• 更新日 : 2025年11月11日

発注管理とは?業務の流れからシステムで効率化するやり方まで解説

発注管理とは、事業に必要な物品を適切な数量・価格・納期で仕入れるための一連の業務であり、企業の利益確保と業務効率化に欠かせません。正確な発注管理によって、過剰在庫によるコスト増や機会損失を防ぎ、コスト削減と安定した事業運営を実現します。

しかし、多くの企業では「担当者によってやり方が違う」「手作業によるミスや確認漏れが多い」といった課題に直面しているのではないでしょうか。この記事では、発注管理の基本的な業務フローから、Excelやシステムを用いた具体的な効率化のやり方、注意点までをわかりやすく解説します。

発注管理とは?

発注管理は、商品やサービスを注文するだけの作業ではなく、適切な在庫量を維持し、不要なコストを削減しながら、事業活動を円滑に進めるための管理活動全般を指します。この管理がうまく機能することで、キャッシュフローの改善や顧客からの信頼獲得にもつながります。

発注管理の5つの目的

発注管理には、主に5つの目的があります。これらは相互に関連し合っており、企業の収益性を高めるうえで欠かせません。

  1. 在庫の最適化:
    在庫が不足すれば販売機会を逃し、過剰に抱えれば保管コストや廃棄ロスが増加します。需要を予測し、適切なタイミングで適切な量を発注することで、在庫を最適な状態に保ちます。
  2. コスト削減:
    発注先ごとの価格や納期を比較検討し、最も条件の良い取引先を選ぶことで、仕入れコストを直接的に削減します。また、不要な発注をなくすこともコスト削減につながります。
  3. 業務の効率化:
    発注業務の手順を標準化・自動化することで、担当者の負担を軽減し、より付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。
  4. 発注ミスの防止:
    発注内容の重複や数量の間違い、入力ミスといった人為的なミスを防ぎ、取引先との不要なトラブルを未然に回避します。
  5. 納期の遵守:
    発注状況や納品スケジュールを正確に把握し、納期遅延を防ぐことで、生産計画の遅れや顧客への迷惑を防ぎ、信頼関係を維持します。

会計・法務上で発注管理が重要な理由とは?

発注管理は、日々のオペレーションだけでなく、企業の会計処理や法令遵守(コンプライアンス)の観点からも大きな意味を持ちます。

会計処理との連携

発注データは、会計処理の基本情報となります。正確な発注管理は、以下の会計業務に直接的につながります。

  • 仕入計上:
    商品を仕入れた際に、いつ、いくらで仕入れたかを正確に記録し、売上原価を正しく計算します。
  • 買掛金管理:
    発注に基づき、取引先への未払金である買掛金を正確に把握し、支払漏れや二重払いを防ぎます。
  • 予算実績管理:
    発注実績をデータとして蓄積することで、次期の仕入れ予算を精度高く策定するための基礎情報となります。

下請法など関連法規の遵守

資本金が1,000万円を超える企業が個人事業主や資本金1,000万円以下の企業に発注する場合など、取引内容によっては下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用されるケースがあります。下請法では、親事業者に対して以下の義務が課されています。

  • 発注書面(3条書面)の交付義務:
    発注内容、下請代金の額、支払期日などを記載した書面を直ちに交付しなければなりません。
  • 支払期日を定める義務:
    物品等を受領した日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。
  • 不当な減額や返品の禁止:
    発注時に決めた代金を、発注側の都合で一方的に減額したり、受領した物品を不当に返品したりすることは禁じられています。

これらのルールを遵守しない場合、公正取引委員会による指導や勧告の対象となる可能性があります。適切な発注管理体制を構築することは、法務リスクを回避するためにも不可欠です。

参照:下請法|公正取引委員会

発注管理の基本的な業務フローとは?

発注管理は、一般的に「購買依頼の受付」から「支払い処理と在庫管理」まで6つのステップで進められます。この流れを理解し、各手順での役割を明確にすることが、管理体制構築の第一歩です。

STEP1:購買依頼の受付

各部署や現場から「何が、いくつ、いつまでに必要か」という購買依頼を受け付けます。依頼内容の妥当性や在庫状況を確認し、発注の要否を判断します。

STEP2:発注先の選定と見積もり取得

購買依頼が承認されたら、複数の取引先候補から最適な発注先を選定します。価格、品質、納期、過去の実績などを総合的に評価し、必要に応じて相見積もりを取得して比較検討します。

STEP3:発注書の作成・送付

発注先が決まったら、正式な発注書を作成し、送付します。発注書には、以下の項目を正確に記載し、双方の認識に齟齬がないようにしましょう。

記載項目内容
発注日発注書を作成・発行した日付
発注番号社内で管理するための一意の番号
品名・品番発注する商品やサービスを特定する情報
数量・単価・合計金額税抜・税込の金額を明確に記載
納期・納品場所いつまでに、どこに納品してほしいか
支払条件支払期日や支払方法など

STEP4:納期管理と進捗確認

発注書を送付した後は、商品が納期どおりに納品されるかを進捗管理します。必要に応じて発注先に状況を確認し、遅延の恐れがある場合は速やかに対策を講じます。

STEP5:商品の検収と受領

商品が納品されたら、発注書の内容と一致しているか(品名、数量、品質など)を検品します。これを「検収」と呼びます。問題がなければ商品を受領し、検収書を発行します。

STEP6:支払い処理と在庫管理

検収が完了したら、取引先から送られてくる請求書に基づき、経理部門が支払い処理を行います。同時に、受領した商品を在庫としてシステムや管理表に登録し、在庫管理を更新します。

発注管理を効率化する具体的な方法とは?

