- 作成日 : 2026年8月12日
厚生年金保険の受給関係変更届とは?書き方・提出先・過払いリスクを解説
厚生年金保険の受給関係変更届(様式第20号)は、労災年金と厚生年金の併給調整のために労働基準監督署へ提出する届出です。
- 提出先は年金事務所ではなく労働基準監督署
- 受給開始・変更・支給停止のたびに届出が必要
- 未提出は過払い発生→一括返還リスクあり
Q. 口座変更にも受給関係変更届を使うの?
A. 口座変更には使いません。「年金たる保険給付の受給権者の住所・氏名・年金の払渡金融機関等変更届」を日本年金機構へ提出します。
厚生年金保険の受給関係変更届(様式第20号)は、労災年金と厚生年金の併給調整のために労働基準監督署へ提出する届出です。口座変更が目的の場合は別の届出が必要になるため、本記事では対象ケース・書き方・提出先・提出が遅れた場合のリスクまで整理して解説します。
厚生年金保険の受給関係変更届(様式第20号)とは?
受給関係変更届は、労災年金(労働者災害補償保険の年金給付)と厚生年金保険等の公的年金を同時に受給する場合に、併給調整を行うために提出する届出です。労働者災害補償保険法に基づき、労働基準監督署へ届け出ます。
正式名称は「労働者災害補償保険 厚生年金保険等の受給関係変更届」で、実務上は「様式第20号」と呼ばれます。
併給調整の仕組みを理解する
併給調整とは、労災年金と厚生年金の支給が同じ事由(業務上のケガや病気など)で重なる場合に、労災年金側を一定割合で減額する仕組みです。両方を満額支給すると給付が過剰になるため、労働者災害補償保険法15条2項・18条1項・別表第一の規定に基づき、労災年金に調整率を掛けて減額します。
厚生年金は全額支給されますが、労災年金には社会保険給付とのバランスを踏まえた調整率が適用されます。主な組み合わせは以下のとおりです。
| 労災年金の種類 | 併給される社会保険給付 | 調整率 |
|---|---|---|
| 障害補償年金 | 障害厚生年金 | 0.83 |
| 障害補償年金 | 障害基礎年金 | 0.88 |
| 遺族補償年金 | 遺族厚生年金 | 0.84 |
| 遺族補償年金 | 遺族基礎年金 | 0.88 |
届出によって正しい調整が始まる
受給関係変更届を提出すると、労働基準監督署が厚生年金の受給状況を把握し、正しい調整率で労災年金額を計算し直します。届出がなければ調整前の金額がそのまま支給され続け、後日返還を求められるリスクが生じます。
届出の様式は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。労災保険給付関係の主要様式がまとめて掲載されているため、様式第20号もあわせて確認しましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省
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受給関係変更届の提出が必要なケースは?
届出が必要になるのは、労災年金の受給者に厚生年金等の受給状況の変化があったときです。提出期限は法令上「遅滞なく」と定められており、変更が生じたら速やかに届け出る必要があります。
代表的なケースは以下のとおりです。
- 厚生年金(老齢・障害・遺族)を新たに受給し始めたとき
- 厚生年金の年金額が変更されたとき(変更通知書が届いたとき)
- 厚生年金が支給停止になったとき(在職老齢年金の停止など)
- 厚生年金が失権(受給権の消滅)したとき
見落としやすい「変更」のタイミングに注意する
新規受給は届出の意識が向きやすい一方で、見落とされやすいのが年金額の変更です。毎年の物価スライドや在職定時改定で厚生年金額がわずかに変わった場合でも届出が必要になります。
例えば、65歳以降も厚生年金に加入しながら働く方は、毎年10月に在職定時改定で年金額が見直されます。このとき日本年金機構から届く「変更通知書」が届出のトリガーになるため、通知書が届いたら速やかに受給関係変更届を提出しましょう。
在職老齢年金の支給停止も届出対象になる
給与等と年金の合計額が基準額を超えると、厚生年金の一部または全部が支給停止になります。支給停止により併給調整の前提が変わるため、この場合も受給関係変更届の提出が必要です。
在職老齢年金の支給停止基準額は2026年4月の年金制度改正により月額65万円に引き上げられました。基準額は毎年度、賃金・物価の変動に応じて変更されるため、最新の基準額は日本年金機構の案内で確認するのが確実です。支給停止が解除された場合(退職や給与の減少など)も同様に届出が求められます。つまり、厚生年金の受給状態が変わるたびに届出が発生すると覚えておくとよいでしょう。
受給関係変更届の書き方は?
様式第20号はOCR対応の帳票で、記入欄がやや独特なレイアウトになっています。手順をSTEPに分けて確認すると、記入ミスや差し戻しを防ぎやすくなります。
STEP1 届出事由を確認する
まずは自分がどの届出事由に該当するかを確認します。新規受給・変更・支給停止・失権のいずれかを事前に整理しておくと、様式への記入がスムーズになります。
STEP2 様式をダウンロードし記入で間違いやすい項目を押さえる
様式第20号は厚生労働省のウェブサイトから入手できます。記入にあたって特に注意したい項目は以下のとおりです。
- 労災保険の年金証書番号:労働基準監督署から交付された年金証書に記載されている番号を転記する
- 厚生年金の年金コード:年金証書や変更通知書に記載された4桁のコードを正確に記入する。老齢厚生年金や障害厚生年金など、年金の種類によってコードが異なる
- 届出の事由:支給開始、変更、支給停止など該当する事由にあわせて額や年月日を記入
- 添付する書類:変更の事実を証明することができる書類の名称を記入
年金コードの記入ミスは差し戻しの原因になりやすいため、年金証書や通知書の原本を手元に置いて転記しましょう。
STEP3 添付書類を準備する
届出の事由によって添付書類が異なります。主な添付書類は以下のとおりです。
| 届出事由 | 添付書類 |
|---|---|
| 新たに厚生年金を受給開始 | 厚生年金の年金証書の写し |
| 年金額変更された | 変更通知書の写し |
| 支給停止になった | 変更通知書の写し |
| 失権した | 失権を証明する書類の写し |
いずれの場合も写し(コピー)で問題なく、原本の提出は不要です。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省
STEP4 提出先へ提出する
提出先は、労災年金の支給決定を行った管轄の労働基準監督署です。年金事務所(日本年金機構)ではない点に注意しましょう。
提出方法は窓口への持参か郵送が一般的です。労災特別加入者を含め、個人が行う年金の受給関係に関する届出は、事業主向けの労働保険手続きとは異なる区分で扱われるため、電子申請(e-Gov)の対応可否は管轄の労基署に事前確認するとスムーズです。
受給関係変更届を怠るとどうなる?
