- 更新日 : 2026年8月4日
社会保険料の定時決定と随時改定の違いは?適用条件・優先順位・手続き注意点を解説
定時決定は年1回の一斉見直し、随時改定は固定的賃金の変動時に都度行う標準報酬月額の改定手続きです。
- 定時決定は毎年7月、4〜6月給与が基準
- 随時改定は2等級以上の変動が適用条件
- 7〜9月に重なる場合は随時改定が優先
Q. 随時改定が適用される3つの条件は?
A. ①固定的賃金の変動、②変動後3か月の平均で2等級以上の変動、③3か月とも支払基礎日数17日以上、の全てを満たす場合です。
社会保険料の算定基準となる標準報酬月額は、主に定時決定と随時改定という2つの手続きによって見直されます。年に1回の定時決定と、給与変動時に都度行う随時改定(月額変更)はそれぞれ目的・時期・条件が異なるため、両者の違いを正しく理解しておくことが担当者の実務に直結します。本記事では、制度の概要から適用条件、手続きが重複した際の優先順位、注意点までを体系的に解説します。
定時決定と随時改定とは?標準報酬月額との関係
社会保険料は従業員の給与水準に応じて変動しますが、毎月の実際の給与をそのまま保険料計算に使うのではなく、「標準報酬月額」という基準額が用いられます。この標準報酬月額を見直す手続きが、定時決定と随時改定です。
社会保険料の算定基準「標準報酬月額」
標準報酬月額とは、健康保険・厚生年金保険の保険料を計算するための基準額のことです。原則として毎年4〜6月に支払われた報酬の平均額をもとに等級表へ当てはめて決定されます。
健康保険は1等級(58,000円)から50等級(1,390,000円)、厚生年金保険は1等級(88,000円)から32等級(650,000円)の範囲で区分されています。給与水準が上がるほど高い等級に分類され、保険料も高くなる仕組みです。標準報酬月額は従業員本人と企業の双方が負担する保険料額に直接影響するため、正確な算定が不可欠です。

参考:令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)|全国健康保険協会
標準報酬月額の対象範囲
標準報酬月額の報酬になるもの・報酬にならないものは、下記のとおりです。
| 項目 | 金銭(通貨)で支給されるもの | 現物で支給されるもの |
|---|---|---|
| 報酬になるもの | 基本給(月給・週給・日給等)、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、扶養手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金、年4回以上の賞与 | 通勤定期券、回数券、食事、食券、社宅、寮、被服(勤務服でないもの)、自社製品 |
| 報酬にならないもの | 大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年3回以下の賞与 | 制服、作業着(業務に要するもの)、見舞品、食事(本人の負担額が厚生労働大臣の定める額の2/3以上の場合) |
出典:算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和8年度)|日本年金機構
これらの区分は標準報酬月額の算定に大きく関わるため、各報酬項目が対象に該当するか正しく判断することが重要です。現物支給の通勤定期券や社宅は一定基準を満たす場合に報酬とみなされます。また、年4回以上支給される賞与は報酬に含まれますが、年3回以下の賞与は標準賞与額として別途扱われます。報酬の範囲の判断を誤ると保険料額に影響するため、社内での分類ルールを整備しておきましょう。
標準報酬月額の決定方法
標準報酬月額は、対象者の4・5・6月の3か月間に支払われた報酬の平均額をもとに、標準報酬月額表の等級に当てはめて決定されます。この期間、各月の支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)であることが条件です。
パートやアルバイトなど短時間就労者であっても、週の労働時間と労働日数が常勤社員のおおむね4分の3以上であれば、原則として通常の被保険者と同様の算定方法が適用されます。
【短時間就労者の場合】
| 支払基礎日数(4〜6月) | 決定方法 |
|---|---|
| 17日以上の月が1か月以上 | 該当する月の報酬平均額で決定 |
| すべて17日未満だが15日以上の月がある場合 | 15日以上の月の報酬平均額で決定 |
| 3か月すべて15日未満 | 従前の標準報酬月額を継続 |
【特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合】
