• 更新日 : 2026年7月7日

人的資本開示における必須のKPIを紹介!大手企業の公開するKPI事例も

Point人的資本開示のKPIは何を設定すべき?

人的資本開示のKPIは、義務3項目(女性管理職比率・育児休業取得率・男女間賃金格差)と推奨7項目を軸に設定します。

  • 義務KPIは3項目、推奨は7カテゴリ
  • KPI選定は伊藤レポート等3資料が参考になる
  • 独自KPIで経営戦略との連動を示せる

Q. 人的資本開示で必ず開示すべきKPIは?
A. 女性管理職比率・育児休業取得率・男女間賃金格差の3つが義務化されています。

近年、企業経営において、人をコストではなく資本と捉える考え方が主流となり、人的資本開示の重要性が高まっています。

しかし、「なぜ人的資本開示においてKPIが重要なのか」「具体的にどのようなKPIを設定・公開すればいいのか」と悩んでいる人もいるでしょう。

本記事では、人的資本開示において開示が義務化・推奨されているKPIの具体例を紹介します。また、KPIを選択する際に参考となる資料や独自KPIを設定する企業の事例についてもまとめています。

そもそも人的資本開示においてKPIの掲載が求められる理由

まずは、人的資本開示においてKPIの掲載が必要な理由を解説します。

人的資本について詳しく知りたい人は、以下の記事もご参照ください。

投資家が企業を評価・比較しやすくなるため

KPIの掲載は、外部の投資家たちにメリットがあります。

企業が人材戦略の重要性を言葉でアピールするだけでは、外部の投資家はその企業の実態を正しく判断できません。

定量的かつ客観的なデータを示すことで、投資家は複数の企業を横並びで比較・評価できるようになり、投資判断もしやすくなります。

なお、2023年3月期決算より、特定の上場企業に対して人的資本の情報開示が義務付けられました。以下の有価証券を発行する企業は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出しなければなりません。

  • 金融商品取引所に上場されている有価証券
  • 店頭登録されている有価証券
  • 募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
  • 所有者数が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券および株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)および所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額が1億円未満のものを除く。)

出典:企業内容等開示(ディスクロージャー)制度の概要|財務省関東財務局

採用市場において客観性を担保するため

KPIは、採用活動の際にも役立ちます。

求職者が企業を選ぶ際、公式サイトや求人票に「アットホームな職場」「女性が活躍中」といった言葉が並んでいるだけでは、会社の実態が掴みにくいです。

そこで、「女性管理職比率」「有給休暇取得率」「平均残業時間」などを具体的な数字として提示することで、求職者にわかりやすく実態をアピールできます。

クリーンなデータを開示している企業として、求職者から信頼してもらいやすくなるうえ、知名度に依存しない採用ブランディングの強化にも期待できるでしょう。

経営戦略と人事戦略が連動していることを証明するため

KPIは、経営戦略と人事戦略の連動を証明する際にも有効です。

企業が掲げる経営目標に対して、人事戦略が組織として本当に機能しているかを外部に示すためには、根拠となるデータが欠かせません。

たとえば「DX人材の育成数」や「海外拠点のローカルリーダー比率」といった独自のKPI推移を示すことで、経営戦略と実際に連動していることを明瞭にアピールできます。

また、目標に対する進捗を数字で可視化することは、社内で組織改善のPDCAを回し、経営陣に対して人事施策の効果を論理的に説明・報告するためにも不可欠です。

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人的資本開示において掲載が義務化されているKPI

ここでは、人的資本開示において掲載が義務となっているKPIを3つ紹介します。

人的資本の情報開示について詳しく知りたい人は、以下の記事をご参照ください。

女性管理職比率

女性管理職比率とは、管理職に占める女性労働者の割合を示す指標であり、組織におけるジェンダーの多様性を測るために必須の項目です。

この指標は、多様な価値観や視点を経営の意思決定に反映できていることを客観的に示すためにも重要です。管理職に女性が加わることで、多角的な視点をもった組織であることをアピールできます。

