• 作成日 : 2025年9月22日

飲食店の廃業届を出さないとどうなる?手続きや期限、確定申告ガイド

個人事業主が飲食店の廃業を決めた際、「廃業届」を出さないと、後から税金の追徴課税や青色申告の取り消しといった不利益が生じる可能性があります。手続きが面倒に思えるかもしれませんが、税務署や保健所などへ正しく届け出ることが、円満な廃業には欠かせません。

この記事では、主に個人事業主の飲食店経営者を対象に、廃業届を出さないことのリスクから、正しい手続きの進め方、そして廃業した年の確定申告まで、わかりやすく解説します。

飲食店が廃業届を出さないとどうなるのか

個人事業主が事業を辞めたことを税務署に知らせる「廃業届」を提出しない場合、税務上は事業を継続していると見なされます。法律で「提出しないことへの罰則」は明確に定められていませんが、実質的にさまざまなデメリットを被るため、手続きは必ず行いましょう。

青色申告の承認が取り消される

青色申告は、最大65万円の特別控除や、赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越せる「純損失の繰越控除」、家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」など、節税メリットの大きい制度です。廃業して収入がないからと確定申告を2年間怠ると、この青色申告の承認が取り消されてしまいます。将来、もし別の事業で再起を図る際に、この有利な制度が使えなくなるのは大きな損失です。再申請には時間がかかり、すぐに特典を受けられない場合もあります。

消費税の納税義務が継続する

消費税の課税事業者だった場合、税務署へ「事業廃止届出書」を提出しない限り、納税義務は続きます。たとえ売上がゼロでも、申告義務は残るため、放置すると無申告加算税などのペナルティにつながるおそれがあります。

国民健康保険料が下がらない可能性がある

国民健康保険料は前年の所得をもとに計算されます。廃業の事実を市区町村に届け出ていないと、事業の実態がなくても所得があると見なされ、保険料が適切に計算されないケースがあります。自治体によっては、廃業した事実を証明することで保険料の減免を受けられる制度もあるため、正しい手続きが重要です。

確定申告の手間と無申告のリスク

廃業届を提出していないと、税務署は事業が続いているものとして扱います。そのため、たとえ売上がゼロでも確定申告の義務は残り続けます。もし申告を怠れば「無申告」と見なされ、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとして「無申告加算税」(納付税額に対し最大20%)や、納税が遅れた日数に応じてかかる「延滞税」(年率最大約7.3%程度)が課される可能性があります。

信用情報や公的支援への影響

廃業届は、公的に事業を辞めたことを証明する大切な書類です。たとえば、廃業後に生活を立て直すために融資を受けたい場合や、国や自治体の給付金・支援金を申請する際に、廃業した事実を証明する書類の提出を求められることがあります。手続きを怠っていると、こうした公的なサポートを受ける場面で支障が出るかもしれません。

飲食店廃業の具体的な手続きと全体の流れ

飲食店の廃業は、やるべきことが数多くあります。多くは並行して進めることになりますが、全体の流れを解説します。

  • STEP1:廃業の準備とスケジュールの作成
  • STEP2:関係者への告知と退職手続き
  • STEP3:各種契約の解約と店舗の片付け
  • STEP4:行政機関への廃業届の提出

とくにSTEP3の届出は期限が短いものもあるため、計画的に進めることが大切です。

STEP1:廃業の準備とスケジュールの作成

飲食店の廃業を決めたら、廃業までの準備と計画を立てます。主に行うべきことは以下の3つです。

  • 閉店日とスケジュールの決定
    まず最終営業日を決め、そこから逆算して全体のスケジュールを立てます。関係者への告知や各種手続きの期限などを書き出し、計画的に進めましょう。
  • 廃業にかかる費用の確認
    店舗の原状回復費や在庫の処分費、従業員への退職金など、廃業に必要な費用を概算します。手元の資金で足りるかを確認しておくことが大切です。
  • 専門家への相談
    税務や法務の手続きは複雑なため、この段階で税理士や行政書士に相談すると、後の手続きがスムーズに進みます。

STEP2:関係者への告知と退職手続き

スケジュールが決まったら、関係者への告知を開始します。誠実なコミュニケーションが、円満な廃業には不可欠です。

  • お客様への告知
    1〜2ヶ月前を目安に、店頭の貼り紙やSNSなどで閉店日と感謝のメッセージを伝えます。
  • 従業員への告知と退職手続
    法律に基づき、解雇する場合は30日以上前に予告します(パート・アルバイトも対象です)。事情を丁寧に説明し、以下の退職手続きを滞りなく進めましょう。

  • 取引先への告知
    すべての取引先に連絡し、契約終了の旨と最終取引日を伝えます。未払いの買掛金などがあれば、支払い計画についてもしっかりと話し合いましょう。