| 支払基礎日数(4〜6月) | 決定方法 |
|---|---|
| 11日以上の月が1〜2か月 | 11日以上の月の報酬平均額で決定 |
| 3か月すべて11日未満 | 従前の標準報酬月額を継続 |
なお、特定適用事業所とは、短時間労働者を除く厚生年金保険の被保険者が1年間のうち6か月以上で50人を超えることが見込まれる事業所を指します。特定適用事業所に勤務する短時間労働者が対象となるのは、次の3つをすべて満たす場合です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生でないこと
定時決定とは年1回の標準報酬月額見直し手続き
定時決定とは、毎年1回、社会保険料の算定基準となる標準報酬月額を見直す手続きのことです。9月から翌年8月まで使用される標準報酬月額を決定するために、事業主は被保険者報酬月額算定基礎届(算定基礎届)を提出します。
対象となるのは4・5・6月に報酬の支払いがある従業員で、その3か月間の平均報酬額をもとに標準報酬月額が改定されます。定時決定は社会保険料の算出に直結するため、正確に行うことが求められます。なお、定時決定が実施される理由は、従業員の給与水準が昇給・降給等によって年々変動するため、実態に即した保険料負担を維持するためです。
随時改定(月額変更)とは給与変動時に行う見直し手続き
随時改定とは、従業員の給与が大きく変動した際に、年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額を変更する手続きです。月額変更届(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届)の提出によって行います。
昇給・降給・手当の変更などで固定的賃金に変動があり、3か月間の平均報酬額が2等級以上変動した場合に対象となります。定時決定との最大の違いは、発生タイミングが年間を通じて不定期である点です。実際の報酬変動に応じて随時対応する必要があるため、担当者が条件を日常的に把握しておくことが重要です。
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定時決定と随時改定の違いは?比較表で確認
定時決定と随時改定は、どちらも標準報酬月額を見直す手続きですが、実施時期・対象者・条件が大きく異なります。
| 項目 | 定時決定 | 随時改定 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 毎年7月(年1回) | 固定的賃金の変動があった際(随時) |
| 算定期間 | 4〜6月の3か月間 | 固定的賃金変動後の3か月間 |
| 対象者 | 7月1日時点の全被保険者 | 固定的賃金が変動し条件を満たす者 |
| 等級変動の条件 | なし(全員対象) | 2等級以上の変動が必要 |
| 適用開始 | 9月〜翌年8月 | 変動月から4か月目以降 |
| 提出書類 | 算定基礎届 | 月額変更届 |
定時決定は全被保険者を一斉に見直す手続きであるのに対し、随時改定は条件を満たした従業員個人に都度対応する点が大きな違いです。
定時決定と随時改定それぞれの適用条件・時期は?
定時決定の対象者と除外されるケース
定時決定は、毎年7月1日現在で在籍しているすべての被保険者および70歳以上被用者が対象です。正社員だけでなく、一定の労働条件を満たすアルバイトやパートも含まれます。育児休業・介護休業中や病気・けがによる休職中であっても、被保険者であれば原則として算定基礎届の提出が必要です。
ただし、次のいずれかに該当する場合は提出が不要です。
- 6月1日以降に資格取得した方
- 6月30日以前に退職した方
- 7月改定の月額変更届を提出する方
- 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った方
これらを事前に確認しておくことで、提出対象者の特定ミスを防ぐことができます。
随時改定の3つの適用条件
随時改定は、次の3つの条件をすべて満たす場合に月額変更届を提出して行います。
- 昇給または降給などにより、固定的賃金に変動があったこと
- 固定的賃金の変動月から3か月間に支給された報酬の平均額にもとづき、標準報酬月額を算定した場合に2等級以上の変動があったこと
- 3か月とも支払基礎日数が17日以上であること
3つの条件を同時に満たして初めて随時改定の対象となります。給与が上がっても支払基礎日数が不足していれば対象外になるなど、条件の複合的な判断が必要です。
随時改定の対象にならないケース
随時改定が適用されないケースを正しく理解しておくことで、不要な届出の防止につながります。
