• 更新日 : 2026年1月20日

給与未払いの時効はいつ?一部請求や罰則、倒産時の対応を徹底解説

給与未払いの時効は、2020年の法改正により、賃金請求権については支払日から原則5年(当分の間は3年)、退職金は5年とされています。給与の支払いが定められた期日より1日でも遅れれば、それは給与未払いです。

給与の未払いは故意・過失を問わず、企業には刑事罰のリスクが、従業員から賃金の支払い請求を受ける可能性があります。

企業の経理担当者や経営者は、正確な勤怠管理と資金計画でこれを防ぐ責務があります。本記事では、未払いの定義や具体的なケース、計算ミス時の実務対応、時効、そして倒産時の救済措置について詳しく解説します。

給与の未払いとは?

就業規則などで定められた給与支給日を1日でも過ぎれば、その時点で給与未払いとなります。

労働基準法第24条では「賃金支払いの5原則」が定められており、その一つに「一定期日払いの原則」があります。これに基づき、会社は毎月決まった日に賃金を支払う義務を負っています。「数日待ってほしい」「来週には払える」といった会社側の事情は法的には通用しません。

参照:労働基準法第24条(賃金の支払)|e-Gov法令検索

どのようなケースが未払いに該当するか

資金不足による全額未払いだけでなく、一方的な減額や残業代の不支給、計算ミスによる不足もすべて「給与未払い」に該当します。また、着替えや引き継ぎなど労働時間としてカウントされていない時間も含まれます。

以下のような事例が給与未払いとして問題になります。

① 明らかな不払い・減額のケース

  • 期日に全額が支払われない:
    給料日が過ぎても口座に振り込まれない、または「分割払いにしてほしい」と言われる。
  • 一方的な減額:
    「経営が苦しいから」という理由で、従業員の同意なく給与をカットされた。
  • 退職金の不払い:
    就業規則や退職金規定に支給の記載があるにもかかわらず、退職時に支払われない。
  • 罰金としての天引き:
    ノルマ未達や備品の破損を理由に、給与から罰金や損害賠償分を勝手に差し引く。

② 「労働時間」として扱われていないケース

以下のような場合も、会社の指示で行っている場合は労働時間に含まれます。これらが給与計算から漏れている場合、未払い賃金が発生します。

  • 着替え・更衣時間:
    制服や作業着、保護具への着替えが社内で義務付けられている場合、その時間は労働時間です。
  • 始業前の掃除・朝礼:
    「始業15分前には来て掃除や朝礼に参加すること」が慣習やルールになっている場合。
  • 業務の引き継ぎ:
    シフト交代制の職場などで、始業前や終業後に次番の担当者へ申し送りをする時間。
  • 休憩中の電話番・来客対応:
    休憩時間中であっても、電話や来客対応のために席を離れられない(自由に外出できない)状態は「手待時間」として労働時間に含まれます。
  • 強制参加の研修・セミナー:
    業務命令として参加を強制されている研修時間は、休日や時間外であっても労働時間です。

③ 計算ミス・ルールの誤用ケース

  • 残業代の計算ミス:
    タイムカード上の労働時間に対して残業代が計算されていない、あるいは「みなし残業」を超えた分が支払われていない。
  • 手当の除外:
    残業代の単価(基礎賃金)を計算する際、役職手当や資格手当などを除外して計算している。
  • 金額の入力ミス:
    経理担当者の入力ミスや計算間違いにより、本来の金額より少なく支払われた。

違法となる法的根拠(賃金支払いの5原則)

給与未払いが違法とされる根拠は、労働基準法第24条に定められた「賃金支払いの5原則」にあります。

以下の5つの原則のいずれかに反する場合、違法な未払い状態とみなされます。

原則内容法令違反となる例
1. 通貨払いの原則現金(同意を得た場合は口座振込)で支払う給与の代わりに自社商品や現物を支給する
2. 直接払いの原則労働者本人に直接支払う本人の親や代理人に渡す(使者への手渡しは例外的に可)
3. 全額払いの原則税金・保険料など法令で定められたもの以外は全額払う弁償代や罰金を勝手に天引きする、端数を切り捨てる
4. 毎月1回以上払いの原則毎月少なくとも1回支払う2ヶ月に1回まとめて支払う
5. 一定期日払いの原則期日を特定して支払う「毎月第4水曜日」「毎月25日~末日の間」など幅を持たせる

特に「3. 全額払いの原則」は、たとえ従業員が会社に損害を与えたとしても、給与からその分を相殺(天引き)することは原則として禁止されています。

給与未払いに関する調査データ

厚生労働省が公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)」によると、賃金不払いが疑われる事案は22,354件にのぼりました。そのうち、監督署の指導によって実際に支払いが行われたのは21,495件です。解決率は96%であり、これらの事案の多くでは、監督署の指導により未払い賃金の支払いが行われていることが示されています。

