- 更新日 : 2025年3月19日
有給休暇引当金とは?日本国内における計上義務について徹底解説
企業によっては、有給休暇引当金を算出して計上しているところがあり、自社も導入すべきか迷っている人もいるでしょう。
有給休暇引当金は、日本の会計基準において定められた項目に該当していないため、今のところは算出および計上が義務付けられていません。
しかし、今後も継続して義務付けられないとは限りません。早めに有給休暇引当金の概要や算出方法などについて、理解を深めましょう。
目次
引当金とは?
引当金とは、企業が将来発生する可能性のある支出に備えるため、あらかじめ計上しておく会計上の項目を指します。将来的な費用や損失に対して適切な金額を設定し、会計帳簿に記録します。
引当金を記録するおもな目的は、企業の財務状況をより正確に反映させることです。引当金は将来の支出が見込まれる場合に計上され、計上した金額がまだ確定していなくとも、予測にもとづいて設定します。
引当金にはさまざまな種類があり、代表的なものとしては貸倒引当金・退職給付引当金・有給休暇引当金などがあります。たとえば貸倒引当金は、売掛金が回収できなくなるリスクに備えて計上する項目です。
引当金を的確に設定することで、企業は将来の財務リスクを軽減させ、透明性が高い企業として社会的な信頼度が向上します。
有給休暇引当金とは?
有給休暇引当金とは、企業が未消化の有給休暇に対して負うべき債務を示す負債性引当金のことです。
有給休暇引当金は、従業員に与えられた有給休暇のうち消化されていない日数にもとづいて算出します。具体的には、未消化の有給休暇の日数に日給を乗じて金額化し、決算時に負債として計上します。
日本の会計基準では有給休暇引当金の計上を義務付けてはいませんが、IFRSやアメリカの会計基準では計上が義務です。
日本企業の多くは未消化の有給休暇を債務として認識していないため、有給休暇引当金を導入することで、企業の財務状況の過小評価につながるおそれがあります。将来的には日本でも有給休暇引当金の計上が求められる可能性があります。
IFRS(アイファース)とは?
有給休暇引当金は、国際財務報告基準(IFRS)において計上が義務付けられています。IFRSは、日本の会計基準と異なるため、遵守すべきかどうか判断に迷う人もいるでしょう。IFRSの概要や、日本の会計との関係について解説します。
IFRSの概要
国際財務報告基準(IFRS)は、企業の財務諸表を国際的に統一的に作成するための基準です。
IFRSは、国際会計基準審議会(IASB)により策定され、世界中の企業に広く適用されています。異なる国の会計基準における差を排除し、投資家や利害関係者に対して企業の財務状況を明瞭に示すために設けられました。
IFRSは、基本的に利益の計算方法においても「資産・負債アプローチ」を採用しており、資産と負債の増減にもとづいて評価します。
日本では、2010年より上場企業に対してIFRSの任意適用が認められ、グローバル化を推進する多くの企業がIFRSへの移行を検討しています。IFRSを遵守することで、国際的な資金調達につながる点が大きなメリットです。
IFRSと日本の会計処理の違い
IFRS(国際財務報告基準)と日本会計基準は、おもに以下の点で異なります。
日本会計基準もIFRSの考え方に近づいていく可能性があるため、違いについての理解が大切です。
有給休暇引当金の算出および計上は義務?
