• 更新日 : 2026年6月16日

海外赴任手当とは?相場・課税・決め方まで徹底解説

Point 海外赴任手当の相場や課税の扱いをどう判断する?

支給基準を明確にすれば、赴任者の不満や申告漏れを防げます

  • 中央値は役職ごとに大きく変わる
  • 居住者区分で税の扱いが分かれる
  • 購買力や物価を踏まえ金額を決める

手当がないと労務トラブルや離職を招くため、早めに規程を整えましょう。

海外赴任手当は、従業員を海外派遣する際の生活費や赴任に伴う負担を補うために支給する手当です。法律上の義務はありませんが、支給基準や課税・非課税の整理が曖昧だと、税務トラブルや赴任者の不満につながるおそれがあります。

本記事では、海外赴任手当の相場や課税の考え方、金額の決め方、給与計算上の注意点まで、実務に沿って解説します。

海外赴任手当とは?

海外赴任手当とは、海外へ派遣される従業員に対して企業が支給する金銭的な支援です。国内勤務と異なる生活環境や物価水準、家族帯同や単身赴任に伴う負担によって生じる経済的・精神的負担を軽減する役割があります。

海外赴任手当の代表例は、現地の物価を考慮する「購買力補償手当」、治安や衛生環境の違いによるストレスを補填する「ハードシップ手当」です。

企業が手当を支給すれば、従業員が赴任先でも安定して業務に専念できる環境を整えられます。

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海外赴任手当の相場はいくら?

海外赴任手当の相場は、企業や役職、赴任先によって異なります。

EY税理士法人の調査によると、海外赴任手当の中央値は部長クラスで16万5,000円、課長クラスで14万2,000円、一般スタッフで11万円です。また、支給基準については、「役職ごとに定額」が32%、「月収の一定割合」と「年収の一定割合」を合わせた割合が32%と報告されています。

同じ国や都市への赴任でも、企業規模や業種、給与体系によって金額は変わるため、相場はあくまで目安として確認しましょう。

海外赴任手当は課税される?

海外赴任手当は、支給の名目や内容によって課税・非課税の扱いが分かれます。判断を誤ると、源泉徴収漏れや修正申告、追徴課税につながるおそれがあるため、手当ごとの税務上の区分を正しく把握しておく必要があります。

非課税になるケース

海外赴任手当が非課税になる可能性があるのは、海外勤務に伴う負担を補う範囲にとどまる手当です。

たとえば、海外勤務では、物価や生活環境、為替差によって生活費が増加することも珍しくありません。国内勤務より利益を受けるとはいえない範囲の支給であれば、課税対象から外れる可能性があります。また、1年以上の予定で海外支店や子会社へ転勤する場合、日本の税法上は非居住者として扱われます。非居住者が国外勤務で得た給与には、原則として日本の所得税はかかりません。

赴任旅費や引越費用、赴任に必要な支度金なども、実費弁償の性質があり、通常必要な範囲であれば非課税となる場合があります。ただし、生活費の補助を超えるような高額な支給は、給与として課税されるおそれがあるため注意が必要です。

課税対象になるケース

海外赴任手当が課税対象となるのは、赴任期間が1年未満で日本の税法上の居住者に該当する場合です。居住者に対しては、海外勤務であっても国内勤務と同様に所得税が課せられます。

具体的には、渡航費や引越費用などの実費精算分を除き、基本給に上乗せして継続的に支給される手当は、給与としての性質を持つとみなされるのが一般的です。海外赴任手当の非課税扱いが認められない支給額は、原則として給与所得の一部として課税対象に含まれます。

海外赴任手当の支給金額の決め方

海外赴任手当の金額は、一律で決められるものではありません。赴任先の物価水準や治安状況、帯同家族の有無など、個別の事情によって妥当な水準が大きく変わるためです。社内で公平性を保つには、まず基準額を決める必要があります。