届出が遅れると、併給調整が行われないまま労災年金が満額支給され続け、過払いが発生します。過払い分は後日まとめて返還を求められるため、金額によっては受給者の生活に大きな影響を及ぼしかねません。
過払いが発生する仕組みを把握する
併給調整は、受給関係変更届の提出をきっかけに適用されます。届出がない間は労働基準監督署側で厚生年金の受給状況を把握できないため、調整前の金額(満額)で労災年金が振り込まれ続けるのが実態です。
例えば、障害補償年金を年額200万円で受給していた方が厚生年金の受給も始めた場合、調整率0.83を適用すると年額166万円に減額されます。届出が1年遅れると、差額の約54万円が過払いとして積み上がる計算です。過払い額は次の式で表せます。
- 過払い額 =(調整前の労災年金額 − 調整後の労災年金額)× 届出遅延期間
一括返還を求められるケースがある
過払いが判明すると、労働局から返納通知書が届き、過払い分の一括返還を求められます。分割での返済が認められるケースもありますが、手続きの煩雑さは避けられません。
労務担当者としては、従業員が労災年金と厚生年金を併給しているかどうかを把握し、届出のタイミングを逃さないフォロー体制を整えておくことが望ましいでしょう。特に在職定時改定が行われる毎年10月前後や、退職・転職により在職老齢年金の支給停止状況が変わるタイミングは、社内チェックリストなどで確認漏れを防ぐ工夫が有効です。変更が生じたら速やかに届出を行うことが重要です。
口座変更が目的の場合、受給関係変更届は必要?
年金の受取口座を変更したい場合、この届出は該当しません。結論として、口座変更の手続きは「受給関係変更届」ではなく「年金たる保険給付の受給権者の住所・氏名・年金の払渡金融機関等変更届」です。
両者は届出の目的は異なりますが、提出先や届出者などは同一です。
参考:労災年金の振込口座を変更したい時は、どうしたらよいでしょうか。|厚生労働省
電子申請も可能
労災年金の受取口座変更は、e-Govによる電子申請も可能です。郵送や窓口に赴く手間が省けるため、利用可能な環境であれば、活用してください。原則として24時間365時間申請可能ですが、メンテナンス等で利用できない時間帯もあるため、あらかじめ確認しておくと手続きがスムーズに進みます。また、添付書類が電子ファイルで用意できない場合には、別途郵送が必要となる場合もあるため、併せて確認しておきましょう。
厚生年金保険の受給関係変更届に関するよくある質問
受給関係変更届に関して実務で寄せられやすい疑問をQ&A形式で整理します。
届出は会社と本人のどちらが出す?
届出義務者は、労災年金の受給者本人です。会社(事業主)には提出義務がありません。ただし、在職中の従業員が対象の場合、届出の必要性に気づいていないケースも珍しくないため、労務担当者による声かけが実務上役立ちます。
転職・退職時にも届出は必要?
転職や退職そのものは届出事由にはなりません。ただし、退職に伴って在職老齢年金の支給停止が解除され、厚生年金が満額支給に戻った場合は届出が必要です。
例えば、在職中は給与が高く厚生年金の一部が支給停止されていた方が退職すると、停止が解除されて年金額が増えます。この変化は併給調整にも影響するため、受給関係変更届を忘れずに提出しましょう。
国民年金(基礎年金)だけの場合も届出は必要?
併給調整の対象は厚生年金保険等の公的年金であり、国民年金(障害基礎年金・遺族基礎年金)のみを受給している場合も調整の対象に含まれます。「厚生年金保険等」の「等」には国民年金も含まれるためです。
したがって、労災年金の受給者が障害基礎年金や遺族基礎年金の受給を開始した場合にも、様式第20号の提出が求められます。厚生年金に加入していない自営業やフリーランスの方でも、労災保険の特別加入をしている場合は対象になり得るため注意が必要です。
届出後にどのくらいで調整が反映される?
一般的には届出受理後1〜2か月程度で反映されるケースが多いようですが、書類に不備があると差し戻しでさらに期間を要します。
調整が反映されるまでの間に発生した過払い分は、調整後の年金から差し引かれるか、別途返還手続きが行われます。不明点があれば管轄の労基署に問い合わせるのが確実です。
厚生年金保険の受給関係変更届の提出漏れを防ぐために
受給関係変更届(様式第20号)は、労災年金と厚生年金の併給調整を正しく行うための届出です。提出が遅れると調整前の金額が支給され続け、過払い分の一括返還を求められるリスクがあります。厚生年金の受給開始・変更・支給停止など受給状態が変わるたびに、管轄の労働基準監督署へ速やかに届け出ましょう。様式第20号は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードでき、届出の要否に迷う場合は管轄の労働基準監督署に問い合わせるとスムーズです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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