ただし、実務において開示書類を作成する際は、単に現在の実績数値を載せるだけでは十分とは言えません。

現状の課題感や今後の明確な数値目標、登用に向けた具体的な育成計画などをセットで記載することで、ステークホルダーに対する説得力が増します。

育児休業取得率

育児休業取得率は、主に男性社員がどれくらいの割合で育児休業を取得したかをあらわす指標です。

この指標によって、男性の育児参加に対する組織的なバックアップ体制や、周囲が業務をカバーし合える環境などが整っていることを客観的に示せます。

育児休業を取得できる組織ということを示せれば、結果として持続可能な働き方を推進していることもアピールできます。

これに加えて、育児休業の平均取得日数などの詳細な数値も補足することで、制度が形骸化していないことも明確に証明できるでしょう。

男女間賃金格差

男女間賃金格差とは、男性の平均年間賃金を100とした場合の女性の平均年間賃金の割合を「正規雇用」「非正規雇用」などの雇用形態ごとに示す指標です。

女性活躍推進法の改正により、2022年7月から一定規模以上の企業に公表が義務付けられました。賃金格差を可視化することで、男女格差を解消することを目的としています。

もし、数値に大きな格差があっても、即座に悪質な企業とみなされるわけではありません。その格差が生まれている構造的な理由を分析し、改善していくことが重要です。

格差を縮小するための具体的な人事施策をセットで示せば、企業の誠実な姿勢を伝えられるでしょう。

人的資本開示において掲載が推奨されているKPI

ここでは、内閣官房の「人的資本可視化指針」において、開示が推奨されているKPIを7つ紹介します。

人材育成

人材育成とは、従業員のスキルアップや長期的なキャリア形成に対して、企業がどれだけのコストを投資しているかを示す指標です。

具体的なKPI例は以下のとおりです。

  • 研修時間
  • 研修費用
  • パフォーマンスとキャリア開発につき定期的なレビューを受けている従業員の割合
  • 研修参加率
  • 複数分野の研修参加率
  • 研修と人材開発の効果
  • 人材確保・定着の取り組みの説明
  • スキル向上プログラムの種類・対象

経営戦略を達成するために、どのようなスキルをもった人材をどう育てているかを可視化できます。

また求職者にとっても、成長できる環境が整備されるかを判断しやすくなります。

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは、従業員が自社に対してどれだけの愛着や貢献意欲をもって働いているかを測る指標です。

この指標で取得したデータは、生産性の向上や離職率の低下などにも活用でき、組織としての健全さや心理的安全性をアピールするための指標にもなります。

また、単に従業員の満足度を示すだけでなく、企業の持続的な成長や将来の業績を予測する先行指標として、投資家からも注目されています。

流動性

流動性とは、社内外の人材の移動がどのくらい活発に行われ、適切な配置がなされているかを示す指標です。

具体的なKPI例として、以下の項目が挙げられます。

  • 離職率
  • 定着率
  • 新規雇用の総数・比率
  • 離職の総数
  • 採用・離職コスト
  • 人材確保・定着の取り組みの説明
  • 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
  • 後継者有効率
  • 後継者カバー率
  • 後継者準備率
  • 求人ポジションの採用充足に必要な期間

優秀な人材を惹きつける採用競争力があることを証明できるほか、組織が硬直化せず常に変化に対応できる柔軟性があることもアピールできます。

とくに後継者有効率や採用充足の準備期間などは、経営の持続性を示すための有効な材料となるでしょう。

ダイバーシティ

ダイバーシティとは、性別・国籍・年齢などに捉われず、多様なバックグラウンドをもつ人材が活躍できているかを示す指標です。

具体的なKPI例として、以下の項目が挙げられます。

  • 属性別の従業員・経営層の比率
  • 男女間の給与の差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェア
  • 育児休暇の後の復職率・定着率
  • 男女別育児休暇取得従業員数
  • 男女従業員別家族関連休業取得比率
  • 男女間賃金格差を是正するために事業者が講じた措置

多様な視点を採り入れていることを示せれば、新しいイノベーションが生まれやすい組織風土が形成されているとアピールできます。

また、持続可能性を重視する投資家や公平なキャリア形成を望む求職者から、信頼を得やすくなるでしょう。

健康・安全

健康・安全とは、従業員が心身ともに健康で、安全に働ける職場環境が整っているかを示す指標です。

具体的なKPI例として、以下の項目が挙げられます。

  • 労働災害の発生件数・割合、死亡数
  • 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
  • 安全衛生マネジメントシステム導入の有無、対象となる従業員に関する説明
  • 健康・安全関連の取り組みの説明
  • 労働災害関連の死亡率
  • ニアミス発生率
  • 労働災害による損失時間
  • 安全衛生に関する研修を受講した従業員の割合
  • 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
  • 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明

