- 更新日 : 2025年3月17日
賞与にも雇用保険料はかかる!計算方法とかからないパターン・死亡退職の場合
正社員の方はもちろんパート・アルバイトであっても、企業に勤めていれば雇用保険料が徴収されます。
それは賞与についても変わりません。
この記事では賞与にかかる雇用保険料の計算方法や、例外的に雇用保険料がかからないパターンについて紹介していきます。
目次
賞与には雇用保険料がかかる
賞与は雇用保険料の対象であり、支給されるたびに雇用保険料がかかります。
賞与は月収とは別に会社から支払われ、年末手当・ボーナス・期末手当などがあり「労働保険料の算定基礎となる賃金」に含まれています。
賞与も含めて、雇用保険料の対象となる賃金は以下のとおりです。
また、以下のような賃金・雇用保険料その他社会保険料は、計算の対象に含まれないことも把握しておきましょう。
- 休業補償金
- 退職金
- 結婚祝金
- 死亡弔慰金
- 災害見舞金
- 増資記念品代
- 私傷病見舞金
- 解雇予告手当
- 年功慰労金
- 出張旅費 / 宿泊費等
- 制服の代金
- 会社が全額負担する生命保険の掛金
- 財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等
- 住宅の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)
いわゆる金一封など会社の任意による賞与や貸与しているものについては、雇用保険の徴収対象になりません。
あくまでも「労働に対する対価や義務的に支払われた賞与が徴収対象」です。
給与や賞与は労働基準法第24条で厳格にルールが定められており、同法内に『全額払いの原則』があります。
この原則により、賞与を含めた賃金は全額を支払わなければなりません。
しかし、以下のような場合には控除した状態で支払われることもあります。
- 法令に別段の定めがあるもの
所得税 / 社会保険料 / 雇用保険料の被保険者負担分 / 住民税等 - 労使協定が締結されている場合
社宅 / 寮等の費用 / 購入物品の代金 / 社内預金 / 組合費等
また、退職後に雇用保険の対象となったとしても、資格喪失日によっては社会保険や所得税の控除対象から外れるケースもあります。
参考:
労働保険料の算定基礎となる賃金早見表|厚生労働省神奈川労働局
労働条件・職場環境に関するルール|厚生労働省
令和6年度の雇用保険料率
次に賞与にかかる雇用保険料について解説をします。
雇用保険料率は厚生労働省により毎年見直しがされており、令和6年度の料率は下記のようになります。
▼一般事業の雇用保険料
▼農林水産・清酒製造事業の雇用保険料
雇用保険料=標準報酬月額×1.75%
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×1.05%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.7%
▼建設事業の雇用保険料
雇用保険料=標準報酬月額×1.85%
会社負担分の雇用保険料=標準報酬月額×1.15%
個人負担分の雇用保険料=標準報酬月額×0.7%
関連記事:「社会保険の標準報酬月額・標準賞与額とは?保険料を求める計算方法」
新年度の雇用保険料率は、基本的には4月1日から適用されますが、例外として年度の途中から料率が変わる場合もあります。
また、雇用保険料率は雇用保険の財政状況や、その時々の経済状況で料率が変わります。
直近では令和4年度(2022)から令和5年度(2023)にかけて、新型コロナウイルスの影響により、雇用調整助成金や失業給付の件数が増加したことで、雇用保険料の引き上げがおこなわれました。
また、令和5年度から令和6年度にかけては、雇用保険料の引き上げはされていません。
令和7年度については、雇用環境が改善傾向であることから、雇用保険料率は0.1%引き下げられる見込みです。
参考:
雇用保険料率0.1%引き下げ 25年度、厚労省部会で了承│ 日本経済新聞
賞与にかかる雇用保険料の計算方法
ここからは賞与にかかる各種保険料の計算方法を解説します。
雇用保険料は事業ごとに計算方法や負担額が異なる場合があり、令和6年時点での計算式は以下のとおりです。
賞与の額は100万円と仮定します。
一般事業 | 農林水産 清酒製造事業 | 建設事業 | |
---|---|---|---|
雇用保険料 | ¥15,500 (100万円 × 1.55%) | ¥17,500 (100万円 × 1.75%) | ¥18,500 (100万円 × 1.85%) |
会社負担額 | ¥9,500 (100万円 × 0.95%) | ¥10,500 (100万円 × 1.05%) | ¥11,500 (100万円 × 1.15%) |
労働者負担額 | ¥6,000 (100万円 × 0.6%) | ¥7,000 (100万円 × 0.7%) | ¥7,000 (100万円 × 0.7%) |
このように、雇用保険料が異なる農林水産業と建設業であっても、個人負担額は同額になります。
なお、農林水産関係であっても、以下の事業は一般事業に分類されるため注意しましょう。
- 園芸サービス業
- 牛馬育成業
- 酪農業
- 養鶏業
- 養豚業
- 内水面養殖 / 特定船員を雇用する事業
端数(小数点)の計算方法
雇用保険料の計算時には、1円未満の端数(小数点)が生じる場合が多く、計算方法を解説します。
基本的には「50銭以下は切り捨て。50銭1厘以上は切り上げ」が端数処理のルールになります。
▼計算例
|
ただし、稀なケースと思われますが、被保険者が事業主へ現金で雇用保険料を支払う場合は「50銭未満は切り捨て。50銭以上の場合は切り上げ」になります。
