- 更新日 : 2025年7月14日
病気での退職は特定理由離職者になる?失業保険の給付日数や手続きを解説
職場を退職する理由には、転職や定年、契約満了などさまざまなものがあります。なかには病気など特定の理由で退職を検討する人もいるでしょう。
病気で退職した場合、失業保険(基本手当)の給付日数はどれくらいなのでしょうか。この記事では、特定理由離職者が受け取る失業保険の給付日数や給付手続きについて解説します。
目次
特定理由離職者とは
特定理由離職者とは、以下の理由によって離職した人のことです。
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、当該労働契約の更新がないことで離職した人(ただし、当該更新を希望したにもかかわらず、更新についての合意が成立しなかった場合に限る。)
- 病気、妊娠、出産、親族の看護など、正当な理由により離職した人
やむを得ない事情で退職した人、とおさえておくとよいでしょう。
特定受給資格者との違い
特定理由離職者と似たものに、特定受給資格者があります。どちらもやむを得ず退職した人ですが、特定受給資格者は、解雇や倒産によって離職した人を指すものです。
たとえば、勤めていた会社が破産した場合や、賃金額の3分の1を超える金額が期日までに一定回数以上支払われずに離職した場合は、特定受給資格者に該当します。
解雇や倒産以外の理由で正当なものと認められた場合は、特定理由離職者に該当する、と整理しておきましょう。
就職困難者との違い
就職困難者とは、以下に該当する人のことです。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- 刑法等の規定により保護観察に付された人
- 社会的事情により就職が著しく阻害されている人
障害のある方や社会的事情によって就職が難しい人を「就職困難者」と定義しています。就職困難者も、ほかの離職者と同様に失業保険の給付を受けられます。45歳未満かどうか、被保険者期間が1年以上あるかどうかによって給付日数が変わるのが特徴です。
病気で退職したら失業保険の給付日数は何日?
病気で退職した場合、失業保険の給付日数は何日間なのでしょうか。最大給付日数や、病気の程度による手当の違いについて解説します。
病気で退職しても失業保険の給付日数は変わらない
病気で退職して特定理由離職者になったとしても、給付日数は一般離職者と同様に90日〜150日です。給付日数が長いのは、一定の要件を満たした特定理由離職者に限られるためです。
特定理由離職者と判断された場合の給付日数は90日〜330日と、最大給付期間が一般離職者に比べて長くなります。ただし、これは「期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した場合」のみです。病気が理由の人は対象外となります。
特定理由離職者と、一般離職者の給付日数を見てみましょう。
特定理由離職者
※期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した場合
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
離職時年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上 35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
一般離職者
※病気で退職した特定理由離職者も含む
被保険者であった期間 | ||
---|---|---|
10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
90日 | 120日 | 150日 |
年齢や被保険者期間に応じて、給付日数は変わります。病気で退職した人が150日間の失業保険を受け取るには、被保険者であった期間が20年以上なければなりません。
なお、療養に専念し、すぐに就職できない場合は失業保険を受けられません。ただし、受給期間内に、妊娠、出産等の理由により引き続き30日以上職業に就くことができない場合は、ハローワークに申請すれば、受給期間を最長で離職日の翌日から4年まで延長できます。
病気の程度によっては「傷病手当」が支給される場合も
受給資格が決定した後に病気になったり、病気が悪化したりした際は、傷病手当を受け取れる可能性があります。
傷病手当とは、受給資格者が離職後にハローワークで求職申込をした後、15日以上病気やケガによって職業に就けない場合に支給されるものです。在職中に加入していた健康保険から支給される「傷病手当金」とは異なる制度のため、混同しないようにしましょう。
傷病手当の支給金額は基本手当と同額です。病気やケガにより職業に就けない期間が14日以内の場合は、失業保険が給付されます。
なお、前述のとおり受給期間内に30日以上職業に就けない場合は、給付を受け取れないため、受給期間の延長を申請するとよいです。受給資格決定前から就労不可の場合は受給期間の延長を申請する、資格決定後に就労不可となった場合は傷病手当を受け取る、といった形で対応しましょう。
特定理由離職者のメリット
特定理由離職者のメリットは以下の3点です。
- 失業保険の受給要件が緩和される
- 失業保険の給付制限期間がなくなる
- 国民健康保険料が軽減される
病気で特定理由離職者になっても失業保険の給付日数は延長されませんが、それ以外にもさまざまなメリットがあります。それぞれ詳しく解説していきます。
失業保険の受給要件が緩和される
特定理由離職者になれば、失業保険の受給資格が緩和されます。
通常、失業保険の受給資格を得るには、離職前2年間で被保険者期間が12ヵ月以上必要です。しかし、特定理由離職者は、離職前1年間で被保険者期間が6ヵ月以上あれば、失業保険の受給資格を得られます。つまり、就職してから離職するまでのスパンが短くても、失業保険を受給できる可能性があるのです。
失業保険の給付制限期間がなくなる
失業保険は、通常離職票をハローワークへ提出し求職申込をした後、7日間の待期期間と、1〜3ヵ月の給付制限期間を経てから支給が始まります。
しかし、特定理由離職者には、給付制限期間がありません。そのため、7日間の待期期間終了後すぐに給付金の支給が始まります。より早いタイミングで支給が始まるため、生活費を補填しやすくなります。
