• 作成日 : 2026年3月25日

企業が備えるべきハラスメント防止マニュアルとは?作成の目的・流れ・注意点を解説

Pointハラスメント防止マニュアルはなぜ必要?

職場のハラスメント防止マニュアルは、企業が従業員を守り、法令を遵守するための必須ツールです。

  • 多様なハラスメントの定義と対応を明文化
  • 相談・調査・是正の具体的な手順を整備
  • 従業員教育と再発防止の仕組みを導入

ハラスメント防止マニュアルは現場対応を属人化させず、全社で一貫した対応を可能にします。

現代の職場において、ハラスメント対策は「任意の取り組み」ではなく、企業が法的・倫理的に果たすべき責任とされています。パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラなど、多様化するハラスメントに適切に対応するためには、社内の行動基準として「ハラスメント防止マニュアル」を整備することが不可欠です。

本記事では、企業に求められる対策の背景と意義を踏まえ、マニュアルの目的・作成手順・各種ハラスメントの対応ポイントを解説します。

目次

職場におけるハラスメントの種類は?

職場では、立場や背景の違いを理由としたさまざまなハラスメントが発生する可能性があります。以下では代表的な4種類について、ポイントを整理します。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワハラは、職務上の優位性や人間関係・経験等の優位性を背景に、業務上必要かつ相当な範囲の範囲を超えた言動で他人の就業環境を害する行為です。暴力や暴言、過剰な仕事の強要、仕事を与えない、私生活の干渉などが典型例に挙げられます。正当な指導との線引きを明確にし、社内で共通の理解を持つことが不可欠です。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクハラとは、意に反する性的言動により、労働者に不利益を与えたり、職場環境を不快にしたりする行為です。対価型と環境型に分けられ、異性間だけでなく同性間や取引先との関係でも発生します。近年はSOGIに関する言動も対象となるため、広範な理解と対策が求められます。

マタニティハラスメント(マタハラ)

マタハラは、妊娠・出産や育児休業の取得等(申出も含む)を理由に不利益を与える行為を指します。退職の強要や復帰阻害、周囲からの嫌味や陰口などが該当します。対象者が安心して働けるよう、制度利用を正当な権利として社内に浸透させ、配慮体制を整える必要があります。

カスタマーハラスメント(カスハラ)

カスハラは、顧客や取引先による社会通念を逸脱した言動によって従業員の就業環境が損なわれる行為です。暴言、威圧、土下座の強要などが代表例で、企業は毅然と対応し、従業員を守るルールと体制を整えることが重要です。

ハラスメント対策が企業の義務になった流れは?

近年、職場のハラスメントによる労働者の被害が社会問題化する中で、企業には法的に明確な対応義務が課されるようになりました。以下では、法改正の経緯と企業が義務を負う理由、今後の対応範囲の拡大について解説します。

法改正によりパワハラ防止措置が義務化された

2019年の労働施策総合推進法の改正により、企業はパワーハラスメントを防止するための措置を講じる義務を負うことになりました。これにより、2020年6月からは大企業に、2022年4月からは中小企業にも適用されています。企業は、「ハラスメント防止に関する方針の明確化」「相談体制の整備」「事実確認と是正措置」「相談者への不利益取り扱いの禁止」など、具体的な対策を実施しなければなりません。

セクハラ・マタハラも同様に防止措置が義務化

同時期に、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントについても、既存の男女雇用機会均等法や育児・介護休業法のもとで防止措置が明文化され、実効性が強化されました。これにより、すべての企業がハラスメントの有無にかかわらず、予防の観点から制度やルールを整備しておく必要があります。放置や軽視は労働者の離職やメンタル不調を招くだけでなく、企業の法的責任や社会的信頼の失墜にも直結します。

カスハラ・就活生へのハラスメントも対象に拡大

2025年の労働施策総合推進法等の改正により、カスタマーハラスメントや就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントについて、事業主に雇用管理上の措置義務を課す規定が新設され、公布日(2025年6月11日)から1年6か月以内の政令で定める日までに施行されることとなりました。

企業にとってハラスメント対策は、今や任意の取り組みではなく、社会的責任と法的義務を果たすために欠かせません。

参考:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)|厚生労働省

ハラスメント防止マニュアルを作成する目的は?

ハラスメント防止マニュアルは、職場での不適切な言動を未然に防ぎ、問題が発生した際の対応手順を明確にするために整備されます。従業員が安心して働ける環境づくりと、企業の法令遵守を支える重要なツールです。

ハラスメントを未然に防ぐために認識統一する

マニュアルには、企業としてハラスメントを容認しない方針が明記され、禁止される行為や具体的な事例が示されます。これにより、従業員一人ひとりが自らの言動を見直しやすくなり、日常の中でハラスメントを防ぐ意識が職場全体に広がります。

発生時に迅速かつ適切に対応できる体制を整える

万が一ハラスメントが発生した場合に備え、相談窓口の設置や調査・是正の流れを文書化することで、組織としての対応を迷いなく進めることが可能になります。相談者の不利益な取り扱いを防ぐ仕組みも含まれます。

法令を遵守し、企業リスクを低減させる

ハラスメント防止措置は法律上の義務であり、マニュアルを整備することは企業が法令を守っている証となります。トラブルが起きた際に備えた体制を示すことで、社内外からの信頼を守り、リスク管理にもつながります。

ハラスメント防止マニュアルの作成手順は?

