- 更新日 : 2025年1月21日
自己都合か会社都合か?退職理由で違う失業保険の給付
毎月の給与明細を見ると、「雇用保険料」という項目があることがわかります。雇用保険は退職したときのために掛けている保険です。退職と言っても、会社の経営が傾いて辞めざるを得ない場合や、よりよい待遇を求めて転職するために辞める場合など理由はさまざまです。
俗に「失業保険」と呼ばれる基本手当には、支給されるための要件があります。また、辞めた理由のいかんでは給付内容が変わってくることも。今回は、雇用保険の基本手当について解説します。(執筆者:特定社会保険労務士 黒田英雄)
目次
「失業保険」は自動的にはもらえない?
退職後にハローワークに求職の申し込み
会社を退職した際に、従業員が希望すると離職票が交付されます。雇用保険に加入していた期間が、原則、離職の日以前2年間に通算12カ月以上ある方が、この離職票を持ってハローワークに求職の申し込みをすることで、失業保険と呼ばれる「基本手当」を受ける資格を得られます。つまり、退職したからといって自動的に給付を受けられないのです。
従業員に離職票を交付するためには、会社は離職証明書を作成してハローワークに提出する必要があります。提出期限は、退職した従業員が雇用保険の被保険者の資格を喪失した翌日から10日以内ですので、担当部署の方はご注意ください。
再就職先を探している間のみ給付が受けられる
基本手当の受給資格が決定すると、受給説明会を経て「失業認定日」が通知されます。4週間に1回、この失業認定日にハローワークに出向いて、失業状態にあることの認定を受け、認定を受けた日数分だけ基本手当が支給されます。つまり、次の仕事を探している間のみ基本手当の支給を受けることができるのです。
仮に就職先が早く見つかって、まだ支給を受けていない基本手当の日数がたくさん残っているときは「再就職手当」という別の給付を受けられる場合があります。
会社都合退職は「特定受給資格者」に分類
会社都合になる退職理由の具体例
従業員に離職票を発行するために、会社は離職証明書をハローワークに提出しますが、その右側には退職理由を記載する欄があります。その退職理由によって、基本手当の給付日数や支給されるまでの期間に違いがあります。
会社が倒産したり解雇されたりした場合は会社都合退職となり、雇用保険では「特定受給資格者」に分類されます。自分の意思とは関係ないところで仕事を失ってしまったわけなので、手厚く保護されるようになっています。
他にも事業所が移転したことにより通勤が困難になった場合や、労働契約の内容と労働条件が大幅に違っていた場合なども会社都合に含まれます。
参考|特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(厚生労働省職業安定局)
特定受給資格者が受けられる給付の日数
給付を受けられる日数は、雇用保険の被保険者であった期間や退職時の年齢によって異なります。
※特定受給資格者の基本手当の所定給付日数(ハローワークのホームページより)
給付を受けられるのは、原則、離職日の翌日から1年以内です。また、離職理由のいかんを問わず、求職の申し込みから通算7日間は待期期間として支給が行われません。給付の日数が多い方は特に、一日も早く求職の申し込みをすることが重要です。
自己都合退職は「一般の離職者」に分類
自己都合退職は退職届を出すかどうかがポイント
もっと待遇のいい会社に移りたい、もっとやりたい仕事が見つかったなど、自分の意思での退職は自己都合退職として「一般の離職者」となります。「一身上の都合により……」など、退職願や退職届を書いた場合には、自己都合退職という扱いになります。
会社都合なら離職届は書いちゃダメ
注意が必要なのは、会社都合なのに無理やり退職届を書くように強要されるケースです。自己都合と会社都合では給付に大きな差が出るので、絶対に退職届には署名しないようにしましょう。
自己都合には給付制限期間がある
一般の離職者は、特定受給資格者に比べて基本手当の給付日数が大幅に少なくなります。
※一般の離職者の基本手当の所定給付日数(ハローワークのホームページより)
被保険者であった期間が1年未満の方では、給付は全く受けられません。また、被保険者であった期間が20年以上の方でも、約5カ月分しか支給されないことになります。
さらに、自己都合退職の場合には給付制限期間が設けられています。通算7日間の待期期間の満了後、さらに3カ月間は給付が受けられません。失業保険をあてにして仕事を辞めたはいいけど、3カ月も待たなきゃいけないとは知らなかった……という方が、労働相談に来られる中でもたくさんいらっしゃいます。
やむを得ない理由による自己都合…「特定理由離職者」とは
特定理由離職者にあたる退職理由の具体例
