• 更新日 : 2026年7月7日

賃上げ交渉とは?企業が賃上げに踏み切るべきケースも解説

Point賃上げ交渉、企業はどう対応すべき?

賃上げ交渉への対応は企業の経営判断に委ねられますが、法的義務や経営合理性を踏まえた適切な判断が必要です。

  • 法的義務がある場合は賃上げ必須
  • 採用コストと比較して経済合理性を判断
  • 安易な譲歩は評価制度の形骸化を招く

Q. 賃上げ交渉を拒否しても法律上問題ない?
A. 財務状況を理由とした拒否は違法ではありませんが、最低賃金違反や契約上の昇給条件を満たす場合は拒否できません。

近年の物価上昇の影響から、従業員から賃上げ交渉を受けるケースは珍しくありません。

賃上げの実施は企業の経営に与える影響が大きいため、適切な対応が求められます。

そこで本記事では、賃上げ交渉の概要や賃上げの種類、賃上げに踏み切るべきケースを解説します。賃上げ実施のポイントや注意点も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

賃上げ交渉とは?

賃上げ交渉とは、従業員が企業や経営陣に対して、基本給の向上や賞与の増額、手当の支給などを求める行為です。

主な交渉方法は、労働組合が経営陣と一括して交渉する集団交渉と、従業員個人が上司や経営者と直接交渉する個人交渉の2種類が挙げられます。

日本では毎年春にかけて実施される集団交渉「春闘」が一般的です。

一方、外資系企業や個人の裁量が大きい職種は、個人交渉によって実施されることが一般的です。

賃上げに応じるかどうかは企業が決められる

従業員から賃上げ交渉が実施され、給与の向上を要望されたとしても、実際に給与を引き上げるかどうかは企業側の自由であり、経営判断にゆだねられています。

法律上、企業には交渉に応じることが義務付けられていますが、必ずしも要求を受け入れる必要はありません。

たとえば「財務状況や人事評価を勘案した結果、今回は引き上げられない」と賃上げを拒否したとしても、違法にはならないのです。

ただし、賃上げ交渉をしてきたことを理由に今の給与を逆に引き下げたり、不当に降格させたりする行為は、労働組合法や労働契約法に違反します。

また、企業の自由だからと一律に拒否し続けるのではなく、給与向上を受け入れた方が会社の利益につながるケースもあります。

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賃上げの種類

賃上げは、ベースアップと定期昇給の2種類に大別されます。それぞれの特徴を把握し、適切な方法で賃上げを実施しましょう。

ベースアップ

ベースアップとは、従業員全員の基本給を一律に引き上げ、企業全体の賃金水準を底上げする手法です。

従業員の年齢や勤続年数、業務評価に関係なく賃上げを実施できます。そのため、物価上昇への対策や競合他社よりも採用力を強化したい場合に有効です。

ただし、一度ベースアップを行うと、「不利益変更の禁止」の原則から、あとから基本給を引き下げることは困難です。

また、企業にとっては、固定費が膨らみ続けるリスクがある点にも留意する必要があります。

定期昇給

定期昇給とは、年齢や勤続年数、従業員の人事評価に応じて定期的に基本給が向上する手法です。

賃上げ交渉への対応でこの手法を活用する場合は、交渉相手の従業員の実績や貢献度を評価し、社内の評価ランクを上げることで基本給を向上させます。

たとえば、業績の先行きが不透明で固定費が向上するベースアップができない場合や、優秀な人材を引き留めたい場合に有効です。

なお、実際の現場では、ベースアップと組み合わせて賃上げに対応するケースも少なくありません。

賃上げに踏み切った方がいいケース

賃上げに踏み切った方がいいケースには、以下が挙げられます。

労働契約や就業規則で昇給に関する記載がある場合

労働契約書や労働条件通知書、就業規則などで昇給に関する記載があり、従業員がその条件を満たしている場合は、賃上げ対応が必要になります。

就業規則や労働契約は法的な履行義務があり、約束した条件を満たしている以上、企業は内容に則って給与を増額させなければなりません。

もし、条件を満たしているにもかかわらず、賃上げを認めなかった場合は、契約違反となり法的紛争に発展する恐れがあります。

経営状況が苦しいという理由だけでは、契約に記された昇給を拒否することは難しいため、契約内容は遵守しましょう。

