、検索する時間帯によっては、計算結果に差が生じます。朝の通勤時間帯を基準にするのか、最短時間の経路を使うのか、急行や特急を含めるのかなど、条件を詳細に決めましょう。

【実家暮らし・持ち家】賃貸以外で距離条件を適用する3パターン

実家暮らしや持ち家の従業員を対象に含めるかは、会社の制度目的に従って変える必要があります。たとえば、家賃負担を補助したいのか、会社の近辺に住むことを促したいのか、目的によって、対象となる従業員も変わるのが自然です。

対象を賃貸に限る

家賃負担を軽減したい場合は、住宅手当の対象を賃貸住宅に限りましょう。賃貸借契約書や家賃の支払履歴を確認すれば、本人に住居費負担があるか判断しやすくなります。若手社員のひとり暮らしや、転居を伴う入社を支援したい会社向きです。

ただし、賃貸限定にするなら、規程上の書き方を明確にする必要があります。たとえば「本人が賃貸借契約の名義人であり、実際に家賃を負担している住宅」といった形で定めると、判断基準の明確化が可能です。

また、シェアハウスや同棲、配偶者名義の契約など、判断に迷いやすいケースもあります。事前にさまざまな場合を想定し、対象にするか決めておくと、運用開始後の混乱を防げるでしょう。

世帯主のみに支給する

住宅手当の支給条件を世帯主にすると、従業員とその家族の生活を支援しやすくなります。賃貸か持ち家かを問わず、本人が家計を支えている場合に限り、手当を支給する設計も可能です。

たとえば、親の介護などで実家に住みながら、本人が世帯主として生活費を負担しているケースを考えましょう。このような従業員も支援対象に含めたい場合は、世帯主要件を使うと制度の幅が広がります。

一方で、世帯主だけを条件にした場合、実際に住居費を負担しているかまでは確認できません。手当を受けるために、形式上の世帯主変更が横行するリスクもあります。

申請時には住民票の提出を依頼し、必要に応じて家賃や住宅ローンの支払実績も確認しましょう。また、結婚や同棲、家族構成の変更で世帯主が変わった場合の、申請期限設定も必要です。

住宅ローン負担を考慮する

持ち家の従業員を対象にする場合は、住宅ローンの負担を考慮する方法もあります。賃貸住宅の家賃はもちろん、持ち家の住宅費負担も無視できません。長く地域に住み続ける従業員を支援したい会社や、地方拠点で人材定着を重視する会社では、持ち家を対象に含める設計も考えられます。

ただし、持ち家を対象にすると、賃貸より確認書類が増えがちです。たとえば、下記の書類確認が必要になります。

  • 登記事項証明書
  • 住宅ローン返済予定表
  • 返済口座の明細

また、住宅ローンを完済した場合や、繰り上げ返済で完済時期が早まった場合の対応も検討しましょう。持ち家を対象にする場合は、対象範囲を広げる分、運用ルールを細かく整える必要があります。

【不正対策】距離以外の支給条件

住宅手当では、距離条件だけでなく、本人が実際に住んでいるか、住宅費を負担しているかの確認が大切です。名義人の指定や書類の提出依頼によって、不正を防ぎましょう。

世帯主・賃貸契約の名義人を指定する

不正受給を防ぐ基本は、支給対象者の明確化です。賃貸住宅を対象にする場合は、本人が賃貸借契約の名義人であり、家賃を負担していることを条件にしましょう。

たとえば、同棲相手が契約者で家賃を全額支払っている場合、本人には住宅費の負担がない可能性があります。また、親名義の契約物件に住んでいる場合も、会社の制度目的に合致しません。就業規則には「本人名義の賃貸借契約であること」「本人が家賃を負担していること」などを明記しましょう。

ただし、例外を認めない運用にすると、実態に合わないケースも発生します。対象範囲と確認書類を明記したうえで、ルームシェアのような例外に対応しましょう。

住民票と賃貸借契約書の提出を依頼する

住宅手当の申請を自己申告だけで受け付けると、不正や誤申請が起きやすくなります。住民票と賃貸借契約書の写しを提出してもらい、住所・契約名義・居住実態を確認しましょう。必要に応じて、家賃の振込明細や領収書の確認も必要です。

