- 作成日 : 2025年9月22日
飲食店の個人事業主と法人の節税方法!税金の種類や注意点も解説
飲食店の経営において、個人事業主と法人では税金の仕組みや有効な節税方法が異なります。それぞれの事業形態に合った対策をとることで、手元に残るキャッシュを増やし、安定した経営基盤を築くことにつながるでしょう。この記事では、飲食店にかかる税金の種類といった基本から、個人事業主・法人それぞれに特化した実際の節税方法、そして税務調査で指摘されやすい注意点まで、専門家がわかりやすく解説します。
目次
まずは知っておきたい 飲食店経営にかかる税金の種類
効果的な節税対策を行うためには、どのような税金を納める必要があるのかを正しく理解することが大切です。ここでは、個人事業主と法人、それぞれの事業形態で課される主な税金について解説します。
個人事業主にかかる主な税金
個人事業主の飲食店経営者が納める税金は、主に所得税、住民税、個人事業税、消費税の4つです。
法人にかかる主な税金
法人が納める税金は、主に法人税、法人住民税、法人事業税、消費税が中心となります。
- 法人税:法人の所得に対して課される国税。資本金1億円以下の中小法人の場合、所得のうち年800万円以下の部分には15%、800万円を超える部分には23.2%の税率が適用されます。
- 法人住民税:法人税額に応じて計算される「法人税割」と、資本金の額などに応じて定額で課される「均等割」からなり、地方自治体に納めます。
- 法人事業税:法人の所得に対して課税される地方税です。
- 消費税:納税義務については、個人事業主と同様に、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、インボイス制度による適格請求書発行事業者へ登録している場合等に発生します。
節税は脱税ではない
節税と脱税は、まったく異なるものです。節税とは、税法のルールに則って、合法的な方法で納税額を抑える行為を指します。たとえば、経費を漏れなく計上したり、控除制度を活用したりすることです。
一方、脱税は、意図的に売上を隠したり、架空の経費を計上したりするなど、違法な手段で納税を免れようとする行為です。脱税が発覚した場合には、本来の税金に加えて、重いペナルティ(延滞税や重加算税など)が課され、悪質なケースでは刑事罰の対象となることもあります。健全な経営のためにも、ルールを守った正しい節税を心がけましょう。
飲食店の個人事業主におすすめの節税方法
個人事業主は、所得税の計算方法をふまえた対策が中心になります。青色申告をはじめとする各種控除制度をうまく活用することで、納税額を大きく抑えられるかもしれません。
青色申告の活用で最大65万円の特別控除を受ける
青色申告は、正規の簿記の原則に従って帳簿をつけ、確定申告を行うことで、さまざまな税制上の優遇を受けられる制度です。最大のメリットは、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けられる点ではないでしょうか。
たとえば所得が500万円の場合、この控除を使えば課税所得を435万円に圧縮でき、所得税と住民税を合わせて数十万円単位で節税につながるでしょう。e-Tax(電子申告)を利用するなどの条件を満たす必要はありますが、節税効果が大きいため、個人事業主ならぜひ検討したい制度です。
家族への給与を経費にする「専従者給与」
配偶者や親族がお店の仕事を手伝っている場合、その給与を「青色事業専従者給与」として経費に計上できます。白色申告でも「事業専従者控除」がありますが、控除額に上限があるのに対し、青色申告では届け出た金額の範囲内で、仕事の内容や時間に合った適正な額であれば全額を経費にできます。
これにより、事業主自身の所得を減らし、所得税や住民税の負担を軽減できるでしょう。ただし、給与を受け取る家族は扶養控除の対象から外れるなどの注意点もあります。
小規模企業共済やiDeCoで所得控除を増やす
将来に備えながら節税できる制度の活用もよい方法です。小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員のための退職金制度で、掛金が全額「所得控除」の対象になります。月々の掛金は最大7万円(年間84万円)まで設定でき、所得税・住民税の節税につながります。
また、個人型確定拠出年金「iDeCo」も同様に、掛金が全額所得控除の対象です。これらの制度は、将来の生活資金を準備しつつ、現在の税負担を軽減できる一方で、資金の引き出しに制限がある点にも注意が必要です。
減価償却をうまく活用する
厨房設備や内装工事など、10万円以上の高額な資産は、購入した年に一括で経費にするのではなく、「減価償却」という手続きで数年間にわたって経費化します。この償却方法には「定額法」と「定率法」があり、個人事業主は原則として定額法が適用されますが、届け出をすれば定率法を選択することもできます。