ハラスメント防止マニュアルは、企業の姿勢を示すだけでなく、実際に機能する仕組みとして整備することが大切です。そのためには、方針の明確化から運用・見直しまでを段階的に進める必要があります。以下では、一般的な作成プロセスを解説します。

① 基本方針とハラスメントの定義を明確にする

最初のステップは、企業としてハラスメントを許さない姿勢を明文化し、何がハラスメントに該当するのかを定義することです。パワハラやセクハラなど各種ハラスメントについて、法律や公的ガイドラインに沿った定義を示します。あわせて具体的な事例を記載し、禁止される言動と正当な業務指導との違いを明確にすることで、従業員が判断しやすくなります。

② 相談窓口と報告手順を整備する

被害を受けた従業員が安心して相談できる体制を整えます。相談窓口の担当部署や連絡方法を明示し、直属の上司以外にも相談できる選択肢を示すことが重要です。また、相談内容の秘密保持や、相談を理由とした不利益な取り扱いを行わない方針を明記することで、声を上げやすい環境を整えます。

③ 調査と是正対応の流れを定める

相談が寄せられた後の対応プロセスも、具体的に文書化します。誰が調査を担当し、どのように事実確認を行い、どの段階で判断を下すのかを時系列で整理します。被害者への配慮や再発防止策、加害者への処分内容を就業規則と連動させて示すことで、組織として一貫した対応が可能になります。

④ 周知・教育と定期的な見直しを行う

完成したマニュアルは、全従業員に周知し、理解を深める取り組みが欠かせません。研修やオリエンテーションを通じて内容を共有し、管理職には対応力を高める教育を行います。また、法改正や職場環境の変化に応じて定期的に見直しを行い、実態に即した内容へ更新し続けることが重要です。

パワーハラスメント防止マニュアルの作成ポイントは?

パワハラ防止マニュアルを効果的に構築するには、行為の明確化と、適正な指導との線引きを丁寧に示すことが重要です。

パワハラの6類型ごとに具体例を整理する

パワーハラスメントには「身体的攻撃」「精神的攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」という6つの類型があります。マニュアルではこれらを軸に、それぞれ該当する社内での行為例を記載します。会議中の怒鳴りつけや、過度な私的雑用の押しつけ、仲間外しなどを明記することで、従業員全体の共通理解を促します。

適切な指導との違いを明確に区別する

業務上の注意や指導がすべてパワハラに該当するわけではありません。そのため、「業務上必要かつ相当な範囲の指導はパワハラに当たらない」と明記し、線引きの基準を提示します。また、「注意を与える際は人格を否定せず、業務上の理由を説明する」など、建設的な叱責の手法についてもガイドラインとして示すと、現場での運用に役立ちます。

管理職が判断・対応できる体制を補強する

現場の管理職がパワハラの予兆に早く気づき、適切に対応できるようにするため、マニュアルにはチェックリスト形式の参考項目や、社内での相談フローも含めます。また、部下からの信頼を損なわないよう、日常的に注意すべき言動を具体的に挙げ、定期的な研修とも連動させると実効性が高まります。

処分規定と再発防止策を明文化する

パワハラが確認された場合の処分内容についても明確に記載します。就業規則との整合性を取りながら、「行為の重大性に応じて訓戒・減給・出勤停止・懲戒解雇を適用する」といった対応方針を明記しておくことで、抑止力を高めます。さらに、再発防止のための指導や配置転換の実施も記載し、単なる処分にとどまらない組織的な改善策とすることが求められます。

セクシュアルハラスメント防止マニュアルの作成ポイントは?

セクシュアルハラスメント(セクハラ)防止マニュアルを策定する際には、多様なケースに対応できる明確なルールと実践的な対応方針を含めることが重要です。

すべての関係性・場面に対応する方針を明記する

セクハラは上司から部下への一方向だけでなく、同僚間や同性間、さらには顧客や取引先との間でも起こり得ます。したがって、マニュアルでは「誰が誰に対しても加害者・被害者になり得る」という認識を前提とし、あらゆる関係性に対応する禁止方針を明示する必要があります。また、職務中に限らず、社員旅行や懇親会など業務の延長線上での言動も対象とすることで、実際の職場の実態に即した内容とします。

許容される言動と禁止行為の基準を具体的に示す

曖昧な表現ではなく、どのような言動がセクハラと見なされるのかを具体例を挙げて説明します。「身体への不必要な接触は禁止」「外見や恋愛に関する発言は控える」など、社内で起こりやすい言動を例に挙げて、グレーゾーンを減らすことが大切です。飲み会での下ネタ強要や、性的な噂の流布といったケースも明示し、全社員が基準を共有できるようにします。

相談体制とプライバシー配慮の仕組みを整える

セクハラの被害は個人的な内容であるため、相談窓口の設置だけでなく、相談時の配慮についてもマニュアルに明記します。相談者の希望に応じて同性の相談担当者を選べる体制や、相談内容の秘密保持、二次被害の防止措置などを盛り込むことで、相談しやすい環境づくりが進みます。また、相談後の対応フローも含めて明文化しておくことで、被害の早期解決につながります。

マタニティハラスメント防止マニュアルの作成ポイントは?

