- 更新日 : 2025年4月2日
労災保険給付の金額はいくら? 計算方法などを詳しく解説
業務上または通勤中の事故によって負ったケガや病気などに対して、保険給付される制度を「労災保険制度」といいます。
本記事では、労災認定される条件や種類、給付額の計算方法について解説します。
労災(労働災害)とは?
労災(労働災害)とは、業務や通勤中の事故によって負ったケガ・病気などを指します。それらに対して保険を給付し、社会復帰をうながすことが「労災保険制度」です。
労災保険の費用は、原則として事業主が負担する保険料によってまかなわれます。労働者(パートやアルバイトを含む)がひとり以上の事業であれば、規模を問わず適用されます。
参考:厚生労働省|労災補償
労災はどのような場合に認定される?
労災は以下の3つに分類され、それぞれに労災認定の考え方が定められています。
- 業務災害における労災認定
- 複数業務要因災害
- 通勤災害
業務災害における労災認定の考え方
業務と一定の因果関係がある、労働者の負傷・疾病・障害・死亡のことを業務災害といいます。業務災害は、「業務上の負傷」と「業務上の疾病」に大別されます。
次のような状況下で発生した災害は、業務上の負傷として業務災害に認められるでしょう。
- 就業時間中(残業時間を含む)に発生した災害
- 施設や設備、その管理状況などが原因で発生した災害
- 就業時間中にトイレに行ったなど、生理的行為中に生じた災害
- 出張や社用の外出中に生じた災害
また、以下3つの要件を満たす場合は疾病に認定され、保険給付される可能性があります。
- 労働をおこなう場に有害因子が存在していた
- それらに健康障害を起こす可能性があるほどさらされた
- その後、健康障害を発症した時期や症状などが医学的にみて妥当である
有害因子には、病原体・化学物質・身体に過度に負担がかかる作業などが該当します。
参考:厚生労働省|労災認定の考え方(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)
複数業務要因災害における労災認定の考え方
複数事業労働者とは、事業主が同じではない複数の職場で、同時に働いている場合を指します。脳・心臓疾患・精神障害など、疾病が2つ以上の業務に要因する場合が対象です。
ただし、フリーランスとしても働いているなど、労働者でありながら別の働き口がある場合は複数事業労働者に該当しません。
複数業務要因災害は、労働時間やストレスなどを総合的に評価したうえで、労災と認めるか判断されます。
参考:厚生労働省|労災認定の考え方(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)
通勤災害における労災認定の考え方
通勤によって負ったケガ・病気などを通勤災害といいます。通勤災害における通勤とは、次の3つを合理的な経路かつ方法でおこなうものです。
- 住居と就業場所の往復
- 就業場所から他の就業場所への移動
- 単身赴任先の住居から帰省先の住居への移動
ただし、移動経路を逸脱したり、中断した場合は通勤とみなされません。
また、通勤災害における通勤は、業務の性質をもつ場合は除外されます。たとえば、緊急の用事などで休日出勤した際の災害は、業務災害に該当します。
参考:厚生労働省|労災認定の考え方(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)
労災保険給付の種類
業務災害・複数業務要因災害・通勤災害などによるケガの治療や、治療のために休業した場合は、ケガ・病気・障害の程度によって労災給付が支給されます。種類は以下のとおりです。
- 療養(補償)等給付
- 休業(補償)等給付
- 障害(補償)等給付
- 介護(補償)等給付
- 遺族(補償)等給付
- 葬祭料等(葬祭給付)
療養(補償)等給付
療養(補償)等給付は、業務が原因の負傷・病気による療養が必要な場合に支給される給付です。「療養の給付」と「療養費用の支給」があります。
療養の給付は、指定の医療機関(労災病院や労災保険指定医療機関・薬局など)で、治療や薬の処方を無料で受けられます。
療養費用の支給は、やむを得ず指定の医療機関以外で治療や薬の処方を受けた場合に、費用が支給されるものです。
給付の対象になる範囲や期間は、療養の給付・療養費用の支給ともに同じです。ケガや病気が治癒するまで、治療費・入院費・移送費などが支給されます。
なお、労災保険における治癒は、症状が安定しても回復・改善が期待できなくなった状態(症状固定の状態)も含まれる点に注意しましょう。
休業(補償)等給付
休業(補償)等給付は、負傷・病気によって労働できない状態の場合に支給される給付です。
具体的には、以下の要件を満たす場合に、第4日目から「休業(補償)等給付」と「休業特別支給金」が支給されます。
- 業務上の事由等による負傷・疾病を療養するために
- 労働することが不可能なため
- 賃金を支給されていない場合
単一事業労働者の場合は、次の計算式によって算出可能です。
- 休業(補償)等給付=(給付基礎日額の60%)× 休業日数
- 休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)× 休業日数
複数労働事業者の場合は、複数の就業先における給付基礎日額の相当額を足し合わせた計算です。なお、休業から第3日目までを「待期期間」とよびます。
業務災害の場合、労働基準法にもとづき待期期間分の休業補償がされます。
参考:厚生労働省|休業(補償)等給付・傷病(補償) 等年金の請求手続