1つ目は、休職中で低額の休職給を受けている間に固定的賃金の変更があった場合です。休職給は、固定的賃金の変動を適切に反映していません。そのため、休職終了後、通常の給与支払いに戻った月以降3か月の平均によって、随時改定の対象か否かを判断します。
2つ目は、非固定的賃金の変動のみによって報酬平均が変わった場合です。たとえば、残業手当の減少により報酬平均が実質的に下がったようなケースは対象外です。賞与の支給や一時的な手当の増減なども対象にはなりません。固定的賃金が継続的に変動しているかどうかが判断のポイントです。また、固定的賃金が上がっても、非固定的賃金が減少し、結果として2等級以上下がる場合や、その逆の場合も随時改定の対象とはなりません。
随時改定が社会保険料に反映されるタイミング
随時改定が適用されると、固定的賃金が変動した月から起算して4か月目に標準報酬月額が変更されます。
実際の保険料は反映月の翌月に納付されるため、給与から天引きされるタイミングは企業の給与体系によって異なります。
- 翌月払いの場合:変動月を含め5か月目の給与で改定後の保険料が天引きされる
- 当月払いの場合:4か月目の給与で改定後の保険料が反映される
自社の給与支払いサイクルを把握した上で、従業員への案内や給与システムへの反映漏れに注意しましょう。
定時決定と随時改定が重なる場合はどちらが優先される?
定時決定は4〜6月の給与をもとに毎年実施されますが、随時改定は時期の制限なく発生するため、同じ4〜6月の期間中に随時改定の要件を満たすケースも生じます。
手続きが重なる場合、7月・8月・9月に随時改定の対象となる従業員については、随時改定で決定された標準報酬月額が優先されます。算定基礎届を提出済みであっても、随時改定後の標準報酬月額が最終的に適用されます。
具体的には、次のパターンが代表例です。
- 4月に固定的賃金が変動 → 7月から随時改定の新標準報酬月額が適用
- 5月に固定的賃金が変動 → 8月から随時改定の新標準報酬月額が適用
- 6月に固定的賃金が変動 → 9月から随時改定の新標準報酬月額が適用
この場合、算定基礎届は提出するものの、該当従業員の報酬月額欄には記入せず、備考欄の「月額変更予定」にチェックを入れる形で対応します。
参考:算定基礎届と月額変更届(7月・8月・9月改定分)では、どちらの標準報酬月額が優先されますか。|日本年金機構
定時決定・随時改定の手続きにおける注意点は?
よくあるミスと対策
定時決定や随時改定の実務では、4〜6月の給与データの集計ミス、提出漏れ、適用条件の誤認が生じやすい傾向があります。給与データの集計ミスは標準報酬月額の不適切な決定につながり、従業員の保険料負担に直接影響します。
チェックリストの活用、書類・データの事前確認、社内でのダブルチェック体制の整備が有効な対策です。また、4〜6月が残業の多い繁忙期に当たる場合、通常より標準報酬月額が高く算定される点にも留意が必要です。
提出方法の選び方
定時決定・随時改定の手続きは、次の方法で行えます。
- 電子申請
- 郵送
- 窓口提出
電子申請は処理が迅速で業務効率が高く、多くの企業にとって利便性が高い方法です。一方、デジタル環境が整っていない場合や書類の対面確認が必要な企業では、郵送や窓口提出の方が適しています。自社の業務フローや体制にあわせた方法を選びましょう。
手続きを怠ると罰則の対象になる可能性がある
社会保険手続きは法的義務であり、怠ると法律に基づく罰則が科される場合があります。
定時決定に関するリスクと対応策
定時決定に必要な算定基礎届は、毎年7月10日(健保組合では異なる場合あり)までに提出する義務があります。期限後も対応しないままでいると、年金事務所から催告状が届き、それでも対応しない場合は健康保険法・厚生年金保険法に基づき6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。長期間の未提出は年金事務所による立入調査につながることもあります。提出漏れが判明した際は速やかに算定基礎届を提出しましょう。
随時改定に関するリスクと対応策
月額変更届を提出しなかった場合も、健康保険法や厚生年金保険法により同様に6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が規定されています。ただし、月額変更届には算定基礎届のような明確な提出期限がないため、遅れてもすぐに提出すれば罰則が適用されるケースは少ないでしょう。届出を放置したまま年金事務所に指摘を受けるケースを避けるためにも、固定的賃金の変更があった際は速やかに随時改定の要否を確認し、速やかに手続きの準備を進めることが望ましいです。
定時決定と随時改定をスムーズに進めるポイントは?
