- 更新日 : 2025年8月29日
インボイス制度の廃止手続きは?登録取り消し方法と注意点を解説
インボイス制度の登録をやめたい場合は、「登録の取消しを求める届出書」を税務署に提出することで廃止(取り消し)ができます。ただし、手続きのタイミングや取引先への影響など、事前に知っておくべき点もあります。
この記事では、インボイス制度の登録を廃止する具体的な手続き、個人事業主を含めたケース別の注意点、そして2025年時点での制度自体の動向についても、わかりやすく解説します。
目次
インボイス制度の登録を廃止(取り消し)する手続き
インボイス制度の登録を廃止するには、国税庁へ届け出します。手続きはe-Taxまたは郵送で行い、登録取り消しの効力は原則として翌課税期間から発生するため、計画的な準備が求められます。
「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出
「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下、インボイス廃止届)を提出し、インボイス制度の登録を取り消します。この届出書が、登録廃止のための正式な書類です。
国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。事業者の氏名や名称、納税地、登録番号といった基本情報を記載して作成します。とくに難しい内容ではありませんが、記載漏れや誤りがないように注意深く確認しましょう。
提出には期限があります。原則として、登録の取り消しを受けたい課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出しなくてはなりません。
たとえば、個人事業主が2026年から登録を取り消したい場合、2026年1月1日の15日前、つまり2025年12月17日が提出期限です。
出典:D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める手続|国税庁
インボイス廃止届の提出方法と提出先
インボイス廃止届の提出方法は、e-Tax(電子申告)と郵送の2つです。
- e-Taxで提出する:
パソコンやスマートフォンからe-Taxを利用したオンライン提出。時間や場所を選ばずに手続きできる利便性があります。 - 郵送で提出する:
届出書を印刷・記入し、納税地を所轄するインボイス登録センターへ郵送。原則として提出先は所轄税務署ではなく、インボイス登録センターとなります。地域によっては税務署を経由する場合もあるため、国税庁の公式サイトで提出先を確認しましょう。
どちらの方法でも手続きの内容は同じですが、提出のしやすさや記録の残しやすさをふまえて、自社に合った方法を選びましょう。
出典:郵送による提出先、登録番号の確認等の問合せ先のご案内|国税庁
登録取り消しの効力が発生するタイミング
インボイス廃止届を提出しても、すぐに登録が取り消されるわけではありません。
届出書を提出した日の属する課税期間の「翌」課税期間の初日に、登録の効力が失われます。
たとえば、法改正などがなく現行のルールのままであれば、課税期間が1月1日から12月31日までの個人事業主が2025年中にインボイス廃止届を提出した場合、登録が取り消されて免税事業者に戻れる可能性があるのは2026年1月1日からです。
つまり、2025年中に手続きをしても、2025年のうちは課税事業者として消費税の申告・納税義務が残ります。
このタイムラグを理解せずにいると、資金繰りや経理処理の計画に影響が出る可能性があります。登録を取り消したい時期から逆算して、計画的に手続きを進めることが大切です。
インボイス制度の登録廃止を検討する主なケース
インボイス登録を廃止するのは、主に免税事業者に戻る方が事業上のメリットが大きいと判断した場合です。たとえば、売上が1,000万円以下になり、主な取引先がインボイスを必要としない消費者や免税事業者であるケースなどが考えられます。
免税事業者に戻りたい場合
登録廃止を検討する最も一般的な理由は、免税事業者に戻りたい場合でしょう。
インボイス発行事業者として登録するということは、課税売上高にかかわらず消費税の課税事業者になることを意味します。そのため、基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円以下で本来なら免税事業者となる条件を満たしていても、登録している限りは消費税の申告と納税の義務が生じます。
登録を取り消すことで、この納税義務とそれに伴う経理の事務負担から解放される場合があります。とくに、売上が減少し、税負担が経営の重荷になっている事業者にとっては、登録廃止が有効な選択肢の一つになります。ただし、事業継続に伴う帳簿記帳などの義務は引き続き求められることがあります。