1. 基礎額を設定する

基礎額は、日本での基本給や手取り額を基準に設定します。代表的な例として、基礎額に対して、赴任先の物価指数や為替レートを反映させ、国内勤務と同等の購買力を維持できるように算出する「購買力補償方式」があります。

EY税理士法人の調査では、海外赴任者の給与体系で購買力補償方式を採用する企業は74%です。購買力補償方式を用いることで、日本での生活水準を担保したうえで、海外特有の負担を補填するための支給額を客観的に検討しやすくなります。

2. 地域差・家族構成差を反映する

地域差や家族構成差は、基礎額に上乗せする形で反映します。

地域差の調整には、ハードシップ手当の支給が代表的です。ハードシップとは、日本と比べて生活や勤務の負担が重い状態のことです。たとえば、物価や治安、医療、インフラ、生活利便性の低い地域では、地域へ赴任する際のリスクを数値化し、補填する目的で支給されます。

また、家族を帯同する場合は、家族帯同手当や子女教育費補助を個別に設定するのが一般的です。単身赴任で家族を日本に残す際は、二重生活の住居費や生活費を補う手当を設けるケースもあります。

3. 期間・役職ごとの差を調整する

支給金額は、赴任期間や役職の責任範囲に応じて最終的な調整を行います。

EY税理士法人の調査では、海外赴任手当の支給基準は「役職ごとに定額」が32%、「月収の一定割合」「年収の一定割合」が計32%です。経営層や管理職など、現地での責任が重くなるポジションほど手当を手厚く設定する傾向が見られます。

また、派遣期間による調整も必要です。数ヶ月の短期派遣では一時的な準備金として定額を支給し、年単位の長期駐在では現地の生活費補填として毎月支給するなど、実態に合わせた制度を設計します。条件を細分化しておくと、客観性と公平性を説明しやすくなります。

海外赴任手当の給与計算・税務処理のポイント

海外赴任手当の給与計算では、国内勤務とは異なる確認が必要になる場合があります。居住者・非居住者の区分によって、源泉徴収の扱いが変わるためです。また、赴任先の国で所得税が課される場合は、二重課税への対応も確認する必要があります。

処理漏れを防ぐためにも、給与計算や税務処理で押さえるべきポイントを整理しておきましょう。

手当の実態と源泉徴収先を確認する

手当の実態と源泉徴収先は、支給前に整理します。海外赴任手当が給与の一部なのか、赴任旅費や引越費用のような実費補償なのかで、課税処理が変わります。

また、日本法人と現地法人のどちらが手当を負担・支給するかも確認が必要です。赴任期間が1年以上で日本の税法上の非居住者となった従業員の海外勤務に対する給与は、国内源泉所得に該当しないため、原則として日本での源泉徴収は行いません。一方、国内勤務期間に対応する賞与は源泉徴収が必要です。

給与明細や給与計算システムでは、海外赴任手当・赴任旅費・国内勤務分賞与などに区分し、課税・非課税や源泉徴収の判断根拠を確認できる状態にしておきましょう。

海外赴任者の年末調整や源泉徴収については、関連記事をあわせてご覧ください。

海外側の課税関係とみなし税負担の処理を確認する

海外赴任では、日本側だけでなく、赴任先国における課税関係の確認も必要です。

日本で非課税となる手当でも、赴任先国の税法上は課税対象の所得とみなされる可能性があります。日本の口座で円建て支給を受けている場合でも、勤務地国での申告や納税義務が生じるケースもあるため注意が必要です。

また、両国間の税率差によって赴任者の手取り額が目減りするのを防ぐために、追加の税負担を会社側で補填する制度を設ける企業もあります。具体的には、あらかじめ決定した手取り額から逆算して本来の給与総額を導き出す「グロスアップ計算」を活用し、現地税を考慮した必要支給額を割り出します。

海外赴任手当がなしの企業の4つのリスク

海外赴任手当を設けずに赴任を命じる場合、企業は法務・労務・実務面のリスクを確認する必要があります。コスト削減の観点だけで判断すると、赴任者との認識のずれや、企業側の対応負担につながる場合があります。

