- 作成日 : 2025年6月13日
インフルエンサーは法人化すべき?タイミングや申請方法を解説
インフルエンサーが法人化すべきかどうかは、収益の規模や将来的な事業展開の意向によって判断が分かれます。年収が一定水準を超えて安定し、事業としての継続性や拡大を見込むのであれば、法人化は検討に値します。
本記事では、インフルエンサーの法人化に適したタイミングやメリット・デメリット、手続きの流れなどついて解説します。
目次
インフルエンサーが法人化すべきタイミング
インフルエンサーが法人化を検討するうえでは、「いつ法人化するか」というタイミングを見極めることが非常に重要です。
ここでは、法人化に適した具体的なタイミングと、それによって生じる変化について解説します。
年収が安定化した
年収が一定の水準で安定したら、法人化を検討するひとつのタイミングです。とくにインフルエンサーのように収入の波が激しい職種において、安定的に収益が出る状況が続いている場合は、法人化による恩恵を受けやすくなります。インフルエンサーに限ったことではありませんが、一般的に年間所得が800万円を超える場合、法人化による節税効果が期待できます。
この「800万円」という目安は、所得税および住民税を合わせた個人の税負担が、法人の実効税率を上回り始める水準です。個人事業主には所得税の累進課税(5~45%)が適用されるため、所得が増えるほど税率も高くなります。
一方、法人は19%または23.2%の法人税の固定税率が適用され、さらに経費計上の幅も広いため、結果として税負担を抑えることが可能になるためです。
また、企業案件やスポンサー契約の増加に伴い、安定した売上が見込まれるようになった場合も、事業としての位置づけを強化する意味で法人化を検討するタイミングといえるでしょう。法人格を持つことで、取引先からの信頼性も高まります。
将来的なイメージが固まった
中長期的にインフルエンサー業を軸に事業展開を行っていきたいと考えている場合、法人化によって事業計画の柔軟性と信用力を担保することが可能になります。
ブランド商品の企画販売、動画制作チームの拡大、他インフルエンサーとの業務提携など、スケールの大きい展開を想定しているのであれば、法人としての組織体制が必要になってくるでしょう。加えて、法人名義での資産管理や契約締結ができる点も、将来の事業展開を見据えるうえで重要な要素です。
ただし法人設立には手間や費用がかかり、顧問税理士の契約や諸経費などの負担も大きくなります。一時的な収入増加だけで判断するのではなく、インフルエンサーとしての長期的なキャリアプランが固まった段階で検討するとよいでしょう。
インフルエンサーの個人事業主と法人の違い
インフルエンサーが個人事業主として活動するか、法人として活動するかによって、税制面や社会保険制度、信用力など多くの点で違いがあります。
個人事業主は開業届を税務署に提出するだけで事業を開始できるのに対し、法人は会社法に基づく法人登記が必要です。また、個人事業主は所得税法に基づく累進課税(5~45%)が適用されるのに対し、法人は法人税法に基づく固定税率(19%または23.2%)が適用される、という税制上の違いもあります。
年金制度においても差があり、個人事業主は国民年金に加入するのに対し、法人の場合は厚生年金に加入しなければなりません。また、信用力の面では法人の方が高く、経費計上できる範囲も広くなるなど、さまざまな面で違いが生じます。
なお、設立手続きの複雑さや維持コストの面では個人事業主の方が簡易といえますが、一般的に事業規模が拡大するにつれて法人化のメリットが大きくなる傾向があります。
インフルエンサーが法人化するメリット
インフルエンサーが法人化することで得られる主なメリットについて、詳しく見ていきましょう。
節税できる
法人化のメリットとしてまず挙げられるのが、節税効果です。法人化のタイミングの項でも触れましたが、個人事業主の場合は所得税の累進課税(最高45%)が適用されますが、法人の場合は法人税の固定税率(19%または23.2%)になります。事業規模が大きくなり利益が一定規模を超えれば、かなりの節税効果が期待できるでしょう。
社会的信用度が上がる
インフルエンサーのような新興ビジネスモデルにおいて、社会的信用の獲得は重要な課題といえます。法人化することで社会的信用度が向上し、取引先や金融機関からの評価が高まることが期待できるでしょう。
法人設立すると会社名や住所、役員の名前や事業目的、資本金などをまとめた謄本が作られ、第三者機関に登録され、全国の法務局などで誰でも閲覧可能な状態になります。その結果、会社の存在や役員の存在などを明確にでき、取引先などが信頼を得る安心材料になります。
また、法人でなければ取引しない企業も存在するため、法人化によって業務の幅を拡大できる可能性が高まる点もメリットです。
経費精算できるものが増える
法人化によって経費計上できる範囲が広がり、節税効果を高められる点も無視できません。とくにインフルエンサーは経費にできるものが少なく利益率が高いビジネスモデルであるため、個人事業主の場合、所得が増えるほど支払う税金も大きくなります。法人化によって経費の範囲が拡大でき、自分への給料を役員報酬として経費にすることも可能です。
そのほか、賃貸で住んでいる自宅を社宅扱いにして家賃や光熱費の一部を経費化できることに加え、出張時の日当や退職金としての積立金、交際費(年間800万円まで)なども経費として認められます。
さらに、会社設立時にかかる費用や税理士への顧問料も経費として扱えます。
法人ドメインを取得できる
法人化によって、法人名義のドメインの取得が可能になります。とくに「.co.jp」などの日本の企業向けドメインは法人でなければ取得できないため、法人化によってウェブサイトの信頼性やブランド力を高められるメリットがあります。
法人ドメインの使用によって、ビジネスとしての信頼性が向上し、企業との取引においても有利に働く場合もあるでしょう。また、SEOの観点からも、法人ドメインは信頼性の高いドメインとして評価される傾向にあります。
