- 作成日 : 2025年3月3日
飲食店を個人事業主として開業するメリットは?税金や確定申告について解説
飲食店は、個人事業主として開業する方法と法人として開業する方法があります。法人ではなく個人事業主で開業することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、飲食店を個人事業主で開業した場合に発生する税金や確定申告について紹介します。
目次
飲食店の開業は個人事業主と法人どちらがおすすめ?
飲食店の開業は個人事業主と法人のどちらでするべきなのでしょうか。飲食店を個人事業主として開業するメリットやデメリットについて紹介します。
個人事業主として開業するメリット
個人事業主として飲食店を開業するメリットは、会社設立時のように複雑な手続きが必要ないことです。法人を設立する場合、株式会社であっても合同会社であっても、定款の作成や法人設立のための登記などの手続きが必要です。設立登記の際には、登録免許税の負担もあります。
一方、個人事業主の開業は、法人のような登記の手続きを必要としません。税務署や開業する自治体に開業届を提出すれば開業したことになります。登録免許税のような負担も発生しません。
簡易な会計処理が認められているのも個人事業主で開業するメリットといえます。個人事業主の場合、個別の取引を記帳する方法以外に、日々の取引をまとめて記載する方法も認められています。税金の申告についても、法人ほど複雑な手続きは必要ありません。
個人事業主として開業するデメリット
飲食店を個人事業主として開業するデメリットは、売上が想定以上に出た場合に、税金面で不利になる可能性があることです。
個人事業主が納める税金には、所得税、住民税、個人事業税などがあります。このうち、所得金額に応じて税率が変動するのが、個人の所得に対して課税される所得税です。この仕組みを超過累進課税といい、所得税率は所得金額に応じて5%から45%まで段階的に上がっていきます。
一方、法人に課されるのは、法人税、法人住民税、法人事業税などです。法人の所得に対して課税される法人税は、税率が一定で、個人事業主の所得税のように所得に応じて税率が段階的に上がっていくことはありません。
例えば、株式会社などの普通法人の場合、法人税率は原則として23.2%(中小法人については、平成24年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始する各事業年度分の年800万円以下の所得金額の部分については、税率が15%に軽減されています)となっています。
以上のように、個人事業主と法人では税金の種類や仕組みが異なることから、所得金額(売上から経費を差し引いた金額)によって、個人事業主が不利になることがあります。
例えば、所得税と法人税で比較すると、所得税の税率が法人税を超えてしまうような場合です。所得税は、課税所得金額が900万円を超えると、その超える部分から1,800万円までの課税所得金額については33%の税率が適用されます。
なお、開業直後は年間の売上が想定できないため、個人事業主として飲食店を開業するのが一般的です。ただし、個人事業主は税金面で不利になってしまうこともあります。事業が軌道に乗り、売上や利益が十分に得られるようになった段階で法人化を検討するのがおすすめです。
飲食店を経営する個人事業主にかかる税金
個人事業主が飲食店を経営する場合にかかる可能性がある税金について解説します。
所得税
所得税とは、個人の所得にかかる税金のことです。
所得税の計算上、所得の種類は10種類あります。各種所得について、収入金額から必要経費を差し引いたものが所得金額です。
所得金額から個人の事情などを考慮した所得控除などを差し引いた課税所得金額に対して、所得税額を計算します。
基本的に課税所得がある場合に個人にかかる税金のため飲食店経営が赤字になっているなど、課税所得が発生しない場合には所得税は課税されません。
住民税
住民税は、個人の所得に対して課される税金です。所得税が国税であるのに対して、住民税は地方税である点が異なります。
都道府県民税と市町村民税から構成される税金で、教育や福祉、救急などの地方自治体の公的サービスをまかなうために設けられている税金です。
なお、住民税は法人にも課される税金で、法人に課される税金を法人住民税、個人に課されるものを個人住民税といいます。
個人事業税
個人事業税は、地方税の一種です。法定で定められた70の業種(ほとんどの業種が該当)を営む個人の前年中の事業所得に対して課される税金です。
個人事業税には事業主控除のほか、事業専従者控除や被災事業用資産の損失の繰越控除などが認められています。事業主控除は、事業を12カ月行なった場合は290万円です。
そのため、事業所得が290万円(月数が1年に満たない場合は月割りで計算した金額を事業主控除の限度額とする)を下回る個人事業主については、法定業種に該当する場合であっても、個人事業税は発生しません。
消費税
消費税とは、消費に対して広く課税されている税金です。
消費税の負担者は消費者で、納税者は事業者であり、納税者と事業者が異なることから、間接税に分類されます。事業者のうち、消費税の判定にかかわる基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者については、免税事業者となり、消費税の納付が免除されます。
ただし、免税事業者に該当する場合であっても、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けている場合は、消費税の納税義務は免除されません。
印紙税
印紙税とは、第1号文書から第20号文書に該当する文書に対して課税される税金です。
印紙税の対象になるのは経済取引にかかわる書類で、代表的なものに、不動産売買契約書、請負契約書、金銭借用証書、売上代金の領収書などがあります。
該当する文書を紙で発行する場合には、規定の印紙税額を満たす収入印紙を文書に貼り付けて発行する必要があります。
固定資産税
固定資産税とは、地方税の一種で、毎年1月1日時点において、土地や家屋、償却資産を有する個人に課される税金です。
土地には畑や住宅地、山林などが含まれます。家屋には住宅や工場、償却資産には事業用に所有する構築物や備品などが含まれます。
事業用の店舗がある場合や、事業用の機械や車両などを有している場合に納税が必要です。
