• 更新日 : 2025年6月20日

VTuberが法人化するメリット・デメリットは?タイミングや手続き、費用も解説

VTuber業界は日々成長し、個人で活躍する方から大手事務所に所属する方まで、その活動形態は様々です。そして、収益が増加し、事業規模が拡大するにつれて、「法人化」は多くの方が直面する重要なテーマの一つとなっています。

この記事では、VTuberが法人化するメリット・デメリットから、個人事業主との違い、法人化を検討すべき具体的なタイミング、会社設立の手順や費用、さらにはVTuberならではの注意点まで、網羅的に分かりやすく解説します。

VTuberが法人化を考えるべき理由

VTuberとしての人気が高まり、収益が増えてくると、税金の負担や社会的な信用度など、様々な課題に直面することがあります。法人化は、これらの課題を解決し、クリエイターとしての活動をさらに飛躍させるための有効な手段となり得ます。

VTuber特有の事業環境として、以下のような点が挙げられます。

  • 収益源の多様化と不安定性:スパチャ、メンバーシップ、広告収益(YouTubeの法人収益化も含む)、グッズ販売、企業案件、イベント出演など収益源は多様ですが、プラットフォームの規約変更によって収益が変動しやすい側面もあります。
  • 権利関係の複雑さ:アバターデザイン、キャラクター設定、配信コンテンツ、オリジナル楽曲など、多くの知的財産が関わります。これらの権利を誰がどのように管理するかは非常に重要です。
  • 事業拡大の可能性:個人での活動から、チームでの運営、スタッフの雇用、大規模イベントの開催、スタジオの設立など、事業が拡大していく可能性があります。

法人化することで、これらの課題に対応しやすくなり、より安定した事業運営と成長を目指せるようになります。

VTuberが法人化するメリット

法人化には多くのメリットがあります。特にVTuberの活動においては、以下のような点が有利に働くでしょう。

社会的信用の向上

  • 企業案件の獲得:法人格を有することで、企業からの信頼度が増し、大規模なプロモーション案件や継続的な契約を獲得しやすくなります。特にBtoB取引において、法人であることが取引条件となるケースも少なくありません。
  • 取引先との契約:配信プラットフォームやグッズ制作会社、イベント会社などとの契約も、法人として行うことでより有利な条件で進められる可能性があります。
  • 金融機関からの融資:事業拡大のための資金調達の際、個人事業主よりも法人の方が金融機関からの融資を受けやすい傾向があります。

節税効果の拡大

  • 所得税と法人税の税率差:個人の所得税は累進課税で所得が増えるほど税率が上がります(最大45%)。一方、法人税の税率は一定(所得800万円以下の部分は軽減税率あり)であるため、所得によっては法人の方が税負担を抑えられる可能性があります。
  • 経費計上範囲の拡大:個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がります。役員社宅制度を利用して家賃の一部を経費として計上することも可能です(一定の要件あり)。
  • 役員報酬による所得分散:自分自身や家族を役員にして役員報酬を支払うことで、所得を分散し、全体の税負担を軽減できる可能性があります。役員報酬は給与所得控除の対象にもなります。
  • 退職金制度の活用:役員退職金は退職所得として扱われるため税制上優遇されており、将来的な節税効果が期待できます。

赤字の繰越控除期間の拡大

事業年度で赤字(欠損金)が出た場合、その赤字を翌年度以降の黒字と相殺できる「繰越控除」の期間が、個人事業主の青色申告(3年間)よりも長く、法人の場合は10年間(2018年4月1日以後に開始する事業年度)となります。

決算月を自由に設定可能

個人事業主の会計期間は1月1日〜12月31日と決まっていますが、法人は自由に決算月を設定できます。繁忙期を避けるなど、事業の状況に合わせて柔軟に対応できます。

資金調達の選択肢拡大

金融機関からの融資に加え、出資(株式を発行して資金を集める)といった選択肢も増えます。これにより、大規模なプロジェクトや設備投資がしやすくなります。

事業承継の円滑化

万が一、VTuber自身が活動を続けられなくなった場合でも、法人が事業を引き継ぐことで、キャラクターやコンテンツ、ファンコミュニティなどを維持しやすくなります。個人事業の場合は相続の問題が複雑になりがちです。

社会保険への加入

法人化すると、経営者自身も厚生年金保険や健康保険に加入することになります(一定の条件あり)。これにより、国民年金や国民健康保険よりも手厚い保障を受けられる場合があります。

