- 更新日 : 2026年7月7日
ISO30414とは?定義や最新の項目一覧について詳しく紹介
ISO30414とは、ISOが2018年に発行した人的資本に関する情報開示の国際ガイドラインです。
- 11項目で人材データを定量的に可視化
- 法的義務はないが日本企業での活用が急増
- 投資家への信頼向上・採用競争力強化に効果
Q. 日本企業はISO30414への対応が義務?
A. ISO30414自体に法的義務はなく任意ですが、2023年3月決算より上場企業等には人的資本の一部開示が義務化されており、その基準としてISO30414を活用する企業が増えています。
世界的に人的資本経営への関心が高まるなか、企業価値を正しく評価するための国際規格「ISO30414」に大きな注目が集まっています。
一方で「ISO30414とは具体的にどのようなガイドライン?」「他のガイドラインと何が違う?」と疑問に思っている人もいるでしょう。
本記事では、ISO30414の基本的な概要や項目一覧をまとめています。また、日本企業における対応義務、他のガイドラインとの違いについても解説しています。
ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)とは
ISO30414とは、国際標準化機構(ISO)が2018年12月に発行した、世界初となる「人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン」です。
ISO30414は、自社の人材データを数値化・可視化し、社内外のステークホルダーに向けて客観的に報告するための共通の物差しとして機能します。
従来の財務情報だけでは測りきれない、組織の健全性や将来のポテンシャルといった見えない価値を、定量的かつ網羅的に把握するためのツールとして設計されました。
ISO30414が注目されている理由
ISO30414が注目を集めている背景には、世界的なESG投資の拡大があります。
近年、企業価値を測る指標が、工場や設備といった「有形資産」から人材や知的財産といった「無形資産」へと大きくシフトしています。それに伴い、人材を消費するコストとして扱うのではなく、価値を生み出す資本として捉えて積極的に投資していく「人的資本経営」が世界のスタンダードとなりました。
この流れを受けて、投資家が企業の持続可能性を判断するうえで、「どのような人材がどう活躍しているか」という透明性の高いデータが必要不可欠となりました。投資家からの要請こそが、ISO30414の普及を後押ししていると言えるでしょう。
日本企業の対応義務
ISO30414の規格そのものには、法的な情報開示の義務や未開示による罰則などは設けられていません。あくまで任意のガイドラインという位置づけです。
しかし、日本では2023年3月決算より、有価証券報告書を発行する上場企業等を対象に、人的資本に関する一部の情報の開示が義務化されました。
開示の義務化を受け、多くの日本企業が「具体的にどのような項目を開示すればステークホルダーが納得するのか」という明確な基準を求めています。その最適解のひとつとして、国際基準であるISO30414を活用し、開示準備を進める企業が急増しているという状況です。
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ISO30414の項目一覧
ISO30414の項目は、以下のとおりです。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 1. コンプライアンスと倫理 | 組織内での法令遵守や倫理的な行動がどの程度定着しているかを測る |
| 2. コスト | 従業員の雇用や維持にかかる全体的な費用を定量的に把握する |
| 3. ダイバーシティ | 性別、年齢、国籍など、組織内の人材の多様性がどの程度確保されているかを測る |
| 4. リーダーシップ | 従業員に対して適切なリーダーシップを発揮できているかを評価する |
| 5. 組織文化 | 従業員の愛着や働くモチベーションなど、目に見えない組織の風土を数値化する |
| 6. 企業の健康・安全・福祉 | 従業員が心身ともに健康で、安全に働ける環境が整備されているかを測る |
| 7. 生産性 | 従業員一人ひとりが、企業に対してどの程度の価値や利益を生み出しているかを測る |
| 8. 採用・異動・離職 | 組織内の人材の出入りや適切な人員配置が行われているかを把握する |
| 9. スキルと能力 | 従業員の能力開発やスキルアップに対して、どれだけ投資を行っているかを測る |
| 10. 後継者育成計画 | 将来の経営や重要ポストを担う人材が、計画的に育成・準備されているかを評価する |
| 11. 労働力確保 | 企業が事業推進に必要な人員を、適切な雇用形態で確保・維持できているかを測る |
1. コンプライアンスと倫理
コンプライアンスと倫理の主な指標例は、以下のとおりです。
- クレームの種類と件数
- 懲戒処分の種類と件数
- コンプライアンス研修や倫理研修を受けた従業員の割合
- 第三者に解決を委ねられた係争
- 外部監査からの指摘の数と種類、および発生した原因や対応方法
組織内での倫理的な行動や法令遵守としてのアクションが、形式ではなく従業員の実務レベルでどの程度定着しているかを測るための項目です。
