- 更新日 : 2025年9月22日
変形労働時間制の種類(1ヶ月単位、1年単位、1週間単位、フレックスタイム制)とは?
変形労働時間制は、企業の業務の忙しさに合わせて労働時間を柔軟に設定できる制度です。しかし、「種類が多くてよくわからない」「残業代が減るだけで、労働者にデメリットしかないのでは?」といった声も聞かれます。
この記事では、変形労働時間制の基本的な考え方から、1ヶ月単位、1年単位、1週間単位、フレックスタイム制という4つの種類の特徴、そして導入の注意点までわかりやすく解説します。
目次
そもそも変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、一定期間(1ヶ月や1年など)を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間である週40時間を超えない範囲で、特定の日や週に法定労働時間を超えて働かせることができる制度です。
通常、1日8時間・週40時間を超えると時間外労働、つまり残業となり割増賃金が必要です。しかしこの制度を適用すると、忙しい日の所定労働時間を10時間、閑散期の日を6時間といったように、柔軟な設定ができます。これにより、業務の繁閑に合わせて効率的に人員を配置し、全体の労働時間を管理することがこの制度の目的です。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制には、対象となる期間や設定方法によっていくつかの種類があります。ここでは代表的な4つの種類について、それぞれの特徴を解説します。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月以内の期間を平均し、週の労働時間が40時間を超えないように調整する制度です。月初の繁忙期は所定労働時間を長くし、月末の閑散期は短くするといった運用ができます。例えば、月初に業務が集中する経理部門や、月末に締め切りがある制作会社などで活用されています。
導入には、労使協定または就業規則で、対象期間や各日の労働時間を具体的に定める必要があります。比較的短い期間の繁閑に対応しやすく、多くの業種で導入されているのが特徴です。
1年単位の変形労働時間制
1ヶ月を超え1年以内の期間を平均し、週の労働時間が40時間を超えないようにする制度です。季節によって業務量が大きく変動する業種で主に採用されています。労働日数の上限が年間280日であること(対象期間が3ヶ月を超える場合)や、1日・1週間の労働時間にも上限が定められており、労働者への負担が大きくなりすぎないような配慮が求められます。
導入には、労働者の過半数で組織する労働組合などとの間で労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
従業員数30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店といった特定の事業において、週単位で労働時間を調整できる制度です。1週間の労働時間を40時間以内に設定すれば、1日10時間まで労働させることが可能です。
事前の就業規則や労使協定による詳細な労働時間の設定は不要ですが、少なくともその週が始まる前までに、労働時間を書面で労働者に通知しなければなりません。日々の天候や予約状況によって業務量が変動しやすい小規模事業の実態に合わせた仕組みです。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、他の変形労働時間制とは少し異なり、一定の期間(清算期間、最長3ヶ月)について定められた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業時刻と終業時刻を自分で決定できる制度です。必ず勤務すべき時間帯であるコアタイムと、いつ出退勤してもよいフレキシブルタイムを設けるのが一般的です。
研究開発職やデザイナーなど、個人の裁量で仕事を進める職種に向いています。労働者の自主性を重んじ、仕事と生活の調和を図る働き方です。
変形労働時間制の具体的な活用例
変形労働時間制が実際にどのように活用されているのか、具体的な例を見てみましょう。
1ヶ月単位の変形労働時間制の例
工場の製造ラインでは、月の前半に受注が集中する場合、月初から2週間は所定労働時間を9時間とし、後半2週間は7時間と設定します。これにより、繁忙期に合わせて労働力を確保しつつ、月全体で労働時間を調整します。