マタニティハラスメント(マタハラ)対策を実効性のあるものとするには、制度利用者の保護だけでなく、周囲の職場環境への配慮や管理体制の整備が欠かせません。

制度利用に関する不利益取り扱いを明確に禁止する

マタハラ防止の第一歩は、妊娠・出産・育児休業等の申出・取得・取得後を理由とした解雇や降格、配置転換の強要といった不当な扱いを、明確に禁止事項として示すことです。これらは法令でも禁じられており、「制度の利用は労働者の権利であり、企業は取得と復職を支援する立場である」と方針を明記します。禁止を列記するだけでなく、正当な利用に基づく扱いであることを周知することで、誤解や偏見を防ぎます。

周囲による嫌がらせや孤立を防ぐルールを設ける

マタハラは、上司や人事だけでなく、周囲の同僚からの心ない言動や無理解によっても生じます。マニュアルでは、「妊娠中に過剰な業務を強いる」「育休復帰者に対して『迷惑だ』と発言する」などの行為を例示し、これらがハラスメントに該当することを明記します。また、チーム内での業務調整や、支援の声かけを促すルールを設け、当事者の孤立を防ぐための職場風土づくりも促します。

妊娠・育児に関する相談と対応手順を明文化する

妊娠の報告を受けた管理職や上司がどのように対応すべきかを、具体的な手順としてマニュアルに記載します。例えば「報告を受けた時点で人事と連携し、今後の勤務や休業スケジュールを調整する」「本人の意向を丁寧に確認する」といった対応方針を明確にしておくと安心です。また、相談窓口として性別を選べる体制や、復職支援面談の実施などもマニュアルに含めることで、実際の運用に耐える内容となります。

カスタマーハラスメント対応マニュアルの作成ポイントは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員の心身に深刻な影響を及ぼすリスクがある問題です。企業として、現場任せにせず組織的に対応するためのルールと体制をマニュアルに定める必要があります。

組織として断固とした対応方針を示す

まず、カスハラを個人の我慢や判断に任せず、企業として対応する姿勢を明文化します。「理不尽な言動には毅然と対応する」「顧客対応の限界を超える要求には応じない」といった基本方針を掲げ、従業員の心理的な負担を軽減します。対応の判断基準として、「社会通念に照らして相当でない要求・手段には応じない」と定義することで、線引きを明確にできます。

現場で迷わず動ける対応フローを整備する

カスハラの発生時には、従業員が一人で抱え込まないように、迅速にエスカレーションできる手順を整えることが不可欠です。「威圧的なクレームは上司に引き継ぐ」「暴力や脅迫は警察対応を優先」「長時間の電話には打ち切り判断を許可する」など、行動の目安を具体的に記載します。実際のケースをもとに、行動の限界点や中止判断の条件を明文化することが有効です。

従業員のケアと再発防止体制を明記する

カスハラ被害を受けた従業員に対しては、メンタルヘルス面の支援や休養措置などのケアも重要です。マニュアルには、産業医やカウンセラーとの連携、社内相談窓口の案内などを盛り込みます。また、発生事案の記録・共有・分析を通じて再発防止策を検討し、組織全体でノウハウを蓄積する仕組みもあわせて整備します。

社内外に方針を周知し、風土を育てる

マニュアルは従業員向けの内部文書としてだけでなく、「お客様対応方針」として社外にも一部公開できる構成にすると、現場の判断の後ろ盾になります。「従業員の尊厳を守る」ことを企業理念と連携させて発信することで、正当な顧客対応の基準を広く共有し、誠実な従業員が不当な要求に悩まされずに働ける環境を整えられます。

社内マニュアル整備でハラスメントのない職場へ

ハラスメント防止マニュアルの策定と運用は、安心して働ける職場環境を築く上で欠かせない取り組みです。パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラといったさまざまなハラスメントを網羅した明確なルールと対応手順を定めておくことで、問題の未然防止と迅速な解決が可能になります。マニュアルを通じて企業の方針を社員一人ひとりに行き渡らせ、相談しやすい風土をつくることが大切です。

法令遵守はもちろん、社員の安心と信頼を守るためにも、自社に合ったハラスメント防止マニュアルを整備し継続的にアップデートしていきましょう。


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