住民票では申請された住所に住んでいること、賃貸借契約書では契約名義人・物件所在地・家賃額を確認できます。家賃の支払明細も加えると、本人の費用負担有無もチェックできるでしょう。引っ越しや転勤も考えられるので、定期的な現況確認も重要です。

一方で、住民票や契約書には個人情報が含まれます。取得する目的を従業員に伝え、住宅手当の確認以外に使わないことを確約しましょう。

【税務処理】住宅手当の距離条件と通勤手当の違い

住宅手当と通勤手当は、税務上の扱いが異なります。現金で支給する住宅手当は、会社から近い場所に住んでいる場合でも原則として課税対象です。一方、通勤手当には一定の非課税限度額があります。

住宅手当は距離にかかわらず課税対象になる

会社が従業員へ現金で支給する住宅手当は、給与として扱われます。会社からの距離が近いか遠いかに関係なく、所得税や住民税の課税対象です。また、住宅手当には、通勤手当のような非課税枠はありません。

たとえば、毎月30,000円の住宅手当を支給しても、税金や社会保険料の負担が増えるため、実際の手取り増加額は支給額より小さくなります。課税対象であることを説明しないままだと、「思ったより手取りが増えない」という不満につながりかねません。従業員向けの案内では、額面と手取りの違いを伝えましょう。

なお、会社が物件を借り上げて従業員に貸す社宅制度では、一定の要件を満たすことで税務上有利に扱われる場合があります。

通勤手当には非課税限度額がある

通勤手当は、一定の範囲内で非課税として扱われます。公共交通機関を利用する場合は、もっとも経済的かつ合理的な経路による運賃について、月150,000円までが非課税です。自動車や自転車で通勤する場合も、片道距離に応じて非課税限度額が定められています。

通勤手当は、通勤費用の補填が目的です。通勤に必要な費用を補うための手当なので、一定の範囲で税務上の配慮があります。一方、住宅手当の目的は、あくまで住宅費の補填です。距離条件を設けていても、税務上は通勤手当と別に扱われます。

給与計算では、手当の名称だけでなく、実質的な性質を踏まえた処理が大切です。

住宅手当に距離条件を設ける場合の注意点

住宅手当に距離条件を設ける場合は、導入時のルールだけでなく、働き方や勤務地が変わったときの扱いも決めておく必要があります。たとえば、以下のような出来事があった場合、距離条件の支給条件から外れるケースも少なくありません。

  • 在宅勤務
  • 異動
  • オフィス移転
  • 従業員の引っ越し

ルールがないまま個別に判断すると、不公平感が生まれやすくなります。制度を安定させるには、例外の想定と整理が欠かせません。

在宅勤務・異動時の対応を決める

在宅勤務が増えたり、異動があったりした場合、例外的な対応が必要です。

通勤負担の軽減を目的にしている制度であれば、出社日数が少ない従業員にも満額支給するのか、見直す必要があります。一方で、緊急時の出社や会社近くでの居住を重視する制度であれば、在宅勤務中に支給を続けることも可能でしょう。

大切なのは、制度の目的に合った判断基準を作ることです。たとえば「月の所定労働日の半数以上を対象事業所へ出社する場合に支給する」のように、条件を定める方法があります。

また、異動やオフィス移転の扱いも重要です。会社都合で勤務地が変わった結果、従業員が距離条件を満たさなくなることがあります。条件から外れても、一定期間は支給を継続する、転居猶予期間を設けるなど、緩和措置を用意しておくと安心です。

近隣への引っ越しには手取りの逆転リスクがある

従業員が住宅手当を受けるために会社の近くへ引っ越す場合、手取り額が思ったほど増えないことがあります。住宅手当は課税対象なので、額面上は手当が増えても、税金や社会保険料を差し引いた後の手取りは減る場合もあります。

たとえば、引っ越し前は非課税の通勤手当を受け取っていた従業員が、引っ越し後に通勤手当を減らされ、課税対象の住宅手当を受け取るケースです。総支給額が増えても、手取り額が増加しない可能性があります。

従業員に制度を案内する際は、住宅手当の支給額だけを強調しないようにしましょう。通勤手当の減額や税金、社会保険料まで含めて判断してもらう必要があります。簡単な手取り額のシミュレーションを示すと、制度への納得感も高まるでしょう。

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※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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