- 更新日 : 2026年8月12日
労務費率の申請書とは?建設業の年度更新における計算方法・書き方・提出手順を解説
労務費率の申請書とは、建設業の年度更新で提出する「一括有期事業報告書・総括表・労働保険概算確定保険料申告書」の3種類です。
- 計算式は支払賃金×保険料率または税抜請負金額×労務費率×保険料率
- 提出期限は毎年6月1日〜7月10日
- 外注比率が高い場合は実賃金方式が有利になりやすい
Q. 建築事業の労務費率は何%?
A. 建築事業(既設建築物設備工事業を除く)は23%です。税抜請負金額にこの率を掛けて賃金総額を推計します。
労務費率の申請書とは、建設業の労働保険年度更新において、一括有期事業報告書・一括有期事業総括表・労働保険概算確定保険料申告書の3種類を指します。本記事では、労務費率一覧や計算方法、各申請書の記入手順、提出先・提出期限までを、根拠となる制度や様式に沿って解説します。労務費率と実賃金方式の使い分けも整理しているため、建設業の年度更新業務を担当するバックオフィス担当者の実務に役立てられます。
労務費率とは?
労務費率とは、建設業などの有期事業において、請負金額に一定の割合を乗じることで賃金総額を推計するために、厚生労働省が事業の種類ごとに定めた比率です。実際の賃金総額を正確に把握することが難しい建設現場向けに設けられた推計方式であり、労働保険徴収法施行規則にもとづいて告示されています。
参考:労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則|e-Gov 法令検索
元請が下請分も含めて一括して納付する
建設業の労災保険は、元請事業者が現場全体の保険料を一括して納付する仕組みになっています。下請や孫請の労働者が現場でけがをした場合でも、元請が加入する労災保険から給付が行われるためです。
このため元請は、自社の従業員だけでなく下請労働者分も含めた賃金総額をもとに保険料を算出しなければなりません。しかし複数の下請が関わる建設現場では、実際の賃金を正確に把握するのが難しいケースも多く、そこで賃金総額を推計する労務費率方式が使われます。
一括有期事業に該当する要件を確認する
建設業の工事は「有期事業」に分類されますが、一定の要件を満たすと複数の工事をまとめて扱う「一括有期事業」として処理できます。この一括の適用は、事業主からの申請がなくても要件を満たせば法律上当然に行われる点が特徴です。
主な要件は次のとおりです。
- 事業主が同一であること
- それぞれの工事について、概算保険料相当額が160万円未満であること
- 建設の事業では、それぞれの工事の請負金額(消費税相当額を除く)が1億8,000万円未満であること(立木の伐採の事業にあっては素材の見込み生産量が1,000立方メートル未満であること)
- それぞれの工事が、労災保険率表に掲げる事業の種類を同じくすること
これらは労働保険徴収法第7条および同法施行規則第6条にもとづく要件です。中小建設業ではこの一括有期事業に該当する工事が多いため、労務費率を使った保険料計算と申請書類の作成は、毎年の年度更新業務における必須の実務といえます。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
続いてこちらのセクションでは、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを簡単に紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。
社会保険・労働保険の実務完全ガイド
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労務費率を使った労災保険料の計算方法は?
保険料の計算式は「税抜請負金額 × 労務費率 × 労災保険率」です。この3つの数値を掛け合わせるだけで、保険料が算出できます。
STEP1:2026年度(令和8年度)の労務費率一覧を確認する
労務費率は事業の種類ごとに異なります。厚生労働省の発表によると、令和8年度の労務費率は令和6年4月1日改定時から変更されておらず、次の表のとおりです。
| 事業の種類 | 番号 | 労務費率 |
|---|---|---|
| 水力発電施設、ずい道等新設事業 | 31 | 19% |
| 道路新設事業 | 32 | 19% |
| 舗装工事業 | 33 | 17% |
| 鉄道又は軌道新設事業 | 34 | 19% |
| 建築事業(既設建築物設備工事業を除く) | 35 | 23% |
| 既設建築物設備工事業 | 38 | 23% |
| 機械装置の組立て又は据付けの事業(組立て又は取付けに関するもの) | 36 | 38% |
| 機械装置の組立て又は据付けの事業(その他のもの) | 36 | 21% |
| その他の建設事業 | 37 | 23% |
年度更新の際は、該当年度の労務費率が変更されていないか、厚生労働省の告示や労働基準監督署の案内で確認してから計算に取りかかるのがポイントです。
参考:令和8年度の労災保険率について(令和7年度から変更ありません)|厚生労働省
STEP2:税抜請負金額をベースに算出する
計算の起点となる請負金額は、消費税を除いた金額を使います。税込金額をそのまま使うと保険料が過大になるため注意が必要です。
計算の流れは次のとおりです。
- 請負金額(税込)から消費税相当額を除き、税抜請負金額を求める
- 税抜請負金額に該当事業の労務費率を乗じて、賃金総額(推計)を求める
- 賃金総額に労災保険率を乗じて、確定保険料を求める
例えば建築事業(既設建築物設備工事業を除く)で税抜請負金額が5,000万円、労災保険率が9.5/1000の工事があった場合、賃金総額の推計は「5,000万円×23%=1,150万円」、確定保険料は「1,150万円×9.5/1000=109,250円」となります。労災保険率は事業の種類によって異なり、複数の工事を抱えている場合は事業の種類ごとに請負金額を合算してから計算する流れになります。
労務費率方式と実賃金方式の違いは?
