• 更新日 : 2025年11月11日

経済的発注量とは?計算方法やExcelでの求め方までわかりやすく解説

経済的発注量(EOQ)とは、発注費用と在庫維持費用の合計(年間総費用)が最小になる1回あたりの最適発注量を指します。そのため、欠品による機会損失や、過剰在庫による資金コスト・保管費を同時に抑え、年間の総費用を最小化する在庫管理が可能になります。

多くの企業担当者が直面する「欠品による機会損失」や「過剰在庫による資金繰りの悪化」といった課題は、この経済的発注量を活用することで解決に近づくでしょう。

この記事では、経済的発注量の計算方法から、Excelを使った具体的な求め方、さらには会計業務への影響までを解説します。

経済的発注量(EOQ)とは?

経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)とは、年間の「発注費用」と「在庫維持費用」の総額が最も小さくなる1回あたりの発注量のことです。客観的な数値に基づいて発注量を決めることで、感覚的な発注による過不足を防ぎ、在庫管理のコストを最小化する目的で用いられます。

発注費用と在庫維持の費用は相反する性質

在庫管理におけるコストは、主に「発注費用」と「在庫維持費用」の2つに大別され、これらは互いに相反する性質(トレードオフ)を持っています。

発注費用とは1回の発注ごとにかかる費用。輸送費や事務手数料、検品にかかる人件費など。

  • 発注量が多い(発注回数が少ない):年間の発注費用は低くなる。
  • 発注量が少ない(発注回数が多い):年間の発注費用は高くなる。

在庫維持費用とは在庫を保管するためにかかる費用。倉庫の賃料、保険料、光熱費、在庫の陳腐化リスクなど。

  • 発注量が多い(在庫量が多い):年間の在庫維持費用は高くなる。
  • 発注量が少ない(在庫量が少ない):年間の在庫維持費用は低くなる。

このように、一方の費用を下げようとすると、もう一方の費用が上がってしまいます。

経済的発注量が目指すゴール

経済的発注量は、このトレードオフ関係にある2つの費用合計が最も低くなる「最適解」を見つけ出すための指標です。

発注費用と在庫維持費用の合計を示す総費用曲線が最も低くなる点が、経済的発注量となります。この点を求めることで、企業はコストを最小限に抑えつつ、安定した在庫管理を実現できるでしょう。

なぜ経済的発注量の計算が必要?

経済的発注量の計算は、在庫コストを最小限に抑えるため、会社の資金を有効活用できます。

多すぎる在庫が引き起こす保管費の無駄や、少なすぎる在庫が招く販売機会の損失を同時に防ぎます。これにより、最も効率的な発注量をデータで特定し、企業の利益最大化とキャッシュフローの安定化を実現します。

EOQは「需要が一定」「在庫補充は一括入荷」などの前提を置いた古典的モデルである点には留意が必要です。後述のデメリット等も踏まえ、現実の変動に対する自社に合わせた調整が必要となります。

経済的発注量を活用するメリット・デメリットは?

経済的発注量を活用する最大のメリットは、客観的なデータに基づき在庫コストを最小化できる点です。この効果は経費削減に留まらず、人事や会計業務の効率化にも及びます。一方でデメリットは、計算モデルの前提(需要が一定など)と現実が異なる場合があるため、状況に応じた調整が必要になるでしょう。

失敗を避けるためには、前提条件や注意点を正しく理解しておくことが不可欠です。

メリット:客観的な数値に基づく最適な発注

最大のメリットは、担当者の主観を排し、データに基づいて最適な発注量を決定できる点です。これにより、以下の効果が期待できます。

  • 在庫コストの最適化
    発注費用と在庫維持費用の総額を最小化します。過剰在庫による保管コストやキャッシュフローの悪化、欠品による販売機会の損失といったリスクをまとめて抑制できます。
  • 業務の効率化と人件費の最適化
    発注ルールが明確になるため、業務の属人化を防ぎ、誰でも一定の品質で作業できるようになります。これにより担当者の判断にかかる時間が短縮され、人件費の最適化につながります。
  • 会計処理の質と信頼性の向上
    在庫水準が安定し、貸借対照表に計上される棚卸資産の評価額も安定します。これは正確な財務諸表の作成に寄与するだけでなく、会計監査や税務調査の際に、在庫評価の客観的な根拠として示すことができます。

デメリット(注意点):需要変動やリードタイムへの考慮

一方で、経済的発注量の計算モデルは、いくつかの単純化された前提に基づいています。実務で適用する際には、以下の点に注意しなくてはなりません。

  • 需要が一定であること:
    計算の前提として、需要は年間を通じて一定であると仮定されています。季節変動が大きい商品や、トレンドに左右されやすい商品にはそのまま適用しにくい場合があります。
  • リードタイムが考慮されていない:
    発注してから納品されるまでの時間(リードタイム)は考慮されていません。そのため、別途「安全在庫」を設定し、欠品リスクに備える必要があります。
  • 数量割引が考慮されていない:
    大量に発注することで単価が下がる「数量割引」がある場合、割引を考慮した別の計算が必要になります。

これらの限界をふまえ、経済的発注量をあくまで「基準値」として捉え、実際の状況に合わせて調整していく柔軟な姿勢が求められるでしょう。

上記デメリットのうち需要変動・リードタイムは後述の安全在庫・発注点の考え方を使ってある程度補うことが可能です。

経済的発注量の計算方法は?

