• 更新日 : 2025年3月3日

月額変更届とは?随時改定で標準報酬月額が変更されるタイミングは?

健康保険や厚生年金保険の保険料は、給与に応じて区分した標準報酬月額によって決まります。標準報酬月額の決定方法には、資格取得時決定、定時決定、随時改定の3つがありますが、なかでも忘れやすいのが随時改定の手続きです。

随時改定に関する基礎知識とともに、標準報酬月額が変更されるタイミングについて確認していきましょう。

月額変更届とは?

月額変更届(げつがくへんこうとどけ)とは、従業員の給与額が大きく変動した場合に、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の計算の基礎となる「標準報酬月額」を改定するための手続きです。

月額変更届の正式名称は、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」です。

標準報酬月額とは

  • 社会保険料や保険給付額を計算するために、従業員の毎月の給与を一定の範囲ごとに区分したものです。
  • 毎年4月から6月の給与を基に決定される「定時決定(算定基礎届)」によって、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決定されます。

月額変更届が必要な場合(随時改定)

定時決定で決定された標準報酬月額と実際の給与額に大きな乖離が生じた場合に、実態に合った社会保険料を算定するために、標準報酬月額を改定する必要があります。具体的には、以下の3つの条件をすべて満たす場合に、月額変更届の提出が必要です。

  1. 昇給または降給などにより、固定的賃金に変動があったこと。
  2. 固定的賃金の変動月から3カ月間に支給された報酬の平均額に基づき、標準報酬月額を算定した場合に2等級以上の変動があったこと。
  3. 3カ月とも支払基礎日数が17日以上であること。

標準報酬月額が変更される時期やタイミング

標準報酬月が変更されるタイミングは、以下の3つです。

標準報酬月が変更されるタイミング
  • 定時決定
  • 随時改定
  • 産前産後休業・育児休業の終了

このうち定時決定は年1回、一斉に行われますが、ほかの2つは給与の変更など所定の条件を満たした場合に随時行われます。それぞれ変更が行われる時期と、必要な届出について解説します。

定時決定による変更(年1回)

定時決定による標準報酬月額の変更は、毎年1回、一斉に行われます。

変更時期毎年9月
変更後の標準報酬月額が適用される期間毎年9月から翌年8月まで
必要な届出算定基礎届
(電子媒体申請の場合)電子媒体届書総括票
(年間報酬の平均で算定する場合)申立書、同意書
届出方法電子申請、電子媒体(CDまたはDVD)、郵送、窓口持参
届出期限毎年7月10日

原則として、届出は算定基礎届のみで問題ありません。ただCDやDVDを用いて申請を行う場合は、電子媒体届書総括票の添付が必要です。

また定時決定は4月から6月に受けた報酬の平均を用いますが、一時帰休などの理由でこの時期の報酬を算定元として用いることが適切でない場合は、年間報酬の平均を用います。その際は、年間報酬の平均を用いることの申立書と、従業員の同意書を添付して提出します。

社会保険料の定時決定の詳細は、以下の記事をご参照ください。

参考:定時決定(算定基礎届)|日本年金機構

随時改定(随時変更)

随時改定は、昇給や昇格、給与規定の改定などによって固定的な給与に大きな変更があったタイミングで定時決定を待たずに行われます。

時期変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目
変更後の標準報酬月額が適用される期間変更のあった年の8月まで
(改定が7月以降)翌年の8月まで
必要な届出月額変更届
(年間報酬の平均で算定する場合)申立書、同意書
届出方法電子申請、郵送、窓口持参
届出期限速やかに

定時決定と同じく、基本的には月額変更届のみで問題ありません。年間報酬の平均で算定する場合は、申立書と従業員の同意書を添付しましょう。

参考:随時改定(月額変更届)|日本年金機構

産前産後休業・育児休業の終了

産前産後休業や育児休業が終了したタイミングでも、一定の条件を満たした場合に改定が可能です。本人からの申し出によって申請を行うため、休業に入る従業員にはあらかじめ説明しておくと手続きがスムーズです。

時期変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目
変更後の標準報酬月額が適用される期間変更のあった年の8月
(改定が7月以降)翌年の8月まで
必要な届出産前産後休業終了時報酬月額相当額変更届
(従業員に代わって会社が電子申請を行う場合)委任状
届出方法電子申請、郵送、窓口持参
届出期限速やかに

