• 更新日 : 2025年2月21日

就業規則の策定は義務?開示違反や従業員10人の基準を解説

就業規則は、社員が働きやすい環境を整備するために大切な会社のルールです。

従業員が9人以下であれば作成義務はありませんが、10人以上の従業員がいる会社では、労働基準法により就業規則の作成・届出・周知の義務があります。

この記事では、就業規則の義務について、必須の記載事項や社員が開示を求めた場合の対応について解説します。

従業員10人以上は就業規則を定める義務がある

自社の従業員が10人以上であれば、賃金などの労働条件や休暇など、従業員が守るべき規則を記載した就業規則を定めなければいけません。

まずは従業員の定義について整理しましょう。

項目定義に含まれる従業員定義に含まれない従業員
雇用形態
  •  正社員
  •  パートタイマー
  •  アルバイト
  •  契約社員
  •  業務委託の社員
  •  派遣社員(派遣元の従業員として考える)
雇用期間
  •  常態として雇用されている従業員
  •  繁忙期のみ勤務する臨時社員
  •  期間の定めのある有期職員

▼備考

  • 月1回しか出勤しないパートタイマーでも会社に所属していれば従業員に含む
  • 契約満了後に10名未満に戻ることが確実なら就業規則に関する義務は発生しない
    ※繁忙期のみアルバイトや契約社員を増員している場合など

自社で働いているすべての従業員が定義に含まれるわけではないので、注意が必要です。

また、従業員のより詳しい定義や、届出の方法については下記記事でも解説しています。

関連記事:「労務担当者必見!作成した就業規則の届出義務とは?」

就業規則を定めないと労働基準法に違反する?

従業員10名以上の企業でありながら就業規則の作成・周知・届出の義務を怠った場合、労働基準法に違反します。

具体的には、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される場合があります。

また、違反の程度によっては、より重い処分などを受けるおそれも考えられるでしょう。

たとえば「就業規則を定めるよう是正勧告があったにも関わらず就業規則をずっと作成していない」といったようなパターンがこれにあたります。

就業規則が無いと社内の規律が不明確で、労務上のトラブルの火種になったり、企業内の秩序が乱れかねません。

早めに就業規則を整備し、労働基準法を遵守した経営を行いましょう。

参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

パワーハラスメント対策も就業規則への記載が必要

パワーハラスメント対策(パワハラ防止法)に関する規定も、就業規則へ記載する必要があります。

背景には近年、職場でのいじめ・いやがらせに関する相談が増加しており「パワハラ防止法」が2019年に成立したことが関係しています。

この影響で、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月からパワーハラスメントの防止措置が義務化されました。

就業規則へは下記のような内容の記載が必要になります。

  1. 「事業主の方針等の明確化および周知・啓発」
    パワハラの定義や防止に関する方針を明確化し、周知啓発する旨を記載
  2. 「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」
    相談窓口の周知や対応について記載
  3. 「職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応」
    事実確認や被害者に対する配慮、行為者への措置、再発防止などについて記載
  4. 「併せて講ずべき措置」
    プライバシー保護の措置や不利益取り扱いをしない旨を記載

パワハラ防止法の規定のフォーマットは、厚生労働省の公式サイトからダウンロードできます。

参考:ハラスメント防止規定例(Wordファイル)│厚生労働省

従業員9人以下でも作成のメリットがある

従業員9人以下であれば、就業規則を作成する義務はありません。

しかし、義務が生じなかったとしても就業規則を作成しておけば、経営上で役に立つことが多いです。

①労務トラブルを未然に防ぐ

労働で必要な各種ルールを就業規則へ明確に記載することで、従業員とのトラブルを未然に防ぐ効果があります。

たとえば、有給休暇の取得日数や残業代の計算方法を正確に規定していない場合、いざというときに従業員との間で対立が起きかねません。

従業員を雇用する上で必要な規則を整備し、就業規則中にはっきり記載しておけば労務トラブルの防止につながります。

②社内意識の向上が見込める

企業理念や行動規範、社会貢献の意識などを就業規則へ明示することで、社内意識の向上が見込めます。

従業員全体が同じ価値観を共有すれば、チームワークの高まりも期待できるでしょう。

また、昇進などに関する評価基準を明確にすることで、従業員がキャリアパスを具体的に描けるようになり、より仕事に打ち込める環境づくりができます。

③柔軟な労働環境を整備できる

在宅勤務やフレックス制についての就業規則を整備すれば、より柔軟な働き方を従業員が選べるようになります。

コロナ禍の影響や生産年齢人口が減少していることから現在は働き方の多様化が進んでいます。

各従業員のライフスタイルに合わせた労働環境を整備できれば、長期的な雇用の維持にもつながるでしょう。

また、多様な働き方ができる会社であることを社外へ発信すれば、採用強化のためのアピールポイントにもなります。

就業規則に書く3つの内容

就業規則へ記載する内容は大きく3つに分けられます。

  1. 絶対的必要記載事項(記載が必須)
    労働時間や休暇、賃金、退職についての事項
  2. 相対的必要記載事項(会社で独自にルールを定めている場合に記載が必要)
    退職手当や賞与などの臨時の賃金、安全や衛生などについての事項
  3. 任意的記載事項(記載の義務はないがルールを明文化したい場合に記載する)
    企業理念や身だしなみ、勤務態度など、任意の事項を記載