経済的発注量(EOQ)は、「年間総需要量」「1回あたりの発注費用」「年間在庫維持費用」の3つの要素を使い、SQRT((2 * S * D) / H) という計算式で算出します。平方根は「SQRT()」で表します。

EOQ = SQRT((2 * S * D) / H)

D:年間総需要量

→1年間で必要となる商品の総数(年間販売数量や年間使用量など)

S:1回あたりの発注費用

→発注手続きの事務コスト、輸送費、荷受け・検品の人件費など、1回の発注で発生する費用の合計

H:年間在庫維持費用

→商品1個あたりを1年間保管するためにかかる費用(保管費、保険料、税金、陳腐化リスクなど)

特に「発注費用」や「在庫維持費用」は、どこまでを費用に含めるかによって結果が変わります。あらかじめ社内で算出ルールを決めておくとよいでしょう。

【計算例】年間15,000個の商品を発注する場合

以下の条件で、実際に経済的発注量を計算してみます。

  • 年間総需要量 (D):15,000個
  • 1回あたりの発注費用 (S):22,500円
  • 商品1個あたりの年間在庫維持費用 (H):300円

これらの数値を、計算の順序にそって当てはめていきます。

  1. まず分子部分「2 * S * D」を計算します。
    2 * 22500 * 15000 = 675,000,000
  2. 次に、上記の結果を分母「H」で割ります。
    675,000,000 / 300 = 2,250,000
  3. 最後に、上記の結果の平方根「SQRT()」を求めます。
    SQRT(2,250,000) = 1,500

この計算結果から、1回あたり1,500個を発注することが、年間の総費用を最も抑えられる「経済的発注量」であるとわかります。

経済的発注量をExcelやスプレッドシートで求める実践手順

経済的発注量は、一度計算式を組んでしまえば、Excel(エクセル)やGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトで求められます。毎回電卓を叩く必要はなく、数値が変わっても即座に再計算できるため非常に効率的です。

STEP1:必要な数値を入力するシートを作成する

まず、計算に必要な3つの要素と、結果を表示するセルを用意します。以下のように項目を整理するとわかりやすいでしょう。

AB
1項目数値
2年間総需要量 (D)15000
31回あたりの発注費用 (S)22500
4年間在庫維持費用 (H)300
5経済的発注量 (EOQ)

STEP2:SQRT関数を使って計算式を組む

次に、結果を表示させたいセル(この例ではB5)に、計算式を入力します。平方根を求めるには「SQRT関数」を使います。

入力する数式:=SQRT(2*B3*B2/B4)

この数式を入力してEnterキーを押すと、B5のセルに計算結果「1500」が表示されます。

テンプレート活用のメリット

一度このテンプレートを作成しておけば、年間総需要量(B2)や各費用(B3, B4)の数値が変わった際に、そのセルの値を変更するだけで、経済的発注量が自動で再計算されます。これにより、担当者の計算負担を大幅に軽減できるだけでなく、発注方針の見直しも迅速に行えるようになります。

経済的発注量は、どの発注方式で使う?

経済的発注量(EOQ)で「1回に発注すべき最適な量」がわかったら、次はその数値を実際の業務に組み込む必要があります。在庫管理における発注方法には、主に以下の2種類があり、EOQがどちらと関係するのかを解説します。

① 定量発注方式(発注点方式)

定量発注方式は、在庫があらかじめ決めておいた一定の水準(発注点)まで減ったタイミングで、毎回決まった量を発注する方法で、「発注点方式」とも呼ばれます。

この方式では、発注のタイミングは在庫の消費に応じて不定期になりますが、「発注点を下回ったら決まった量を発注する」という仕組みがシンプルで管理しやすいのが特長です。そのため、需要が安定している事務用品や消耗部品といった商品に向いています。

この「毎回決まった量」を算出する際に、経済的発注量(EOQ)が活用されます。 つまり、「在庫が〇個になったら、EOQで計算した1,500個を発注する」といったルールで運用します。

② 定期発注方式

定量発注方式とは対照的に、定期発注方式では「いつ発注するか」を固定します。例えば「毎週月曜日に必ず発注する」と決め、その都度、在庫を確認して必要な量だけを注文します。

そのため発注量は在庫の消費量に応じて毎回変動しますが、発注作業を特定の日にまとめられるのが利点です。この方法は、需要の波が激しい季節商品や主力製品の管理に適しています。

こちらは毎回発注量が変わるため、EOQのような固定量を算出するモデルは直接的には使いません。

各発注方式の比較まとめ

発注方式発注タイミング1回あたりの発注量向いている商品
定量発注方式不定期一定
(EOQを活用)
需要が安定した商品
消耗品など)
定期発注方式定期不定需要変動が大きい商品
(季節品など)

経済的発注量は主に定量発注方式でその効果を発揮します。自社が扱う商品の特性に合わせて、適切な発注方式を選択しましょう。

データに基づいた発注で、最適な在庫管理を目指す

経済的発注量を理解し活用することは、在庫コストを最小化し、企業のキャッシュフローを改善する有効な一手です。計算自体はExcelなどで簡単にでき、その数値を「定量発注方式」に組み込むことで、経験や勘に頼らないデータに基づいた在庫管理が実現します。

まずは自社の商品で試算し、最適な発注量を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。


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