- 更新日 : 2025年11月26日
従業員エンゲージメントとは?高める方法を知って、離職率低下と生産性向上を実現しよう
「従業員エンゲージメント」という言葉をご存知ですか?これは、従業員が企業の目指す方向性を理解し、自発的に貢献しようとする意欲のことです。エンゲージメントの向上は、多くの企業が抱える離職率の高さや生産性の伸び悩みといった課題を解決する鍵となります。本記事では、従業員エンゲージメントの基本から、明日から実践できる具体的な高め方、そして企業にもたらされるメリットまで、わかりやすく解説していきます。
目次
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントは、近年、企業の持続的な成長を支える重要な要素として注目されています。これは単なる「やる気」や「働きがい」といった言葉以上に、企業と従業員の間の深い結びつきを示す概念です。まずはその定義と、混同されやすい言葉との違いを正確に理解しましょう。
従業員エンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントとは、従業員が所属する企業に対して抱く「貢献意欲」や「愛着心」を指します。企業が目指すビジョンや目標に共感し、その達成のために自らの能力を最大限に発揮したいと考える状態です。これは、企業と従業員が互いを信頼し、対等なパートナーとして共に成長していくという関係性に基づいています。エンゲージメントが高い従業員は、単に与えられた業務をこなすだけでなく、より良くしようと主体的に行動するのが特徴です。
従業員満足度との違い
「従業員満足度」は、従業員エンゲージメントとしばしば混同されますが、その性質は大きく異なります。従業員満足度が、給与や福利厚生、職場環境といった会社から与えられる待遇に対する「満足の度合い」を測る指標であるのに対し、エンゲージメントは従業員の内側から湧き出る「貢献意欲」を指します。満足度が高くても、必ずしも業績への貢献意欲が高いとは限りません。満足度は受動的な感情ですが、エンゲージメントは能動的な行動に繋がるという点が決定的な違いです。
モチベーションとの違い
「モチベーション」もエンゲージメントと近い言葉ですが、意味合いが異なります。モチベーションは「動機付け」と訳され、特定の行動を起こすための直接的なきっかけを指します。例えば「インセンティブが欲しい」といった個人的な欲求もモチベーションになり得ます。これは短期的な目標達成には有効ですが、持続性に欠ける場合があります。一方、エンゲージメントは企業全体への貢献意欲という、より長期的で安定した関係性を示すものであり、組織全体の成長に繋がる力となります。
従業員エンゲージメントを高める具体的な方法
従業員エンゲージメントを高めるためには、単発のイベントや制度変更だけでは不十分です。日々の業務やコミュニケーションの中で、企業と従業員の信頼関係を地道に育んでいく必要があります。ここでは、中小企業でも今日から取り組める具体的な方法を5つご紹介します。
企業のビジョンを浸透させる
従業員が「この会社で何のために働いているのか」という仕事の意義を見出すためには、企業のビジョンやパーパス(存在意義)の共有が不可欠です。経営者が自らの言葉で、朝礼や全社会議、社内報などを通じて繰り返し語りかけましょう。企業の目指す未来と自分の仕事がどう繋がっているのかを従業員が理解したとき、日々の業務に対する貢献意欲は大きく高まります。ビジョンはただ掲げるだけでなく、具体的な行動計画と共に示すことが重要です。
公平で納得感のある人事評価を行う
従業員の頑張りが正当に評価されない環境では、貢献意欲は生まれません。重要なのは、評価基準が明確で、そのプロセスが透明であることです。評価者によって判断がブレないよう評価者研修を実施したり、評価結果を伝える際には1on1ミーティングの場で丁寧にフィードバックしたりするなど、従業員一人ひとりの納得感を高める工夫が求められます。評価は処遇を決めるためだけでなく、従業員の成長を支援するための対話の機会と捉えましょう。
コミュニケーションを活性化する
従業員エンゲージメントの土台となるのは、良好な人間関係と円滑なコミュニケーションです。特に、上司と部下の間の対話は極めて重要です。定期的な1on1ミーティングを導入し、業務の進捗だけでなく、キャリアの悩みやプライベートな状況についても話せる信頼関係を築きましょう。また、部署の垣根を越えたランチ会や社内イベント、チャットツールでの雑談チャンネルなども、組織の一体感を醸成し、風通しの良い職場風土を作る上で効果的です。
成長の機会やキャリア支援を提供する
従業員は、仕事を通じて「成長できている」と実感できるときにエンゲージメントが高まります。企業は、従業員一人ひとりのキャリアプランに関心を持ち、その実現を支援する姿勢を示すことが大切です。資格取得支援制度や外部研修への参加推奨、本人の希望に応じたジョブローテーションの機会などを提供しましょう。上司が1on1などを通じて部下のキャリアについて一緒に考え、成長を後押しすることも、従業員の長期的な貢献意欲に繋がります。
働きやすい職場環境を整備する
心身ともに健康で、安心して働ける環境がなければ、従業員は最高のパフォーマンスを発揮できません。長時間労働の是正や有給休暇の取得促進はもちろん、リモートワークやフレックスタイム制度といった柔軟な働き方の導入も有効です。また、役職や年齢に関わらず意見が言える「心理的安全性」の高い職場作りも重要です。ハラスメント防止の徹底や、従業員の心身の健康をサポートする相談窓口の設置なども、働きやすい環境整備の一環です。
従業員エンゲージメントがもたらすメリット
従業員エンゲージメントを高めることは、単に「従業員のため」だけではありません。企業の経営そのものに直結する、非常に大きなメリットをもたらします。ここでは、代表的な4つのメリットについて解説します。
生産性の向上