「同一労働同一賃金」の原則に抵触する場合

もし企業内で正社員と非正規社員との間に、基本給や賞与、手当などに関する不合理な格差が存在する場合、格差を是正する賃上げを実施しましょう。

同一労働同一賃金の原則により、業務内容や責任の重さ、配置の変更範囲が同じならば、雇用形態の違いのみを理由に格差を設けてはなりません。

一方、正社員と非正規社員との格差に合理的な理由がある際は、賃上げを実施する必要はありません。

明確な理由がある場合は、従業員との賃上げ交渉時に待遇差がある要因についての説明が求められます。

最低賃金や法規制が変更された場合

法律で定められた最低賃金額が改定され、現在の支給額がそれを下回っている場合も、賃上げへの対応が必要です。

月給制の従業員であっても、基本給を1ヶ月の平均所定労働時間で割った時間当たりの金額が改定後の最低賃金を下回る場合、基本給の増額を実施しましょう。

最低賃金は絶対遵守すべき法的義務であり、企業の裁量で拒否することはできません。

従業員の給与が最低賃金を下回った状態で賃金を支払うと、最低賃金法違反となり事業者に罰則が科せられるほか、未払い賃金を遡及して請求されるリスクもあります。

従業員が代替困難なスキルを有している場合

高い専門性を持っている従業員や、その従業員にしか対応できない業務がある場合、賃上げの要求を受け入れた方がいいでしょう。

たとえば、業界内でも希少な資格や高い専門技術を有している専門職、顧客と強固な信頼関係を築いている営業担当者などが挙げられます。

こうした人材が離職してしまうと、事業の継続や運営に大きな支障をきたす恐れがあるでしょう。

市場価値が高い人材は、他社へ流出する可能性があるため、賃上げ要求を受け入れることで離職を防げます。

採用・教育コストが賃上げ額を上回る場合

従業員を引き留めるための賃上げ総額よりも、新しく人を雇い、一人前に育てるためのコストの方が高い場合は、賃上げを受け入れた方が経済合理性があります。

新しい人材を募集・採用し、退職した従業員と同等のレベルまで育成するには、数百万円単位のコストがかかることも珍しくありません。

そのため、賃上げ交渉をしてきた従業員が優秀である場合は、賃上げを受け入れた方が合理的といえます。

ただし、人材を引き留めるために基本給を引き上げると、その分残業代や社会保険料などの関連コストも連動して増加します。

事前にシミュレーションを実施するなどし、総合的なコストで比較しましょう。

なお、優秀な人材の離職を防ぎたい場合は、福利厚生を充実させて定着率を高めるのもひとつの選択肢です。

以下の記事で人気の福利厚生ランキングを紹介しているので、あわせて参考にしてみてください。

物価上昇に対応する必要がある場合

物価上昇に対応するための手段として、賃上げ交渉を受け入れ、基本給をベースアップさせるのも効果的です。

実質賃金が低下しているにもかかわらず、賃上げ交渉に対応しなかった場合は、モチベーションの低下や生活苦による離職を引き起こします。

もしベースアップによる固定費の増額を避けたい場合は、一時的なインフレ手当の支給や福利厚生の拡充などの方法で対応するのもいいでしょう。

なお、以下の記事では、福利厚生について詳しく解説しています。あわせて、ぜひ参考にしてみてください。

賃上げを行う際のポイント

賃上げを行う際は、以下のポイントを意識しましょう。

事前に中長期的な目線でシミュレーションを実施する

事前にシミュレーションを実施し、財務状況に与える将来的な影響を分析しましょう。

賃上げを一度実施すると、業績が悪化したからといって簡単に引き下げることができなくなります。

また、基本給を増やすと基本給に連動する賞与や残業代、社会保険料なども増え、総額のコスト負担が膨れ上がります。

安易な基本給の増額は、企業への負担を大きくし、将来の黒字倒産や経営破綻を招く恐れもあるため留意が必要です。

賃上げを実施する際には、シミュレーション結果と経営戦略との整合性を図り、リスクを理解したうえで増額する金額を算出しましょう。

明確な評価基準をもとに賃上げを実施する

賃上げ交渉に応じて給与の増額する場合は、明確な評価基準を踏まえた賃上げの実施が求められます。

全員一律のベースアップは一見平等に見える施策ですが、成果を出している真面目な従業員からは「なぜあの人も給与が上がっているのか」という不満につながる恐れがあるためです。