採用活動が有利に

動画編集者、マネージャー、イラストレーターなど、事業拡大のためにスタッフを雇用する際、法人である方が求職者からの信頼を得やすく、採用活動がスムーズに進む傾向があります。

アバター・キャラクター等の権利保護の明確化

アバターやキャラクターデザイン、ロゴ、チャンネル名などの知的財産権を法人名義で所有・管理することで、権利関係が明確になり、第三者による無断使用などからの保護がしやすくなります。

VTuberが法人化するデメリットと注意点

法人化にはメリットだけでなく、デメリットや注意点も存在します。

設立費用

株式会社の場合、定款認証手数料や登録免許税などで約20万円〜25万円程度、合同会社の場合は約6万円〜10万円程度の設立費用(法定費用)がかかります。これに加えて、司法書士などに依頼する場合は別途手数料が発生します。

維持コスト

  • 税理士・司法書士への依頼費用:複雑な経理処理や税務申告、登記変更手続きなどを専門家に依頼する場合、顧問料や手数料がかかります。
  • 社会保険料の会社負担分:役員や従業員の社会保険料の約半分を会社が負担する必要があります。
  • 法人住民税(均等割):赤字であっても、資本金等の額や従業員数に応じて法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)が発生します。

事務作業の増加

  • 経理処理の複雑化:個人事業主の会計よりも厳格な企業会計処理が求められ、記帳や決算作業が複雑になります。
  • 法人税申告:法人税、法人住民税、法人事業税などの申告が必要です。
  • 社会保険手続き:役員や従業員の入退社に伴う手続きなどが発生します。
  • 株主総会・取締役会の開催(株式会社の場合):定期的な開催と議事録の作成が必要です(小規模な会社では簡略化できる場合もあります)。

交際費の損金算入制限

個人事業主の場合は事業に関連する交際費は全額経費にできますが、法人の場合は損金として算入できる金額に上限が設けられています(資本金の額などにより異なる)。

活動の自由度

株式会社で株主が複数いる場合、経営方針について株主の意向を尊重する必要が出てくることがあります。定款で定めた事業目的の範囲内で活動する必要があります。

廃業手続き

もし事業を辞める場合、法人の解散・清算手続きは個人事業の廃業手続きよりも複雑で、費用も時間もかかります。

VTuberが法人化を検討すべき具体的なタイミング

VTuberが個人事業主から法人化するタイミングを見極めるための目安は、以下の通りです。

年間所得が800万円~1000万円を超えた場合

個人の所得税と法人税の税率を比較した際、このあたりの所得額が法人化を検討する一つの目安とよく言われます。ただし、個々の状況や適用される控除、税制改正によって最適なタイミングは変動するため、具体的なシミュレーションが必要です。ポイントとしては、課税所得(所得から各種控除を引いた後の金額)で考えることが重要です。

消費税の納税義務が発生するタイミング

個人事業主の場合、2年前の課税売上高が1000万円を超えると消費税の納税義務が発生します(インボイス制度開始による影響も考慮)。法人を新規設立すると、原則として設立から2年間は消費税が免除される場合があります(資本金1000万円未満など一定の条件あり)。この制度を利用するために法人化するケースもありますが、制度の適用には注意が必要です。

企業案件の規模・頻度が増加した時

大きな企業との取引が増えたり、継続的な大型案件を受注したりするようになると、取引先から法人格を求められることや、法人である方が契約上有利になることがあります。

複数人での活動やスタッフの雇用を考えている時

メンバーとの収益分配、権利関係を明確にするため、また、動画編集者やマネージャーなどのスタッフを雇用し、社会保険に加入させるためには、法人格があった方がスムーズです。

将来的な事業拡大(グッズ展開、イベント開催、海外進出など)を見据えている時

VTuber活動だけでなく、関連事業を多角的に展開していきたい場合、法人の方が資金調達や事業運営の面で有利になります。特に、多額の投資が必要な場合や、海外展開を視野に入れる場合は法人化が推奨されます。

VTuberの会社設立手続きの流れ

法人化を決断したら、次は手続きです。ここでは、主な会社形態である「株式会社」と「合同会社」を中心に、設立の流れと費用を解説します。

基本事項の決定

  • 商号(会社名):VTuber名、屋号、事務所名など。同一本店所在地に同一商号がないか確認
  • 本店所在地:自宅や賃貸オフィスなど
  • 事業目的:VTuber活動、動画コンテンツ企画・制作・配信、キャラクターライセンス事業、グッズ企画・制作・販売、イベント企画・運営、タレントマネジメント事業など、具体的かつ将来行う可能性のある事業も記載
  • 資本金:1円から可能。信用面や許認可の関係で一定額が必要な場合もある
  • 発起人(株式会社)/ 社員(合同会社):会社を設立する人
  • 役員(取締役など):会社の経営を行う人。個人VTuberの場合、自身が代表取締役になるケースが多い
  • 事業年度(決算期):自由に設定可能

