• 更新日 : 2022年2月15日

社労士が年末調整を行うのは違反?社労士と税理士の業務範囲を解説!

企業の人事労務担当者にとって相談しやすい専門家は、税理士と社労士ではないでしょうか。しかし、社労士と税理士とでは、専門家として行える業務範囲が異なります。

毎年年末に行う重要な業務に年末調整があります。年末調整の業務を依頼するのは、税理士と社会保険労務のどちらにすべきかについて、その業務範囲の違いから解説します。

社労士に年末調整を依頼するのは違法?税理士なら問題ない?

税理士も社労士も難しい試験に合格して国家資格を取得した専門家です。両者とも毎月の給与計算業務を企業がアウトソーシングにより依頼することは多いでしょう。年末調整業務を社労士へ依頼することが違法となることがあるのでしょうか。

年末調整を社労士が行うのは違法といわれることがあります。これは、年末調整が、毎月の給料から源泉徴収されていた所得税の合計額と、12月にその年1年間の正確に計算して確定した所得税との差額を精算する手続であり、税金に関する業務は税理士の業務範囲となるかだからです。源泉徴収票についても、所得税法で作成することが義務付けられています。したがって、 所得税法に関する業務である年末調整を税理士に依頼することは、なにも問題ありません。

税理士や税理士法人ではない者が税理士業務を行うことはできません。税理士業務とは、有償無償にかかわらず、依頼されて税務書類の作成や税務相談などの業務を反復継続して行うことです。税理士ではない者が税理士業務を行った場合には、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」といった厳しい罰則が科せられる可能性があります。

税務書類の作成には、単なる代筆は含まれません。また、反復継続とは、たとえ1回であっても反復継続して行う意思があれば、該当します。

税理士業務に含まれる内容の範囲は、以下の通りです。

【税理士業務範囲】

  • ①税務代理(法第2条第1項第1号
  • 税務官公署に対する申告等につき、又はその申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次の②にとどまるものを除きます。)をいいます。

  • ②税務書類の作成(法第2条第1項第2号)
  • 税務官公署に対する申告等に係る申告書等を作成することをいいます。

  • ③税務相談(法第2条第1項3号)
  • 税務官公署に対する申告等、法第2条第1項第1号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法第2条第6号イからヘまでに掲げる事項及び地方税に係るこれらに相当するものをいいます。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。

引用:非税理士により行うことが禁止される税理士業務|国税庁

年末調整に関する問題は、日本税理士会連合会と全国社会保険労務士会連合会においても協議が行われています。この中で、「年末調整事務の過程における税務判断を必要とする事務」は、税理士業務の範囲であることが確認されています。

参考:日本税理士会連合会との「年末調整に係る計算事務に関する考え方について」の協議について|全国社会保険労務士会連合会

年末調整に必要となる源泉徴収票の作成は、所得税法226条に定められた業務です。社労士が年末調整を行って源泉徴収票を作成するようなことがあれば、違法となる可能性があります。ただし、年末調整に必要な給料を計算することや健康保険料・厚生年金保険料などを確定する事務は、社労士が行っても問題ありません。

年末調整に関して社労士が担当できる業務範囲は?

年末調整は、源泉徴収されていた所得税の合計額と1年間の確定した所得税額を清算する手続きです。所得税額を確定するには、毎月の給与計算が正しく行われていなければなりません。

年末調整の業務上、税務判断が必要となるケースは多いでしょう。税務判断が必要な事務を社労士が行えば、違法行為となります。しかし、毎月の給与計算を社労士が行うケースが多いのが現状です。年末調整に関して社労士が行うことができる業務について見ていきましょう。

算定基礎届・労働保険に関わる書類・月額変更届の提出

社労士の行う業務は、以下のような業務です。

  • 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
  • 申請書等の提出代行
  • 申請等についての事務代理
  • 個別労働関係紛争解決促進法に基づき都道府県労働局が行うあっせん手続の代理
  • 個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせん手続の代理
  • 障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法並びにパート労働法に基づき都道府県労働局が行う調停手続の代理
  • 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
  • 労務管理その他労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導
  • 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすること。

