- 更新日 : 2025年11月5日
勤怠管理における育児時間の扱いは?労働基準法のルールをもとに具体的な方法を解説
育児と仕事の両立を支援する育児時間制度ですが、勤怠管理における正しい扱いについて正しく理解できているでしょうか。
この制度の利用は、給与や勤務時間の管理に直接関わります。育児時間を遅刻や早退として扱うと、労働基準法67条に違反する可能性があります。
この記事では、育児時間の基本的な考え方から、具体的な勤怠管理の手順、給与計算の方法、そして時短勤務との違いまで、人事労務担当者が知っておきたい実務を分かりやすく解説します。
目次
労働基準法が定める育児時間とは?
育児時間とは、労働基準法第67条で定められた、生後1年に達しない子を育てる女性労働者が請求できる権利です。通常の休憩とは別に、育児のために時間を使えます。この権利は、母体保護と次世代の育成という観点から保障されており、会社は従業員からの請求を拒むことはできません。
- 対象者:生後1年に満たない子を育てる女性労働者
正社員、パート、契約社員といった雇用形態は関係ありません。 - 取得できる時間:1日2回、それぞれ少なくとも30分。ただし、1日の労働時間が4時間以内である場合は、1日1回で足ります。
- 請求方法:労働者が会社に請求することで取得できます。会社側から一方的に与えるものではありません。
- 取得タイミング:勤務時間の途中だけでなく、始業直後(30分遅れて出社)や終業直前(30分早く退社)に取得することも可能です。
育児時間と育児短時間勤務(時短勤務)の違い
育児時間と混同されやすい制度に、育児短時間勤務(時短勤務)があります。これらは根拠となる法律や対象者が異なる、まったく別の制度です。
両者の主な違いを下の表にまとめました。
| 項目 | 育児時間 | 育児短時間勤務(時短勤務) |
|---|---|---|
| 根拠法 | 労働基準法 | 育児・介護休業法 |
| 対象者 | 生後1年未満の子を育てる女性 | 3歳未満の子を育てる男女 |
| 取得単位 | 1日2回・各30分以上 ※労働時間が4時間以内の場合は1日1回 | 原則として1日の所定労働時間を6時間に短縮 |
| 給与の扱い | 法律上の定めはなく、多くは無給 | 短縮した時間分は無給 |
| 申請の義務 | 労働者からの請求 | 労働者からの申し出 |
勤怠管理における育児時間の扱いは?
育児時間を取得した際の勤怠の扱いは、給与や評価に関わる重要なポイントです。法律上の原則と、企業が定めるべきルールについて解説します。
給与支払いの義務はない
法律上、会社に育児時間中の給与を支払う義務はありません。
これは、働いていない時間に対しては賃金を支払う義務がないという、ノーワーク・ノーペイの原則があるためです。育児時間は労働が免除される時間なので、会社がその時間分の給与を支払わなくても法律違反にはなりません。したがって、育児時間を取得した分、給与から差し引く運用が一般的です。
ただし、企業が従業員支援の観点から、福利厚生として育児時間を有給にすることもできます。その場合は、その内容を就業規則に明確に定めておく必要があります。有給か無給かは各企業の判断に任されていますが、どちらの場合でもルールとして明文化し、全従業員に周知しておくことが、後のトラブルを防ぐために大切です。
休憩時間や所定労働時間との関係
育児時間は、法律で定められた休憩時間とは別に与えなくてはなりません。育児時間は労働義務が免除される時間であり、労働からの解放を保障する休憩時間とは性質が異なるためです。
たとえば、所定労働時間が8時間、休憩1時間の職場で、従業員が育児時間を1時間取得した場合、その日の実労働時間は6時間となります。
- 休憩時間との関係
法定休憩(労働時間が6時間超で45分、8時間超で1時間)は、育児時間を取得したかどうかに関係なく、実労働時間に応じて別途与える必要があります。 - 残業代の計算
育児時間を取得して実労働時間が短くなった日に残業した場合、残業代の計算は実労働時間から開始します。たとえば、8時始業、17時終業、休憩1時間の会社において、育児時間を1時間取得した場合、実労働時間は7時間です。法定外残業は、実労働時間が8時間を超えた場合に発生するため、仮に17時から18時まで残業を行っても、8時間以内の法定内残業となり、その1時間については割増賃金ではなく、通常の賃金を支払えば足ります。
遅刻・早退・欠勤との違い
育児時間は法律で認められた労働者の正当な権利です。そのため、勤怠管理において、自己都合による遅刻・早退・欠勤とは明確に区別して扱わなければなりません。
育児時間の申し出や取得を理由として、解雇や降格、減給、賞与の査定でマイナス評価をするといった不利益な取り扱いをすることは、育児・介護休業法で禁止されています。
もし、勤怠システム上で育児時間を遅刻や早退として記録すると、人事評価の際に不当にマイナスの影響を与えてしまう危険があります。たとえば、解雇の対象としたり、昇給・昇格の査定で不利にしたりすることは、不利益な取り扱いに該当し、違法と判断される可能性があります。
育児時間の勤怠管理の方法は?