主な取引先が消費者や免税事業者になった場合
自社の主な取引先が、インボイスを必要としない相手ばかりになった場合も、登録廃止を検討するきっかけになります。
インボイス制度は、取引先(買手側)が消費税の仕入税額控除を受けるために必要な制度です。したがって、取引先が一般消費者(BtoCビジネス)や、そもそも仕入税額控除の必要がない免税事業者、または簡易課税制度を選択している事業者ばかりであれば、インボイスを発行する意味合いは薄れます。
たとえば、飲食店、美容室、学習塾、小売店といった消費者向けの事業や、取引先との関係でインボイスが不要になった場合、課税事業者であり続けるメリットが少なくなります。事業内容や取引先の変化に応じて、登録の必要性を再評価することが大切です。
事業を廃止する場合
事業そのものをやめる(廃業する)際にも、インボイス登録の廃止手続きは忘れてはならない手続きです。
個人事業主が事業をやめる際には、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出しますが、これだけではインボイス登録は取り消されません。廃業届とは別に、「インボイス廃止届」を提出する必要があります。
この手続きを怠ると、事業実態がないにもかかわらず登録情報が残り続けてしまい、後々面倒な事態を招く可能性も考えられます。廃業時には、事業に関する他の手続きとあわせて、忘れずにインボイス登録の廃止も行いましょう。
インボイス制度の登録を廃止する際の注意点
登録の取り消しは原則として課税期間の途中ではできず、取引先への影響も考えなくてはなりません。また、一度取り消すと再登録がすぐにできない場合があるため、廃止の判断は慎重に行う必要があります。
原則、課税期間の途中では取り消しできない
インボイス廃止届を提出する上で、最も注意したい点の一つが、登録取り消しの効力が発生するタイミングです。
前述のとおり、登録取り消しの効力は、届出書を提出した課税期間の「翌」課税期間の初日からとなります。つまり、思い立ったときにすぐ免税事業者に戻れるわけではありません。
たとえば、「今期から売上が大幅に減ったので、すぐにでも免税事業者に戻りたい」と考えても、その課税期間中は課税事業者として消費税を納める必要があります。
このタイムラグは、年間の納税計画や資金繰りに直接影響します。登録廃止を決断する際は、この効力発生のタイミングを正確に理解し、計画的に進めなくてはなりません。
取引先への影響と事前連絡の必要性
自社がインボイス登録を取り消すことは、取引先に直接的な影響を及ぼす可能性があります。そのため、丁寧な事前連絡が欠かせません。
登録を取り消すと、当然ながら適格請求書(インボイス)を発行できなくなります。もし取引先が課税事業者(原則課税)の場合、あなたの会社からの仕入について仕入税額控除を受けられなくなります。これは、取引先にとって実質的なコスト増を意味し、価格交渉や、最悪の場合は取引の見直しにつながることも考えられます。
こうしたトラブルを避けるためにも、登録廃止を決めた場合は、事前に主要な取引先へ連絡し、理解を求める姿勢が大切です。いつからインボイスが発行できなくなるのかを明確に伝え、今後の取引について相談することで、良好な関係を維持しやすくなるでしょう。
一度取り消すと再登録に制限がある
インボイス登録の取り消しを受けた事業者は、取り消しの通知を受けた日の属する課税期間の翌課税期間の初日以後でなければ、再度の登録申請はできません。インボイス登録の再登録には一定の制限があるのです。
つまり、登録を取り消した課税期間中は、再登録ができないルールになっています。
そうは言っても、事業の状況は変化するものです。「一度は登録を取り消したけれど、やはり課税事業者に戻りたい」と考えることもあるかもしれません。
事業計画の変更が予想される場合や、将来的に大きな課税売上が見込まれる可能性がある場合は、安易に登録を取り消すのではなく、長期的な視点で判断することが求められます。
【ケース別】個人事業主のインボイス制度廃止手続き
個人事業主がインボイス登録を廃止する場合、事業を続けながら取り消すのか、事業そのものをやめるのか、あるいは事業主が亡くなったのかによって、手続きの方法や提出する書類が異なります。それぞれの状況に応じた正しい手続きを理解しておきましょう。
事業を継続しながら登録を取り消す場合
個人事業主が事業は続けながら、インボイス発行事業者の登録だけを取り消したい場合は、通常の手続きと同じです。
納税地を所轄するインボイス登録センターへ、インボイス廃止届を提出します。提出期限や効力発生のタイミングも、これまで説明したとおり、原則として翌課税期間からとなります。事業の実態は変わらないため、他の届出はとくに必要ありません。
事業を廃止する場合の手続き
