• 更新日 : 2025年12月19日

国保と社保は何が違う?対象者や保険料・扶養・給付内容を徹底比較

国民健康保険(国保)と社会保険(社保)の主な違いは、加入対象者や保険料の負担方法、扶養制度の有無、給付内容にあります。社保は主に会社員が対象で保険料は会社と折半、扶養制度がある一方、国保は主に自営業者などが対象で保険料は全額自己負担となり、扶養の概念がありません。

会社設立時や従業員を雇用する際、「国保と社保、どちらに加入しなければならないか?」「従業員の社会保険料はいくらになるのか?」といった疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、中小企業の経営者やバックオフィス担当者向けに、国保と社保(主に健康保険)の違いから、保険料の比較、実務で必要な手続きまで、わかりやすく解説します。

国民健康保険(国保)と社会保険(社保)とは?

日本の公的医療保険制度は、すべての国民がいずれかの保険に加入する「国民皆保険制度」に基づいています。国民健康保険(国保)と社会保険(社保)は、この制度を構成する主要な柱です。

一般的に「社保」と呼ばれる社会保険は、広義には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の総称です。しかし、「社保と国保の違い」を比較する場合は、多くが「国民健康保険」と「社会保険のうちの健康保険(+厚生年金)」の比較を指します。

この記事でも、この「医療保険」としての側面に焦点を当てて違いを解説していきます。

  • 国民健康保険(国保):自営業者、個人事業主、退職者、無職の人など、他の公的医療保険に加入していない人が加入する保険。運営主体は市区町村や国民健康保険組合です。
  • 社会保険(社保):主に企業に雇用されている人(会社員など)や公務員が加入する保険。運営主体は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や各健康保険組合、共済組合などです。

参照:社会保険(健康保険)の概要|全国健康保険協会(協会けんぽ)
国民健康保険制度|厚生労働省

国保と社保の種類・対象者の早わかり比較表

国保と社保(健康保険)は、運営主体(保険者)の種類と、主な加入対象者が異なります。

項目【国保】国民健康保険【社保】社会保険(健康保険)
対象者他の公的医療保険に加入していない人(自営業者、退職者など)企業に雇用されている人(会社員など)、公務員・私立学校教職員など
運営主体の種類
  1. 市区町村国保
  2. 国民健康保険組合(国保組合)
  1. 全国健康保険協会(協会けんぽ)
  2. 健康保険組合(組合健保)
  3. 共済組合
加入者の例
  • 自営業者、個人事業主
  • 退職者、年金受給者、無職の人
  • 社保の条件を満たさないパート/アルバイト
  • 会社員、法人の役員
  • 公務員、私立学校教職員
  • 一定条件を満たすパート/アルバイト

国民健康保険(国保)の運営主体と対象者

国保は、社保や共済組合に加入していない人が加入します。

  • 市区町村国保:一般的な国民健康保険で、運営主体が各市区町村(都道府県)。
  • 国民健康保険組合(国保組合):特定の業種(例:医師、弁護士、美容師、建設業の個人事業主など)の自営業者が集まって設立・運営する組合。

国保(国民健康保険)の対象となる人は、自営業者、個人事業主、農業・漁業従事者、退職して職場の健康保険の資格を失った人、年金受給者、無職の人、社保の適用条件を満たさないパートタイマーやアルバイトなどです。

社会保険(社保)の運営主体と対象者

社保(健康保険)は、企業や組織に勤めている人が加入します。

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ):主に中小企業の従業員が加入。
  • 健康保険組合(組合健保):大企業が単独で、または同業種の複数の企業が共同で設立する組合。 (例:関東ITソフトウェア健康保険組合、出版健康保険組合 など)
  • 共済組合:公務員や私立学校の教職員が加入。

社保(健康保険)の対象となる人は、会社員、公務員、法人の役員、および一定の条件(所定労働時間・日数、賃金など)を満たすパートタイマーやアルバイトです。

国保と社保の保険料の負担の違いは?

国保と社保は、保険料の計算・負担方法が異なります。国保は自営業者などが対象で保険料は全額自己負担ですが、社保(健康保険)は会社員などが対象で保険料を会社などと折半します。

保険料の決まり方と負担方法

保険料の計算根拠と、誰がいくら負担するか(負担割合)が異なります。

項目国民健康保険(国保)社会保険(社保:健康保険)
保険料の計算前年の所得や世帯構成(人数など)に基づき、市区町村ごとに異なる料率で決定標準報酬月額
(給与額を等級で区分したもの)に基づき決定
保険料の負担全額自己負担(世帯主がまとめて納付)事業主と被保険者(従業員)が半分ずつ負担(労使折半)

国民健康保険(国保)

国民健康保険の保険料は「所得割」「均等割」などで構成され、計算方法や料率、上限額が市区町村によって異なります。また、前年の所得を基準にするため、独立直後などで前年の所得が高いと、現在の収入が少なくても保険料が高額になるケースがあります。

社会保険(社保)

社会保険は、給与から天引きされる形で納付します。保険料率は加入する健康保険(協会けんぽ、組合健保)によって異なりますが、負担は労使折半です。

国保と社保はどちらが安い?

