- 更新日 : 2025年9月22日
みなし労働時間制とは?メリット・デメリットや残業代、違法性もわかりやすく解説
みなし労働時間制という言葉を聞いたことがあっても、詳しい内容までは知らないという方は多いかもしれません。
この制度は、外回り営業や在宅勤務のように、会社が従業員の正確な労働時間を把握しにくい場合に、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす仕組みです。柔軟な働き方ができる一方、運用を間違えると違法になったり、残業代が支払われなかったりする問題につながることもあります。
この記事では、みなし労働時間制の基本から種類、メリット・デメリット、そして多くの人が気になる残業代や違法性の問題まで、わかりやすく解説します。
目次
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制は、タイムカードなどで記録された実際の労働時間ではなく、労使であらかじめ決めた時間をその日の労働時間とする制度です。例えば、1日8時間とみなす契約なら、実際に働いたのが7時間でも9時間でも、給与計算上は8時間働いたことになります。
みなし労働時間と実労働時間の違い
実労働時間とは、仕事を開始してから終えるまでの時間から、休憩時間を引いた実際の労働時間です。これに対し、みなし労働時間は、実際の労働時間に関係なく、契約で決められた労働時間を指します。
みなし労働時間制とみなし残業の違い
みなし労働時間制は労働時間の決め方のルールです。一方、みなし残業は給与の支払い方のルールで、毎月一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度を指します。両者は全く別の制度ですが、みなし労働時間制が適用される従業員に、みなし残業代が支払われることもあります。
みなし労働時間制の種類
みなし労働時間制は、対象となる業務の性質によって、大きく3つの種類に分けられます。
事業場外みなし労働時間制
従業員が会社の外で業務に従事し、使用者が労働時間を具体的に把握することが難しい場合に適用される制度です。例えば、外回りの営業職、在宅勤務、出張先での業務などが典型例です。ただし、単に社外で働いているだけでは適用できません。上司からの指示を携帯電話で随時受けながら仕事をするなど、使用者が労働時間を管理できる状況では、この制度の対象外となります。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、厚生労働省令で定められた20の専門的業務が対象となっています。これらの業務は、その性質上、仕事の進め方や時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があります。そのため、実労働時間ではなく、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなします。この制度を導入するには、労使協定の締結が必要です。
企画業務型裁量労働制
企業の事業運営に関する企画、立案、調査、分析といった、いわゆるホワイトカラーの業務が対象です。本社などで、事業の重要な決定に影響を与える業務に従事する労働者に適用されます。
企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会の設置と5分の4以上の賛成による決議、決議内容の所轄労働基準監督署長への届出、年1回(初回6ヶ月)の定期報告や健康・福祉確保措置の実施などが必要で、手続きが専門業務型よりも厳格とされています。
みなし労働時間制のメリット
みなし労働時間制は、労働者と会社双方に次のようなメリットがあります。
- 自分のペースで働ける
労働時間の管理を自分で行うため、仕事の進め方や休憩のタイミングを自由に調整できます。 - 効率的に働けば時間を有効活用できる
決められたみなし労働時間より早く業務を終えられた場合でも、給与は変わりません。そのため、仕事を早く終えてプライベートの時間を確保するといった働き方が可能です。
- 従業員の自主性と生産性の向上
従業員の裁量が大きくなることで、自主性が育まれ、仕事へのモチベーションや生産性の向上につながる可能性があります。
みなし労働時間制のデメリットと注意点
柔軟な働き方を支える一方で、次のようなデメリットや注意点も存在します。
- サービス残業につながるリスクがある
労働時間の統制が不十分な場合には未払い残業が発生しやすく、サービス残業の温床となるおそれがあります。
みなし労働時間制における残業代の取り扱い
みなし労働時間制でも、残業代が全く発生しないわけではありません。以下のケースで割増賃金の支払いが必要です。
- みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
法定労働時間は1日8時間、週40時間です。これを超えてみなし労働時間を設定する場合、超えた時間分は時間外労働となり、割増賃金(残業代)の支払いが必要です。 - 業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合
所定労働時間を8時間と定めていても、当該業務の遂行に10時間かかるような場合には、所定労働時間は10時間と算定され、法定労働時間を超過する部分について割増賃金の支払いが必要です。 - 深夜労働
午後10時から午前5時までの深夜に働いた場合、深夜労働に対する割増賃金が別途支払われなければなりません。 - 休日労働
労働基準法で定められた法定休日に働いた場合も、休日労働に対する割増賃金が必要です。
みなし労働時間制の違法性と36協定との関係
次のようなケースでは、みなし労働時間制の適用が違法となることがあります。
- 対象外の従業員への適用
タイムカードなどで労働時間を簡単に管理できる社内の事務職などに適用することはできません。 - 実質的に労働時間を管理している
事業場外みなし労働時間制において、実際には上司が頻繁に指示を出すなどして労働時間を管理しているにもかかわらず、制度を適用し続けることは不適切です。 - 36協定を結ばずに法定時間を超えさせている
36協定を締結・届出せずに、法定労働時間を超えるみなし時間の設定や、休日労働をさせることは違法です。
36協定は、従業員に法定労働時間を超えて働いてもらう場合や、法定休日に働いてもらう場合に必ず必要な労使間の取り決めです。
みなし労働時間として設定する時間が法定労働時間を超える場合や、業務の都合で時間外労働や休日労働が発生する可能性がある場合には、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。これがなければ、そもそも法定時間を超えるみなし時間の設定はできません。
みなし労働時間制に関してよくある質問
みなし労働時間制の運用にあたっては、残業代や違法性について多くの疑問が寄せられます。ここでは、特に質問の多い項目についてQ&A形式で回答します。
みなし労働時間が10時間でも問題ない?
契約自体が直ちに違法となるわけではありません。ただし、この契約は法定労働時間の8時間を2時間超えています。したがって、この2時間分については時間外労働として、割増賃金(残業代)が給与に正しく含まれている必要があります。もちろん、この運用を行う大前提として、36協定の締結と届出が完了していなければなりません。
在宅勤務なら、すべて事業場外みなし労働時間制になる?
いいえ、チャットツールやWeb会議システムで常に上司の指示を受け、労働から自由に離れることが認められないなど、会社が労働時間を管理できる状態であれば対象外です。制度を適用できるのは、労働時間の算定が困難な場合に限られます。
みなし労働時間制について理解しましょう
この記事では、みなし労働時間制の仕組みや種類、残業代の考え方などを解説しました。この制度は、労働時間の管理が難しい業務において、効率的な働き方を促すためのものです。しかし、誤った運用は長時間労働やサービス残業につながる危険性も抱えています。
働く側は、自分の契約内容を確認し、みなし労働時間が業務量に見合っているか、超過分の賃金が正しく支払われているかを見ることが大切です。会社側も、制度の適用条件を正しく理解し、適切な運用を心がける必要があります。みなし労働時間制についての正しい知識を持つことが、健全な労働環境を守る第一歩です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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