不祥事やハラスメントなどの潜在的なリスクを客観的な数字として可視化し、企業の健全性を担保するために投資家からも重要視されています。
問題の有無だけでなく、トラブルに対して自律的に発見・改善できているかを示す証拠にもなるでしょう。
2. コスト
コストの主な指標例は以下のとおりです。
- 総労働力コスト
- 外部労働力コスト
- 総給与に対する特定職の報酬の割合
- 採用コスト
- 一人あたりの採用コスト
- 離職に伴うコスト
主に従業員の採用から雇用、そして維持にかかる全体的な費用を定量的に把握するための項目です。
人的資本経営においては、人件費を削るべき出費として捉えるのではなく、将来の利益を生むための投資と考えます。
そのため、コストの項目で算出されたデータは、後述する生産性をはじめとした項目と掛け合わせ、投資対効果(ROI)の観点から分析を行う際のベースラインにもなります。
3. ダイバーシティ
ダイバーシティの主な指標例は以下のとおりです。
- 年齢
- 性別
- 障害の有無
- 経営陣の多様性
性別や年齢、障害の有無など、組織内の人材の多様性がどの程度確保されているかを測る項目です。
変化の激しい現代ビジネスにおいて、同質的な集団は市場の変化に取り残されるリスクが高まります。
そのため、多様なバックグラウンドをもつ人材を積極的に採り入れることが、新たなイノベーション創出や多角的な視点によるリスク管理などに欠かせません。
4. リーダーシップ
リーダーシップの主な指標例は以下のとおりです。
- リーダーシップに対する信頼
- 管理職ひとりあたりの部下数
- リーダーシップ育成
経営層や現場の管理職が、従業員に対して適切なリーダーシップを発揮し、組織を正しく導けているかを評価する項目です。
優れたリーダーの存在は、組織全体の進むべき方向性を明確に示し、従業員のエンゲージメントを高めるための重要な要素として位置づけられています。
現場の管理職が部下を適切にマネジメントできる体制が整っていることを示せれば、組織の実行力の高さをアピールできるでしょう。
5. 組織文化
組織文化の主な指標例は以下のとおりです。
- 従業員エンゲージメント
- 従業員の定着率
従業員が会社に対してどれほどの愛着をもっているかを数値化する項目です。
従業員がやりがいをもって働ける組織文化は、生産性の向上に直結します。また、人材の離職防止にも寄与するため、組織の土台の強さを測るバロメーターとしても機能します。
6. 企業の健康・安全・福祉
企業の健康・安全・福祉の主な指標例は以下のとおりです。
- 労災により失われた時間
- 労災の件数
- 労災による死亡者数
- 健康・安全研修の受講割合
従業員が心身ともに健康で、事故の危険もなく安全に働ける環境がしっかりと整備されているかを測る項目です。
企業は、従業員へ安全な労働環境を提供する責任を負っています。また、ESGの「S(社会)」の観点でも、労働環境の安全性は持続可能性を評価するうえで欠かせない要素です。
ブラック企業と見なされるのを防ぎ、労務トラブルのリスクが低いクリーンな企業であることを示せるでしょう。
7. 生産性
生産性の主な指標例は以下のとおりです。
- 企業が生み出した利益
- 従業員ひとりあたりの利益
- 人的資本ROI
企業が生み出した利益のほか、従業員一人ひとりが、企業に対してどの程度の付加価値や利益を生み出しているかを客観的に測る項目です。
人的資本経営において、人への投資が本当に企業の業績向上や利益に直結しているのかを証明できます。
この数値が右肩上がりに推移していれば、経営戦略と人事戦略が連動し、効率的な組織運営が行われている証拠となるでしょう。
8. 採用・異動・離職
採用・異動・離職の主な指標例は以下のとおりです。
- 空席ひとつあたりの書類選考の通過者数
- 採用にかかる平均日数
- 採用した社員の質
- 将来的に必要となる人材の能力
- 内部異動率
- 内部登用率
- 重要ポストの内部登用率
- 重要ポストの割合
- 重要ポストの空席率
- 重要ポストの空席が埋まるまでの日数
- 離職率
- 自発的な離職率
- 離職理由
組織内の人材の出入りや事業戦略に応じた適切な人員配置が行われているかを把握するための項目です。
人の動きをデータ化して公開することで、自社の採用力や労働環境がブラックボックス化するのを防げます。
また、外部から優秀な人材を引き付ける力があることや社内で柔軟なキャリア形成が可能であることを示せるため、求職者に対するアピール材料にもなります。
9. スキルと能力
スキルと能力の主な指標例は以下のとおりです。
- 人材開発や研修にかかる総費用
- 研修への参加率
- 従業員ひとりあたりの研修受講時間
- カテゴリ別の研修受講率
- 従業員のコンピテンシー達成度
従業員の能力開発や継続的なスキルアップに対して、企業がどれだけの時間と費用を投資しているかを測る項目です。
将来の経営戦略を実現するために必要なスキルを、組織全体としてしっかりと備えようとしているかを可視化できます。
今後の変化に対応し、かつ成長し続けられる企業なのかを判断する指標として、投資家からの注目度も高い項目のひとつです。
10. 後継者育成計画
後継者育成計画の主な指標例は以下のとおりです。
- 内部継承率
- 後継者の準備率
- 後継者の継承準備度