定率法は、導入初期の経費計上額が大きくなるため、開業直後など、早く多くの経費を計上したい場合に有効な節税策といえるでしょう。また、中古資産を購入した場合は、耐用年数を短く設定できるため、より短期間で経費化することもできます。
家賃や光熱費の「家事按分」を徹底する
自宅兼店舗の場合、家賃や水道光熱費、通信費などを全額経費にすることはできません。しかし、事業で使用している部分については「家事按分」という考え方に基づき、経費として計上できます。
たとえば、自宅の床面積のうち店舗部分が40%であれば、家賃の40%を経費にできます。光熱費であれば、事業での使用時間やコンセントの数など、合理的な基準で按分します。この按分を漏れなく行うことで、経費計上額を増やし、節税につながります。
経費を漏れなく計上するためのポイント
日々の営業活動で発生する費用は、漏れなく経費として計上することが節税の基本です。新メニュー開発のための「試作費」や、競合店調査のための「研究費」も、事業に必要な支出として認められます。また、事業関係者との打ち合わせでの飲食代は「接待交際費」や「会議費」として計上できます。領収書やレシートは必ず保管し、帳簿に記録する習慣をつけましょう。何が経費になるか迷った場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
飲食店が法人化した場合の主な節税方法
法人化すると、個人事業主とは異なる多様な節税の選択肢が生まれます。役員報酬や社宅制度などをうまく活用することで、会社と個人の両方で手元に残る資金を最適化できるでしょう。
役員報酬の活用による所得の分散
法人化する大きなメリットの一つが、自分自身への給与を「役員報酬」として経費にできる点です。役員報酬を設定することで、会社の利益を圧縮し、法人税を抑えることができます。
また、個人事業主の所得はすべて事業所得になりますが、法人から受け取る役員報酬は「給与所得」となり、給与所得控除が適用されるため、個人の税負担も軽減されるでしょう。
家族を役員にして実態に応じた役員報酬を支払えば、所得をさらに分散させることも可能です。ただし、役員報酬は事業年度の途中で自由に変更できないため、慎重な計画が求められます。
社宅制度を導入して家賃を経費にする
法人が役員や従業員のために住居を借り上げ、それを貸し出す「社宅制度」を導入することも節税に役立ちます。この制度を使えば、会社が支払う家賃の大部分を経費として計上できます。
役員は会社に対して一定の家賃(賃料相当額)を支払う必要がありますが、一般的に個人で契約するよりもはるかに低い金額で済みます。結果として、会社は法人税を節税でき、役員は社会保険料や所得税の負担を抑えながら住居費を節約できるという、双方にとってメリットの大きい制度といえるでしょう。
出張手当(日当)を非課税で支給する
仕入れや視察などで遠方へ出張する際に、「出張手当(日当)」を支給する規定を設けることで節税ができます。出張手当は、旅費規程に基づいて適正な金額を支給すれば、受け取った役員や従業員の所得税はかからず(非課税)、支払った会社側は全額を経費(旅費交通費)として計上できます。
給与として支給すると課税対象になりますが、出張手当であれば非課税のため、効果的な方法といえます。
生命保険を活用した節税と保障の両立
法人が契約者となる生命保険の中には、支払う保険料の一部を経費として計上できる商品もあります。これを活用すれば、経営者に万が一のことがあった場合の死亡保障や、将来の退職金の原資を準備しながら、当期の法人税を抑えることにつながります。
保険の種類や契約形態によって経費にできる割合が異なるため、専門家と相談のうえ、自社の目的に合った保険を選ぶことが大切です。
退職金制度で役員へのリターンを考える
役員退職金は、法人にとって大きな節税策となりえます。退職金は損金として計上できるため、支給する年度の法人税負担を大幅に軽減できるでしょう。また、退職金を受け取る役員個人にとっても、給与として受け取るよりも税制上かなり優遇されています(退職所得控除)。将来の退職に向けて計画的に資金を準備しておくことで、退職金を税負担を抑えながら確保することにつながります。
赤字の繰越控除をうまく活用する
青色申告をしている法人は、事業年度で生じた赤字(欠損金)を、翌年度以降最長10年間にわたって繰り越すことができます。これを「欠損金の繰越控除」といいます。たとえば、ある年に赤字が出ても、翌年に黒字が出た場合、その黒字と前年の赤字を相殺して法人税の計算ができます。
これにより、黒字年度の納税額を抑えることが可能です。とくに開業当初は赤字になりやすいため、この制度は安定経営の助けとなるでしょう。
個人・法人共通で使える飲食店の節税対策
事業形態にかかわらず、すべての飲食店が活用できる節税策も多くあります。とくに共済制度や税制上の特例は、将来のリスクに備えながら節税効果を得られるため、積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)への加入