エンゲージメントが高い従業員は、自らの仕事に誇りと責任感を持ち、主体的に業務に取り組みます。現状維持に満足せず、「もっと効率的にできないか」「どうすればお客様にもっと喜んでもらえるか」といった改善提案や創意工夫を自発的に行うようになります。こうした一人ひとりの前向きな行動が積み重なることで、チームや部署、ひいては組織全体の生産性が大きく向上していくのです。
離職率の低下と人材定着
エンゲージメントが高い従業員は、自身の成長と会社の成長を重ね合わせ、強い帰属意識を持っています。その結果、安易に転職を考えることが少なくなり、離職率の低下に直結します。優秀な人材の定着は、新たな人材の採用や育成にかかるコストを削減するだけでなく、社内に知識やノウハウが蓄積されることにも繋がり、企業の競争力を長期的に支える基盤となります。
顧客満足度の向上
従業員の自社製品やサービスに対する熱意や誇りは、自然と顧客にも伝わります。エンゲージメントの高い従業員は、心から「お客様の役に立ちたい」と考え、丁寧で質の高いサービスを提供します。こうした従業員のポジティブな姿勢が顧客満足度を高め、リピート購入や良好な口コミに繋がります。従業員エンゲージメントの向上は、優れたマーケティング活動にもなり得るのです。
組織の活性化とイノベーション創出
従業員エンゲージメントの高い組織では、部署や役職の壁を越えたオープンなコミュニケーションが活発になります。従業員は失敗を恐れずに新しいアイデアを発言し、挑戦するようになります。このような心理的安全性の高い風土は、新たな商品やサービス、ビジネスモデルを生み出すイノベーションの土壌となります。変化の激しい時代において、組織の活性化は企業の存続に不可欠な要素です。
従業員エンゲージメントが低下する原因
エンゲージメントを高める努力と同時に、意図せずエンゲージメントを下げてしまう要因を理解し、取り除くことも重要です。自社の組織に当てはまる点がないか、チェックしてみましょう。
コミュニケーション不足
経営層が考えていることや会社の進むべき方向性が見えないと、従業員は不安を感じ、自分が何のために働いているのかを見失いがちです。また、直属の上司との対話が不足していると、孤独感や不信感が募り、仕事への意欲が削がれてしまいます。一方的な情報伝達ではなく、双方向のコミュニケーションが不足している組織では、エンゲージメントは低下する傾向にあります。
評価や処遇への不満
自分の頑張りや成果が正当に評価されていない、あるいは評価の基準が不透明で納得できない、と感じることは、従業員のエンゲージメントを著しく低下させる大きな原因です。給与や昇進といった処遇への不満はもちろんのこと、日々の業務に対する感謝や承認の言葉が不足しているだけでも、従業員の貢献意欲は失われてしまいます。公平性と透明性のある評価制度の構築が不可欠です。
企業の方向性が見えない
企業がどこに向かっているのか、社会に対してどのような価値を提供しようとしているのかというビジョンが不明確な場合、従業員は日々の業務を「やらされ仕事」と感じてしまいます。自分の仕事が会社の大きな目標にどう貢献しているのかを実感できないと、仕事への誇りや情熱を持つことは困難です。明確なビジョンを示し、従業員と共有することがエンゲージメントの第一歩です。
過度な業務負担
慢性的な長時間労働や、一人では抱えきれないほどの業務量は、従業員の心身を疲弊させ、エンゲージメントを低下させる直接的な原因となります。一時的な繁忙期ならまだしも、恒常的に過度な負担が続くと、従業員は会社に「使い捨てにされている」と感じてしまいます。適切な人員配置や業務プロセスの見直し、そして従業員の健康への配慮が経営には求められます。
人的資本経営とウェルビーイングとの関連性
近年、従業員エンゲージメントは「人的資本経営」や「ウェルビーイング」といった新しい経営の潮流の中で、その重要性をさらに増しています。これらの概念との関連性を理解することで、エンゲージメント向上の取り組みをより戦略的に進めることができます。
人的資本経営におけるエンゲージメントの重要性
人的資本経営とは、従業員をコストではなく、企業の価値創造の源泉となる「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことを目指す経営手法です。2023年3月期決算より、上場企業などには人材育成方針や社内環境整備方針といった人的資本に関する情報開示が義務化されました。この流れの中で、従業員エンゲージメントは、人的資本への投資がどれだけ効果を上げているかを測る重要な指標(KPI)として位置づけられています。これは中小企業にとっても無関係ではなく、企業の価値を測る新しい物差しとなりつつあります。
ウェルビーイング向上がエンゲージメントにもたらす効果
ウェルビーイングとは、従業員一人ひとりが身体的、精神的、そして社会的に良好な状態にあることを意味します。心身が健康で、良好な人間関係の中でいきいきと働けている状態が、エンゲージメントの土台となります。つまり、企業が従業員のウェルビーイング向上を支援することは、結果としてエンゲージメントを高め、生産性や創造性の向上に繋がるのです。健康経営の推進や働きやすい環境整備は、従業員のウェルビーイングとエンゲージメントの両方を高めるための重要な投資と言えるでしょう。
従業員エンゲージメントで持続的な企業成長を
従業員エンゲージメントの向上は、単なる人事施策ではありません。企業の未来を左右する重要な経営戦略です。従業員一人ひとりが仕事に誇りを持ち、自らの成長と組織の成長を重ね合わせて考えられる文化を育むことが、企業の持続的な成長の原動力となります。本記事で紹介した方法を参考に、自社の状況に合わせたエンゲージメント向上の取り組みを、ぜひ今日から始めてみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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