- 作成日 : 2024年3月8日
ビジネス関連発明とは?ビジネスモデルに特許が認められる要件を解説
ビジネスモデル特許とは、ビジネスモデル全体を保護する特許のことです。ビジネスモデル自体は特許の対象ではありませんが、コンピュータやインターネットなどICTを活用した場合、ビジネス関連発明として特許取得が可能となります。
本記事ではビジネス関連発明の定義や特許取得の要件、出願のメリット、具体的事例を解説します。
目次
ビジネス関連発明とは
ビジネス関連発明とは、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用した発明のことです。特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としており、ビジネスモデル自体は特許の保護対象にはなりません。そのため、新しいビジネスモデルのアイデアを創出しても、特許を取得することはできないのが原則です。
しかし、これらビジネスモデルのアイデアがICTを利用して実現された場合、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。
例えば、インターネットを活用したサービスに関するビジネス方法であれば、特許が認められる可能性はあります。
ビジネスモデルに特許が認められる要件は?
ビジネスモデルに特許が認められるためには、主に次の要件が必要です。
- 発明である
- 産業上の利用可能性がある
- 新規性がある
- 進歩性がある
- 先願である
発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なものをいう」と定義されています。自然法則とは、自然界において経験的に見い出される科学的な法則のことです。計算方法や経済法則などは自然法則ではないため、発明に該当しません。
ビジネスモデルも自然法則にあたらず、発明ではないことになります。しかし、コンピュータやインターネットを活用して実現されたビジネスモデルであれば、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当し、発明として認められます。
2つ目の産業上の利用可能性とは、一般産業として実施できる発明です。
3つ目の新規性とは、従来公開されていた技術ではないという要件です。新規性があるかどうかは、出願の時点で判断されます。
また4つ目の進歩性とは、その発明の属する技術分野の通常の知識を有する専門家が、出願時点で知られている技術から容易に考え出せないことを指します。
5つ目の先願とは、同じ発明が2人以上の者によって出願された場合に、先に出願した者が特許を取得するという意味です。
ビジネス関連発明を出願するメリット
ビジネス関連発明の出願には、次のようなメリットがあります。
- ビジネスモデルの模倣を防ぐ
- 市場優位性を保てる
- 収益の機会にもなり得る
- 企業の信頼性やブランド価値を高める
ビジネスモデル特許を取得することで、ビジネスモデル全体を保護できます。そのため、競合他社による模倣を防ぎ、市場優位性を保てる点がメリットです。競合を排除することで先行利益を獲得し、ビジネスを成長させられます。
また、ビジネスモデル特許の取得により、企業の信頼性を高め、ブランド価値の向上にも役立ちます。投資家やビジネスパートナーへのアピールにもつながるでしょう。
ビジネス関連発明を出願する際の注意点
ビジネス関連発明の出願をする際は、次の点に注意が必要です。
- 時間やコストがかかる
- ビジネスモデルが変化することもある
詳しくみていきましょう。
時間やコストがかかる
ビジネス関連発明の特許は抽象的で複雑であり、審査には時間がかかります。出願審査請求から1年〜1年半程度かかると予想され、場合によっては出願から4〜5年程度かかる可能性もあります。
また、出願には特許印紙代がかかり、特許が認められたあとは最低でも3年分の特許料が必要です。自力で取得する場合にも、20万円程度のコストがかかることは把握しておきましょう。
少しでも特許取得の可能性を高めるためには、専門家である弁理士への依頼が必要です。その場合、出願時と出願審査請求時に費用がかかり、拒絶理由通知が届いたときは意見書や手続補正書の提出にコストが発生します。また、特許査定が届いたら成功報酬も必要です。
高額なコストがかかるうえに、費用をかければ必ず特許を取得できるわけでもありません。
ビジネスモデルが変化することもある
近年、ビジネス環境の変化は激しく、ビジネスモデルの変更が必要になるケースも少なくありません。ビジネスモデル特許を取得してからビジネスモデルに変更があれば、変更した部分は特許で保護されない可能性があります。
特に、ビジネス関連発明は変化の激しいICTの技術が伴います。初めに取得した特許で後発の模倣に対抗できなくなるケースもあるでしょう。
ビジネス関連発明の出願手順
ビジネス関連発明の出願は、次の手順で行います。
- 特許の出願と審査
- 特許料の納付
まず特許を出願し、特許庁に審査をしてもらうために出願審査請求も行います。出願審査請求は特許の出願の日から3年以内に行わなければなりません。
審査の結果、特許が認められれば特許査定が届き、認められなければ拒絶理由通知が送られてきます。
特許査定が届いた場合
特許庁による審査により拒絶の理由を発見しないものと判断された場合、「特許査定」の謄本が送達されます。拒絶査定不服審判での審理の場合、「特許すべき旨の審決」という謄本が送達されます。その送達日から30日以内に1~3年分の特許料の納付が必要です。
期間内に納付がない場合、通知(ハガキ)が届きます。その後も納付されない場合、出願却下処分となるため注意が必要です。
特許料を納付したあとは出願した発明が特許として登録され、特許権が発生するという流れです。
拒絶理由通知が届いた場合
拒絶理由通知は、出願された特許に「特許を受けることができない理由」があると判断された場合に送られる通知です。拒絶理由通知が届いた場合は、まず理由を確認します。納得できない場合は意見書を、発明の一部を変更して認められるようであれば手続補正書と意見書を提出します。
また、審査官面談を依頼することもできます。審査官と直接対話し、技術的な説明を行う面談です。
実際の製品を見せてプレゼンテーションを行うなど具体的な説明ができ、拒絶理由を解消できる可能性もあります。
ビジネス関連発明が認められた事例
これまで、ビジネス関連発明が認められて事業に活かされている事例は少なくありません。
ここでは、特許取得が認められた事例をみてみましょう。
レンタル商品返却システムの特許
DVDのレンタル事業を行う企業の取得した特許です。2008年に出願され、2011年に特許の登録が行われています。
レンタル商品の返却に配送を利用する場合、配送業者がレンタル商品を回収したことを認証し、回収した日・時間帯をレンタル店に知らせるシステムです。店舗で商品が回収される前に商品の返却がわかり、返却期限のタイムロスを解消できます。
チケット発券システムの特許
航空券の予約システムに関する特許です。2003年2月に出願され、2008年10月に特許が登録されました。
マイレージ番号が記録されたクレジットカードを使い、クレジットカード番号とマイレージ番号とを関連付けてチケット予約ができます。チェックイン端末でカードを読み取り、クレジットカード番号から予約情報を照会してチケットを発券する仕組みです。
チケットの発見が容易になり、予約変更もユーザーに手間をかけないというメリットがあります。
ビジネスモデル特許の取得を検討しよう
ビジネスモデル特許は、コンピュータやインターネットを活用したビジネスモデル全体を保護する特許です。取得によりビジネスモデルの模倣を防ぎ、市場優位性を保って先行利益を獲得するなどのメリットがあります。
ただし、ビジネスモデルやIT技術の変化は激しく、変化した部分は取得した特許で保護できないこともある点には注意が必要です。
ビジネスモデル特許・ビジネス関連発明について理解を深め、ビジネスの成長に役立てましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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