必須の内容を書き漏らすことのないよう、十分に気をつけましょう。

就業規則の作成の流れ

就業規則の作成方法は、簡潔にまとめると4つの工程に分けられます。

①原案の作成

就業規則に決まったフォーマットはありませんが、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」を参考にするとよいでしょう。

初めて就業規則を作るという場合は、社労士などの専門家にアドバイスを求めたり、作成を委託することも検討しましょう。

②過半数労働組合または過半数代表者への意見聴取

就業規則の原案ができたら「労働者の過半数が所属する労働組合」か「労働者の代表者となる従業員」から意見をヒアリングし反映します。

③労働基準監督署に書類を提出

就業規則の作成が完了したら「就業規則変更届」「労働者からの意見書」「就業規則」の3点を管轄の労働基準監督書へ届け出ます。

④従業員への周知

従業員への周知も義務になります。

社内の見やすい場所へ就業規則を掲示したり、書面で従業員へ交付しましょう。

より詳しい作成方法は、下記の記事を参考にしてみてください。

関連記事:「就業規則の作成は怖くない!簡単にできる作り方解説(テンプレート付き)」

就業規則の開示を求められた場合の対応

従業員から就業規則の開示を求められた場合、従業員の人数により対応が異なります。

従業員10人以上は開示の義務がある

就業規則には周知の義務があるため、従業員から開示を求められたら速やかに応じなければいけません。

もし従業員から開示を求められたにも関わらず、開示を拒み続けたら労働基準法に違反します。

開示を求められたら、下記のような方法で速やかに周知に応じましょう。

① 常時各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける

② 書面で労働者に交付する

③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、

かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する

引用元:就業規則を作成しましょう│厚生労働省

開示の義務を守らない場合、労働基準監督署から行政指導を受けるおそれもありますので、しっかり守りましょう。

従業員9人以下は場合による

従業員が9人以下のときは、開示すべきかは場合によります。

就業規則を定めている場合

  •  従業員からの求めに応じて開示する義務がある

就業規則を定めていない場合

  •  開示義務はない

労働基準法では従業員が常時10名未満の場合、就業規則の作成義務がありません。

就業規則自体が存在しない場合は開示もできないため、開示の義務も生じません。

就業規則の義務についてのQ&A

最後に、就業規則の義務についての一般的な質問をQ&Aでご紹介します。

Q1. 無期転換ルールとは?就業規則に記載の義務はある?

無期転換ルールは、労働者が同じ会社での有期契約が通算5年を超えた場合に、無期雇用契約への転換を申し込む権利を持つ制度のことです。

有期契約で働くすべての労働者(パートタイマー、契約社員など)が、この制度の対象になります。

無期転換ルールを就業規則へ記載する義務はありませんが、記載していない場合トラブルのもとになる場合があります。

あらかじめ記載しておいた方がよいでしょう。

Q2. 母性健康管理は就業規則に記載が必要?

母性健康管理については、男女雇用機会均等法により必要な措置を講じることが義務付けられています。

そのため、必要な手続き等を就業規則に記載しておくことが望ましくなっています。

妊娠中や出産後の女性が安心して働けるように、体調に合わせた配慮を会社にお願いできる制度のことです。

具体的には下記のような事項を記載しておくとよいでしょう。

  • 母性健康管理に関する制度
    妊娠・出産中の女性従業員が医師の診断を受けて申請した場合の社内対応
  • 申し出の方法
    労働者が制度を利用する際の手続き(医師の指導内容の提示など)
  • 該当する労働時間や作業内容の変更
    勤務時間の短縮や作業内容の変更に関するルール設定

Q3. 公益通報者保護は記載の義務がある?

従業員301人以上の企業は、公益通報者保護体制の整備などが義務付けられています。

一方で、従業員300人以下の企業であれば現状は努力義務に留まり、体制整備の義務はありません。

公益通報者保護とは、不正行為や違法行為を通報した従業員を保護するための仕組みのことです。

公益通報者保護は内部通報制度とも呼ばれ、近年ニュースで取りざたされる機会も増えています。

就業規則に記載する場合は、下記のような事項を盛り込みましょう。

  • 通報対象となる行為について(例:ハラスメントや会社の規定違反)
  • 通報先と対応の流れ
  • 通報者の保護について(通報者を守るための仕組み)

Q4. 賞与については記載の義務がある?

賞与の制度がある場合は、支給額や支給時期、支給の対象者について就業規則に記載の義務があります。

一方で、賞与の制度がない場合は記載の義務も生じません。

従業員が働きやすい就業規則を定めよう

就業規則は従業員が働きやすい環境を整えるために重要なルールであり、従業員10人以上の場合は作成の義務があります。

また、従業員10人未満の会社であっても就業規則をしっかり定めていれば、労務に関するトラブルを防げたり、従業員の満足度が向上する職場づくりができます。

就業規則をしっかりと整備し、従業員が安心して働ける環境を目指しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事