引用:社会保険労務士の行う業務|厚生労働省

このうち(1)~(3)の業務については、社労士や社会保険労務法人以外の者が依頼されたとしても、報酬を得て反復継続的に行うことはできません。そして、(4)~(7)の業務は、労使の紛争やトラブルを解決するための紛争解決手続代理業務が行える特別な試験に合格した特定社会保険労務士などにしか行えない業務です。

以上のことから、雇用保険、健康保険や厚生年金保険など社会保険に関する申請書類や帳簿書類の作成とその提出などに関することは社労士にしか行えない業務となります。また、毎月の給与計算に関する事務は、資格を必要とする業務ではないため、税理士でなくてもできることになっています。

年末調整では、1年間で支払った雇用保険や健康保険、厚生年金保険などの社会保険の保険料を正確に計算する必要があります。特に社会保険料は、保険料を計算する基となる算定基礎届や月額変更届の手続きが必要です。算定基礎届や月額変更届により社会保険料が変更される月も法律で決められています。社会保険料の変更ルールを理解した上で、毎月の給料の金額を正確に計算していなければ、年末調整はできません。算定基礎届や月額変更届の提出を忘れると後々給料の変更が必要になるため、注意しましょう。

雇用保険の保険料は、業種によって保険料率が異なります。また、保険料率は毎年見直しが行われるため、最新の情報を入手し、適正に保険料を計算しなければなりません。

年末調整をするにあたって、社労士が、算定基礎届や月額変更届、労働保険に関わる書類をチェックし、社会保険料控除を正しく計算することは問題ないでしょう。

給料や社会保険料の算定

毎月の給与計算のアウトソーシングは、特に資格が必要となる業務ではないため、税理士にも社労士にもできる業務です。

給与計算は労務管理と密接な関わりがあります。特に勤怠状況に関する労働時間や時間外手当を適切に給料に反映させる必要があり、企業が給与計算を社労士に依頼するケースが多いのは、給与計算が社労士の専門的な知識を必要とする業務だからです。

また、給与計算は所得税などの税金の計算が伴います。企業にとって日頃から税務に関する相談ができることは重要です。給与計算に関する業務は、税金、雇用保険、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に密接な関わりがある業務であり、税理士、社労士の両者ともに担当することができます。年末調整は社会保険料控除の金額が税金に影響するため、年末調整に必要な給料や社会保険料の算定を社労士が行っても問題ないでしょう。

税理士や社労士に給与計算アウトソーシングを依頼する企業も多いでしょう。近年、業務の効率化、経費削減、営業部門への人材の投入による業績拡大などを目的に、これまで経理や総務で行っていた業務を他社へ委託するケースが増えています。企業の毎月の給与計算や年末調整などを企業の代わりに処理するサービスを給与計算代行、給与計算アウトソーシングなどと呼びます。

給与計算代行、給与計算アウトソーシングについて詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてください。

年末調整に関して税理士が担当できる業務範囲は?

年末調整に必要な給与計算や社会保険料の算定にあたっては社労士が行っても問題ありません。しかし、税務判断が必要となるケースが多いため、年末調整は税理士に依頼するケースが多いでしょう。ここでは、年末調整に関して税理士が行える業務について見ていきましょう。

源泉徴収票の作成と提出および法定調書等の提出

雇用保険、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に関しては社労士の業務となりますが、源泉徴収票の作成と提出、年末調整に伴う法定調書の提出は、税理士業務に該当するため、税理士が行う必要があります。

年末調整に必要な書類は11月上旬から準備しましょう。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」、「給与所得者の保険料控除申告書」などの書類を従業員に記載してもらいますが、これらは所得税を計算する上で必要となる書類であり、税理士に正しく作成されているかチェックしてもらうと安心です。

所得税は上記の年末調整に必要な書類を基に計算し、最終的に所得税額が確定したら、過不足を清算し、源泉徴収票を作成します。そして、給与所得に関する源泉徴収票を作成したら、翌年1月31日までに税務署長への提出が必要になります。源泉徴収票など法定調書を提出する際には、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の作成・添付が必要となり、同時に「給与支払報告書(個人別明細書)」や「給与支払い報告書(総括表)」をそれぞれ従業員が住んでいる市区町村に提出しなければなりません。