また、24時間体制の警備業では、「日勤(8時間)→夜勤(16時間)→明け休み→公休」といった不規則なシフトを組む際にこの制度を活用し、1ヶ月間の総労働時間が法定の範囲内に収まるようにします。
1年単位の変形労働時間制の例
年末商戦のある百貨店では、11月〜12月の所定労働時間を1日8.5時間などに長く設定する一方、客足が落ち着く2月や8月は1日7時間などに短く設定します。これにより、季節の需要変動に効率良く対応します。
夏が繁忙期のリゾートホテルでは、利用客が最も多い夏休み期間(7月〜8月)は週6日勤務の日を設けるなど労働時間を長くします。その代わりに、閑散期である秋から冬にかけて長期休暇を取得できるようにし、従業員の満足度向上を図ります。
1週間単位の非定型的変形労働時間制の例
週末に混雑する小規模な飲食店では、天候や予約状況で来客数が変動しやすい飲食店で活用されます。例えば、週の初めに「今週は金曜日と土曜日が忙しくなりそうなので、この2日間の所定労働時間は10時間、代わりに火曜日と水曜日は6時間にします」と従業員に書面で通知します。これにより、事前の計画が難しい急な繁閑に対応します。
フレックスタイム制の例
IT企業のソフトウェアエンジニアでは、全員が参加必須の会議や打ち合わせがある時間帯を「コアタイム」(例: 午前11時〜午後3時)と定めます。それ以外の「フレキシブルタイム」(例: 午前7時〜11時、午後3時〜夜10時)の間で、いつ働き始めるか、いつ仕事を終えるかをエンジニアが自由に決めます。個人の集中しやすい時間に合わせて働くことで、生産性の向上を目指します。
変形労働時間制の注意点
柔軟な働き方を実現する変形労働時間制ですが、導入と運用には注意すべき点が存在します。デメリットを正しく理解し、適切な対策を考えることが不可欠です。
残業代の計算方法が変わる
変形労働時間制を導入すると、あらかじめ定めた所定労働時間や法定労働時間の総枠を超えた部分が初めて残業として扱われるため、結果的に残業代が減ることがあります。これが、デメリットしかないと言われる大きな理由です。例えば、1日の所定労働時間が10時間と定められた日に10時間働いても、残業代は発生しません。
しかし、これは制度が正しく運用されている場合の話です。定められた所定労働時間を超えたり、週の平均労働時間が40時間を超えたりした場合は、当然割増賃金の支払い義務が生じます。制度が労働者にとって不利益とならないよう、事前の十分な説明と合意形成が大切です。
導入には厳格な手続きが必要
変形労働時間制を導入するには、就業規則への規定や労使協定の締結など、種類に応じた厳格な手続きが必要です。
特に注意すべきは36協定(サブロク協定)との関係です。変形労働時間制は、あくまで労働時間をやりくりする制度です。そのため、変形労働時間制によって定められた所定労働時間を超えて労働させる場合や、法定休日に労働させる場合には、時間外労働・休日労働に関する協定、いわゆる36協定の締結・届出が別途必要です。この手続きを怠ると法律違反となり罰則の対象となるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めるべきです。
勤怠管理が複雑になる
日や週によって所定労働時間が異なるため、勤怠管理が非常に複雑になります。どの労働が時間外労働にあたるのかを正確に把握し、給与計算に反映させるための仕組み作りが欠かせません。
また、労働者にとっては、勤務時間が不規則になることで生活リズムが乱れやすくなるという負担も考えられます。特に1年単位の変形労働時間制では、特定の時期に長時間労働が集中し、心身の健康に影響を及ぼす危険性もあります。会社側は、労働者の健康状態に十分配慮し、無理のないシフトを作成する責任があります。
自社に合った変形労働時間制の種類を選択しましょう
変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて労働時間を効率的に配分し、企業の生産性向上と労働者の仕事と生活の調和を目指す制度です。1ヶ月単位、1年単位、フレックスタイム制など、その種類は多岐にわたり、それぞれ特徴や導入要件が異なります。
しかし、制度への理解が不十分なまま運用すると、労働者に不利益を与え、トラブルの原因となりかねません。重要なのは、自社の事業内容や業務の特性を正確に把握し、どの制度が最も適しているかを見極めることです。導入を検討する際は、労働者への丁寧な説明と合意形成を徹底し、勤怠管理体制を整備した上で、専門家である社会保険労務士などに相談しながら進めることが成功の道筋です。
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