日本では、有給休暇引当金に関する会計処理は法的に義務付けられていません。
そのため、日本では有給休暇の未消化分を負債として計上しないケースが一般的です。しかし企業によってはIFRSを適用する企業があり、適用する場合は、決算時に未消化の有給休暇にもとづいて引当金を算出して計上する必要があります。
将来、日本がIFRSを強制適用する可能性も考えられ、適用する場合は有給休暇引当金により新たな勘定科目が増えるうえ、以前よりも計上する負債の金額が増えるでしょう。
有給休暇引当金の算出方法
有給休暇の取得率や企業イメージの向上を目的に、有給休暇引当金の計上を検討する企業もあるでしょう。有給休暇引当金を算出するには、まず職場で従業員に付与している有給休暇の実態について把握しなければなりません。有給休暇引当金の算出方法について解説します。
有給休暇引当金を算出するために必要な情報
有給休暇引当金を算出するためには、以下の情報が必要です。
- 未消化の有給休暇日数
未消化の日数にもとづいて引当金が計算されるため、従業員が取得しなかった有効な残存日数を把握します。 - 日給
従業員の一日当たりの給与を算出します。基本給に加え、手当や福利厚生を含めるかどうか考慮する必要があります。 - 消化率
過去のデータをもとに、未消化の有給休暇の取得率(消化率)を把握します。
日本の会計処理では、有給休暇引当金の計上は義務ではありません。しかしIFRSの基準では企業の負債として認識するため、算出方法の理解が重要です。
有給休暇日数の算定方法
有給休暇の付与日数は勤続年数に応じて増加し、最大で20日が付与されます。また未使用の有給休暇は翌年度に繰り越せますが、有効期限は付与日から2年間です。
たとえば2023年に付与された有給休暇が10日で、そのうち6日を消化した場合、残りの4日を2024年に繰り越せます。2024年に新たに付与された有給が11日であれば、あわせて15日(4日+11日)です。ただし、2年間を超えた未使用分は消滅します。
有給休暇の消化率の算出方法
有給休暇の消化率は、外部から企業の労働環境を評価する重要な指標です。算出方法は、以下の通りです。
有給休暇の消化率は、有給休暇引当金を算出するためではなく、企業全体または特定の部門ごとの有給取得の実態を把握する際に役立ちます。
たとえば、ある従業員に年間15日の有給休暇が付与され、実際に10日を取得した場合の消化率は66.7%です。消化率が低いと、従業員のワークライフバランスや職場の健康状態に影響を与える可能性があるため、企業は有給休暇の消化率を注視し、有給取得を促進する施策を講じる必要があるでしょう。
日給の算定方法
日給の算定方法は、日給制のアルバイト・パートなどを除き、おもに月給をもとに算出します。一般的な計算式は、以下の通りです。
たとえば、基本給が15万円で所定労働日数が22日の場合は、以下の計算方法で算出できます。
日給 = 150,000円 ÷ 22日= 6,818円(切り捨て)
日給制の給与の取り決めや計算ルールがあらかじめ定められており、就業契約書や就業規定に明記されている場合は、確認しておきましょう。有給休暇の計算方法にはさまざまなパターンがあるため、明確に決めていない企業は、以下の記事を参考に決めておきましょう。
有給休暇引当金の計算方法
有給休暇引当金は、企業が未消化の有給休暇に対して負う負債として計上される金額です。これまで得た情報を使い、以下の計算式で算出しましょう。
たとえば、ある従業員の月給が30万円で、1ヶ月の勤務日数が21日間だとすると、日給は約1万4285円です。対象の従業員が未消化の有給休暇が10日残っており、有給の平均取得率が80%であることがわかっています。計算式は以下のとおりです。
1万4285円 × 10日 × 0.8= 11万4,280円
つまり、有給休暇引当金は11万4,280円となります。当金額を引当金として計上すれば、財務状況をより正確に反映させられるでしょう。
有給休暇引当金を導入するメリットとデメリット
有給休暇引当金の導入は、有給の消化率が把握できたり企業イメージが向上したりするメリットがあります。一方で有給消化率が低い場合、企業の財務状況が過小評価される場合があります。有給休暇引当金の導入は、発生するメリットとデメリットについて把握したうえで検討しましょう。
メリット
有給休暇引当金を導入するメリットは、以下のとおりです。
- 財務透明性が向上する
有給休暇引当金は、未消化の有給休暇を負債として計上するため、企業の財務状況をより明確に示せます。 - 債務の正確な把握
未使用の有給休暇日数を正しく評価すれば、企業が実際に負うべき債務が把握でき、財務管理の精度が向上します。 - 財務報告の国際基準に準拠していることになる