経営セーフティ共済は、取引先が倒産した際に、連鎖倒産や経営難に陥るのを防ぐための制度です。掛金は月額最大20万円(年間240万円)まで設定でき、その全額を経費または損金として計上できます。節税しながら、万が一の事態に備えることができるため、多くの経営者が活用しています。ただし、1年以上の事業継続が加入条件となります。
30万円未満の資産を一括経費化する特例
青色申告をしている中小企業者等には、「少額減価償却資産の特例」が用意されています。これは、取得価額が30万円未満の資産であれば、年間合計300万円を上限として、購入した年に一括で経費計上できるという制度です。通常は10万円以上の資産は減価償却が必要ですが、この特例を使えば、パソコンや厨房機器などを購入した年度の税負担を大きく軽減できるでしょう。
出典:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
廃棄ロスを費用として計上する方法
飲食店経営において、食材の廃棄は避けられない問題かもしれません。売れ残りや仕込みの失敗などで廃棄した食材の原価は、「棚卸資産廃棄損」などの勘定科目で費用として計上できます。ただし、税務調査などで指摘されないためには、いつ、何を、どれくらい廃棄したのかを記録しておくことが大切です。廃棄の事実を客観的に証明できるように、日々の管理を徹底しましょう。
消費税の納税義務の免除・簡易課税制度の選択
消費税の節税も考えておきたいポイントです。開業から2年間は、資本金が1,000万円未満であれば、原則として消費税の納税が免除されます(免税事業者)。また、課税売上高が5,000万円以下の場合、「簡易課税制度」を選択できます。
これは、売上にかかる消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて納付税額を計算する方法で、飲食店の場合はみなし仕入率が60%です。実際の仕入れが少ない場合、本則課税よりも納税額を抑えられる場合があります。
飲食店の節税で失敗しないための注意点
節税はルールに則って行う必要があります。知識が不十分なまま対策を進めると、かえって追徴課税などのペナルティを受けることにもなりかねません。ここでは、税務調査で指摘されやすい点や、法人化のタイミングについて解説します。
税務調査でとくにチェックされやすい項目
税務調査では、とくに「売上の計上漏れ」と「経費の正当性」が厳しくチェックされる傾向にあります。現金商売である飲食店は、レジの締め作業後に売上の一部を抜くといった不正が起きやすいと見なされがちです。また、プライベートな飲食代を経費に混ぜていないか、家事按分の比率が妥当か、といった点も確認されます。
日頃から証拠となる書類(領収書、請求書、契約書など)を整理・保管し、誰が見ても説明できる状態にしておくことが何よりの対策といえるでしょう。
法人成り(法人化)を検討するべきタイミング
個人事業主が法人化を検討するタイミングは、一般的に課税所得が800万円〜900万円を超えると、検討の目安とされることがあります。個人の所得税は累進課税で所得が増えるほど税率が高くなりますが、法人税の税率はほぼ一定だからです。
また、消費税の納税義務が発生するタイミング(原則として、基準期間における課税売上高1,000万円超)で法人化し、新たに設立した法人として免税事業者の期間を再度活用するという考え方もあります。ただし、法人化には設立費用や社会保険の加入義務といった負担も生じるため、税金面以外のメリット・デメリットも総合的に判断することが大切です。
信頼できる税理士に相談する良さ
節税対策には専門的な知識が求められます。自力で情報収集することも大切ですが、最新の税制や特例をすべて把握し、最適な方法を選択するのは簡単ではないかもしれません。
判断を誤れば、ペナルティを課されるリスクもあります。飲食業界に詳しく、親身に相談に乗ってくれる税理士をパートナーにすることで、安心して本業に集中できるだけでなく、経営全般に関する有益なアドバイスを得ることもできるでしょう。
飲食店の節税は事業形態に合った制度と経費管理が重要
飲食店の節税対策は、個人事業主であれば青色申告や専従者給与、小規模企業共済の活用、家事按分などが有効です。法人の場合は、役員報酬や社宅制度、退職金、出張手当、赤字の繰越控除など、会社と個人のバランスを見ながら対策できます。
また、個人・法人の共通する方法として、少額減価償却資産の特例や消費税の簡易課税制度、廃棄ロスの処理などもあります。
税金制度のルールを守りつつ、証拠を整え、税理士と相談しながら進めることが、長く安定した飲食店経営につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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