上記を可視化することで、突発的に起こる業務停止や損害賠償といった経営リスクに備えられていることを証明できます。

いわゆる健康経営への取り組み度合いを示す数字でもあるため、求職者に対して安心して長く働ける会社だという安心感も与えられるでしょう。

労働慣行

労働慣行とは、労働時間や休日などの労働環境全般が適正かつクリーンに保たれているかを示す指標です。

具体的なKPI例として、以下の項目が挙げられます。

  • 団体労働協約対象の従業員割合
  • 結社の自由や団体交渉権利などの説明
  • 業務停止件数

従業員が無理なく働き続けられる持続可能な職場であることを客観的に伝えられます。

労務トラブルのリスクが低く安定した経営基盤をもつ会社として、投資家からの信頼も得やすくなるでしょう。

コンプライアンス

コンプライアンスとは、法令遵守や企業倫理、ハラスメント防止などの体制が社内にどれだけ浸透しているかを示す指標です。

具体的なKPI例として、以下の項目が挙げられます。

  • コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
  • 深刻な人権問題件数
  • 人権レビューの対象となった事業所の総数・割合
  • 差別事例件数・対応措置
  • 児童労働・強制労働に関する説明
  • 懲戒処分の件数と種類
  • 苦情の件数
  • サプライチェーンにおける社会的リスクの説明

不祥事による企業価値の失墜リスクが低いこと、自浄作用のある誠実な経営を行っていることを、投資家や取引先に証明できます。

見えにくい社会的なリスクを排除できているとして、競争優位性も示せるでしょう。

会社に合ったKPIを選択するときに参考となる資料

自社に最適なKPIを選択する際は、国や国際機関が提示している、以下の3つの資料を参照するのがおすすめです。

  • 経済産業省『人材版伊藤レポート2.0』
  • 国際標準化機構『ISO 30414』
  • 内閣官房『人的資本可視化指針』

『人材版伊藤レポート2.0』は、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践すべきか、その具体的なアクションやKPIの考え方を解説した代表的なガイドラインです。

『ISO 30414』は、人的資本に関する情報開示の国際規格です。グローバル基準で自社の組織状態を客観的に評価・可視化するための58の指標が定義されています。

『人的資本可視化指針』は、企業が人的資本に関する情報を、有価証券報告書などで開示する際の基本的な考え方や開示が望ましい項目を体系的にまとめた指針です。

人的資本可視化指針について詳しく知りたい人は、以下の記事をご参照ください。

独自のKPIを開示している企業の事例

最後に、独自のKPIを開示している企業を3つ紹介します。

出典:「人的資本、従業員の状況」の開示例|金融庁

株式会社日立製作所

日立製作所の事例は、「人的資本、従業員の状況」の開示例において、高く評価されています。

同社は「デジタル人財の確保・育成」をKPIとして設定し、目標に対する進捗を明確に開示しています。

また、「従業員エンゲージメント強化」や「多様な視点の推進」も目標値と実績値を並べて記載しているのが特徴です。

具体的な数値だけでなく、外部評価の活用や経営部門との連携体制を明記し、目標に向けたプロセスを明確に示している点が評価されています。

株式会社NTTデータグループ

NTTデータグループも、金融庁の資料において好例として取り上げられている企業のひとつです。

同社は独自の育成・認定指標を用いており、「プロフェッショナルCDPの新規認定者数」や「グローバル経営人財育成プログラム新規修了者数」をKPIとして設定しています。

人材への投資が企業価値へどうつながるかをアウトカムとして可視化し、経営戦略と連動した人材育成が着実に実行されていることを示している点が好例とされています。

株式会社カプコン

ゲーム会社ならではのKPIを設定・開示している企業として注目されているのが、株式会社カプコンです。

同社は開発力が企業競争力に直結するため、従業員数や新卒採用者数における開発職の人数などを具体的なKPIとして開示しています。

自社のビジネスモデルの根幹に関わる人材への投資を明確な数値として示すことで、その指標が自社にとって重要であることが可視化されている点が、評価されています。


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