- 作成日 : 2024年8月23日
一人親方が法人化すべきタイミングは?メリット・デメリットや必要な手続きを解説
一人親方が法人化するということは、企業や組織に雇われず、個人事業主が会社設立することです。一人親方は主に建設業などにおいて、個人で事業を営む層を指します。
本記事では一人親方が法人化するタイミングや法人化のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
一人親方はいつ法人化すべき?
一人親方は従業員を雇わないので、法人化するタイミングが難しいと感じているかもしれません。
こちらでは一人親方と法人の違いや法人化を検討すべきタイミングについて解説します。
一人親方(個人事業主)と法人の主な違い
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 設立手続き | 開業届を出せば自由に開業できる | ・定款の作成や登記が必要 ・設立費用もかかる |
| 税金 | ・所得税 ・個人事業税(所得が290万円以上の人が対象) | ・法人税 ・法人住民税 ・法人事業税 |
| 税務申告 | 比較的容易 | 専門的な知識が必要 |
| 信用力 | 比較的低い | 高い |
| 事務負担 | 比較的低い | 煩雑で多い |
個人事業主と法人の違いは多岐にわたります。個人事業主は設立手続きが比較的簡単であり、設立にまつわる費用が少ない傾向です。税務署や市区町村に開業届を提出すれば事業を開始できます。
しかし、所得が増えると高い税率が適用されたり、事業が失敗した場合個人の財産にも影響が及んだりするなどのデメリットがあります。また、信用力は法人に比べて低いため、大規模な取引や融資を受ける際に不利になる場合があるでしょう。
一方、法人は設立手続きが複雑で費用がかかりますが、法人税や法人住民税、法人事業税など多様な税制が適用されます。経営責任は有限責任となり、個人資産が守られる点も大きなメリットです。個人事業主と比較して法人の信用力は高く、大規模な取引や融資を受けやすくなります。
法人化を検討すべきタイミング
一人親方が法人化した方が適切なタイミングとしては、税負担が増加する年間売上1,000万円を超えた場合や課税所得が900万円を超えた場合だといわれています。
ただ、一部のコラムサイトでは所得金額が500万円を超えたら法人化した方がメリットはあるという説明もありますが、あくまでも目安なので、一概に「いくらから」と断定することはできません。
上記タイミングを目安に、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
また、社会保険に加入したい場合や従業員を雇いたい場合も法人化を検討するのも一つの手です。法人化することで、税制上のメリットや社会保険制度の利用、信用力の向上が期待できます。
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一人親方が法人化するメリット
一人親方が法人化するメリットとしては、下記のようなポイントが挙げられます。
- 税負担が軽減される
- 社会的信用が上がる
- 賠償責任等が限定される
- 赤字の繰り越し期間が長い
- 減価償却がしやすい
- 事業継承しやすい
以下ではそれぞれのメリットについてご紹介します。
税負担が軽減される
個人事業主に課せられる所得税は累進課税なので、所得が高くなるとその分高所得者に対して負担がかさみますが、法人税は比較的低い税率が適用されます。また、役員報酬として所得を分散させることができ、さらに節税効果を高めることができるのです。
社会的信用が上がる
法人化することで社会的信用の向上が期待できます。法人になると金融機関から事業融資が受けやすくなり、事業に必要な設備投資もしやすくなります。
法人とだけ取引する企業も多く、法人化することで個人事業主よりも大規模な仕事の受注がしやすいなどビジネス面でも有利に働く場面は多いでしょう。
賠償責任などが限定化される
法人化すると賠償責任が有限となります。思わぬ事態で仕入れ代金が支払えない、過失によって賠償が発生した際には、個人事業主の場合は全て事業主が賠償しなければなりません。
しかし、法人の場合は社長(事業主)と法人は別々に扱われるため、会社として負債を出した場合でも個人の財産は守られます。
赤字の繰り越し期間が長い
法人化すると赤字を翌年以降に繰越期間が長くなります。個人事業主の場合は3年間しか赤字の繰り越しができませんが、法人の場合は最大10年間繰り越せるのです。つまり、将来的な利益と相殺して税負担を軽減できます。
減価償却がしやすい
法人化することで、減価償却の適用範囲が広がり、経費として計上できる金額も増加します。特に建設業など設備投資が多い業種にとって大きなメリットとなります。減価償却を適切に行うことで、節税効果が期待できます。
事業承継しやすい
トラブル対策にあらかじめ承継対策は必要なものの、法人化した方が個人事業主よりも事業承継をしやすく、会社の資産や契約などにおいては社長名を変更すれば事業を継続できます。
一人親方が法人化するデメリット
一人親方の法人化にはデメリットや注意点も存在します。