「国保と社保、どちらが安いですか?」という質問は多いですが、所得や家族構成などで変わります。

国保は所得が低いと保険料が軽減される仕組みがありますが、社保は一定の給与があれば一定の保険料が発生します。

社保は「扶養」の仕組みにより、扶養家族が何人いても本人の保険料は変わりません。一方、国保は世帯の人数が増えると(均等割などで)保険料が上がるため、扶養家族が多い場合は社保の方が有利になる傾向があります。

「どちらが得か」は、単純な保険料だけでなく、会社の負担分や後述する給付内容もふまえて総合的に判断する必要があるでしょう。

参照:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|全国健康保険協会

国保と社保の扶養家族の扱いに違いはある?

家族(配偶者や子ども)がいる場合の扶養制度の違いを確認しておきましょう。

国保には扶養の概念がなく家族全員が被保険者となりますが、社保には扶養制度があり、要件を満たせば家族の保険料負担なしで加入できます。

国民健康保険は扶養という考えはなく世帯で加入する

国民健康保険は「世帯」を単位に加入し、世帯主が代表して保険料を納めます。いわゆる「扶養」という考え方はなく、子どもや無職の配偶者がいる場合でも、家族一人ひとりがそれぞれの「被保険者」として扱われます。保険料は、世帯の総所得や加入人数(均等割)などを基準に算定されるため、被保険者の人数が増えるほど世帯としての保険料は高くなります。

社会保険(健康保険)は被扶養者として扱う

社会保険では、被保険者の収入で生活する配偶者・子ども・父母などは、一定の要件(例:年収130万円未満など)を満たせば「被扶養者」として認定されます。被扶養者は追加の保険料負担なく、被保険者本人と同様に医療費の自己負担が原則3割となるなどの給付を受けられます。

一方、たとえば配偶者がパート・アルバイトで働き、年収が基準を超えると通常は扶養の対象外となり、勤務先が社会保険の適用事業所であれば、本人が社会保険に加入することになります。

勤務先で社会保険に加入できない場合には、国民健康保険に加入して保険料の負担が必要です。

このほかにも、以下のような要件を満たすと社会保険の扶養から外す手続きが必要となります。

  • 後期高齢者医療制度に加入し被保険者となった
  • 被扶養者の収入が同居している被保険者の収入の半分以上になった
  • 被扶養者の収入が同居している被保険者の仕送り額を超えた
  • 健康保険、船員保険の被保険者となった
  • 共済組合、国保組合等の組合員となった
  • 離婚したり婚姻等によって他の被保険者に扶養されるようになった
  • 離縁、死亡または同居が要件の者と別居した
  • 日本国内に住所を有しなくなった

参照:被扶養者とは?|全国健康保険協会

国保と社保の給付内容(傷病手当など)の違いは?

病気やケガで医療機関にかかった際の自己負担割合(3割負担など)や、高額療養費制度(医療費の自己負担に上限を設ける制度)は、国保も社保も基本的に共通です。

しかし、国保には、「傷病手当金」や「出産手当金」は原則としてありません。(一部の国民健康保険組合では独自に設定している場合もあります)

そのため、自営業者や個人事業主は、病気やケガで働けなくなった場合の備え(民間の保険に加入するなど)を、別途考えておく必要性があるといえます。

国保と社保(健康保険)の主な給付内容の比較

以下は、国保と社保(健康保険)の主な給付内容を比較したものです。

※被保険者本人が受ける給付を基準にしています。

給付の種類国民健康保険社会保険
(健康保険)
概要
療養の給付ありあり医療機関の窓口で保険証を提示し、治療を受ける
療養費ありあり立て替え払い(コルセット代など)の払い戻し
高額療養費ありあり医療費の自己負担額が上限を超えた場合の払い戻し
移送費ありあり緊急時などの移送にかかった費用
出産育児一時金ありあり出産時に支給される一時金
埋葬料
(※国保は葬祭費)
ありあり被保険者が死亡した際に支給される
傷病手当金原則なしあり病気やケガ(業務外)で働けない期間の所得補償
出産手当金原則なしあり出産のために働けない期間の所得補償

参照:保険給付の種類と内容|全国健康保険協会

社保と国保の加入や切り替え手続きの仕方は?