障害(補償)等給付
障害(補償)等給付は、ケガや病気が治癒したあと身体に一定の障害が残った場合に支給され、障害等級の程度によって決まります。
たとえば、障害等級第1級〜第7級に該当する場合は、障害(補償)等年金・障害特別支給金・障害特別年金が受給可能です。
障害等級第8級〜第14級に該当する場合は、障害(補償)等一時金・障害特別支給金・障害特別一時金が給付されます。
なお、障害等級第1級〜第2級で介護を受けている場合は、別途請求書を提出しなければならないものの、介護(補償)等給付を受給可能です。
介護(補償)等給付
介護(補償)等給付は、障害(補償)等年金・傷病(補償)等年金の受給者のうち、民間の介護サービスや家族・友人・知人により介護を受ける以下の該当者に支給されます。
- 障害等級・傷病等級が第1級の方
- 第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している方
ただし、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院などの施設へ入所している間は、十分な介護サービスを受けていると判断されます。そのため、支給対象外です。
遺族(補償)等給付
遺族(補償)等給付は、配偶者や遺族に対して支給されます。共働き家庭も給付対象です。
遺族の人数などに応じて、「遺族(補償)等年金」・「遺族特別支給金」・「遺族特別年金」が給付され、遺族が2人以上の場合は等分額を支給されます。
参考:厚生労働省|遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続
葬祭料等(葬祭給付)
葬祭料等(葬祭給付)は、遺族または会社に対して、一律31万5,000円に給付基礎日額の30日分をくわえた額が支給されるものです。
ただし、給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給されます。
参考:厚生労働省|遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続
休業(補償)等給付の計算方法
休業(補償)等給付の金額は、以下の手順で算出できます。
- 給付基礎日額を計算する
- 給付基礎日額に60%・20%を乗じる
- それぞれに休業日数を乗じる
労災保険給付の種類のうち、個々人の状況によって支給される金額が大きく変動するのは、休業(補償)等給付です。
具体的には、休業(補償)等給付および休業特別支給金が支給されます。前者では給付基礎日額の60%が、後者は給付基礎日額の20%が支給されます。
1.給付基礎日額を計算する
まずは、給付基礎日額を計算します。給付基礎日額は、労働基準法における平均賃金相当額のことです。
労災が認定される直前3ヶ月間の給与総額を、期間日数で割った1日あたりの賃金額を指します。
たとえば、月々25万円の賃金を支給されていた人が、9月から働けなくなった場合の給付基礎日額は以下です。
【給付基礎日額】 25万円 × 3ヶ月 ÷ 92日(6月〜8月の日数の合計) = 8,152円 |
2.給付基礎日額に60%・20%を乗じる
次に、給付基礎日額に60%・20%を乗じて、休業(補償)等給付と休業特別支給金を求めます。
【休業(補償)等給付】 8,152円 × 60% = 4,891円 |
【休業特別支給金】 8,152円 × 20% = 1630円 |
3.それぞれに休業日数を乗じる
求めた休業(補償)等給付と休業特別支給金の額は、休業日数を乗じます。
なお、休業日数は休業事由が発生した災害の翌日を起点とし、休業期間内に休日等が含まれる場合は、注意しましょう。
参考:仙台労働基準監督署|「休業を要する労働災害」が発生したときの留意事項!
労災保険給付の金額についてよくある質問
ここからは、労災保険給付の金額に関する疑問にお答えします。
休業(補償)等給付はいつ振り込まれる?
休業(補償)等給付は、請求後1〜2ヶ月程度で振り込まれます。
ただし、指定医療機関の診療受診や会社証明が必要となる場合があります。そのため、1〜2ヶ月以上かかる場合もあるでしょう。
出勤しながらでも休業(補償)等給付をもらえる?
ケガ・病気を治療するために、出勤しながら通院している場合でも以下の要件を満たすことで、休業(補償)等給付を受給できます。
- 業務上の事由等による負傷・疾病を療養するために
- 労働することが不可能なため
- 賃金を支給されていない場合
健康保険証を使って受診した場合でも休業(補償)等給付をもらえる?
健康保険証を使って受診した場合は、医療費全額を支払ったうえで請求しましょう。加入している健康保険組合や協会けんぽへ労災であったことを報告し、必要な書類が届いた段階で金融機関へ納入します。
詳しい流れは、厚生労働省のリーフレット『お仕事でのケガ等には、労災保険!』より確認できます。
業務中や通勤途中のケガには、労災保険を請求しよう
業務上または通勤中の事故によって負ったケガ・病気は、健康保険を使用したうえで医療機関を受診していても、治療費を一時的に全額負担が必要です。あらかじめ労災保険を請求しましょう。
また、労災保険で支給される休業(補償)等給付の金額は、ケガ・病気の程度に応じて変動します。注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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