事前に必要書類・データを準備しておく
定時決定では、算定基礎届の作成に向けて4〜6月分の給与データを正確に集計する必要があります。随時改定では、昇給・降給の履歴や手当の変更内容など、固定的賃金の変動を即座に把握できる体制の整備が大切です。変動を見逃さないために、賃金台帳や人事システムのデータ管理を日頃から整理しておきましょう。
スケジュール管理を徹底する
定時決定は、毎年7月10日までに算定基礎届の提出を完了させる必要があります。随時改定は、固定的賃金の変動が生じた時点から3か月分の給与データが揃い次第、速やかに月額変更届を提出します。特に7月は定時決定と随時改定が重なりやすく、処理件数が増えるタイミングです。社内でスケジュールを可視化し、担当者や確認フローを明確にしておくことで、期限超過や処理漏れを防げます。電子申請を利用する場合は、システムトラブルも想定して余裕をもったスケジュールを設定しましょう。
定時決定と随時改定は同時に手続きできる
定時決定と随時改定はそれぞれ異なる基準で標準報酬月額を決定するため、基本的には別々の手続きとして扱われます。ただし、算定基礎届の提出後に随時改定の要件を満たした場合は、随時改定を追加で行う必要があります。
7月に月額変更届を提出する場合は、6月分の給与支払い後に速やかに対応しなければなりません。月額変更届は算定基礎届と同時、またはそれより先に提出することが求められます。電子申請またはCD等の電子媒体で2つの手続きを同時に行う際は、別々にファイルを作成してください。
社会保険の随時改定や免除に関わる産休・育休手続きの実態
マネーフォワードは、従業員の産休・育休に関する実務に携わる担当者を対象に、手続きの負担に関する調査を実施しました。その結果、特に工数や判断の難しさを感じる手続きとして、最も多かったのは育児休業給付金の申請書類作成と提出で43.2%でした。これに次いで、社会保険料免除(産休・育休中)に関する手続きが42.3%でした。
復職後の標準報酬月額改定や免除手続きにおける課題
休業中の保険料免除や、その後の復職に伴う社会保険の手続きは、標準報酬月額の決定とも深く関わっています。実際に、復職後の短時間勤務に伴う社会保険変更等の手続きに工数がかかると回答した割合は21.8%でした。
復職後の基本給の変更や時短勤務への移行は、標準報酬月額が大きく変動し、随時改定(月額変更)に該当するケースがあります。これらの手続きの時期や条件を日頃から整理し、正確に対応することが求められます。
出典:マネーフォワード クラウド、特に工数がかかる、または判断が難しい業務【産休・育休に関する調査データ】(回答者:従業員の産休・育休に関する実務に関与している674名、集計期間:2026年3月実施)
定時決定と随時改定の違いを理解し、適切な社会保険手続きを実践しよう
定時決定と随時改定は、いずれも標準報酬月額を見直すための重要な社会保険制度です。定時決定は毎年7月に全被保険者を対象に一斉実施する手続きであり、随時改定は固定的賃金が変動した場合に随時行う保険料改定の手続きです。両者が7〜9月に重なる場合は随時改定が優先されます。制度の違いと適用条件を正しく把握し、スケジュール管理と書類準備を徹底してミスや届出漏れを防ぎましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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