個人事業主が事業をやめる(廃業する)場合は、2種類の書類を提出する必要があります。
- 個人事業の開業・廃業等届出書:事業の廃止を税務署に知らせるための書類。
- インボイス廃止届:インボイス登録を取り消すための書類。
この2つは別々の手続きであり、廃業届を提出しただけではインボイス登録は自動的に抹消されません。廃業を決めたら、忘れずに両方の書類を提出するようにしましょう。
個人事業主が死亡した場合の手続き
事業主本人が亡くなった場合、インボイス登録の廃止手続きは相続人が行います。この場合、提出する書類が通常とは異なります。
使用するのは「インボイス廃止届」ではなく、「適格請求書発行事業者の死亡届出書」です。この届出書を、亡くなった事業主の納税地を所轄する税務署長に提出します。
相続人が事業を承継するか否かにかかわらず、事業主本人の死亡の事実を届け出ることで、登録の効力が失われます。
提出期限は「速やかに」とされており、相続の開始を知った後、できるだけ早く手続きを進めるとよいでしょう。
出典:D1-71 適格請求書発行事業者が死亡した場合の手続|国税庁
【2025年】インボイス制度に廃止の声が上がる理由
インボイス制度については、その開始前から現在に至るまで根強い廃止論があります。しかし、現時点において法的な廃止は決定していません。制度が存続することを前提に、事業者は自社の状況に合った対応をとる必要があります。
なぜインボイス制度の廃止を求める声があるのか
インボイス制度の廃止を求める声が上がる背景には、主に免税事業者や小規模事業者への負担増に対する懸念があります。
事務負担が増加するから
これまで消費税の申告義務がなかった免税事業者が課税事業者になると、適格請求書の発行・保存、消費税の計算、申告書の作成・提出といった新たな事務作業が発生します。人手が限られる小規模事業者にとって、この負担は決して軽くありません。
税負担が増加するから
免税事業者が課税事業者になることで、これまで納める必要のなかった消費税を納税する義務が生じます。これは直接的なコスト増であり、事業の収益性を圧迫する要因になりえます。
取引先から打ち切りへの懸念
インボイス登録をしない選択をした免税事業者が、取引先から値下げを要求されたり、取引を打ち切られたりするのではないかという懸念も、廃止を求める大きな理由となっています。
出典:インボイス制度に対する企業の対応状況アンケート|帝国データバンク
制度廃止に関する現在の議論と見通し
現時点では、一部の野党や市民団体からインボイス制度の廃止を求める法案が国会に提出されるといった動きは見られます。しかし、政府・与党は、消費税の複数税率下で税率と税額を正確に把握するためにインボイス制度は必要であるとして、制度を維持・定着させる方針を示しています。
したがって、近い将来に制度が完全に廃止される可能性は、現時点では低いと考えるのが現実的でしょう。ただし、事業者の負担を軽減するための激変緩和措置(2割特例など)の見直しや延長については、今後も議論が続く可能性があります。制度に関する動向は、引き続き注視していく必要があります。
事業者が今とるべき対応
制度廃止の議論があるからといって、経営判断を先延ばしにするのは得策ではありません。事業者は、インボイス制度が当面は存続するという前提のもとで、自社の対応を決定すべきです。
とるべき対応は、自社の業態、売上規模、そして何より主要な取引先の状況によって変わります。
- 取引先が課税事業者で、インボイスの発行を強く求められているか
- 自社の売上は1,000万円を超えているか、超える見込みはあるか
- 課税事業者になった場合の納税額や事務負担はどの程度か
これらの点を冷静に分析し、インボイス登録を「維持する」「新規登録する」、あるいは「廃止する」という選択を、自社の経営戦略として判断することが求められます。
インボイス制度の廃止は状況に応じた適切な手続きが重要
インボイス制度の登録を廃止(取り消し)することは、「登録の取消しを求める届出書」を提出することで可能です。しかし、その効力は原則として翌課税期間からとなり、取引先に仕入税額控除ができないといった影響を与える可能性があるため、実行する際は慎重な判断が求められます。
とくに個人事業主の方は、事業の継続、廃業、死亡といった自らの状況に応じて、とるべき手続きが異なる点を理解しておくことが大切です。
制度自体の廃止を求める議論もありますが、現時点では存続が前提となっています。事業者は目の前の制度と向き合い、自社の経営状況や取引関係をふまえた上で、登録の要否について最適な選択をしていく必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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