労働保険料の算定方法には、労務費率による推計方式と、実際に支払った賃金総額を使う実賃金方式(原則方式)の2つがあります。両者の特徴を理解しておくと保険料の適正化につながります。
| 比較項目 | 労務費率方式(推計方式) | 実賃金方式(原則方式) |
|---|---|---|
| 計算のしやすさ | 請負金額に率を掛けるだけで算出可能 | 全労働者の賃金を正確に集計する必要がある |
| 管理コスト | 低い(賃金台帳の詳細管理が不要) | 高い(賃金台帳の整備・保管が必須) |
実賃金方式は負担が大きい
工事のほとんどを外注している場合、下請けや孫請けまで含めた支払賃金を正確に把握することは困難です。また賃金台帳の3年間の保存も必要となるため、こちらの方式では管理の負担が大きくなってしまいます。一方、請負金額に労務比率を乗じる方法は、比較的管理が容易となっています。
請負代金の計算
請負代金はそのままを使うのではなく、支給された資材等の価格や貸与された機械・資材の賃貸料および損料相当額を加えた額としなければなりません。また、控除対象工事用物(機械装置の組立てまたは据付けの事業における機械装置)は控除することになります。
労務費率の申請書類の書き方は?
年度更新で提出する書類は、主に「一括有期事業報告書」「一括有期事業総括表」「労働保険概算・確定保険料申告書」の3種類です。記入の流れは、報告書で工事ごとの請負額を記載し、総括表で事業の種類別に集計し、最後に申告書へ保険料を転記する順番で進めます。
STEP1:一括有期事業報告書に工事ごとの請負額を記入する
一括有期事業報告書(様式第7号(甲))は、対象年度に完了した工事を1件ずつ記入する書類です。記載する主な項目は次のとおりです。
- 工事の名称・所在地
- 工事の期間(着工日〜完了日)
- 元請負金額(税抜)
- 賃金総額(請負金額×労務費で計算した額または支払賃金)
- 事業の種類コード(建築事業、道路新設事業など)
工事件数が多い場合は複数枚にわたっても問題ありません。工事台帳や会計ソフトの完工データを事前に整理しておくと、記入作業がスムーズに進みます。
記入ミスで多いのが、税込金額をそのまま転記してしまうパターンです。請負金額欄には必ず消費税を差し引いた金額を記入してください。契約書の金額が税込表記の場合は、110分の100を掛けて税抜金額に換算する必要があります。
STEP2:一括有期事業総括表で事業の種類別に集計する
一括有期事業総括表は、報告書に記載した工事を事業の種類ごとに集計するための書類です。主な記入手順は次のとおりです。
- 報告書の工事を事業の種類別にグループ分けする
- 種類ごとに請負金額の合計を算出する
- 請負金額に労務費率を掛けて賃金総額を求めるか、支払賃金から賃金総額を計算する
- 賃金総額に労災保険率を掛けて確定保険料を計算する
総括表の数値がそのまま申告書の確定保険料欄に転記されるため、電卓や表計算ソフト(Excelなど)で検算してから記入するとミスを防ぎやすくなります。端数処理は1円未満を切り捨てます。
STEP3:労働保険概算・確定保険料申告書に転記する
労働保険概算・確定保険料申告書(年度更新申告書)は、総括表で算出した確定保険料と翌年度の概算保険料を記入して提出する書類です。確定保険料が前年度の概算保険料より少なければ差額が還付・充当され、多ければ不足分を追加納付します。
一括有期事業の場合は「確定保険料算定内訳」の欄に総括表の数値をそのまま転記すればよいため、総括表を正確に作成できていれば大きく迷うことはないでしょう。概算保険料は、翌年度の見込請負金額をベースに同じ計算式で算出します。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働保険適用・徴収関係主要様式)|厚生労働省
労務費率の申請書はいつ・どこに提出する?
