- 更新日 : 2026年7月7日
海外駐在制度とは?盛り込むべき項目やメリット・デメリット、事例を解説
海外駐在制度とは、海外派遣社員の給与・手当・社会保険・安全管理などの取り扱いを定めた制度です。
- 給与方式は購買力補償・別建て・併用の3種類
- 社会保障協定で二重負担を防ぐ手続きが必要
- 家族帯同の支援範囲も規定に明記することが重要
Q. 中小企業でも海外駐在制度の整備は必要?
A. 必要です。少人数でも未整備だと税務・労務トラブルのリスクがあるため、給与決定方式や社会保険の負担範囲など最低限の項目を文書化しましょう。
海外駐在制度とは、社員を海外の拠点に長期間派遣する際の、給与や手当、福利厚生、労務管理などの取り扱いを定めた制度です。しかし、自社で導入したくても、どのように制度を構築すればいいのかわからないかもしれません。
海外駐在は短期間の出張とは異なり、生活拠点が海外に移るため、駐在員が安心して生活できる取り決めが必要です。
本記事では、海外駐在制度に盛り込むべき項目やメリット・デメリット、企業事例を解説します。
海外駐在制度とは?
海外駐在制度とは、日本の本社と雇用契約を結んだまま、海外の支店や現地法人へ長期間派遣されて勤務する社員を対象に、処遇や管理方法を定めた制度です。
海外駐在は、短期間の海外出張とは異なり、生活の拠点が海外へ移ります。そのため、派遣する社員やその家族が、現地で安心して暮らすための取り決めが必要になります。なかでも、給与や税金の扱いは国内勤務と異なるため、海外赴任規程としてルールを明文化し、駐在員ごとに対応が変わらないようにするのが大切です。
具体的には、「給与・手当・福利厚生・労務管理」などの取り扱いを定める必要があります。なお、混同しやすい「出向」「現地採用」との違いも解説します。
海外駐在と出向の違い
海外駐在と出向は、対象が異なります。
海外駐在は、勤務地を海外へ移して長期間働くこと自体を表す言葉です。
一方、出向は籍の置き方を示す言葉です。海外の子会社のような「別法人」へ派遣する場合は出向扱いとなり、一般的には元の会社に籍を残したまま働く「在籍出向」の形をとります。
また、海外支店や駐在員事務所など、同じ会社の拠点へ移る場合は、転勤として扱われます。自社の派遣がどちらに当たるか整理すると、契約や費用負担の検討が進めやすいでしょう。
海外駐在と現地採用の違い
海外駐在と現地採用は、以下のように雇用主・処遇が異なります。
| 海外駐在 | 現地採用 | |
|---|---|---|
| 雇用主 | 日本の本社(日本法人)に雇用されたまま海外へ派遣される | 現地法人に直接雇用される |
| 給与の決まり方 | 日本本社の給与水準が適用され、海外赴任手当などが加わる | 現地の給与水準で支払われ、社会保険も現地の制度にもとづく |
| 待遇 | 危険のリスクが伴うエリアへ派遣の場合は、ハードシップ手当(危険手当)を支給する場合がある | 現地法人の規定による |
制度を運用する際は、海外駐在と現地社員での待遇格差への配慮をしつつ規定を用意しましょう。
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海外駐在制度を整備する目的
海外駐在制度は、派遣時に生じる課題に組織として一貫した方針で対応することを目的に整備します。
主に、以下3つの目的が代表的です。
- 駐在員と家族の生活・健康・安全を守る
- 派遣条件の公平性を確保し、駐在員間や国内勤務者との待遇差による不公平感を防ぐ
- 税務・労務の面で適正に運用し、リスクを避ける
目的があいまいなまま規定を作ると、項目ごとに方針がぶれ、運用時に矛盾が生じやすくなります。目的を明確にすると、手当の支給範囲や対象者の選定など、判断に迷う場面で何を優先すべきかが見えやすくなるでしょう。
海外駐在制度・規定に盛り込むべき項目
規定を作る前に、検討すべき項目を理解しておくと、規定の修正や項目同士の矛盾による運用のやり直しを防ぎやすくなります。
ここでは、海外駐在制度・規程に盛り込むべき項目を解説します。
給与の決定方式
海外駐在員は日本本社の社員ですが、国内勤務時の給与金額をそのまま海外で適用するのは現実的ではありません。
物価や為替が国ごとに異なり、同じ額面でも生活水準に差が出るためです。
そのため日本本社の給与水準をベースとしながらも、現地の物価に合わせて金額を調整するルールを定める必要があります。給与の決定方式は、主に以下の3つです。
| 購買力補償方式 | 別建て方式 | 併用方式 | |
|---|---|---|---|
| 内容 | 日本での生活費に生計費指数と為替レートを乗じて算出 | 日本の給与体系と切り離し、現地の基準で決定 | 日本の手取りをベースに海外勤務分の手当を加算 |
| 特徴 |
|
|
|
どれを選ぶかで駐在員の手取りや運用負担が変わるため、海外派遣の規模と管理リソースをもとに検討し、明記しましょう。
