• 更新日 : 2026年8月12日

通勤災害の遺族給付とは?会社の対応・手続き・第三者行為への対処法を解説

Point通勤災害の遺族給付、何が受け取れる?

通勤中の死亡事故では、労災保険から遺族年金・一時金・葬祭給付の3種が支給されます。

  • 業務災害と名称が異なり様式番号も別
  • 葬祭給付の時効は死亡翌日から2年
  • 第三者行為は労災と自賠責の調整が必要

Q. 通勤災害で会社に賠償責任はありますか?

A. 原則なし。ただし送迎バス事故のように業務災害となる場合や、安全配慮義務違反を問われる可能性はあります。

通勤中の事故で従業員が亡くなった場合、遺族には労災保険から遺族給付が支給されます。労働者災害補償保険法に基づく通勤災害の遺族給付は、会社が対応すべき書類準備をサポートしながら労働基準監督署(労基署)へ提出する流れで進みます。本記事では、遺族年金・一時金・葬祭給付の仕組みから、会社側の初動対応、第三者行為災害への対処まで、人事・総務担当者が押さえるべき実務のポイントを整理します。

通勤災害の遺族給付とは?

通勤災害の遺族給付とは、従業員が通勤途中の事故で亡くなった場合に、労災保険からその遺族へ支給される給付制度です。労働者災害補償保険法に基づき、遺族の生活保障を目的として年金や一時金が支給されます。

人事・総務の担当者がまず押さえておきたいのは、「通勤災害」と「業務災害」では給付の名称が異なる点です。業務災害の場合は「遺族補償給付」と呼ばれ、名称に「補償」が付きます。一方、通勤災害では単に「遺族給付」となり、「補償」の文字が付きません。

業務災害の「補償」との違い

結論として、給付の内容や金額の計算方法は業務災害・通勤災害でほぼ同じですが、名称と提出書類の様式番号が異なります。

名称の違いは、使用者の責任範囲に由来します。業務災害は事業主に補償責任があるため「補償」が付きますが、通勤災害は原則として事業主に直接の補償義務がないため「補償」が省かれています。

項目 業務災害 通勤災害
給付名称 遺族補償給付 遺族給付
請求書の様式番号 様式第12号 様式第16号の8
事業主の補償義務 あり(労働基準法上の災害補償責任に由来) 原則なし(労災保険からの給付が中心)

参考:遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続|厚生労働省

遺族年金・一時金・葬祭給付の全体像

通勤災害で遺族に支給される給付は、年金・一時金・葬祭給付の3系統に分かれます。会社は制度の全体像を把握しておくことで、遺族への説明をスムーズに進められます。

  • 遺族(補償)等年金:受給資格のある遺族に対して継続的に支給される年金
  • 遺族(補償)等一時金:年金の受給資格者がいない場合、または年金受給権者が全員失権した場合に支給
  • 遺族特別支給金:遺族年金・一時金の受給者に対し一律で支給される一時金
  • 遺族特別年金/遺族特別一時金:賞与など特別給与を基に算定される上乗せ給付
  • 葬祭給付:葬儀を行った人に支給される費用(330,000円に給付基礎日額の30日分を加算した額と、給付基礎日額の60日分のいずれか高い方)

参考:葬祭料、複数事業労働者葬祭給付及び葬祭給付の額の改正について|厚生労働省

参考:遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続|厚生労働省

広告

この記事をお読みの方におすすめのガイド4選

続いてこちらのセクションでは、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを簡単に紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。