STEP3:各種契約の解約と店舗の片付け

物理的に店舗を閉鎖するための手続きです。契約書を確認しながら、解約漏れがないように進めます。

  • 各種契約の解約
    店舗の賃貸借契約、厨房機器などのリース契約、電気・ガス・水道、POSシステムやグルメサイトの有料プランなど、すべての契約をリストアップし、解約手続きを行います。
  • 店舗の片付けと原状回復
    在庫や什器の処分を進めます。専門の買取業者に査定を依頼すると、処分費用を抑えられる可能性があります。賃貸物件の場合は、契約書に基づき「原状回復工事」が必要です。工事の負担範囲を貸主とよく協議しましょう。

STEP4:行政機関への廃業届の提出

店舗の閉鎖準備と並行して、行政手続きを進めます。次の章で解説する各種届出を、定められた期限内に提出することで、法的に廃業が完了します。

飲食店の廃業に必要な届出一覧

個人事業主が飲食店を廃業する際に必要な主な届出を一覧にまとめました。この章では、それぞれの届出について詳しく解説します。

提出先書類名など提出期限の目安
税務署
  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書
  • 事業廃止届出書(消費税)
  • 給与支払事務所等の廃止届出書
  • 廃業から1ヶ月以内
  • 廃業した年の翌年3月15日まで
  • 速やかに
  • 廃業から1ヶ月以内
保健所
  • 廃業届
  • 飲食店営業許可書(原本)
廃業後10日以内(ただし、地域によって異なる可能性あり)
都道府県税事務所

市町村役場

事業開始(廃止)等申告書自治体による(廃業後10日以内など)
年金事務所適用事業所全喪届(従業員がいた場合)廃業から5日以内
労働基準監督署

・ハローワーク

  • 労働保険関係成立届の廃止手続き
  • 雇用保険適用事業所廃止届
  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 廃業から50日以内
  • 廃業から10日以内
  • 従業員の退職翌日から10日以内
警察署返納理由書など

(深夜営業許可がある場合)

速やかに
消防署防火対象物廃止届出書など事前に管轄の消防署に確認

① 税務署への届出

税務署への廃業の届出は、主に以下の4つの書類が必要になります。書類は国税庁のウェブサイトからダウンロードできるほか、e-Taxでの提出も可能です。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書:
    いわゆる「廃業届」。廃業の事実があった日から1ヶ月以内に、所轄の税務署へ提出します。
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書:
    青色申告をしていた方が提出する書類です。提出期限は、廃業した年の翌年3月15日までです。
  • 事業廃止届出書(消費税):
    消費税の課税事業者の場合に提出が必要。提出期限は「速やかに」。消費税の納税義務が継続してしまうため、忘れずに提出しましょう。
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書:
    従業員を雇用し、給与を支払っていた場合に提出。廃業にともない給与の支払いがなくなることを税務署に知らせるための書類で、提出期限は廃業から1ヶ月以内です。

② 保健所への届出

飲食店を営業するために必須だった「飲食店営業許可」を返納するための手続きです。廃業後10日以内(ただし、地域によって異なる可能性あり)に、許可を受けた保健所へ「廃業届」を提出します。その際、交付された「飲食店営業許可書」の原本も返納する必要があります。もし許可書を紛失してしまった場合は、保健所の窓口で相談すれば対応してもらえます。

③ 都道府県税事務所・市町村役場への届出

個人事業税に関する手続きです。税務署とは別に、事業所の所在地を管轄する都道府県税事務所(または市町村役場)へ「事業開始(廃止)等申告書」を提出します。様式や提出期限は自治体によって異なるため、管轄の役所のウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせましょう。

④ 年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの届出

従業員を雇用していた場合に必要です。従業員の生活に直結する重要な手続きですので、迅速かつ正確に行いましょう。

  • 年金事務所:
    健康保険・厚生年金保険の手続き。「適用事業所全喪届」を廃業から5日以内に提出します。同時に、従業員全員分の「被保険者資格喪失届」も提出が必要です。
  • 労働基準監督署・ハローワーク:
    労災保険・雇用保険の手続き。労働保険関係の廃止手続きや、「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届(離職票)」などを、それぞれ定められた期限内に提出します。

⑤ その他の届出先

お店の営業形態によっては、以下の届出も必要になる場合があります。

  • 警察署:
    深夜0時以降にお酒を提供する「深夜酒類提供飲食店営業」の届出をしていた場合は、管轄の警察署へ廃止の届出が必要です。
  • 消防署:
    「防火対象物使用開始届」を提出していた場合、建物の使用実態が変わるため、廃止の届出が必要なケースがあります。事前に管轄の消防署へ確認しましょう。