たとえば、給与を増額させるにあたっての賃金規程や人事評価制度、社会的なインフレ率などを踏まえて、いくら増額するのかを具体的に説明しましょう。

税制優遇制度の活用も検討する

国の税制優遇制度を活用するのもひとつです。

たとえば「賃上げ促進税制」は、企業が賃上げを行うにあたって、給与増額の一部を税金控除できる制度です。

これにより、人件費負担を軽減しながら従業員の賃上げを行うことができます。

ただし、適用対象となるのは一部の中堅企業や中小企業に限られ、税額控除を受けるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。

なお「賃上げ促進税制」については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせて参考にしてみてください。

「年収の壁」にも配慮する

パートやアルバイト従業員において、賃金引き上げに伴う時給アップが「年収の壁」にどのように影響するのか把握しておきましょう。

年収の壁を超える給与を得てしまうと、住民税・所得税の課税や配偶者控除額の減少、社会保険料の負担などが発生し、手取り額が減ってしまう恐れがあります。

これでは、賃金を向上させた意味がありません。

従業員一律に賃金の引き上げを行う際には、対象となる従業員に賃上げが年収にどう影響するのかを説明し、希望に応じて労働時間を調整しましょう。

賃上げ交渉の要求に対応するうえでの注意点

賃上げ交渉に応じる場合は、以下のような注意点を踏まえたうえで対応しましょう。

安易な譲歩はしない

従業員からの賃上げ要求に対し、その場ですぐに合意したり、容易に要求を満たしたりすることは避けましょう。

強く交渉すれば給与が上がるという前例を作ってしまうと、他の従業員からも同様の要求が相次ぐ恐れがあります。

賃上げの基準が日ごろの業績や業務への貢献度ではなく、交渉の有無になってしまい、評価制度の形骸化も招きます。

そのため、その場での意思決定は避け、検討の時間を設けるようにしましょう。

その間、経営層を交えて基本給の引き上げに伴うコスト負担を分析するなどし、適切な財務判断を行いましょう。

賃上げに応じる条件も提示する

賃上げ交渉に応じる際は、見返りとなる条件もあわせて提示しましょう。

物価上昇への対応といった正当な理由があったとしても、それに見合う利益や生産性の向上がなければ、会社への負担がかかってしまいます。

賃上げ交渉の際は、具体的な目標を提示したり、業務範囲の拡大を要求したりするのがおすすめです。

また、スキルの習得を条件とした資格手当や、業務範囲の拡大に伴う役職手当の付与なども効果的でしょう。

感情論は避け、データや数値をもとに交渉を進める

「生活が苦しい」といった個人的事情や「これだけ頑張っているのに」という主観的な主張をもとに議論をするのではなく、客観的なデータや数値をもとに交渉を進めましょう。

感情的な動機をもとに賃上げを実施すると、給与の増額分に対して正当な理由を説明することが難しくなります。

もし、増額に満足されなかった場合、賃上げしたのにもかかわらず従業員のモチベーション低下や離職を招く恐れもあります。

賃上げを実施する際は、同業種・同職種の給与相場や業務での実績、事業への貢献度合い、社会的なインフレ率などのデータをもとに、適切な賃上げ額を提示しましょう。

なお、賃上げ交渉以外にも、従業員の生活を支援する施策として福利厚生の充実が挙げられます。

マネーフォワードでは社宅系の福利厚生サービスを提供しているので、何から手を付ければいいのかわからないという方は、ぜひ検討してみてください。


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