国民健康保険料が軽減される
離職後から再就職するまでに国民健康保険に加入する場合、保険料の軽減を受けられます。
離職時点で65歳未満で特定理由離職者となった場合、離職者の給与所得を30/100として保険料が計算されます。自己都合や定年などで退職する際に比べて保険料が下がるため負担が最小限で済み、より多くのお金を治療や生活費に充てられるのです。
具体的な手続きについては、住んでいる自治体の窓口に問い合わせてみましょう。
特定理由離職者のデメリット
特定理由離職者になることには、以下のようなデメリットもあります。
- 給付の申請に手間がかかる
- ハローワークで認定を受けなければならない
特定理由離職者になると、手続きに手間がかかる場合があります。デメリットを詳しく見ていきましょう。
失業保険の申請に手間がかかる
失業保険の給付申請では、離職票や個人番号の確認書類、本人確認書類などが必要です。しかし、特定理由離職者は、これらに加えて「離職理由が正当であることを示す書類」が必要です。たとえば、病気の場合はハローワークが指定する様式で医師の診断書を用意しなければならないのが通常の取り扱いとなります。
また、病気以外の理由で退職した場合でも、証明書類が必要になるケースがあります。
- 介護を理由に退職した場合:介護対象者の診断書
- 事業所移転などで通勤できなくなった場合:事業所の移転地がわかるもの
用意する書類が増える分、申請手続きに手間がかかってしまうのです。
ハローワークで認定を受けなければならない
特定理由離職者と認められるには、ハローワークで認定を受けなければなりません。認定の結果、一般離職者として扱われる可能性もあるでしょう。特定理由離職者の認定を受けるなら、適切な証拠書類を用意して離職理由を明確にしたうえで、手続きを進めていく必要があります。
ただし、病気によって特定理由離職者になっても、給付日数が延びるわけではありません。あくまでも受給要件の緩和や給付制限期間の免除などがメリットであることはおさえておきましょう。
特定理由離職者が失業保険の給付を受けるための手続き
特定理由離職者が失業保険の給付を受けるためには、以下の手順で手続きを進めます。
- 職場から離職票を受け取り必要書類を集める
- ハローワークで初回の手続きをする
- 医師の証明書様式を受け取り、医師に記入してもらう
- 待期期間を過ごす
- 失業認定を受ける
スムーズに手続きを済ませて失業保険を受け取り、生活費を補填しましょう。
1. 職場から離職票を受け取り必要書類を集める
まずは離職後に職場から送られてくる離職票を受け取ります。もし離職票を作成してくれない場合は、会社に問い合わせて作成を依頼しましょう。それでも作成されない場合は、ハローワークに相談するとよいです。
離職票を受け取ったら、そのほかに必要な書類を用意してください。主な書類は以下のとおりです。
- マイナンバーカード(通知カードもしくは住民票の写しでも可)
- 本人確認書類(運転免許証。ない場合は健康保険証と児童扶養手当証書など2つ必要)
- 写真2枚(縦3センチ、横2.4センチ。マイナンバーカードを提示する場合は不要)
- 本人名義の預金通帳
- 船員保険失業保険証および船員手帳(船員のみ)
2. ハローワークで初回の手続きをする
離職票やその他必要書類が集まったら、ハローワークで求職申込の手続きをして、離職票を提出してください。提出した書類をもとに、ハローワークが受給資格の確認や決定をします。
受給資格要件を満たす求職者には、ハローワークから雇用保険説明会への参加を促されます。説明会では、受給資格証の受け取りや今後の受給手続きの進め方などの説明を確認しておきましょう。
3. 医師の証明書様式を受け取り、医師に記入してもらう
病気で退職した際は、初回手続き時にハローワークで医師の証明書様式を受け取って、担当医に記入してもらう必要があります。この証明書をもとに、離職理由の確認などが行われるためです。
なお、このステップについては初回手続き前にハローワークで離職理由を含めて相談した際に、事前に証明書様式を受け取る場合もあります。その際は、医師に証明書を記入してもらい、離職票とあわせてハローワークへ提出しましょう。
4. 待期期間を過ごす
受給資格が決定し、雇用保険に関する説明を受けたら、待期期間の経過を待ちます。待期期間は受給資格の決定から7日間です。
通常はこの後に1〜3ヵ月間の給付制限期間がありますが、特定理由離職者なら給付制限期間なく給付を受けられます。
5. 失業認定を受ける
待期期間が終わったら、再度ハローワークへ行き、失業認定を受けましょう。失業認定では、認定日ごとに受給資格者証と失業認定申告書を提出してください。
認定日は原則4週間に1回です。認定を忘れずに受けながら、病気の治療や寛解、再就職へ向けて進んでいきましょう。
病気で退職して失業保険を受け取る際のよくある質問
病気で退職し失業保険を受け取る際のよくある質問や疑問をまとめました。失業保険の給付を受ける際の参考にしてください。
特定理由離職者の場合は診断書はいらないですか?
契約期間満了などで特定理由離職者になる場合は診断書は不要です。一方、病気やケガが理由で特定理由離職者となる可能性がある場合は、根拠資料として診断書を用意しておきましょう。通院する病院で診断書を書いてもらえるか相談してみてください。
特定理由離職者1と2の違いは何ですか?
特定理由離職者1とは、期間の定めのある労働契約期間が満了し、更新がなく離職した場合に該当する区分です。この場合、失業保険の給付日数が最大330日まで延長されます。
一方、特定理由離職者2は、病気やケガといった正当な理由のある自己都合で離職した場合に該当する区分です。失業保険の給付日数は、一般離職者と同じ90〜150日です。
ストレスで退職しても特定理由離職者になりますか?
ストレスによる退職が心身の障害と認められた場合は、特定理由離職者になる可能性があります。適応障害や不安障害、うつ病などの診断書があると、ハローワークも正確な離職理由を判断しやすくなるでしょう。
ただし、特定理由離職者と認定されるには、原則として別途ハローワーク所定の診断書様式が必要になる点には注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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