定款の作成・認証

定款は会社の基本ルールを定めたもの。株式会社の場合は公証役場での認証が必要です。合同会社は認証不要ですが作成は必要となります。

資本金の払込

発起人/社員の個人口座に資本金を払い込みます。

登記申請書類の作成・提出

法務局に設立登記を申請します。登記申請日が会社設立日となります。

設立後の諸手続き

  • 税務署への法人設立届出書、青色申告承認申請書などの提出
  • 都道府県税事務所・市町村役場への法人設立届出書の提出
  • 年金事務所への健康保険・厚生年金保険新規適用届の提出
  • 労働基準監督署・ハローワークへの届出(従業員を雇用する場合)
  • 法人口座の開設

YouTubeやその他のプラットフォームからの広告収益やスパチャ、企業案件の報酬なども、原則として法人名義の銀行口座で受け取ることになります。

VTuberの会社設立手続きにかかる費用

VTuberの会社設立手続きにかかる概算費用は、以下の通りです。

株式会社の場合

  • 定款認証手数料:約3万円~5万円(資本金の額等によって異なる)
  • 定款に貼る収入印紙代:4万円(電子定款の場合は不要)
  • 登録免許税:資本金の額 × 0.7% (最低15万円)
  • 合計(電子定款の場合):約20万円~

合同会社の場合

  • 定款に貼る収入印紙代:4万円(電子定款の場合は不要)
  • 登録免許税:資本金の額 × 0.7% (最低6万円)
  • 合計(電子定款の場合):約6万円~

これらに加え、司法書士や行政書士に手続き代行を依頼する場合は、別途5万円〜15万円程度の手数料がかかります。

VTuberが法人化する際の重要ポイント

VTuberが法人化を成功させるためには、いくつか押さえておきたいポイントがあります。また、複雑な手続きや判断が多いため、専門家のサポートをうまく活用することが重要です。

事業目的の明確化と具体性

VTuber・YouTube活動に加え、将来的に展開したい事業(グッズ販売、イベント運営、音楽制作、キャラクターライセンス事業、タレント育成など)も幅広く記載しておくと、後々の事業展開がスムーズになります。登記後に事業目的を追加するには変更登記が必要で、費用もかかります。

役員構成

個人で活動しているVTuberが法人化する場合、自身が代表取締役になるのが一般的です。複数人でVTuberグループとして活動している場合は、メンバー構成や役割分担に応じて役員構成を検討します。

アバターやキャラクターの権利帰属

個人で所有していたアバターやキャラクターの権利を、法人設立時に法人へ譲渡する(現物出資や売買など)か、法人に使用許諾する形にするかなどを明確にしておく必要があります。契約書を作成するなど、法務面での整備も重要です。

事務所との契約形態

もしVTuber事務所を設立して他のクリエイターを所属させる場合は、所属クリエイターとの契約内容(専属契約、エージェント契約など)や収益分配、権利関係などを明確に定めた契約書を作成する必要があります。

法人登記と本名公開

法人を設立すると、会社の代表取締役の氏名や住所が商業登記簿に記載され、これは誰でも法務局で閲覧可能な「公開情報」となります。VTuberのように匿名で活動している方にとっては、本名や住所が公になるリスクがあります。完全な匿名性を維持したまま法人代表になることは困難です。対策として、信頼できる家族などを代表取締役にすることも考えられますが、その方にも相応の責任が生じます。また、バーチャルオフィスを利用することで本店所在地の住所のプライバシーはある程度保護できますが、代表者の氏名は公開されます。

VTuberの法人化を検討してみましょう

VTuberが法人化することは、節税効果、社会的信用の向上、事業拡大など多くのメリットをもたらす可能性があります。しかし、その一方で設立・維持コストや事務作業の増加といったデメリットも存在します。

最も重要なのは、一人で悩まず、税理士などの専門家に相談することです。 あなたの状況に合わせた具体的なアドバイスやシミュレーションをもとに、最適なタイミングで、法人化を選択できるようサポートしてくれるでしょう。


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