※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。

社会保険・労働保険の実務完全ガイド

社会保険・労働保険の実務完全ガイド

これ1冊でしっかり網羅!社会保険および労働保険は、従業員の生活上・労働上のリスクに備えるための公的保険制度です。

本資料では社会保険・労働保険で発生する各種手続き方法を、入社・退職時や妊娠・出産時などのシーン別にまとめました。

無料ダウンロードはこちら

健康保険・厚生年金保険 実務ハンドブック

健康保険・厚生年金保険 実務ハンドブック

健康保険・厚生年金保険の基本ルールをはじめ、手続きの仕方やよくあるミスへの対処方法について解説した実用的なガイドです。

年間業務スケジュール一覧も掲載しているので、ぜひご活用ください。

無料ダウンロードはこちら

算定基礎届の手続き完全ガイド

算定基礎届の手続き完全ガイド

算定基礎届(定時決定)の手続きは、社会保険に加入する全従業員が対象になるため作業量が多く、個別の計算や確認事項の多い業務です。

手続きの概要や間違えやすいポイントに加え、21の具体例を用いて記入方法を解説します。

無料ダウンロードはこちら

社会保険の手続きでよくあるミス 対処方法と防止策10選

社会保険の手続きでよくあるミス 対処方法と防止策10選

社会保険の手続きは、ひとたびミスが生じると適切な対処方法がわからず対応に苦慮するケースが多いものです。

本資料では社会保険手続きでよくあるミスをシーン別に取り上げ、対処方法をステップにわけて解説しています。

無料ダウンロードはこちら

遺族給付の受給要件と金額はどう決まる?

遺族年金を受け取れるのは、亡くなった従業員と生計維持関係にあった遺族のうち、一定の年齢・障害要件を満たす人です。受給資格者には優先順位があり、最も順位の高い人(受給権者)に支給されます。

生計維持関係と年齢要件で優先順位が決まる

優先順位は配偶者を最上位とし、子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順に定められています。生計維持関係とは、亡くなった従業員の収入によって生計の一部でも維持されていた関係を指し、同居の有無を問いません。

順位 受給資格者 年齢・障害要件
1 配偶者(事実婚含む) 妻は要件なし/夫は一定年齢以上または一定の障害
2 18歳到達年度末まで、または一定の障害
3 父母 一定年齢以上または一定の障害
4 18歳到達年度末まで、または一定の障害
5 祖父母 一定年齢以上または一定の障害
6 兄弟姉妹 18歳到達年度末まで、一定年齢以上、または一定の障害

参考:6-2 遺族(補償)等給付は誰が受給できますか。|厚生労働省

給付基礎日額と遺族数で年金額が変わる

遺族年金の金額は、給付基礎日額(亡くなった従業員の平均賃金に相当する額)に、受給資格のある遺族の人数に応じた日数を掛けて算出されます。遺族の人数が多いほど支給日数も増える仕組みです。

例えば、給付基礎日額が1万円で受給資格のある遺族が2人の場合、年額は201万円(1万円×201日分)となる計算です。遺族年金の受給資格者がいない場合は、遺族一時金として給付基礎日額の1,000日分が支給されます。会社が金額の計算まで行う必要はありませんが、遺族から問い合わせを受けた際に概要を説明できる程度の知識は持っておくとよいでしょう。

通勤災害で会社が行う手続きの流れは?

従業員の通勤中の死亡事故を知った時点から、会社は迅速に対応を進める必要があります。遺族への連絡・状況把握から労基署への書類提出まで、段階的に進めるのが実務のセオリーです。

STEP1:遺族への連絡・状況把握を最優先で行う

死亡の一報を受けたら、事実関係の確認と遺族への連絡を最優先で行います。特に通勤経路の確認は、労災認定の可否を左右する重要なポイントです。

  1. 事故の日時・場所・状況を警察や医療機関から確認する
  2. 通勤経路が届出どおりであったか、合理的な経路・方法だったかを調べる
  3. 遺族(配偶者や親族)に連絡し、会社としてのお悔やみと今後の手続きについて簡潔に伝える
  4. 社内の労務担当者や顧問社会保険労務士(社労士)に連絡し、対応方針を共有する

通勤経路からの逸脱・中断があった場合、その後の移動は原則として通勤とは認められません。ただし、日用品の購入や病院への立ち寄りなど、日常生活上必要な行為でやむを得ない事由による最小限度のものは例外として認められる場合があります。寄り道や私用での逸脱がなかったか、通勤届や定期券の購入記録なども確認しておきましょう。

STEP2:必要書類の案内と労基署提出を段階的に進める

初動対応が落ち着いたら、遺族給付の請求に必要な書類を案内し、労基署への提出を進めます。主な提出書類は以下のとおりです。

  • 遺族年金の請求:様式第16号の8(遺族年金支給請求書)を記入し、死亡診断書・戸籍謄本・生計維持関係を証明する書類を添付
  • 葬祭給付の請求:様式第16号の10(葬祭給付請求書)を記入し、死亡診断書など死亡の事実および死亡日のわかる書類を添付
  • 通勤災害に関する事項についての届出:会社が事業主として通勤の状況等を証明する書類を作成
  • 第三者行為災害届(交通事故の場合):相手方がいる事故では追加で提出が必要