1. 労働契約トラブルのリスクがある

海外赴任手当に関する規程が曖昧な場合、赴任条件をめぐる労働契約トラブルに発展するおそれがあります。給与や住居費、医療費、家族帯同費などの負担を事前に合意していないと、赴任後に「聞いていた条件と違う」と受け止められる可能性があります。

厚生労働省では、労働条件の変更には労使の合意が必要であり、一方的な不利益変更は原則として認められていません。

そのため、赴任前に負担範囲を整理し、海外赴任規程や個別の合意書に明記しておく必要があります。

労働契約については、関連記事をあわせてご覧ください。

2. 安全配慮義務違反のリスクがある

労働契約法第5条により、企業には従業員に対する安全配慮義務が課されています。海外赴任でも、赴任先の治安や医療事情に応じて、安全に働ける環境を整える配慮が必要です。

海外赴任手当が支給されない場合、赴任先の物価や住居費によっては、生活費の負担が重くなる可能性があります。会社が住居費や移動手段の補助を設けていない場合、赴任先によっては、安全面に配慮した住居や移動手段を選びにくくなります。

企業が赴任先の危険を把握していたにもかかわらず、必要な住居・医療・移動面の配慮を怠った場合、安全配慮義務違反を問われるおそれがあるため注意が必要です。

安全配慮義務については、関連記事をあわせてご覧ください。

3. 赴任者本人のモチベーション低下や離職につながる

海外赴任手当が支給されない場合、赴任先の物価や生活条件によっては、従業員の自己負担が重くなる可能性があります。とくに、現地の物価水準や、家族を帯同する際の教育費・住居費の増加分が考慮されないと、業務負担に見合った処遇ではないと受け止められるおそれがあります。

金銭的な不安や不公平感が残ると、日々の業務への意欲が下がりかねません。さらに、赴任の辞退や早期離職につながる可能性もあるでしょう。

4. 税務・社会保険対応の負担が増える

海外赴任手当を設けていない場合、現地で発生する費用を個別に精算する運用になる場合があります。その結果、住居費や保険料などの精算申請が上がるたびに、該当の支出が給与に該当するか、非課税扱いとなるかを毎回確認しなければなりません。

支給基準が明確に整理されていない状況下では、担当者間で税務判断のバラつきが生じるおそれがあります。EY税理士法人の調査でも、赴任者規程の見直しにおける課題として「税務リスクの低減」が挙げられています。

個別精算の常態化は、バックオフィスの運用負荷を高めるだけでなく、判断ミスによる税務トラブルを招く要因にもなり得ます。

海外赴任手当に関するよくある質問

海外赴任手当の制度設計や運用を進めるなかで、税務処理や法的な義務について判断に迷う場面は少なくありません。ここでは、寄せられることの多い疑問を取り上げ、それぞれ解説します。

海外赴任手当に消費税はかかりますか?

給与や生活費補助として支給する海外赴任手当は、原則として消費税の課税対象外です。海外赴任手当の性質が給与や生活費の補填とみなされるため、企業の消費税計算において課税仕入れには該当せず、仕入税額控除の対象にはなりません。

また、赴任に伴う渡航費や宿泊費などの実費支給についても同様の注意が必要です。国税庁によると、海外への転勤や出張のために支給する旅費は、原則として課税仕入れに該当しないと定められています。

海外赴任手当がない会社は違法になりますか?

海外赴任手当がないこと自体を違法とする法律はありません。ただし、就業規則や労働契約で支給する前提になっている手当を支払わない場合は、契約違反や不利益変更の問題が生じる可能性があります。

たとえば、海外赴任規程に住宅手当の支給が定められているにもかかわらず、企業側が一方的に不支給とする対応は法的な問題に発展する典型例です。規程がない場合でも、渡航費や現地生活費の負担範囲が曖昧なままだと、労使間のトラブルにつながりかねません。そのため、赴任前に、支給条件や会社負担の範囲を書面に明記しておく必要があります。


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