業種別の傾向を見ると、件数では商業(20%)や製造業(19%)が多い一方、金額ベースでは運輸交通業が全体の41%(約70億円)を占めており、1件あたりの未払い額が大きくなりやすい傾向があります。

違反事例としては、始業前の清掃時間を労働時間としてカウントしていない場合や、割増賃金の計算基礎から手当を除外していたことなどが挙げられます。

いずれも是正指導により過去に遡って差額が支払われました。なお、是正勧告に従わず未払い賃金を所定支給日に支払わないなどの悪質なケースでは、書類送検も実施されています。

参照:賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します|厚生労働省

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給与計算ミスなど一部未払いの対応は?

計算ミスなどにより給与の一部が未払いとなった場合、会社は気づいた時点で速やかに不足分を支払い、対象となる従業員へ誠実に謝罪・説明する必要があります。

故意ではない事務的なミス(入力間違い、残業時間の集計漏れなど)であっても、法的には「賃金の全額払いの原則」に違反した状態です。以下の手順で対応します。

  1. 事実確認:計算ミスの原因と影響範囲(対象者、金額)を特定する。
  2. 本人への通知:対象となる従業員に事情を説明し、謝罪する。
  3. 支払いの実行:
    • 原則:もっとも早いタイミング(即時振込など)で不足分を支払う。
    • 例外(翌月調整):金額が少額であり、かつ従業員本人の明確な同意が得られる場合は、翌月の給与に合わせて支払うことも実務上は行われる。ただし、同意書などで記録を残すことが望ましい。
  4. 再発防止策の実施:チェック体制の見直しやシステムの修正を行う。

来月にまとめて支払うなど、会社側が一方的に判断するのは避けましょう。従業員の生活に関わる問題であり、不信感を招く原因になります。

給与明細の誤りを防ぐための確認体制を整備する

企業としては、給与明細の内容に誤りがないかを従業員が確認できる体制を整えておくことが重要です。仮に金額の相違等について従業員から指摘があった場合には、まず事実確認を行い、計算ミス等が判明した場合には速やかに是正することが求められます。

計算誤りは、担当者自身が気づいていないケースも少なくありません。従業員からの申し出をきっかけとして円滑に解決することも多いため、相談しやすい環境づくりが望まれます。

特に、次のような点で誤りが生じやすいため、社内でのチェックが重要です。

  • 基本給や手当の額が変わっていないか。
  • 残業時間数と残業代の計算が合っているか。
  • 控除(天引き)されている項目に見覚えのないものがないか。

従業員からの口頭連絡のみでは履歴が残りにくいため、必要に応じて書面等でやり取りを記録しておくことも有効です。

給与未払いの時効と企業が留意すべきポイント

労働基準法の改正により、2020年4月1日以降に支払日が到来する給与の未払い請求権の時効は5年に延長されました(当分の間は3年)。

以前の時効は2年でしたが、現在は以下のようになっています。

賃金の種類時効期間備考
通常の給与・残業代5年当面の間は3年
退職金5年以前から変更なし
災害補償など2年以前から変更なし

2020年3月31日以前に支払日が到来していた給与については、旧法の「2年」が適用されます。すでに時効が完成している分については、原則として請求できません。

時効の起算日

時効期間のカウントは、本来給与が支払われるはずだった日(給料日)の「翌日」からスタートします(起算日)。

法律上、期間の初日は算入しない(初日不算入の原則)ため、給料日の翌日から数えてちょうど3年が経過する日の終了をもって時効が完成します。

【具体例:給料日が毎月25日の場合】
  • 本来の給料日:2023年1月25日
  • 時効の起算日:2023年1月26日
  • 時効が完成する日:2026年1月25日 ※2026年1月25日の24時を過ぎると、時効により請求権が消滅します。

企業としては、未払いが判明した場合、対象期間と金額を正確に把握したうえで、速やかに精算を行うことが重要です。

催告による時効停止

内容証明郵便による請求(催告)が行われた場合、最大6ヶ月間、時効の進行が停止します。請求を受けた際には、事実関係を確認したうえで、請求書面の到達日などを記録しておくことが望まれます。

参照:未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省

給与未払いが発生した企業への罰則とは?