将来の経営を担う次世代リーダーや事業継続において欠かせない重要なポストを引き継ぐ人材が、場当たり的ではなく計画的に育成されているかを評価する項目です。
経営トップやキーパーソンが突然不在となった場合でも、組織が混乱せずに事業を回せるバックアップ体制があるかを示せます。
企業の長期的な持続可能性や不測の事態における事業継続リスクを判断するためにも欠かせない要素です。
11. 労働力確保
労働力確保の主な指標例は以下のとおりです。
- 総従業員数
- フルタイムの従業員数
- パートタイムの従業員数
- フルタイム当量(FTE)
- 臨時の労働力(独立事業主)
- 臨時の労働力(派遣労働者)
- 欠勤率
企業が事業を推進するために必要な人員を、適切な雇用形態や労働時間で安定して確保できているかを測る項目です。
組織の全体的な規模感や人材の構成比率を客観的に把握するための基盤となります。また、この項目で算出された数値を土台として、コストや生産性といった他の項目の指標を掛け合わせて分析を行う際の基礎データにもなります。
他の人的資本経営のガイドラインとの違い
ここでは、ISO30414以外の人的資本経営のガイドラインとの違いについて解説します。
経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」との違い
経済産業省が公表している「人材版伊藤レポート2.0」は、経営戦略と連動した人材戦略をどのように構築し、実践していくべきかという考え方やプロセスを示した指南書です。
自社のビジネスモデルに応じて、どのような人材が必要でどう育成するべきかを設計することに主眼が置かれています。
対してISO30414は、その戦略にもとづく成果や現状を、どのような数字で外部に示すべきかを定義した具体的な指標の辞書です。
つまり、両者は対立するものではありません。実務においては、まず伊藤レポートを用いて自社の課題をもとに戦略を組み立て、その根拠を証明するためのKPIをISO30414から選定するのがおすすめです。
人材版伊藤レポート2.0について詳しく知りたい人は、以下の記事をご参照ください。
内閣官房の「人的資本可視化指針」との違い
内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」は、日本国内での有価証券報告書における開示義務化に向け、日本企業向けに整理された実践的なガイドラインです。
ISO30414のような国際的な基準をベースにしつつも、日本の雇用慣行や実務に落とし込みやすいよう、開示すべき事項が7分野19項目に整理されています。
ISO30414が世界共通の網羅的なフォーマットであるのに対し、可視化指針は日本の制度に合わせたフォーマットとして使いやすく設計されているのが特徴です。
これから対応をはじめる企業は、まず可視化指針をベースに国内の必須項目を確実に押さえましょう。投資家に対して、自社の独自性やグローバル基準への対応をアピールしたい場合に、ISO30414の指標を活用して肉付けしていくのがおすすめです。
人的資本可視化指針について詳しく知りたい人は、以下の記事をご参照ください。
ISO30414を活用した情報開示によって期待できる効果やメリット
最後に、ISO30414を活用して情報開示をするメリットや期待できる効果を紹介します。
投資家からの評価や信頼が高まる
国際的な統一基準であるISO30414を用いて情報を整理することで、自社に都合のよいデータだけを並べた独りよがりなアピールを防げます。
データにもとづいた客観的かつ透明性の高い開示が可能となるため、投資家への説得力も増すでしょう。
また、グローバル基準に則り、本気で人材投資を行っている企業であると証明できれば、国内外の機関投資家からも評価されやすくなります。
財務データだけでは測れない将来的なポテンシャルや成長性を論理的に示すことで、中長期的な株価の向上や有利な条件での資金調達につながることにも期待できます。
採用競争力が強化される
労働環境や研修体制などのリアルな数値を開示すれば、求職者に対して実態の伴った信頼できるホワイト企業であるとアピールできます。
近年は、給与だけでなくキャリア形成の機会や働きやすさを重視する若手人材が増えています。そうした層に対して根拠のあるデータを示すことで、他社との明確な差別化も図れるでしょう。
また、入社前に会社のリアルな実態を詳しく知ってもらうことで、入社後のミスマッチによる早期離職も未然に防ぎやすくなります。
客観的なデータにもとづいた組織改善が可能となる
ISO30414が提示する11項目58指標の数値を計測しつつ定点観測を行うことで、経営陣や人事の主観に頼ることなく、組織の潜在的な課題を早期に発見できるようになります。
自社の現状でできていること・不足していることを綺麗に仕分けられるため、限られた予算のなかで優先して取り組むべき人事施策を明確化できるでしょう。
さらに現場の従業員に対して、なぜ今この新しい人事施策や研修が必要なのかをデータにもとづいて論理的に説明するのにも役立ちます。現場にも納得してもらいやすくなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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