飲食店(個人事業)の廃業届の記入ポイント

飲食店の廃業の手続きに必要となる「個人事業の開業・廃業等届出書」について、書き方のポイントを解説します。この書類は、所轄の税務署へ直接持参するか、郵送で提出する方法のほかに、国税電子申告・納税システム「e-Tax」を利用してオンラインで提出することも可能です。

① 提出先と基本情報

  • 提出先:提出する納税地の所轄税務署名を記入します。
  • 提出日:実際に提出する日付を記入します。
  • 納税地・上記以外の住所地・事業所等:納税地には通常、住民票のある住所を記入します。店舗の所在地が異なる場合は、「事業所等」の欄に記入します。
  • 氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー:正確に記入します。マイナンバーの提出時には本人確認書類の提示または写しの添付が必要です。
  • 職業・屋号:職業は「飲食業」、屋号は店の名前を記入します。

② 届出の区分と廃業情報

  • 届出の区分:「廃業」のチェックボックスにチェックを入れます。
  • 所得の種類:「事業(農業)所得」にチェックを入れます。
  • 開業・廃業等日:廃業した日付を記入します。必ずしも最終営業日と一致する必要はなく、片付けが終わり、事業の実態がなくなった日とするのが一般的です。
  • 廃業の事由:「事業不振のため」「店主高齢のため」など、廃業に至った理由を具体的かつ簡潔に記入します。「一身上の都合」でも問題ありません。

③ 事業の概要と給与等の支払の状況

  • 事業の概要:「飲食店経営」など、行っていた事業の内容を具体的に記入します。
  • 給与等の支払の状況:従業員や青色事業専従者の有無、源泉所得税の納期の特例を受けていたかなど、該当する項目にチェックや人数を記入します。

出典:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

飲食店が廃業した年の確定申告で注意すべきポイント

飲食店が廃業した年も、その年の1月1日から廃業日までの所得を計算し、確定申告を行う義務があります。

経費として計上できる廃業費用

飲食店の廃業にともなって発生した費用も、事業上の経費として計上できます。漏れなく計上することで、最後の年の所得税や住民税を抑えることにつながります。

  • 店舗の原状回復費用、解体費用(修繕費、雑損失)
  • 厨房機器や什器の廃棄、処分費用(雑損失)
  • 在庫(食材など)の廃棄損失(仕入割引、雑損失)
  • 各種契約の解約にともなう違約金(雑損失)
  • 従業員への退職金や解雇予告手当(給料賃金、退職金)

在庫や固定資産の会計処理

  • 在庫(食材や飲料など):
    廃棄した場合は「廃棄損」として経費計上します。個人で消費した場合は「家事消費」として、売上に計上する必要があります。
  • 固定資産(厨房機器、レジ、PCなど):
    廃棄・売却した場合は、「固定資産除却損」や「固定資産売却損」として経費計上します。個人で使い続ける場合は、時価で事業から個人へ売却したとみなし、「事業主貸」として処理します。

飲食店の廃業か休業か、判断するための3つの視点

「すぐに辞める決心がつかない」という場合、「休業」という選択肢もあります。どちらを選ぶべきか、以下の視点で検討してみましょう。

事業再開の見通しは立つか

近い将来に事業を再開する明確な計画があるなら「休業」、具体的な見通しが立たないなら「廃業」を検討しましょう。もし1〜2年以内に再開する計画があるのなら、飲食店営業許可などを維持できる休業のほうが手間は少ないでしょう。許認可を一度手放すと、再取得には時間と費用がかかるため、その点を考慮する必要があります。

店舗の維持費を払い続けられるか

店舗の固定費を支払い続けられる資金的な体力があるなら「休業」、なければ「廃業」を選択することになります。休業の最大のデメリットは、売上がないにもかかわらず、店舗の家賃、共益費、リース料などの固定費が発生し続ける点です。これらの維持費を最低でも半年から1年程度、支払い続けられる資金的な余裕があるかが、大きな判断材料になります。

事業をリセットして再出発したいか

過去の事業を一度完全に精算してリセットしたい場合は、「廃業」が適しています。業種を変えて再出発したい場合などは、廃業手続きをきちんと行うことをおすすめします。借入金などの負債を整理し再出発したい方にとって、廃業は一つの区切りになり、次の事業での融資審査などでプラスに働くこともあります。

飲食店の廃業届は、リスク回避のために不可欠な手続き

個人事業主が飲食店の「廃業届」を提出しない場合、青色申告の承認が取り消されたり、不要な税金を払い続けたりと、さまざまな不利益が生じます。

閉店までの計画的なスケジュール作成、税務署・保健所をはじめとする関係各所への正確な届出、そして事業の最終年となる確定申告までを完了させて、はじめて法的に事業が終了します。これらの手続きは複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ着実に進めることが、円満な廃業と、新たな未来への第一歩につながります。


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