悪質な給与未払いは、労働基準法第24条違反として30万円以下の罰金が科されることがあります。これに対して、残業代(割増賃金)を支払わない場合は、労働基準法第37条違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金といった、より重い罰則の対象になります。

労働基準監督署の度重なる是正勧告を無視したり、虚偽の報告をしたりするなど、悪質性が高いと判断された場合は、事業主や担当者が書類送検され、刑事裁判にかけられることもあります。

通常は労働基準監督署(特別司法警察職員の権限を持つ)が捜査を行いますが、事案によっては警察と連携することもあります。

また、最低賃金を下回っている場合は、最低賃金法第40条違反として50万円以下の罰金となる場合もあります。

参照:労働基準法第120条(罰則)|e-Gov法令検索

遅延損害金と付加金の支払い義務

未払い期間が長引くと、未払い賃金そのものに加えて「遅延損害金」や、裁判所から命じられる「付加金」を支払わなければなりません。

企業にとっては、未払い額以上の金銭的負担が発生します。

  1. 遅延損害金:
    • 在職中:年3%(民法上の法定利率と同じ。3年ごとに見直しあり)
    • 退職後:年14.6%(「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく)。退職後の未払いは極めて高い利率が適用されます。
  2. 付加金:
    • 裁判所が悪質性を認めた場合には、従業員からの請求に基づき付加金の支払いを命じられることがあり、未払い賃金と合わせて最大で2倍の負担となるケースもあります。

企業としては、未払いが発覚した時点で直ちに精算することが、結果的に金銭的ダメージを最小限に抑える方法となります。

倒産による給与未払いの場合はどうなる?

会社が倒産し、支払い能力がない場合、国が会社に代わって未払い賃金の一部を立て替える「未払賃金立替払制度」を利用できます。

これは独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が実施しているセーフティネットです。

対象となる倒産
  • 法律上の倒産:破産、民事再生、会社更生など。
  • 事実上の倒産:事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金支払い能力がないと労働基準監督署長が認定した場合。
  • 対象者:破産手続開始等を申立てた日の6ヶ月前から2年の間に退職した者が、破産手続開始の決定等があった翌日から2年以内に立替払を請求すること。
  • 立替額:未払い賃金総額(退職時の年齢によって上限あり、退職金含む、ボーナス除く)の8割。
    例:45歳以上の立替払の上限額は、296万円。

このように、会社の倒産等により賃金の支払いが難しくなった場合には、「未払賃金立替払制度」により、一定額が立て替えて支払われる仕組みが設けられています。

会社としても、従業員の生活への影響を最小限に抑えることが重要であり、事実上の倒産と認定されるケースでも、この制度が利用できる場合があります。

参照:未払賃金立替払制度の概要と実績|厚生労働省

給与未払いを防ぐには?

企業が給与未払いを防ぐためには、勤怠管理システムを導入し、労働時間を客観的かつ正確に記録する体制が不可欠です。

手書きの出勤簿やタイムカードの集計作業では、計算ミスや転記ミスが起きやすいです。クラウド型の勤怠管理システムや給与計算ソフトを連携させることで、人為的ミスを大幅に削減できます。

また、「残業申請のルール」や「手当の支給条件」を就業規則で明確にし、従業員に周知することも重要です。

資金繰りの常時監視と早期対策

経営者は常に資金繰り表キャッシュフロー計算書)を更新し、数ヶ月先の給与支払い資金が確保できているかを監視しなければなりません。

給与は経費の中でも最優先で支払うべきものです。売掛金の入金遅れなどが給与支払いに影響しないよう、手元資金(運転資金)には余裕を持たせる必要があります。万が一、資金ショートの兆候が見えた場合に、給料日の直前になって、従業員への説明もなく支払いを遅らせれば、会社の信頼を大きく損なう原因となりかねません。できるだけ早い段階で金融機関への融資相談や、資産の現金化などの対策を講じましょう。

給与未払いが起きないよう正確に給与計算を

給与未払いは、企業と従業員の信頼関係を根底から覆す重大なトラブルです。まずは、日々の勤怠管理と給与計算を正確に行う体制を整え、未払いが発生しない仕組みづくりを徹底することが重要です。現在、給与(賃金)の未払い請求期間は5年(当分の間は3年)、退職金は5年とされています。企業としては、支払期日や対象期間を正確に把握し、過去分を含めて適切に管理する必要があります。万が一、計算ミス等により未払いの可能性が生じた場合には、速やかに事実関係を確認し、早期に是正へ向けた対応を進めることが望まれます。

その際には、タイムカードや勤怠記録、就業規則・賃金規程などの客観的資料を整理し、社内で状況を共有した上で、従業員へ丁寧に説明することが大切です。必要に応じて、社会保険労務士や弁護士など専門家の助言を得ながら進めることで、トラブルの拡大や信頼関係の悪化を防ぐことにつながります。


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