自己都合ではあるけれど、やむを得ない理由があると認められる場合があります。そういった方は雇用保険では「特定理由離職者」に分類されます。
代表的なのは、契約期間が満了を迎えて本人が更新を希望したにもかかわらず、更新の合意が成立せずに退職してしまった、いわゆる「雇い止め」です。この場合は、先に述べた特定受給資格者と給付日数が同じになります。これは、現時点では2022年3月31日までの離職が対象です。ただし、ケースによっては特定受給資格者に該当する場合もあります。
それ以外にも、健康面や家庭の事情などを理由に退職した場合も、特定理由離職者として認められる場合があります。
参考|特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(厚生労働省職業安定局)
一般的な自己都合退職との給付の違い
雇い止めで離職した以外の特定理由離職者は、給付日数は一般の離職者と同じです。違うのは3カ月の給付制限がないことです。正当な理由があっての自己都合退職ということで、特定受給資格者ほどではないにせよ一般の離職者よりは手厚く給付を受けられるようになっています。
ちなみに離職理由の判断は、ハローワークの所長あるいは地方運輸局長が行います。会社から交付された離職票の離職理由に異議がある場合は、従業員はその旨を記載して提出すると、客観的な資料などから事実を確認することになります。トラブルを避けるためにも、会社と従業員で離職理由についてお互いに確認しておくことが重要です。
※離職理由の判断手続きの流れ(ハローワークのホームページより)
まとめ
現在は仕事も安定していて、失業なんて無縁だと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、長い職業生活の中では予期せぬ事態が起きることもあります。そのために毎月の給与から天引きされ、万が一に備えているのが雇用保険です。退職理由による給付の違いは覚えておいて損はないでしょう。
また、雇用保険には失業したときに給付を受けられる基本手当以外にも、在職中でも受けられる教育訓練給付などがあります。せっかく保険料を払っているわけですから、必要に応じてうまく活用することをおすすめします。
よくある質問
失業保険の給付を受けるには?
会社を退職した際に交付される離職票を持ってハローワークに求職の申し込みをすることで、失業保険と呼ばれる「基本手当」を受ける資格を得られます。詳しくはこちらをご覧ください。
特定受給資格者とは?
会社が倒産したり解雇されたりして自分の意思とは関係ないところで仕事を失ってしまった人を指します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労災事故報告書とは?提出義務がある事故や記入例を解説
労災事故報告書は、一定の労災事故があったことを届け出る際に用いる書類です。事業場内で火災などが発生した場合は、労働安全衛生規則第96条の規定により、様式第22号を用いて報告しなければなりません。作成者は事業主、届出先は所轄労働基準監督署、提…
詳しくみる健康保険組合とは
日本で健康保険と呼ばれているのは、健康保険法に基づく雇用者を対象とした医療保険です。この被用者医療保険事業を国に代わって行っているのが、健康保険組合です。 つまり、健康保険組合は被用者医療保険事業である健康保険を代理で行っているひとつの組織…
詳しくみる厚生年金の加入で年金が2万増える?保険料と受給額の計算方法を解説!
会社員や公務員の方が加入する厚生年金保険。厚生年金保険に加入すると、将来もらえる年金額が増加します。 厚生年金保険料は会社から受け取る給与をいくつかの等級に分けて区分した標準報酬月額によって決定されますが、厚生年金保険の年金受給額の計算方法…
詳しくみる労災保険料の支払い手続きや計算方法について解説
労災保険は、労働者保護を目的とした強制保険で、労働者が1人でもいる事業は労災保険に加入しなければなりません。保険給付の対象となるのは労働者で、労災保険料は全額を事業主側が負担します。労災保険料は賃金の総額に労災保険料率をかけて計算され、概算…
詳しくみる高額療養費(高額医療費支給制度)とは?社会保険の観点から仕組みを解説!
「高額療養費制度」とは、高額な医療費負担を軽減するための制度で、医療機関で支払った自己負担額のうち限度額を超えた額が手続きによって還付されたり、事前申請によって支払わずに済んだりします。申請方法は加入している医療保険によって異なり、申請しな…
詳しくみる付加年金とは?厚生年金においても活用できる?
付加年金は国民年金第1号被保険者が納付することで、将来受け取る年金額を増やすことができる制度です。月額400円を国民年金保険料と一緒に支払うことで、「200円×付加保険料納付済期間の月数」の付加年金が、老齢基礎年金に上乗せされます。国民年金…
詳しくみる