IFRSの要件に従えば、国際的な投資家からの信頼を得やすくなり、グローバルなビジネス市場における競争力が向上します。 - 福利厚生が充実する
従業員が有給休暇を取得しやすくなるよう促進する環境を整備することで、社員の満足度や生産性が向上し、労働環境の改善につながります。 - リスクマネジメントが強化される
有休未消化による法的リスクや経済的損失を未然に防ぎ、企業の安定性を高められます。
有給休暇引当金を早めに導入すれば、有給休暇引当金の適用義務に備えられるうえ、国内外において企業を正確に評価したい人のニーズに応えられます。
デメリット
有給休暇引当金を導入することで、以下のデメリットが発生する可能性があります。
- 負債額の増加につながるおそれがある
有給休暇引当金を計上することで、企業は急激に負債が増加し、財務状態の過小評価につながるおそれがあります。 - 会計処理が複雑化する可能性がある
計上方法や算定基準を適切に定義する必要があり、引当金の計算や管理が複雑になるため、経理部門の負担が増加します。
有給休暇引当金はあくまで負債の計上であるため、一時的に負債額が増加したかのような印象を持たれるおそれがあります。
有給休暇を従業員へ付与する条件
有給休暇を従業員に付与するための条件は、労働基準法第39条にもとづいて定められています。雇用契約が開始してから6ヶ月以上継続して勤務していること、および全労働日の出勤率が8割以上である従業員には、以下のように有給休暇を付与するよう義務付けられています。
継続勤務年数(年) | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数(日) | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
具体的な付与日数は勤続年数によって異なり、たとえば6ヶ月経過した時点で10日間の有給休暇が付与され、その後も継続勤務年数に応じて増加します。
労働基準法で定められた有給休暇における決まりや、違反した場合の罰則について、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
有給休暇の取得率を上げるには?
有給休暇引当金は、有給の取得率が高いほど金額が下がります。そのため、有給休暇引当金を導入すると同時に、有給の取得率を上げる取り組みも必要です。実際に取り組んだ結果、有給の取得率向上につながった方法を紹介します。
時季指定義務を徹底する
有給休暇の取得において、職場が時季を指定することで有給取得率の向上が期待できます。時季指定とは、状況に応じて職場が従業員の有給休暇取得日を指定できる制度であり、とくに労働者が有給休暇を取れない状態にある場合や、有給休暇を取得しにくいといった心理的な状態からの脱却に効果的です。
時季指定で計画的に休暇を設定すれば、従業員は指定された休暇日を意識します。業務が繁忙な時期を避けた計画的な取得が進み、業務の正常な運営も保たれるため、従業員が休暇を取りやすい環境が整います。
ただし、時季指定はあくまで従業員がどうしても有給休暇が取得できない場合に使用しましょう。従業員から有休取得の申し出があった場合は、受け入れが必要です。
半日による有給消化を導入する
半日のみの有給休暇の消化を導入することは、有給取得率を向上させる有効な手段として期待できるでしょう。
従来の有給休暇は1日単位で取得されることが一般的でした。半日単位での取得を可能にすることで、従業員は仕事の都合にあわせて柔軟に有給が取得できるようになります。
とくに通院や子どもの学校行事への参加など、短時間の休暇が必要なケースでは、従業員が気軽に有給を取得しやすくなるため、結果として取得率が向上すると考えられます。社員が自由に休暇を取得できる環境を整えることは、企業の魅力向上や定着率の向上にもつながるでしょう。
有給休暇引当金の計上は義務ではないがメリットが大きい
有給休暇引当金は、未消化の有給を負債として計上する会計項目であり、日本の会計基準では義務付けられていません。
しかし、導入すれば国際的な会計基準であるIFRSに沿っているとされ、企業イメージの向上や会計の透明性強化につながります。また、従業員の有給取得率が把握できるため、導入するメリットは大きいといえます。
有給休暇引当金の算出方法を把握したうえで、計上できる体制を早急に整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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