年度更新の申告書類は、原則として毎年6月1日から7月10日の間に提出・納付を済ませる必要があります。厚生労働省の案内では、令和8年度についても6月1日(月)から7月10日(金)までとされています。提出先は所轄の労働基準監督署、または都道府県労働局です。
STEP1:提出窓口と方法を選ぶ
提出方法には、窓口持参・郵送・電子申請の3通りがあります。
- 窓口持参:所轄の労働基準監督署に直接持ち込む
- 郵送:所轄の労働基準監督署宛てに郵送する(届出日は消印有効)
- 電子申請:e-Gov(イーガブ)を使ってオンラインで提出する
郵送の場合は、到着の遅延や紛失を避けるため、書留や特定記録郵便など配送状況を確認できる方法を利用すると安心材料になります。保険料の納付は金融機関の窓口(銀行・郵便局など)で行うほか、電子納付(ペイジーやインターネットバンキング)にも対応しており、口座振替を利用すると納期限が延びる場合があります。
STEP2:e-Govで電子申請する
e-Gov電子申請を利用すると、書類の印刷・郵送の手間が省けるうえ、オンラインで手続きできるメリットがあります。電子申請の大まかな流れは次のとおりです。
- e-Govアカウント、GビズID、またはMicrosoftアカウントのいずれかを準備する
- e-Gov電子申請アプリケーションをパソコンにインストールする
- e-Govの手続検索から「労働保険年度更新申告」を選択する
- 画面の案内に沿って申告書の各項目を入力する
- 内容を確認し、電子署名を付与して送信する
GビズIDプライムを利用する場合、労働保険の年度更新では別途の電子証明書が不要になるため、比較的スムーズに手続きを進められます。初めてe-Govを使う場合はアカウント作成に時間がかかることがあるため、締め切り間際に慌てないよう早めに準備を始めておくとスムーズです。
参考:令和8年度 労働保険年度更新申告の電子申請について|e-Gov電子申請
労務費率の申請でよくある質問
年度更新の時期になると、建設業の実務担当者からは細かな疑問が寄せられます。ここでは問い合わせの多い項目を取り上げます。
下請企業は何をすればよい?
下請企業が労災保険料の申告・納付を自社で行う必要はありません。保険料は元請が一括して納付するためです。ただし、元請から支払賃金の報告を求められるケースがあります。元請が実賃金方式で保険料を計算する場合、下請が支払った賃金のデータが必要になるためです。求められた場合は、対象期間中に現場で働いた労働者の賃金額を集計し、元請に報告します。報告にあたっては、賃金台帳や出勤簿を日頃から整備しておくことが大切です。
労働保険事務組合に委託している場合はどうなる?
中小企業が労働保険事務組合に事務を委託している場合、年度更新の申告・納付にかかる事務手続きは事務組合が代行します。事務組合ごとに書類の提出期限が異なるため、委託している事務組合に確認のうえ、必要書類を提出しましょう。労務費率の計算自体は変わらないため、工事ごとの請負金額データを事務組合へ正確に共有することが実務上のポイントになります。
厚労省の「労務費率等申請書」はどんなときに使う?
厚生労働省が公開している「労務費率等申請書」は、通常の年度更新の申告書類とは別に用意されている様式です。この申請書は、「水力発電施設、ずい道等新設事業」の工事開始日が「平成30年4月1日から令和3年3月31日までのもの」については、一部異なる取扱いがなされているため用意されています。該当する期間に開始した工事であれば、提出しましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働保険適用・徴収関係主要様式)|厚生労働省
メリット制とはどのような制度?
メリット制とは、事業場ごとの過去の労災発生状況(業務災害に係る保険給付の実績など)に応じて、労災保険率を一定の範囲内で引き上げ・引き下げする仕組みです。安全対策に取り組む事業場ほど保険料が下がりやすくなる一方、労働災害が多い事業場は保険料が上がる傾向にあります。メリット制の詳細は、年度更新申告書に同封される労災保険率決定通知書で確認できます。
期限に遅れた場合のペナルティは?
7月10日の申告・納付期限を過ぎると、政府が保険料を決定する「認定決定」の対象になることがあります。認定決定を受けると追徴金(確定保険料額の10%)が課される可能性があるほか、労働保険徴収法第28条にもとづき、納期限の翌日から納付までの期間について延滞金が課されるおそれがあります。延滞金の割合は年14.6%(納期限の翌日から2か月を経過するまでの期間は年7.3%)が原則ですが、各年の特例基準割合により実際の率が引き下げられる場合があります。
やむを得ず期限内の提出が難しい場合は、早めに所轄の労働基準監督署へ連絡し、対応方法を確認しておくことが望まれます。未申告のまま放置するのが最もリスクの高い対応です。
労務費率の申請書を正確に作成・提出するために
労務費率とは、請負金額から賃金総額を推計し、労災保険料を算出するための割合です。一括有期事業報告書・総括表・申告書の3種類を順番に作成し、税抜金額をベースに計算すれば、年度更新の申請書類を迷わず仕上げられます。期限に遅れた場合には、ペナルティが科されるため、期限を守ったうえで提出することを心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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