- 会社設立に費用がかかる
- 会社の資産は自由に使えなくなる
- 行政手続きや事務負担の増加
- 赤字でも法人住民税は発生する
それぞれどのようなことなのか、以下でご紹介していきます。
会社設立に費用がかかる
法人化するためには設立費用がかかります。例えば、株式会社を設立する場合、定款の認証料(3万~5万円、資本金によって金額が異なる)や登録免許税(最低15万円)、収入印紙代(4万円)、定款の謄本手数料(2,000円程度)、行政書士などの費用などが必要です。
合同会社の場合は法人化よりも低額で抑えられますが、収入印紙代(4万円)と登録免許税(6万円)の合計10万円程度の費用となります。基本、定款の公証人による認証は必要ないため、認証手数料やそのための謄本手数料は発生しませんが、法務局での定款の謄本取得には1ページあたり約250円、通常は2,000円程度がかかります。なお法人化も合同会社も印紙代の負担がありません。
会社の資産は自由に使えなくなる
法人化すると会社の資産と個人の資産は明確に区別されるので、資産を個人が自由に使えません。
例えば、会社の口座から個人の支払いをすることは違法となり、厳密な経理管理が求められます。この点は、個人事業主時代の自由さに比べて制約が多く感じられるでしょう。
行政手続きや事務負担の増加
法人化することで会社設立だけでなく法人税や消費税の申告、社会保険の手続き、決算書の作成など、複数の行政手続きが必要です。特に全て自分で行う場合、本業以外の事務作業に多くの時間と労力を費やすことになります。
赤字でも法人住民税は発生する
法人化して株式会社になると、たとえ赤字であっても法人住民税の均等割が発生します。個人事業主の場合は赤字なら所得税や住民税は発生しませんが、株式会社の場合は赤字でも法人住民税の均等割が年間7万円以上となります。
法人化する際の会社形態はどう判断すべき?
一人親方が法人化を検討する際には、法人格の種類を決める必要があります。民間の法人については、下表のとおりです。
| 会社形態 | 特徴 |
|---|---|
| 株式会社 | ・株式発行により資金を集めることができる ・会社設立時には定款の作成と認証、登記申請などが必要 ・決算公告をしなければならない ・社会的信用は高い |
| 合同会社 | ・定款の認証が不要 ・設立にかかる費用は株式会社よりも低い ・出資者と経営者が同一なので意思決定がしやすい ・小規模事業に適している |
| 合資会社 | ・資本金0円でも設立できる ・無限責任社員と有限責任社員各1名ずつが必要 |
| 合名会社 | ・設立方法は合同会社と同じ ・資本金は0円でも設立できる ・無限責任社員1名以上が必要 |
1人親方が法人化する場合は、株式会社あるいは合同会社が一般的です。会社形態を判断する要素としては、下記のようなポイントがあります。
- 設立費用
- 社会的信用
- 意思決定の方法
- 資金調達の有無
例えば、将来的に事業を成長させたいという方は株式会社を選ぶことが多く、会社設立の手間や費用を省きたいという方は合同会社で法人化することが多いようです。
一人親方が法人化する際に必要な手続き
一人親方が法人化する際の手続きには以下のようなものがあります。
- 経営者と会社の実印を作成する
- 定款を作成し認証を得る
- 資本金(出資金)の払込み
- 法務局での設立登記
- 税務署、都道府県税事務所、市区町村役場への届出
- 社会保険、労働保険の加入手続き(年金事務所)
- 会社名義の銀行口座開設、個人事業主廃業届を提出
- 営業許可を再取得、取引先との契約変更を行う
これらの手続きを経て法人化が完了します。なお、建設業や飲食業などは法人化による営業許可の再取得が必要になりますので、この点についてもしっかりと確認しておきましょう。
法人化の流れについては以下の記事でさらに詳しくご説明しています。
一人親方が法人化する際の注意点
一人親方が法人化する際の注意点としては、営業許可の再取得のタイミングです。建設業の一人親方の場合、500万円以上の工事を請け負う際に建設業許可が必要です。また、個人事業主を廃業し、法人で建設業許可を得るまでの空白期間に500万円以上の工事を請けることは違法行為となるのでご注意ください。
ただし、一定の条件下での建築一式工事や請負額500万円未満の工事は建設業許可がなくても請け負うことができます。
一人親方の法人化は事前準備が大切!
今回は一人親方の法人化について詳しくご紹介しました。一人親方は個人だけで事業を行う方も多く、法人化について興味があっても誰に相談すればいいか分かりにくいかもしれません。
本記事でご紹介したように法人化することでより大口の取引ができる、万が一のトラブルが発生した時も個人資産は守られるなどのメリットがあります。その一方で事務作業が煩雑する、営業許可の再取得までは大口の仕事が請けられないといった注意点もあるので、法人化を検討している方は事前準備を入念に行い、会社設立と業務のスケジュールを調整しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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