育児時間の適切な勤怠管理は、コンプライアンス遵守と従業員の働きやすさ確保の両面から重要です。具体的な手順を4つのステップで解説します。
1. 就業規則でルールを明確にする
トラブルを未然に防ぎ、公平な制度運用を行うために、育児時間の取り扱いに関するルールを就業規則に明記します。法律では給与の有無まで定めていないため、会社と従業員との間のルールをはっきりさせるには就業規則への規定が必要です。
就業規則には、少なくとも以下の項目を具体的に記載しましょう。
- 対象者:「生後1年に達しない子を養育する女性従業員」など
- 取得単位と時間:「1日2回、各30分を原則とする」など
- 申請手続き:「取得希望日の前日までに、所定の申請書を所属長に提出する」など
- 給与の取り扱い:「育児時間に対応する賃金は支給しない(無給とする)」など
- 不利益取り扱いの禁止:念のため、育児時間の取得を理由とする不利益な取り扱いを行わない旨を記載することが望ましいです。
2. 申請から承認までの流れを整備する
従業員がスムーズに申請でき、管理者が適切に承認・記録できる一連の流れをつくります。口頭での申請や曖昧な管理は、記録漏れや認識の違いを生む原因になります。書面やシステムで記録を残すことで、勤怠管理と給与計算の正確性を保ちましょう。
具体的な流れは以下の通りです。
- 申請:従業員は、会社が定めた様式(申請書や勤怠管理システム)を使い、事前に所属長や人事部に申請します。
- 承認:所属長は、業務への影響を考えながら申請を承認します。
- 記録:承認された育児時間は、勤怠管理者が勤怠データに正確に記録します。
近年では、勤怠管理システムを導入する企業が増えています。システム化すれば、申請・承認の履歴が自動で記録され、ペーパーレス化と管理工数の削減につながります。
3. 勤怠システムで適切に設定する
使用している勤怠管理システムや給与計算ソフトにおいて、育児時間を遅刻や早退とは異なる独立した勤怠項目として設定します。この設定が、不利益な取り扱いの防止と、正確な給与計算の土台となります。
多くの勤怠管理システムでは、独自の勤怠項目を自由に作れます。以下のような項目名で設定するのが一般的です。
- 項目名:育児時間 / 育児時間(控除) / 育児時間(無給)
- 属性:労働時間から除外する / 給与控除の対象とする
この設定により、従業員が育児時間を取得した日は、システムが自動で実労働時間と控除対象時間を算出してくれます。
4. 給与計算へ正確に反映させる
勤怠システムで記録された育児時間(無給)の時間数に沿って、月々の給与から対応する金額を正確に差し引きます。
給与からの控除額の計算方法は、給与形態によって異なります。
月給制の場合
- 時間単価:250,000円 ÷ 160時間 = 1,562円 (端数は原則切り捨て)
- 控除額:1,562円 × 10時間 = 15,620円
時給制の場合
- 控除額:1,500円 × 10時間 = 15,000円
給与明細には、どの項目でいくら控除されているかが分かるように、育児時間控除などの名称で明記することが、従業員の理解を得る上で望ましいでしょう。
育児時間の取得に関してよくある質問(FAQ)
最後に、育児時間の取得に関してよくある質問とその回答をまとめました。
男性の育児時間取得は可能ですか?
労働基準法で定められた育児時間は女性労働者のみが対象です。
しかし、育児・介護休業法では、男女を問わず利用できる両立支援制度が定められています。男性が育児のために利用できる主な制度には以下のようなものがあります。
- 子の看護等休暇:小学校3年生修了までの子が病気や怪我をした際に、年5日(子が2人以上の場合は年10日)まで取得できる休暇です。
- 育児短時間勤務制度:3歳未満の子を育てる場合は男性も利用できます。
- 企業独自の特別休暇:企業によっては、配偶者の出産休暇や、男女問わず利用できる育児目的の特別休暇を設けている場合があります。
育児時間を理由に不利益な扱いを受けた場合はどうすればよいですか?
育児時間(労基法第67条)の取得を理由として不利益な取り扱いをすることは、労働基準法に反する可能性が高く、育児・介護休業法に基づく男女雇用均等の観点からも問題になります。
万が一、不利益な扱いを受けたと感じた場合は、一人で抱え込まず、以下の窓口に相談してください。
- 社内の相談窓口:人事部やコンプライアンス室、労働組合など。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):全国の労働局に設置されており、専門の相談員が無料で匿名での相談に応じてくれます。必要に応じて、企業への助言・指導も行っています。
育児時間の正しい理解が、働きやすい職場環境をつくる
本記事では、育児時間の制度概要から、勤怠上の具体的な扱い、給与計算の方法、注意点を解説しました。育児時間は法律で定められた労働者の権利であり、企業にはこれを正しく運用する責任があります。
大切なのは、育児時間を遅刻や欠勤と明確に区別し、給与の取り扱いや申請の流れを就業規則で具体的に定めておくことです。その上で、勤怠管理システムを適切に設定し、従業員への不利益な取り扱いが決して行われない体制を整えることが、育児をしながらでも安心して働き続けられる職場環境の実現につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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