飲食店を経営する個人事業主ができる節税対策
所得税の申告時に、白色申告と青色申告が選択できます。白色申告は誰でも選択できる方法で、青色申告は申告をする年の3月15日まで(1月16日以後に新規開業した場合は開業から2カ月以内)に青色申告の申請書を税務署に提出した場合に選択できる方法です。
青色申告の特徴は、個人事業主にとってメリットのあるさまざまな特典を利用できることです。代表的な特典に、青色申告特別控除や青色事業者専従者給与、純損失の繰り越しと繰り戻しがあります。
青色申告特別控除は、複式簿記により記帳した帳簿に基づき作成した貸借対照表や損益計算書を確定申告書に添付し、かつ提出期限(原則は翌年の3月15日)までに申告を済ませた場合に適用できる制度です。
最大55万円(電子帳簿保存または電子申告をする場合は65万円)の青色申告特別控除を受けることができ、事業所得、不動産所得、山林所得(山林所得の場合は控除できる最高額は10万円)から青色申告特別控除の額を差し引くことができます。課税対象となる所得金額が減ることで、所得税額を減額できる特典です。
青色事業専従者給与とは、生計を一にする15歳以上の親族や配偶者が専ら事業に従事している場合に、労務の対価として適正な金額を給与と認める特典です。白色申告は控除できる金額が定められていますが、青色申告は適正な範囲内であればある程度経費として認められるため、事業規模に応じた給与を必要経費に計上しやすいメリットがあります。
純損失の繰り越しと繰り戻しとは、事業で生じた赤字を翌年以降の所得税の計算に適用できる制度です。青色申告を選択すれば、翌年以降3年にわたり翌年以降の所得金額と損失額を相殺できます。繰り戻しは、事業で赤字が出た場合に、過去1年に限り遡り、すでに納めた所得税の還付を請求できる制度です。
個人事業主が飲食店を経営する場合の節税対策には、共済制度を利用する方法もあります。代表的なのが「小規模企業共済」です。
個人事業主の退職金のような制度で、事業を廃止した場合などに掛金に応じた金額を受け取ることができます。飲食店であれば「食品営業賠償共済」にも加入できます。飲食店で発生した事故に対する共済制度です。共済に払い込む掛金については、全額を所得控除の一種である「小規模企業共済等掛金控除」の対象にできます。万が一の事態や将来の生活に備えつつ、所得税の節税対策にもなる方法です。
飲食店を経営する個人事業主が経費計上できるもの
飲食店を経営する個人事業主が経費計上できる主な項目は以下の通りです。
勘定科目 | 説明 |
---|---|
仕入 | 飲食店で料理を提供するための食材や飲料など |
地代家賃 | 貸店舗を利用している場合の家賃代など |
水道光熱費 | 飲食店を経営するために必要な電気代、水道代、ガス代など |
給与賃金 | 雇用する従業員に対する給料や賞与(生計を一にする配偶者や親族に対する給与を除く) |
通信費 | 店舗用に設置している固定電話の料金やインターネット接続料 |
広告宣伝費 | Web広告を掲載するための料金や陳列装飾の費用など |
損害保険料 | 店舗として使用している物件の火災保険料など |
消耗品費 | わりばしやおしぼり、ストロー、持ち帰り用のトレイなど |
個人事業主の経費については。こちらの記事で詳しく解説しています。
飲食店を経営する個人事業主の確定申告
所得税の確定申告は、個人が年間の所得金額や所得税を申告するためのものです。飲食店経営で利益が発生していて、申告すべき事業所得などがある場合は、確定申告が必要です(赤字経営で年間の所得がない場合は確定申告を必要としないこともあります)。
確定申告のやり方や流れについてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
青色申告と白色申告どちらがおすすめ?
確定申告の方法には、青色申告と白色申告があります。個人事業主の節税対策でも紹介したように、節税を意識するなら、青色申告特別控除や青色事業専従者給与などの特典がある青色申告がおすすめです。
一方、白色申告は飲食店経営による所得が多くなく、経理の知識に不安がある場合などに選択肢として考えられる方法です。青色申告は複式簿記がベースになっているのに対し、白色申告は日々の取引の合計額をまとめて記載できる簡易的な記帳も認められています。
飲食店を営む個人事業主が利用できる助成金・補助金
飲食店経営者に特化した国の助成金や補助金はありません。しかし、個人事業主が利用できるものにはさまざまなタイプがあります。以下の表は、個人事業主が利用できる主な助成金や補助金です。
補助金・助成金の名称 | 概要 |
---|---|
IT導入補助金 | 小規模事業者や中小企業の労働生産性の向上に資するソフトウェア購入費やクラウドサービス利用料の一部を支援する補助金。 |
ものづくり補助金 | 働き方改革やインボイス導入などの制度変更に対応する小規模事業者や中小企業の試作品開発などのための設備投資を支援する補助金。正式名称は、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金。 |
小規模事業者持続化補助金 | インボイス導入などの制度変更に対応する小規模事業者の販路開拓などの取り組みに必要な経費の一部を支援する補助金。 |
雇用調整助成金 | 経済上の理由で事業規模を縮小した事業主を対象に、雇用の維持のための休業や教育訓練などの一時的な雇用調整を行なった場合の費用を支援する助成金。 |
特定求職者雇用開発助成金 | 高齢者やひとり親、十分なキャリア形成が難しかった就職氷河期世代など、就職困難者を雇用する事業者を支援する助成金。 |
飲食店の開業が初めてなら個人事業主がおすすめ
飲食店を開業する方法として、個人事業主として開業する方法と会社を設立して法人として開業する方法が考えられます。個人と法人は、かかる税金の種類などが異なることから、初めは個人事業主で開業して、売上や利益がある程度得られるようになった段階で法人化を検討するのが一般的です。飲食店開業にともない、個人の確定申告についても確認しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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