会社に入社・退職する際や、独立・法人化する際には、保険の切り替え手続きが必要です。手続き漏れは、医療費を一時的に全額負担する事態になったり、保険料を二重払いしてしまったりするリスクにつながります。

会社を退職して国保に加入する場合

会社を退職すると、翌日に社会保険の資格を失います。

  1. 会社での手続き:
    会社側が「健康保険・厚生年金保険資格喪失届」を提出します。退職者には「健康保険資格喪失証明書」などが渡されます。
  2. 国保への加入:健康保険の資格喪失日(退職日翌日)から14日以内に、お住まいの市区町村役場の窓口で国保の加入手続きを行います。(「健康保険資格喪失証明書」などが必要)

国保に加入する以外に、社保の「任意継続」(最長2年間、保険料は全額自己負担)、家族の社保の「被扶養者」になるといった選択肢もあります。

国保から会社の社保に加入する場合

就職や、パート先の加入要件を満たした場合などです。

  1. 会社での手続き:入社時に会社(人事担当者)の指示に従い、必要な書類(マイナンバー、基礎年金番号のわかる書類)を提出します。会社が「健康保険・厚生年金保険資格取得届」を提出します。資格取得手続き後、従来は健康保険証が発行されていましたが、令和6年12月2日以降は新規発行はされなくなり、医療機関を受診するためにはマイナ保険証や資格確認書の提示が求められます。
  2. 国保の脱退:会社で資格取得の手続きが完了したら、速やかにお住まいの市区町村役場で国保の脱退手続きを行います。(新規の健康保険加入状況が分かるもの、国保の保険証または資格確認書、マイナンバーカードなどが必要)

新規の健康保険加入状況が分かるものとしては、健康保険の資格確認書や資格取得証明書、資格情報のお知らせなどがあります。国保の脱退手続きは、会社が社保に加入させただけでは自動的に行われません。

ご自身で役所に届け出をしないと、国保の資格が残ったままとなり、社保の保険料と国保の保険料が二重で請求される(二重払い)場合もあるため、忘れずに脱退手続きを行いましょう。

参照:会社を退職する時の手続き|日本年金機構
就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き|日本年金機構

会社設立時、役員や従業員の保険は国保・社保どちらを選ぶべき?

これから会社を設立する経営者や、個人事業主から法人化を検討している方にとって、非常に重要な論点です。

結論から言うと、法人を設立した場合、たとえ社長一人であっても、役員報酬を得ていれば原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務があります。

個人事業主の場合(国保)

個人事業主の場合、従業員が常時5人未満であれば社会保険への加入は任意です(任意適用事業所)。この場合、事業主本人はそもそも社会保険の被保険者にはなれず、国民健康保険に加入します。 従業員が常時5人以上になった場合(一部の業種を除く)は、強制適用事業所となり、従業員を社保(健康保険・厚生年金)に加入させる義務が生じます。

法人における社会保険(社保)の強制適用

株式会社や合同会社などの法人は、従業員数にかかわらず「強制適用事業所」となります。 これは、事業主や従業員の意思にかかわらず、法律によって社会保険への加入が義務付けられている、ということです。

「社長一人だけの会社だから国保のままでいい」ということは原則として認められません。

法人の社保のコスト面の影響

法人は原則として社会保険への加入が義務で、役員報酬や従業員給与に応じた保険料の半額を会社が負担し、これは「法定福利費」として経費計上できます。加入により、役員や従業員は傷病手当金などの保障を受けられ、将来の厚生年金にもつながる点がメリットです。

これに対し、個人事業主が加入する国民健康保険は保険料が全額自己負担で、会社の経費にはなりません(個人の社会保険料控除の対象)。したがって「どちらが得か」は単月の保険料額だけで判断せず、会社負担分のコストや経費算入の可否、得られる保障の厚み(福利厚生)まで含めて総合的に検討することが重要です。

国保と社保はマイナンバーカードでわかる?

マイナンバーカードを健康保険証として利用する場合、カードの見た目では国保か社保かの区別はつきません。医療機関の窓口に設置されたカードリーダーで読み取ることで、資格情報(加入している保険)がオンラインで確認される仕組みになっています。

参照:マイナンバーカードの健康保険証利用について|厚生労働省

国保と社保の違いを理解し、適切な手続きを

国民健康保険(国保)と社会保険(社保)の大きな違いは、加入対象者や保険料の負担(全額自己負担か労使折半か)、扶養制度の有無、傷病手当金などの所得保障の有無にあります。

会社員から独立して個人事業主になる場合、法人を設立する場合、または従業員を雇用し社会保険の適用を検討する場合には、これらの違いを正確にふまえることが不可欠です。

特に会社設立時は、社会保険への加入が法律上の義務となるケースがほとんどです。手続き漏れや、退職・入社に伴う保険料の二重払いが発生しないよう、制度を正しく理解し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家への相談も視野に入れながら、準備を進めましょう。


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