- 更新日 : 2024年9月3日
出向とは?派遣との違いや制度を解説!
企業は社員に対して出向を命じる場合があります。しかし、出向にはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、どのような目的で行われる制度なのか疑問を持っている方も多いかもしれません。
本記事では、在籍出向と転籍出向の違いや出向のルールなど、出向ついて解説します。人事労務担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
出向とは?
出向とは、出向社員が出向元との関係を保ちながら、出向先となる企業で業務を行う雇用形態の1つです。出向は、出向元や出向先の業種や規模を問うものではありません。親会社から系列会社だけでなく、関係性のない企業や異なる業種への出向も行われています。
在籍出向と転籍出向の違い
出向には、大きく分けて「在籍出向」と「転籍出向」の2種類が存在します。
- 在籍出向
在籍出向は、出向元企業との雇用関係を残したまま、出向先企業とも雇用関係を結ぶ形態です。元々所属していた出向元企業とも雇用関係を残しているため、出向期間経過後は出向元企業に復帰することが多くなっています。 - 転籍出向転籍出向は、出向元企業との雇用関係を解消し、出向先企業のみと雇用関係を結びます。転籍出向では、出向元企業に籍が残っていないため、出向期間が経過しても出向元に復帰することは通常ありません。
上記の通り、両者には雇用関係において大きな違いはありますが、出向元と出向先が出向契約を結ぶ点において違いはありません。また、出向した社員に対する指揮命令は出向先が行うことも同様です。
派遣との違い
出向も派遣も現在所属する出向先や、派遣先の指揮命令に基づいて働くことに違いはありません。しかし、派遣において社員を雇用しているのは派遣元のみとなります。出向先に相当する派遣先と、派遣社員が雇用関係を結ぶことは制度上ありえません。そのため、出向先もしくは、出向元と出向先双方と雇用関係を結ぶ出向とは大きく異なった制度です。
出向制度は何のためにある?目的やメリット・デメリット
出向制度は社員のキャリアアップや雇用調整などを目的とする企業の人事異動の一環として行われます。
自社とは異なった経営理念や、業務遂行方法を持つ企業へ出向することにより、出向前では得られなかった知識やスキルを学習できる点がメリットです。また業績が悪化している場合でも、解雇によらない労働力調整ができる点もメリットだといえます。
一方、人間関係や労働環境の変化による出向社員への負担が多い点は、出向制度のデメリットです。また、自社を離れることによるエンゲージメントの低下もデメリットといえるかもしれません。在籍出向の場合、出向元への復帰が前提であるため、出向社員を長期的戦力として扱えない点もデメリットといえます。
出向に関わる制度 – 適用されるのは出向先?
出向した社員には出向元と出向先どちらの制度が適用されるのでしょうか。ここでは、出向に関わる制度について項目ごとに解説を行います。
雇用形態および人事異動
在籍出向では、出向元と出向先双方と雇用関係を結び、転籍出向では、出向先のみと雇用関係を結びます。
また、出向社員に対する指揮命令は出向先が行いますが、同様に人事権も出向先が持つことが特長です。ただし、在籍出向の場合の人事権は、業務遂行に必要な部分に限られ、解雇や賃金など重要な事項に関する決定権は、出向元に留保されています。
給与・賞与
転籍出向における給与や賞与は、出向先企業がすべてを負担します。これに対して在籍出向の場合は、出向契約に基づいて給与や賞与が支払われることになり、出向元と出向先のどちらが負担しても問題ありません。また、双方が負担することも可能です。
福利厚生
出向社員に適用される福利厚生は、出向契約に基づいて決定されます。出向元と出向先の福利厚生が二重に適用されることになっても、社員に不利益とならない限りは問題ありません。
出向命令は従業員の意思に関わらず出せる?命令権と権利濫用について
企業には、社員に対する指揮命令権や人事権があります。そのため、就業規則等に根拠があり、必要性があれば出向を命じることが可能です。しかし、出向命令は無制限に許されるものではありません。出向命令がその必要性や対象者の選定などの事情にあわせて、不合理である場合は権利の濫用として無効となる可能性があります。
退職勧奨を断ったホワイトカラーの社員に対する子会社での単純労働への従事を命じる出向命令が、業務の必要性や人選の合理性がなく、自主退職を促すためのものであるとして無効とされた裁判例もあります。出向を行う場合には、権利の濫用とならないように注意しましょう。
参考:労働新聞社 東海旅客鉄道事件(大阪地決平6・8・10) “片道出向”に個別合意必要か 「包括的合意」の主張はムリ
出向する期間に決まりはある?
出向における期間に法的な制限はありません。そのため、3年や5年といった有期の期間とすることも、期間を定めず無期限の出向期間とすることも自由です。ただし、業務の必要性がないにも関わらず無期限や長期間の出向を命じることは、権利の濫用と判断される恐れがあるため注意しなくてはいけません。
社員を出向させる目的
出向は、派遣先での知識やスキル習得といった社員のキャリアアップや、人事上の戦略、企業間の交流などを目的として行われます。
従業員のキャリアアップ
出向元を離れ、異なった考え方や業務遂行方法を持つ出向先企業で働くことは、社員に多くの気付きを与えます。出向によって、出向元では得られなかった新たな知識やスキルを習得することは、社員のキャリアアップにつながるでしょう。
人事上の戦略
企業業績が悪化した場合には、解雇や一時帰休などを行い、雇用調整を行う必要があります。しかし、出向であれば雇用を維持したまま、人件費を抑えることも可能です。また、在籍出向であれば、期間経過後出向元に復帰するため、人材の流出を防ぐことにもつながるでしょう。
企業間の交流・ナレッジシェア
出向は、同業種間はもちろんのこと、異業種間においても行われる企業間の交流といった側面も持ちます。また、出向はナレッジシェア(知識の共有)の効果も持ち、系列企業間で行えば、組織全体で知識やスキルを共有可能となり、業務の属人化も解消されます。
出向辞令の無料テンプレート・ひな形
出向辞令とは、社員が出向することを正式に通知する文書です。出向事例には、出向する社員の指名、出向先の企業名、出向の開始日などが記載されます。
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出向通知書・命令書の無料テンプレート・ひな形
出向通知書・命令書とは、社員が他の企業に出向する際に、出向元企業から社員に対して発行される文書のことを指します。出向の詳細な条件や職務内容、労働条件などが記載されます。
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出向同意書の無料テンプレート・ひな形
出向同意書は、社員の出向(元の企業の地位を保持しながら別の企業で働くこと)について同意することを文書にしたものです。この同意書により、出向の条件や同意内容を共有し、将来的なトラブルを予防します。
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出向契約書の無料テンプレート・ひな形
出向契約書とは、出向元企業と出向先企業が交わす、労働者との権利義務関係を明記した書類です。出向とは、企業が社員との雇用契約を維持した状態で、社員を関連会社や子会社に異動させ、就労させる業務命令のことを指します。
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ベースを保ちつつ、自社の様式に応じてカスタマイズすれば使い勝手の良い書類を作成できるでしょう。この機会にぜひご活用ください。
出向を活用しよう
出向は、社員のキャリアアップや雇用調整などを目的として行われます。解雇することなく雇用調整を行えたり、社員の知見を広げたりと多くのメリットを持つ制度です。一方で無制限に命令できるものではなく、権利の濫用とならないように注意しなければなりません。出向を考える際には、当記事を参考に最大限制度を活用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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