福利厚生と待遇
給与や手当に加え、生活と勤務を支える福利厚生も定めましょう。
本人だけでなく帯同する家族も慣れない環境で暮らすため、家族を含めた支援は安心につながります。
主な手当は以下のとおりです。
- 住宅の手配や住宅手当
- 子どもの学費を補助する教育手当
- 帯同家族の渡航費や健康診断の費用補助
- 慶弔時の特別休暇
- 派遣前・帰任後の健康診断 など
支給の条件や回数があいまいだと、駐在員の間で不公平感が生まれやすくなるため、対象範囲や上限は明確にしましょう。
また、福利厚生の充実には、住宅手当や社宅制度の整備も大切です。マネーフォワード クラウド福利厚生賃貸なら、借り上げ社宅制度の導入・運用にかかる負担を抑えながら、節税により従業員の手取りをアップさせられます。
社会保険・税金
海外派遣中の社会保険と税金の扱いは、規定で明確にしましょう。
海外では、公的な保険や税金の仕組みが日本国内とは異なるため、会社と本人の負担割合や納税手続きのルールを個別に設計する必要があります。
たとえば社会保険は、日本と現地の保険料を二重に負担するのを防ぐために、国同士が結ぶ「社会保障協定」を利用した手続きを定めます。協定にもとづいた手続きを行うと、現地の社会保険への加入が免除され、会社と駐在員の金銭的負担を軽減することが可能です。
日本年金機構によると、現在日本と社会保障協定を結んでいる国は、世界で24カ国に上ります。 ただし、イギリス・韓国・中国・イタリアとの協定は二重負担の防止のみで、年金加入期間の通算は対象外です。
また税金は、派遣国の税率の違いによって本人の手取り額に不公平が出ないよう、日本で勤務したと仮定した「みなし税(ハイポタックス)」を本人が負担します。現地で発生した所得税額との差額を、会社が調整するのが一般的です。
参考:社会保障協定|日本年金機構参考:国際出向社員の人事労務上の留意点(日本から海外編) 「海外給与とハイポタックス(みなし税)」|海外赴任規程・海外勤務規程作成サポート
派遣時・帰任時の渡航サポート
派遣時と帰任時にかかる、本人・帯同家族の移動や、新生活の立ち上げに必要な費用・手間のサポート体制を整えましょう。
具体的には、下記のような項目を明記します。
- 派遣・帰任時の航空運賃
- 引越し費用の負担範囲
- 新生活の準備に充てる支度金の支給基準ビザや在留資格の取得手続き
- 現地での住居探しの支援体制 など
帯同家族の住まいや学校の手配まで含めれば、家族も落ち着いて生活を始められます。明文化されていれば、担当者ごとの対応のバラつきを防ぐと同時に、手続きの抜け漏れを避けられるでしょう。
安全管理・危機管理
海外では、日本と異なる治安や医療事情のリスクがあるため、規定には駐在員と帯同家族の安全を守ることを盛り込みましょう。
万が一の事態が起きた際、対応が遅れると企業の安全配慮義務違反に問われるおそれもあります。外務省の海外安全ホームページも活用しながら、以下を記載しましょう。
- 派遣前の安全教育
- 海外旅行保険への加入
- 定期健康診断による健康管理
- 緊急時の連絡体制の整備
事前に現地の治安や生活習慣を学び、緊急時の支援体制を整えると、トラブル時のリスクが抑えられ、派遣者が安心して業務に専念できます。
海外駐在制度を設計・運用する手順
海外駐在制度づくりは、手順に沿って進めることで抜け漏れを防げます。
ここでは、海外駐在制度を設計・運用する手順について解説します。
1.現状分析と基本方針の策定
自社の海外事業の状況と、制度の基本方針を整理しましょう。
最初に現状分析として、海外拠点の売上や人員規模、進出フェーズ、現地の労働法の規制などを把握します。
現状をもとに制度の判断軸を固めると、以降に続く給与設計や規定づくりのブレをなくし、一貫性のある制度を構築できます。
以下3つを明確に定義づけましょう。
- 派遣内容を特定する:駐在員を派遣する国や人数
- 派遣目的を明確にする:現地での事業推進や業績拡大、社内の人材育成など
- 働き方の基準を設定する:就業時間や休暇の制度を、現地の基準にどこまで合わせるかなど
定義する際は、日本側の都合だけで一律のルールを作らないようにしましょう。リスク度合いや物価、法規制は国ごとに異なります。自社の財務状況と現地のビジネス環境、進出フェーズに合わせて、柔軟に変更できる余地を残して破綻しない制度づくりを目指しましょう。
2.対象者・適用範囲の整理
制度を適用する対象者と、範囲を決めます。
海外へ派遣される目的や契約形態によって、法律上の手続きや必要となる処遇は一人ひとり異なります。あわせて、駐在期間の長さや役職によって待遇を分けるかどうかも整理が必要です。
そのため対象者を一括りで考えてしまうと、個々のケースに対応しきれず、手続きの不備・待遇の不条理が生じかねません。たとえば在籍出向の場合、日本の社会保険を継続できるものの、給与の大半を海外法人が支払うと資格を失う場合もあります。