請求書の事業主証明欄には、会社が通勤の事実や経路を証明する記載を行います。労基署への提出は遺族本人が行うのが原則ですが、会社の担当者が書類作成を手伝い、提出に同行するケースも少なくありません。

参考:遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続|厚生労働省

通勤災害で会社の賠償責任は問われる?

原則として、通勤災害で会社が損害賠償責任を負うことはありません。通勤中の事故は業務遂行中ではないため、使用者の安全配慮義務の範囲外と判断されるのが一般的です。

通勤中の事故は安全配慮義務の対象外が原則

安全配慮義務は、労働契約法第5条に定められた、業務に起因する危険から従業員を守る使用者の義務です。通勤は従業員個人の行動であり、会社が経路や手段を直接管理しているわけではないため、通常の通勤経路上で発生した事故について会社が責任を問われるケースは多くありません。

参考:労働契約法|e-Gov法令検索

送迎バス事故や過重労働は例外になりうる

ただし、以下のようなケースでは会社の責任が問われる余地があります。

  • 会社が提供する送迎バスやマイクロバスでの事故:通勤災害ではなく、業務災害として扱われ、賠償請求を受ける可能性がある
  • 過重労働による過労状態での通勤事故:長時間労働による疲労の蓄積が事故原因と認められれば、安全配慮義務違反が問われうる
  • 直行直帰中の事故で業務性が認められた場合:出張先への移動など、実態として業務命令に基づく移動と判断されれば業務災害として扱われることがある

厚生労働省の脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2〜6か月間に月平均80時間を超える時間外労働がある場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。この基準は令和3年9月の改正で明確化されたものです。長時間残業が常態化している職場では、過労による事故という主張がなされる可能性もあるため、日頃から労働時間の適正管理を徹底しておくことが大切です。

参考:脳・心臓疾患の労災認定基準の改正について|厚生労働省

通勤災害が第三者行為の場合、遺族はどう対応する?

加害者(第三者)がいる通勤事故では、第三者行為災害届の提出と、労災保険・自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の間の調整手続きが必要になります。労災と自賠責の二重受給はできないルールになっており、どちらを先に請求するかの選択が生じます。

労災と自賠責の二重受給はできない

同一の損害に対して労災保険と自賠責保険の両方から全額を受け取ることはできません。一方から給付を受けた場合、もう一方はその分だけ支給が調整(控除)される仕組みです。

実務上は「自賠責先行」と「労災先行」の2パターンがあり、遺族がどちらを選ぶかによって手続きの流れが変わります。自賠責保険を先に請求する方法が一般的ですが、加害者が無保険であったり、過失割合で争いがある場合は労災先行のほうが遺族にとって有利になることもあります。

第三者行為災害届の提出が必要になる

加害者がいる事故で労災保険を請求する場合、遺族は第三者行為災害届を所轄の労基署に提出する必要があります。主な添付書類は以下のとおりです。

  • 交通事故証明書(自動車安全運転センター発行)
  • 念書(兼同意書)
  • 示談書の写し(示談が成立している場合)
  • 死亡診断書(死亡事故の場合)
  • 自賠責保険の支払金額がわかる書類

会社としては、第三者行為災害届の提出が必要である旨を遺族に早めに案内し、交通事故証明書の取得方法なども併せて伝えておくと親切です。示談を先に成立させてしまうと労災保険の給付が制限される場合があるため、「示談は労基署に相談してから進めてください」と一言添えておくとトラブルを防げるでしょう。

参考:第三者行為災害のしおり|厚生労働省

通勤災害の遺族対応でトラブルを防ぐには?