法人化における節税効果について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
インフルエンサーが法人化するデメリット
法人化には多くのメリットがある一方で、注意すべき負担や制約も存在します。とくに、コスト面や手続きの煩雑さ、運用上の制約など、個人事業主とは異なる義務が生じるため、慎重な検討が求められます。
以下で、インフルエンサーが法人化する際に直面しやすい主なデメリットについて解説します。
社会保険に加入する義務がある
個人事業主は国民健康保険に加入しますが、法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務が発生します。
社会保険料は会社と社員で半分ずつ負担するため、一人社長の場合はすべて自身で支払うことになります。また、従業員の社会保険料も負担することになるため、国民健康保険と比較して負担が大きくなる場合が多いのはデメリットといえるでしょう。
会計処理や手続きが複雑化する
法人化すると会計処理や各種手続きが複雑化し、個人事業主と比較して事務作業が増加します。
法人の場合、会社法や法人税法に基づいた厳格な会計処理が求められるため、専門知識が必要です。また、決算申告だけでなく、消費税や源泉所得税の納付、社会保険関連の手続きなど、定期的な事務作業が発生する点も無視できません。
個人事業主のうちは会計ソフトなどで対応した場合でも、法人化のタイミングで税理士などの専門家に依頼するケースも多く、その場合はコストもかかります。
維持費が必要になる
法人を維持するためには、さまざまな固定費がかかります。税理士などの専門家への報酬や社会保険料、法人住民税(均等割)など、収入の有無にかかわらず支払い続ける必要があるためです。
とくにインフルエンサーのような収入が不安定なビジネスモデルの場合、固定費の負担は大きなリスクとなり得ます。法人を解散する際にも費用がかかるため、安易に法人化すると後々の負担が大きくなる可能性がある点に注意しましょう。
役員報酬を1年間変更できない
法人の場合、役員報酬は原則として年度内での変更が認められていません。役員報酬は事前に決定し、その金額を1年間継続して支払う必要があります。
インフルエンサーのように収入が月によって大きく変動する場合、役員報酬の固定は資金繰りの面で大きな制約となる可能性があります。収入が少ない月でも決められた役員報酬を支払わなければならず、会社の資金繰りを圧迫するリスクがある点は理解しておきましょう。
役員報酬を適切に設定するためには、過去の収入実績や今後の見通しを踏まえた慎重な判断が必要であり、専門家のアドバイスを受けることが望ましいといえます。
インフルエンサーが法人化する手順
ここでは、インフルエンサーが法人するときの手続きの流れの概要を紹介します。
会社の基本事項を決める
はじめに会社名(商号)、会社の形態、本店所在地、事業目的、資本金額、役員構成など基本事項を決めます。
会社名は原則自由に決められますが、既存の会社と同一の商号は同一市区町村内では登記できないため、事前に法務局で商号調査を行うとよいでしょう。事業目的はインフルエンサー業務に関連する内容(インターネット広告業、広告仲介業など)を具体的に記載します。
定款を作成し認証を受ける
会社の基本事項が決まったら、定款を作成しましょう。定款は会社の根本規則を定めた書類であり、商号、本店所在地、事業目的、機関設計、資本金額などを記載します。
株式会社の場合、定款は公証役場での認証が必要です。公証人の面前で定款に署名・押印し、認証手数料と印紙代を支払います。一方、合同会社の場合は公証人の認証は必要ありません。
法人設立登記を行う
定款の認証を受けた後、資本金を払い込み、法務局で設立登記申請を行います。登記申請には、定款、登記申請書、資本金払込証明書、印鑑届出書、取締役就任承諾書などの書類が必要です。
登記申請の際には、登録免許税を支払う必要があります。申請から約2週間程度で登記が完了し、登記簿謄本(登記事項証明書)が発行され、法人設立完了です。
法人名義の銀行口座を開設する
法人設立登記が完了したら、法人名義の銀行口座を開設します。法人口座の開設には、登記簿謄本(登記事項証明書)、印鑑証明書、代表者の本人確認書類などが必要です。
法人口座は個人口座と区別して管理する必要があり、法人の収入や経費の支払いはすべて法人口座を通じて行うことが原則です。プライベートの支出と事業の支出を明確に区別することで、税務調査などの際にもスムーズな対応が可能になります。
社会保険の加入手続きを行う
法人設立後は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きを行いましょう。手続きは法人設立から5日以内に行うことが義務付けられています。
管轄の日本年金機構の事務センターまたは年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」と「法人登記簿謄本」などの書類を提出します。また、従業員を雇用する場合は、雇用から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出する必要があるので、速やかに手続きしましょう。
インフルエンサーの法人化はタイミングやメリットをしっかりと見極めることが大切
インフルエンサーが法人化を検討する際は収益の安定性だけでなく、将来的な事業展開や税務面・法務面のメリット・デメリットを総合的に見極めることが重要です。
法人化には多くの利点がありますが、一方で維持費や手続き面の負担も無視できません。信頼できる専門家と連携し、最適なタイミングと手段で法人化を進めていくことが、安定したビジネス運営への第一歩となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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