▼計算例
|
また、労使間で端数についての特約や慣習がある場合は、その取り決めに従って端数の計算をしても差し支えはありません。
【ケース別】賞与の雇用保険料がかかる場合・かからない場合
賞与には雇用保険料がかかる場合と、かからない場合があります。
ここでは3つのケース別で紹介していきます。
退職後の賞与にも雇用保険料はかかる
社員が退職したあとであっても、基本的には雇用保険料の徴収が必要です。
退職後なら徴収されないように思われるかもしれませんが、雇用保険料は就業期間の労働に支払われた賃金に対して発生します。
そのため、支給が退職後であっても、就業期間中の労働に対して支払われているのであれば雇用保険料がかかります。
亡くなった場合もかかる
万が一就業期間中に従業員が亡くなった場合、死亡退職後に支払われる賞与に対しても雇用保険料が発生します。
労働基準法においては、死亡した場合であっても通常の退職と同じ扱いになります。
そのため、「死亡日=退職日」として、死亡日までの業務で発生した給与・賞与に対して同様に保険料額を計算・控除されるのです。
なお、死亡すると社員本人の銀行口座は凍結されるため、賃金や賞与は相続人の口座に振り込まれることになります。
その際には、以下のように通常の賃金支給における保険料計算とは異なる点がいくつかあるため注意が必要です。
例として、月末締め翌月10日払い支給で9月1日に亡くなった場合、9月10日と10月10日に支給される給与および賞与は、相続財産となるため所得税が発生しません。
また、その年の年末調整は8月10日に支給された給与までを対象にして、還付金がある場合は相続人の口座に振り込まれます。
そして相続人はこれら以外にも『傷病手当金』『埋葬費』などを受け取れますが、要件を満たしていても相続人自身で書類を準備して役所に申請しなくてはなりません。
会社や役所から自動的に案内が届くわけではないため、死亡退職に携わる際はその後のお金の流れをよく確認しましょう。
参考:雇用保険事務手続きの手引き|ハローワーク(公共事業安定所)
産休中・育休中・介護休業中の場合はかからない
産休中・育休中・介護休業中は会社からの賃金の支払いがないため、雇用保険料は発生しません。
「出産手当金」は勤務先の健康保険から、「育児休業給付金」「介護休業給付金」は雇用保険からの支給になります。
そのため会社からの支払いにはあたらず、雇用保険料がかかりません。
参考:
育児休業 、産後パパ育休 や介護休業 をする方を経済的 に支援します│厚生労働省(P4)
賞与の支給時に注意したい手続き
賞与を支払う際には、支給額を決定したり、控除金額の計算以外にも書類の手続きが必要です。
手続きの中で注意したいポイントを解説します。
賞与支払届を提出する
賞与支払届は賞与を支給した際、社会保険の手続きとして管轄の年金事務所へ提出が必要になる書類です。
「被保険者賞与支払届」に必要事項を正確に記入し、賞与支給日から5日以内に提出しなければなりません。
「被保険者賞与支払届」は前もって登録した賞与支払予定月の前月に、日本年金機構から事業主に送られてきます。
賞与支払届について詳しくは、下記の関連記事を参考にしてみてください。
関連記事:「賞与支払届とは?記入例や手続きの流れをわかりやすく解説」
賞与明細書を渡す
事業主が従業員に賞与を支給する際は支給額や控除額、手取り金額などを明示した賞与明細書を渡さなければなりません。
この規則は所得税法第231条で事業主に義務付けられています。
賞与明細書の交付日についての規定はなく、支給日までに従業員へ渡す場合もあれば、賞与の支給当日に渡すこともあり、さまざまです。
各従業員が先々の収入の見通しを立てやすいように、前もって賞与明細書を渡しておけば親切だと言えます。
賞与明細書の作成方法は関連記事で解説しています。
関連記事:「賞与明細とは?無料テンプレート・作成方法|決算賞与明細とは?」
賞与にかかる他の税金
賞与には雇用保険料だけではなく、これらの社会保険料もかかります。
名前 | 目的 |
---|---|
健康保険料 | 医療費の負担軽減や死亡時の保障など |
介護保険料 | 介護保険制度を支えるため(※40歳から適用) |
厚生年金保険料 | 老後の年金受給や障害年金・遺族年金を支える |
所得税 | 国防や道路や橋の整備、教育・福祉などさまざま |
年収やその他条件で変動するものの、上記の社会保険料も含めて一般的に賞与からの控除額は総支給額の10%代後半から30%程度になります。
社会保険料については、下記の関連記事で詳しく解説しています。
関連記事:
「社会保険とは?種類や扶養・パートの加入条件、内訳も解説!」
「賞与・ボーナスにも社会保険料がかかる?計算方法も分かりやすく解説!」
雇用保険を正しく理解しましょう
賞与には雇用保険料がかかり、その料率は事業ごとに異なります。
雇用保険は社員の社会生活や、雇用の維持に欠かせない大切な労働保険です。
賞与をはじめ、何が雇用保険対象になるのか・ならないのかをしっかり把握して、適切に支払いましょう。
よくある質問
賞与に雇用保険料はかかりますか?
雇用保険は労働に対する賃金にかけられる保険で、賞与も該当するため雇用保険料が発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
退職後の賞与にも雇用保険料はかかりますか?
賞与は就労期間中の労働に対して支払われているため、退職日に関わらず雇用保険料は発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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