誰にどの制度が適用されるか明確にしておくと、契約や社会保険の手続き漏れなど、実務上の混乱を防げます。
3.各項目の条件設計と各規定の明文化
方針と対象者が固まったら、給与方式や手当、福利厚生などの各項目について支給条件・金額を具体的に設計し、海外赴任規程として明文化します。
とくに、給与の決定方式や各種手当の支給対象条件など、法務・税務の専門的な判断が必要な部分は、社会保険労務士や税理士に相談しながら進めると確実です。
個々の支給条件を細部まで定めて明文化すると、駐在員ごとの対応のばらつきを防ぎ、運用の安定性が高まるでしょう。
4.従業員への周知・運用開始
規程が完成したら、対象となる社員や関係部署へ周知し、運用を始めましょう。
事前に説明しないと、給与や税金の扱いをめぐって駐在員が不安を抱えたまま派遣することになります。派遣前には、以下のような内容と手段で説明の機会を設けましょう。
| 対象 | 従業員本人 | 帯同家族 |
|---|---|---|
| 説明すべき内容 |
|
|
| 手段 |
|
|
また、運用開始後も問い合わせに対応できるよう、担当窓口やよくある質問を用意すると、現場の負担を抑えられます。
5.定期的な見直し
為替レートや派遣先の物価は変動するため、給与・手当の水準が実態と乖離しないように、定期的に制度を見直すことも大切です。
たとえば、購買力補償方式をとる場合、為替の変動に応じて毎年見直すのが一般的です。また、派遣先の税制や社会保険制度が改正される際も、規定の修正が必要になります。
見直しを怠ると、駐在員の手取りが目減りしたり不公平感が生じたりします。定期的に制度を点検し、最新の状況へ更新する体制を整えましょう。
海外駐在制度の整備事例
各企業の海外駐在制度において、給与や手当の具体的な金額は社外秘とされるケースが一般的です。しかし事例を通じて運用の工夫を知れば、自社の制度設計を進めるうえで有益な判断材料になるでしょう。
ここでは2社の海外駐在制度の整備事例を紹介します。
三菱マテリアル|派遣前から派遣中まで続く健康サポート
三菱マテリアルは、本社診療所に海外健康管理窓口を設け、駐在員の健康を派遣前から帰任まで継続して支援しています。
- 派遣前:派遣者全員の産業医面談と、保健師によるオリエンテーション
- 派遣中:オンライン面談やメールで健康相談に応じ、国内での治療や精査が必要な場合は、一時帰国時の受診予約や紹介状の作成を支援
メンタル面では疲労蓄積度のチェックを行い、スコアが高い社員には産業医のオンライン面談を勧める仕組みです。
海外に初めて社員を派遣する企業や現地での不調による早期帰任を防ぎたい企業にとって、離職リスクを減らし、安心して働ける環境づくりの参考になるでしょう。
参考:健康経営の取り組み | サステナビリティ | 三菱マテリアル株式会社
大林組|駐在員と家族が使える相談窓口
大林組は、駐在員本人だけでなく帯同家族も使える相談体制を整えています。
社内には専門医や公認心理師・臨床心理士が対応する「心の健康相談室」があり、内容に応じて上司や人事担当者と連携し、就労環境を調整する体制になっています。
さらに、24時間利用できる社外の相談窓口を用意し、海外勤務者と家族がメールや電話での相談が可能です。
渡航前には、地域に応じた予防接種を会社の費用負担で実施できる点も特徴です。
時差が大きく日本の人事と連絡が取りにくい国へ派遣する企業、現地での家族の生活不適応による駐在員のパフォーマンス低下を防ぎたい企業にとって、駐在員の離職や業務支障のリスクを未然に防ぐ参考になるでしょう。
参考:人材マネジメントの取り組み | サステナビリティ|大林組
海外駐在制度に関するよくある質問
ここでは、海外駐在制度に関するよくある質問に回答します。
海外駐在員の家族帯同はどこまで会社が負担すべきですか?
家族帯同にかかる費用の負担範囲は、法律による決まりはなく、各社が独自の基準で定めます。
家族分の渡航費や住宅手当の上乗せ、子どもの教育手当、家族の健康診断など手厚く支給する企業もありますが、その分コストが増加します。
自社の財務状況と駐在員が求める安心感のバランスを見ながら、支給対象と上限を規定に明記しましょう。
中小企業でも海外駐在制度の整備は必要ですか?
派遣する社員が少数でも、海外駐在制度の整備は必要です。
給与や社会保険、税金の扱いを定めずに派遣すると、担当者ごとに対応が異なり、税務・労務上のトラブルが生じるリスクがあります。
最初から大規模な規程を作る必要はありません。まずは給与の決定方式や各種手当の支給基準、社会保険の会社負担の範囲、緊急時の安全管理などの項目を文書化しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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