基本的には「産前産後休業終了時報酬月額相当額変更届」以外の書面は必要ありません。

電子申請で、かつ会社が従業員に代わって申請する場合は申請者の電子署名が必要ですが、「事業主を代理とする旨の委任状」の画像データを添付すれば署名を省略できます。

参考:産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出|日本年金機構

随時改定で標準報酬月額を変更する3つの条件

随時改定は給与に大幅な変更があったときに行われる変更です。

変更幅や期間は法令によって定められており、以下のすべての条件を満たしたときに改定が行われます。

随時改定で標準報酬月額を変更するタイミング(以下全て)
  • 給与(固定的賃金)に変動がある
  • 連続した3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上ある
  • 標準報酬月額で2等級以上の差がある

それぞれ詳しく解説します。

1.給与(固定的賃金)に変動がある

「固定的賃金」とは、支給率や支給額が決められたものを指します。

そのため残業時間の増減により残業代が変動しても固定的賃金の変動には該当しません。

ただし割増賃金率の変更や時間単価の変更などにより時間外手当の支給割合や支給単価が変更となった場合には、固定的賃金の変動に該当します。

また役職手当や家族手当など、各種手当の支給額の変更や新設、廃止も固定的賃金の変動に含まれます。従業員が引越しして通勤手当の金額が変更となったり、結婚などにより家族手当が追加となったりした場合にも対象になるので注意しましょう。

【固定的賃金の変動に該当する具体例】

  • 昇給や昇格による基本給などの変更
  • 家族手当、通勤手当、住宅手当、役職手当など支給額が固定されている手当の追加や変更
  • 日給や時間給の給与の基礎となる単価の変更
  • 歩合給や出来高給などの支給単価の変更や支給率の変更
  • 賃金体系の変更(日給→月給、月給→歩合給など)
  • 新たな手当の支給(追加)や手当の廃止
  • 一時帰休(レイオフ)の休業手当や休業期間の休業給の支給

2.連続した3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上ある

2つ目の条件は、賃金の変更があった期間と、その期間の支払基礎日数です。賃金の変動があった月以後3ヶ月間連続して、17日以上(一定規模以上の事業所に勤める短時間労働者は11日以上)あることが必要です。連続した3ヶ月のうち、1ヶ月でも支払基礎日数が17日未満の月があれば、随時改定の対象とはなりません。

「賃金の変動があった月」とは
  • 「賃金の変動があった月」とは、賃金変動後の給与が実際に支払われた月を指します。たとえば給与の支払いが月末締翌月20日払いの場合、1月の昇給分が含まれる給与が支払われるのは2月20日なので、固定的賃金の変動があった月は2月です。この場合、2月を最初の月として、2月以降の3ヶ月間(2月・3月・4月)の各月の支払基礎日数で、随時改定に該当するかどうかを判断します。また、月の途中(賃金計算期間の途中)で昇給や降給があった場合には、昇給・降給による給与が1ヶ月分確保された月、つまり、昇給や降給により上昇または下降した給与が丸々1ヶ月分反映した月以後の3ヶ月間で判断します。
「支払基礎日数」とは
  • 「支払基礎日数」とは、給与計算の対象となる日数のことです。月給制の場合は、給与計算の基礎となる期間の暦日数をそのまま支払基礎日数として数えます。月給制であっても、欠勤日数に応じて給与から欠勤分を控除する場合は、就業規則や賃金規程に定めた欠勤控除の規定に基づき、その給与計算の対象となる月の所定労働日数から欠勤日数を差し引いて支払基礎日数を計算します。

【支払基礎日数の具体的な計算例】

給与計算期間が1/1から1/31までの場合

<月給制の場合>

  • 完全月給制(欠勤控除がない月給制)の場合
    支払基礎日数:31日
  • 所定労働日数で欠勤控除する場合
    所定労働日数22日で4日欠勤控除→支払基礎日数:18日
  • 暦日数で欠勤控除する場合
    暦日数が31日で欠勤7日間を控除→支払基礎日数:24日