もしも年末調整の計算を間違えて税務調査などで指摘された場合には、企業は税理士に立ち会ってもらうのが一番確実です。各種税務相談についても税理士にしかできないことを踏まえると、源泉徴収票の作成と提出および法定調書等の提出は、税理士に依頼するのが適しています。

年末調整を社外の人に依頼する場合の注意点

アウトソーシングの対象は、給与計算、年末調整、記帳、納税、請求書発行など、さまざまな分野に及びます。しかし、税理士、社労士共に独占業務と呼ばれる資格がなければできない専門業務があります。年末調整や雇用調整助成金の手続きなど、社外にアウトソーシングする場合はどのような注意点があるのでしょうか?

アウトソーシングをする場合の注意点

税理士業務の範囲で示したように、税理士や税理士法人ではない者が税理士業務を行うことはできません。アウトソーシングの企業が税理士法人でないと税務相談もできないことになりますので、注意しましょう。

また、雇用保険、健康保険や厚生年金保険など社会保険に関する申請書類や帳簿書類の作成とその提出は、社労士か社会保険労務士法人にしかできません。無資格の業者に労働保険や社会保険に関する手続きを依頼することはできないことに注意しましょう。

雇用関係助成金の申請について

新型コロナウイルスの影響により、休業をする企業が多く発生しています。雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動を縮小し、休業や教育訓練、出向を実施した場合に、国が支援する制度です。企業が従業員の雇用維持を図ることができるように、休業手当や教育訓練、出向に要する費用の一部を国が補助します。

雇用調整助成金の申請書の作成と提出については、労働社会保険諸法令に基づく申請書に該当するため社労士にしかできない業務となります。しかし、助成金の申請をするにあたって、売上の減少を疎明する資料が必要となるため、税理士の協力も必要です。

雇用関係助成金の申請については、社労士と税理士のどちらも内容として関わるため、両者の連携が必要となります。給与計算や年末調整についても同様のことがいえますが、企業にとって士業は、経営のアドバイスが受けられる貴重な専門家です。税理士、社労士共に連携できる関係を築くことで、企業は多くの有益なアドバイスが受けられるのです。

参考:雇用調整助成金(新型コロナ特例)|厚生労働省

年末調整に関して社労士と税理士の業務範囲を理解し、適切に依頼しよう

税理士も社労士も法律で業務の範囲が定められています。税理士や税理士法人ではない者は税理士業務を行うことはできません。同じように、社労士や社労士法人ではない者は、労働保険や社会保険に関する申請書類や帳簿書類の作成・提出などの業務を行うことはできません。

年末調整をするにあたって、社労士が算定基礎届や月額変更届、労働保険に関わる書類をチェックし、社会保険料控除を正しく計算することは問題ありません。しかし、源泉徴収票やそれに伴う法定調書の作成・提出については、税理士が行う必要があります。

給与計算については資格を必要とする業務ではないため、税理士、社労士のどちらが行っても問題ありません。しかし、業務の効率化、経費削減などを目的にこれまで経理や総務で行っていた業務を税理士や社労士の資格のない業者へ委託することもあるでしょう。この場合には、無資格の業者に税理士業務や労働保険、社会保険に関する手続きを依頼することがないように注意しましょう。

企業にとって士業は、経営のアドバイスが受けられる貴重な専門家です。自社と契約している税理士、社労士が共に連携する関係になれば、企業は多くの有益なアドバイスが受けられるでしょう。

よくある質問

年末調整を社労士の方に依頼しても問題ないですか?

税理士業務である税務書類の作成や税務相談に該当しなければ、社労士が社会保険や労働保険に関わる書類をチェックし、給与や社会保険料を算定し、適切に計算することは問題ありません。詳しくはこちらをご覧ください。

年末調整をアウトソーシングする場合、誰に依頼すればよいですか?

税金、社会保険の両者に関わりがある業務です。社労士が給与や社会保険料を算定することは問題ありませんが、源泉徴収票やそれに伴う法定調書の作成・提出は、税理士に依頼する必要があります。 詳しくはこちらをご覧ください。


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