- 更新日 : 2024年10月17日
請求書を再発行してもらう際の法的リスク3選
請求書を再発行する要因には、入金を催促する側(発行する側)からのミスによるものや、代金を支払う側(発行してもらう側)から依頼するものなどが挙げられます。
今回は請求書を、代金を支払う側(発行してもらう側)から再発行を依頼したときに、生じることが考えられる法的リスクを紹介します。
請求書を紛失したことによる再発行
代金を支払う側(発行してもらう側)からみた場合、請求書には発注金額や発注内容との相違が確認できるだけでなく、振込するのに必要な情報を、請求書を通じて提供してもらうことによってスムーズな代金支払いが可能になります。
一方、発行する側からみた場合、請求書には「入金を穏やかに催促する役割」があり、送付することによって相手から確実に入金してもらうための効果を期待することができます。
また請求書は入金に関する役割を果たすだけでなく、「取引関係を明らかにする書類」としての役割があるため、会社は法人税法によって、個人は所得税法によって保存することが義務付けられています。
また消費税法の仕入税額控除を受ける場合は、「請求書を保存しなければならない」という要件を満たさなければなりません。
根拠条文 | 保存期間 |
---|---|
法人税法第126条、法人税法施行規則第59条 | 7年 |
所得税法第148条(青色申告)所得税法施行規則第63条 | 7年もしくは5年 |
所得税法第232条(白色申告)所得税法施行規則第10条 | 7年もしくは5年 |
消費税第30条、消費税法施行令第50条 | 7年 |
したがって請求書を紛失してしまった場合は、「振込するための情報(振込額や振込口座など)を取引先から確認し振込を完了すればよい」というだけでは事足りず、「取引先から請求書を再発行してもらわなければ、各種法令で定められている保存義務を果たすことができない」ということになります。
また、インボイス制度導入後は、消費税の仕入税額控除を受けるために適格請求書(インボイス)の発行を受け、保存する必要があるため、注意しましょう。
支払方法を変更してもらう際の再発行
契約当初は一括払いする予定だったが支払日に資金が一時的にショートしてしまうなど、やむを得ず支払えない場合に、請求金額を分割した請求書の再発行を依頼することが考えられます。
支払日までに完済できない状態は、民法第415条の債務不履行に該当します。
債務不履行の内容には、
- 支払可能であるにもかかわらず支払わない「履行遅滞」
- 支払うことができない「履行不能」
- 状況によっては完済可能となる「不完全履行」
の3種類があります。
支払日に一時的に資金がショートした場合は、資金ショートの状態が解除されれば支払うことが可能であるため、3番目の不完全履行の状態に陥っていると考えることができます。
そして資金ショートの状態が解除され支払うことが可能となった場合は、1番目の履行遅滞の状況に変更することになります。
履行遅滞となった場合はすぐにでも支払いができる状態になるため、状況によっては、法的手段を取られる可能性があります。法的手段には、裁判所が不動産を差し押さえる「強制履行」や「損害賠償請求」(取引先が遅延賠償金を請求)があります。
請求金額を分割した請求書の再発行を依頼する際に、覚書や念書などを交わす必要なども出てきますが、事態の悪化を防止するためにも必ず作成するようにしましょう。
見積もり金額と請求金額に相違がある場合の再発行
請求書に記載される金額は、原則として契約成立時の金額となります。
どの時点を以て契約成立となるかは契約内容によって異なりますが、契約書や発注書、受注書などを交わしている場合は書面に記載された金額が請求金額の根拠となります。
しかし契約書や発注書、受注書といった契約の成立を客観的に示す書類がない場合は、最終見積書の金額に拠ることになります。
相手から請求された時点で契約内容とは異なる金額を提示された場合は、契約書や発注書、受注書、見積書などといった法的紛争を予防する書類が最も有効な対抗手段となります。
口頭で契約が成立した場合であったとしても、契約書や見積書に匹敵する証拠証憑を備えておけば、法外な請求金額を提示されたときでも冷静に対処することができます。
また金額交渉段階で発行する見積書に関して代金を支払う側が、
- 取引先からの税抜き価格交渉を拒む
- 税込み価格での総額でしか取引できない様式を強要する
などの行為をした場合は、消費税転嫁対策特別措置法の違反行為となります。
これらの違反行為があると認められた場合は、公正取引委員会からの報告命令や立ち入り検査に応じなければならず、公正取引委員会のサイト上にて「具体的な違反行為」や「公正取引委員会が違反企業に対して行った勧告」などが公表されることになります。
再発行にはリスクがあることを心得ておこう
請求書を紛失した場合の再発行は、所得税法や法人税法、消費税法における保存義務が果たせないというリスクが発生します。
支払方法を変更する場合の再発行は、民法上の債務不履行に該当した場合、損害賠償請求されるリスクが発生します。
見積もり金額と異なる金額を請求された場合の再発行は、契約書や発注書などの対抗手段を備えておくことによってスムーズに交渉することができます。
取引先のミスではなくこちらの都合で再発行を依頼する場合は、先方に迷惑がかかっていることを十分に理解し、安易な気持ちで再発行を依頼しないように気をつけたいものです。
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