日給制の場合>

出勤日(稼働日)の日数が支払基礎日数になります。有給休暇の取得日は出勤日として計算します。

参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和6年度|日本年金機構

3.標準報酬月額で2等級以上の差がある

3つ目の条件は、等級の変更幅です。随時改定の対象となるのは、従前の標準報酬月額と変更後の標準報酬月額の等級との間に2等級以上の差が生じた場合です。

1等級の変更では、原則として随時改定には該当しません。ただし従前の等級が、標準報酬月額等級表の上限や下限に該当する従業員の場合には、1等級の変更で随時改定の対象となります。

【1等級の増減でも随時改定の対象となるケース】
1等級の増減でも随時改定の対象となるケース

引用:随時改定(月額変更届)|日本年金機構

随時改定の対象外となるケース

3つの要件に該当しているように見えても、以下の場合は随時改定の対象となりません。

休職中に固定的賃金に変動があった場合

休職中に固定的賃金の変動があったとしても、随時改定の対象にはなりません。休職中に基本給の何割かを休職給として勤務先から支給されている場合も同様です。随時改定に該当するかどうかは休業終了後、通常の賃金に戻った月以降の平均報酬月額で判断します。

平均報酬額の変動が非固定的賃金の変動による場合

固定的賃金の変動があり、かつ3ヶ月の平均報酬額に2等級以上の差が生じていても、等級変更の原因が非固定的賃金の変動である場合は、随時改定の対象外となります。

随時改定の対象外となるケース
  • 固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3ヶ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
  • 固定的賃金は下がったが非固定的賃金が増加したため、変動後の引き続いた3ヶ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合

随時改定の月額変更届はいつまでに提出する?

随時改定の月額変更届の届出期限は「速やかに」と規定されており、具体的な期日は指定されていません。

しかし届出が遅くなると、保険料の過払いや不足が生じ、遡及精算が発生します。また長期間手続きを怠った場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰則が適用される可能性もあります。

給与の変更は事前に情報がわかるので、おおむね10日程度をめどにスムーズに手続きができるよう準備を進めておきましょう。

随時改定後の標準報酬月額はいつから変更される?

随時改定後の標準報酬月額は、賃金変動後の給与が実際に支払われた月から起算して4ヶ月目から変更されます。

たとえば給与の支払いが月末締翌月20日払いの会社で、1月から昇給した場合を考えてみましょう。昇給分が含まれる給与は2月20日に支払われるため、2月・3月・4月に支払われた給与によって随時改定に該当するかどうかを判断します。随時改定の条件を満たして月額変更届を提出すると、5月の標準報酬月額から変更が適用されます。

変更後の標準報酬月額の適用期間

随時改定により変更された新しい標準報酬月額の適用期間は、原則として次の通りです。

標準報酬月額の適用期間
  • 1月~6月に改定された場合→その年の8月まで適用
  • 7月~12月に改定された場合→翌年の8月まで適用

ただし再度の随時改定や、産前産後休業・育児休業の終了による改定が行われた場合は、その改定までの期間が適用期間となります。

随時改定で標準報酬月額を変更する手続き

健康保険や厚生年金保険などの社会保険の随時改定に該当したら、速やかに月額変更届を提出しなければなりません。必要書類、提出時期、提出先は以下の通りです。

必要書類

随時改定では、月額変更届のほか、必要に応じて添付書類が必要です。

随時改定の必要書類
  • 月額変更届(正式名称は「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届 厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届」)
  • (年間報酬の平均で算定する場合)申立書、同意書

【書類入手方法】

  • 年金事務所
  • 日本年金機構のホームページからダウンロード

提出先と提出方法

月額変更届と添付書類は、事務センターまたは年金事務所へ提出します。

月額変更届と添付書類の提出
  • 提出先
    事務センター、または事業所を管轄する年金事務所
  • 提出方法
    郵送、窓口、電子申請

電子申請を利用するためには、GビズID(無料)が必要です。オンラインで手続きが完了するため、年金事務所の開所時間を気にする必要がありません。

また申請時にシステム上で不備のチェックが行われるため、不備による再提出を防ぎ、業務効率化につながります。

記入のポイント

書面で記入する場合、裏面に記入の注意点が記載されています。注意点を確認して誤りのないよう正確に記入してください。

特に間違えやすいと思われる項目について、注意点を解説します。

    • 給与支給月:給与の対象月ではなく、実際に支払われた月を記入します。翌月支払いなど、給与対象月と支払い月が異なる場合は特に注意しましょう。また支払基礎日数が17日未満であっても省略せずに記載します。
    • 報酬月額の「通貨によるものの額」:残業手当を含むすべての支給額を記載します。残業手当は固定的賃金ではありませんが、月額変更届の報酬月額欄には残業手当を含んだ支給額を記載してください。

