- 更新日 : 2025年8月20日
給与支払報告書が提出不要になる条件は?30万円以下の場合や提出しないリスクなどを解説
給与支払報告書は、すべての従業員について必ず提出が必要というわけではありません。年間の支払額が少ない退職者など、特定の条件下では提出が不要となるケースが存在します。
この記事では、どのような場合に給与支払報告書の提出が不要になるのか、その具体的な条件や注意点を詳しく解説します。提出義務の有無を正しく理解し、経理業務の効率化にお役立てください。
目次
そもそも給与支払報告書とは
給与支払報告書は、前年中に給与を支払った全従業員の情報を記載し、提出する年の1月1日時点で従業員が居住している市区町村へ提出する書類です。提出義務があるのは、法人・個人事業主を問わず、給与を支払ったすべての事業者です。対象となる従業員には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、役員も含まれます。
毎年1月31日までに、前年中に支払った給与額などを記載した個人別明細書と、それをまとめた総括表をセットで提出することが地方税法で定められています。この書類がなければ、市区町村は個人の住民税額を正しく計算できません。事業者が提出した情報をもとに住民税額が決定されるため、従業員が適正な税金を納めるための、非常に大切な情報源となるのです。
給与支払報告書が提出不要になる条件
原則として全従業員分の提出義務がある給与支払報告書ですが、例外的に提出が不要とされるケースがあります。
年間給与支払額が30万円以下の退職者
前年中に退職した従業員については、その年の給与支払総額が30万円以下である場合、提出義務が免除されます。
注意すべきは、この規定が適用されるのは退職者に限られるという点です。現在も雇用している従業員については、年間の支払額が30万円以下であっても提出義務があります。この給与支払報告書提出不要30万のルールは、あくまで退職者に対する特例であると認識しておくことが重要です。
ただし、この規定は法律上の義務を免除するものですが、市区町村によっては提出を求めている場合もあります。正確な事務処理のため、事前に提出先の自治体へ確認しておくとより確実です。
給与支払報告書を提出しないとどうなるのか
提出義務があるにもかかわらず、給与支払報告書を提出しなかった場合、どのような事態が想定されるのでしょうか。一部で提出しないメリットを探す声もあるようですが、結論としてメリットは存在せず、深刻なリスクしかありません。
提出しないとバレる?
給与支払報告書を提出しないとバレるのかという疑問を持つ方もいるかもしれませんが、発覚する可能性は非常に高いです。
例えば、従業員が個人で確定申告を行った場合、税務署と市区町村の間で情報連携が行われるため、事業者からの報告がないことが明らかになります。また、他の従業員の報告情報から、事業所の存在自体は市区町村に把握されています。税務調査などを通じて未提出が指摘されることも十分に考えられます。
地方税法上の罰則は?
正当な理由なく給与支払報告書を提出しなかったり、虚偽の記載をして提出したりした場合、地方税法により罰則が科される可能性があります。これには、地方税法第317条の7により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています。
罰則の適用だけでなく、行政からの指導や、企業の社会的信頼性の低下にもつながります。故意でなくても、単なる失念が大きな問題に発展しかねないため、確実な提出が求められます。
給与支払報告書の書き方と提出のポイント
給与支払報告書の作成は正確さが求められます。ここでは、書類作成の基本的なポイントと、効率的な提出方法について解説します。
総括表と個人別明細書の書き方
給与支払報告書は、総括表と個人別明細書の2種類で構成されます。個人別明細書は、源泉徴収票とほぼ同じ様式で、従業員一人ひとりの支払給与額や控除額などを記載します。総括表は、提出する市区町村ごとの個人別明細書の枚数などをまとめた表紙のような書類です。
記載内容に誤りがないか、特にマイナンバーの取り扱いには細心の注意を払いながら作成を進めましょう。詳しい給与支払報告書の書き方は、国税庁や各市区町村のウェブサイトでも確認できます。
eLTAXを利用した電子データによる提出
複数の市区町村へ提出が必要な場合、eLTAXエルタックスという地方税ポータルシステムを利用した電子データによる提出が非常に便利です。eLTAXを使えば、作成した報告書データをインターネット経由で一度にすべての対象市区町村へ送信できます。郵送や窓口持参の手間が省け、事務負担を大幅に軽減することが可能です。近年、電子データによる提出の義務化対象も拡大しているため、積極的に活用を検討しましょう。
参考:eLTAX
給与支払報告書の提出に関するよくある疑問
給与支払報告書の提出義務については、判断に迷う場面がいくつかあります。ここでは、実務でよくある疑問にお答えします。
乙欄適用者の提出は必要?
乙欄適用者は年末調整の対象とならないため、給与支払報告書の提出も不要と考えてしまい、提出が漏れてしまうケースもあります。しかし、給与支払報告書は前年中に給与の支払いをしたすべての従業員について提出する義務があるため、乙欄適用者も提出対象です。忘れずに提出をしましょう。
年間給与支払額が0円の場合の提出は必要?
休職などの理由で年間を通じて給与の支払いがなかった従業員についても、市区町村が従業員の在籍状況を把握するため、給与支払額0円として給与支払報告書の提出が求められています。
提出を忘れていた場合や期限に遅れた場合はどうすればいい?
提出忘れに気づいた時点で、速やかに提出してください。提出先の市区町村役場に連絡し、遅れてしまった旨を伝えた上で、指示に従いましょう。遅延理由書の提出を求められる場合もあります。何よりも、発覚次第すぐに対応することが重要です。
給与支払報告書の提出義務を正しく理解しましょう
給与支払報告書の提出は、事業者の重要な責務であり、従業員の住民税を正しく計算するための根幹をなす手続きです。
原則として、給与を支払ったすべての従業員について提出が必要ですが、年間の給与支払額が30万円以下の退職者など、ごく限られた条件下でのみ提出が不要となります。この例外規定を正確に理解せず、自己判断で提出を怠ると、地方税法上の罰則の対象となるだけでなく、企業の社会的信用を損なうことにもつながりかねません。
アルバイトやパートであっても提出義務があること、未提出は発覚しうることを念頭に置き、毎年1月31日の期限までに確実な提出を心がけましょう。不明な点があれば、管轄の市区町村や税務の専門家に相談し、適切な対応をとることが賢明です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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