遺族給付の手続きは、書類不足や提出の遅れが遺族の不信感やトラブルに発展しやすい領域です。労災の請求手続きに慣れている人事担当者は少ないため、事前にポイントを把握しておくことが重要です。

必要書類を早めに案内する

遺族年金の請求には、遺族側が用意しなければならない書類が複数あります。代表的なものは以下のとおりです。

  • 死亡診断書(死体検案書)の写し
  • 戸籍謄本(亡くなった従業員と請求者の身分関係を証明するもの)
  • 住民票の写し(生計維持関係を確認するための資料)
  • 生計維持関係を証明できる書類(仕送りの振込記録など、別居の場合)

遺族は心身ともに大きな負担を抱えている状況です。「どの書類を」「どこで取得し」「いつまでに用意すればよいか」を一覧にして渡すだけでも、遺族の負担は大きく軽減されます。書類案内のタイミングは、葬儀が落ち着いた1〜2週間後を目安にするとよいでしょう。

請求権の時効に注意する

労災保険の遺族給付には請求権の時効が定められています。時効を過ぎると給付を受ける権利そのものが消滅するため、特に注意が必要です。

給付の種類 時効期間 起算日
遺族年金 5年 従業員が亡くなった日の翌日
遺族一時金 5年 従業員が亡くなった日の翌日
葬祭給付 2年 従業員が亡くなった日の翌日

遺族年金・一時金は5年の猶予がありますが、葬祭給付は2年と短めです。葬儀を終えてからしばらく経って手続きに着手した場合、葬祭給付だけ時効にかかってしまうケースも見られます。会社の担当者は、書類を案内する際に「葬祭給付の時効は2年ですので、早めに請求手続きを進めるよう伝えておくとよいでしょう」という一言を添えると、遺族の利益を守ることにつながります。

参考:遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続|厚生労働省

電子申請を活用して書類提出の負担を減らす

時効管理と並んで負担軽減の鍵になるのが、提出手続きそのものの効率化です。労災保険の一部手続きについては、e-Gov(電子政府の総合窓口)を通じた電子申請が利用でき、郵送や紙の書類を労基署の窓口に持参する手間を省けます。

ただし、遺族年金の請求書(様式第16号の8)など添付書類が多い手続きについては、紙での提出が求められる場合もあるため、事前に所轄の労基署へ電子申請の可否を確認しておくとよいでしょう。顧問の社労士がいる場合は、書類作成から提出まで一括して依頼する方法もあります。特に初めて通勤災害に対応する中小企業では、専門家の力を借りることで手続きの漏れやミスを防ぎやすくなります。

参考:労働保険関係手続の電子申請について|厚生労働省

通勤災害の遺族給付に関するよくある質問

通勤災害の遺族給付に関するよくある質問をまとめました。

通勤災害の遺族年金はいくらもらえますか?

給付基礎日額に、受給資格のある遺族の人数に応じた日数(1人なら153日分など)を掛けた額が年額の目安になります。遺族が複数いる場合は日数が増え、さらに賞与を基にした遺族特別年金が上乗せされます。

通勤災害で会社に賠償責任はありますか?

原則として賠償責任は問われません。通勤は従業員個人の行動であり、安全配慮義務の対象外とされるためです。ただし、送迎バス事故や著しい長時間労働が絡む場合は例外として責任が問われる余地があります。

第三者行為災害届とは何ですか?

加害者がいる通勤事故で労災保険を請求する際に、労基署へ提出が必要な書類です。労災保険と自賠責保険の支給調整を適正に行うために使われます。

葬祭給付の請求期限はいつまでですか?

葬祭給付の時効は、従業員が亡くなった日の翌日から2年です。遺族年金・一時金の5年より短いため、早めの請求案内が欠かせません。

通勤経路を外れていた場合も通勤災害になりますか?

経路からの逸脱・中断があると、その後の移動は原則として通勤と認められません。ただし、日用品の購入など日常生活上必要な行為でやむを得ない場合は、例外的に認められることがあります。

通勤災害で遺族への対応を円滑に進めるために

通勤災害の遺族給付は、労災保険から支給される年金・一時金・葬祭給付で構成され、会社側は書類作成のサポートと事業主証明が中心的な役割となります。通勤経路の確認や時効管理、第三者行為への対応など、初動対応を迅速に進めることが遺族の手続き負担を軽減します。

通勤災害対応マニュアルの整備や顧問社労士との事前打ち合わせを進め、いざというときに慌てず対応できる体制を整えておきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事