算定基礎届の記入

なお、社会保険の随時改定の詳細は、以下の記事をご参照ください。

参考:随時改定(月額変更届)|日本年金機構

月額変更届により標準報酬月額を変更する注意点

随時改定の要件に該当した場合には、月額変更届により標準報酬月額を変更しなければなりません。定時決定とは異なる点がいくつかありますので、注意しましょう。

月額変更届をできる限り早く提出する

月額変更届の提出が遅れると、速やかな標準報酬月額の変更ができなくなります。

随時改定により変更された標準報酬月額が適用されるのは、2等級以上の差が生じた月から数えて4ヶ月目からです。随時改定が必要な状態になったら、速やかに月額変更届を提出しましょう。

決定通知が届いたら速やかに従業員に通知する

決定通知が届いたら、従業員への通知もできるだけ早く行いましょう。

随時改定を行うと標準報酬月額が2等級以上も変わり、保険料も変動します。通常とは違う時期に社会保険料が変わることになるため、従業員にも速やかに通知しましょう。

変更後の保険料率が適用される月を確認する

随時改定では、月額変更届による社会保険料の変更がいつから適用されるのか、きちんと確認することも大切です。給与計算への反映も確実に行いましょう。

標準報酬月額は定時決定より随時改定が優先される

定時決定と随時改定では随時改定が優先され、随時改定のすべての要件を満たした場合、定時改定を待たずに標準報酬月額が変更されます。その理由は、社会保険の公平性と平等性を担保し、適正な保険料を維持するためです。

標準報酬月額がから変更されます。その理由は、社会保険の公平性と平等性を担保し、適正な保険料を維持するためです。

たとえば一時帰休などで受けられる給与が大幅に減ったにも関わらず、保険料が従前のままであれば負担ばかりが増大します。逆に給与が増えた場合に保険料が従前のままであれば、賃金に応じた負担という社会保険の仕組みが維持できません。また保険料を支払う本人の将来の年金額も、本来受け取るべき金額よりも減ってしまいます。

そのため、随時改定の要件に該当した場合は、次の定時決定を待たず、速やかに保険料を改定するよう定められています。

社会保険の手続き業務の効率化を図るには

基本給や諸手当の支給額や支給率、給与体系に変更があると、3ヶ月後に各月の支払基礎日数と給与の平均額を計算し、随時改定の条件をすべてクリアするかどうかをチェックする業務が発生します。

従業員ごとに条件を満たすかどうかをチェックしなければならないため、人事労務担当者にとって随時改定の手続きは、手間と時間がかかる業務です。しかも、月額変更届の提出は賃金変動後3ヶ月経過してからとなるため、提出を忘れないように気をつけなければなりません。したがって、間違い防止や提出漏れ防止を図るには、チェックリストやスケジュールリストを作成するなどの工夫も必要です。

健康保険・厚生年金保険の資格取得や喪失、算定基礎届、月額変更届、労働保険の申告など、電子申請にも対応した社会保険ソフトの導入も効果的です。人事労務担当者の業務の効率化、コスト削減のためにも、社会保険ソフトの導入も検討してはいかがでしょうか。

よくある質問

社会保険における月額変更届とはなんですか?

従業員の固定的賃金の変更があったときに、標準報酬月額と実際の給与に大きな差が生じないように標準報酬月額の等級を変更して決定することを随時改定と呼びます。月額変更届は、その手続きに必要な届出の書類です。詳しくはこちらをご覧ください。

月額変更を行うタイミング・時期について教えてください。

月額変更により標準報酬月額が変更されるタイミングは、固定的賃金変動後の最初の給与が支払われた月から起算して4か月目です。随時改定の条件を満たした場合には、速やかに月額変更届を提出しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。


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