属人化しがちな発注管理を効率化するには、ツールの活用や業務プロセスの見直しが有効です。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。

Excel(エクセル)やスプレッドシートで管理表を作成する

最も手軽に始められるのが、Microsoft Excel(マイクロソフト エクセル)やGoogleスプレッドシート(グーグル スプレッドシート)を利用した発注管理表の作成です。

Excel(エクセル)やスプレッドシートを利用するメリットデメリット
  • メリット
    • 多くの企業で導入されており、追加コストなしで始められる。
    • 関数やマクロを使えば、ある程度の自動計算も可能。
    • 自社の業務に合わせて自由にフォーマットをカスタマイズできる。
  • デメリット
    • 入力ミスや数式の破損が起こりやすい。
    • リアルタイムでの情報共有が難しく、ファイルの同時編集にも制約がある。
    • データ量が増えると動作が重くなり、管理が煩雑になる。
    • 作成者以外にはわかりにくい「属人化」が進むリスクがある。

発注管理システムを導入する

発注業務に特化した発注管理システムや、販売管理システム・ERP(統合基幹業務システム)の一機能を活用する方法です。

発注管理システムを利用するメリットデメリット
  • メリット
    • 発注から支払いまでの一連の業務を一元管理できる。
    • 入力作業の自動化や人的ミスの削減が期待できる。
    • 複数人でのリアルタイムな情報共有や進捗確認が容易になる。
    • 過去のデータを分析し、需要予測やコスト削減につなげられる。
  • デメリット
    • 導入や月々の利用にコストがかかる。
    • システムの操作方法を覚える必要がある。
    • 自社の業務フローに合わないシステムを選ぶと、かえって非効率になる可能性がある。

業務フローそのものを見直す

ツールを導入する前に、現在の業務フローに無駄がないかを見直すことも大切です。

  • 発注ルールの標準化:
    発注先の選定基準や承認手順などをルール化し、担当者による判断のばらつきをなくします。
  • 情報共有の仕組み化:
    部署間で在庫情報や発注状況を共有する定期的なミーティングを設けるなど、アナログな方法でも改善できる点はあるでしょう。
  • 取引先の集約:
    発注先が多すぎると管理が煩雑になります。品質や価格に大きな差がなければ、取引先をある程度集約することも効率化の一環です。

自社に合う発注管理システムの選び方

発注管理システムの導入を検討する際は、何を基準に選べばよいのでしょうか。確認すべき4つのポイントを解説します。

必要な機能が備わっているか

まず、自社が解決したい課題に必要な機能が搭載されているかを確認しましょう。多機能であれば良いというわけではありません。

  • 基本的な機能:見積依頼、発注書作成、検収処理、請求書照合など。
  • 便利な機能:在庫管理、納期管理アラート、会計ソフトとの連携、EDI(電子データ交換)対応など。

無料トライアルなどを活用し、実際の操作感を試してみるのがおすすめです。

導入形態(クラウド型かオンプレミス型か)

システムの提供形態には、主にクラウド型とオンプレミス型の2種類があります。

導入形態メリットデメリット
クラウド型
  • 初期費用が安価
  • 短期間で導入可能
  • 場所を問わず利用できる
  • 月額利用料が発生
  • カスタマイズの自由度が低い傾向
オンプレミス型
  • 自社仕様に細かくカスタマイズ可能
  • セキュリティ要件を柔軟に設定できる
  • 初期費用が高額
  • 導入に時間がかかる
  • 自社での保守運用が必要

近年では、導入の手軽さからクラウド型が主流となっています。

コストは予算に見合っているか

システムの価格体系はさまざまです。初期費用、月額利用料、ユーザー数に応じた追加料金などをトータルで考え、自社の予算に見合うか検討しましょう。隠れた費用がないか、事前に見積もりを取って確認することが大切です。

サポート体制は充実しているか

システム導入後のサポート体制も、選定するうえでの大切な基準です。導入時の設定支援や、操作方法に関するトレーニング、トラブル発生時の問い合わせ対応などが含まれているかを確認しましょう。特に初めてシステムを導入する場合は、手厚いサポートが受けられるベンダーを選ぶと安心です。

発注管理で注意すべき3つのポイント

最後に、発注管理を適切に行ううえで、特に注意すべき点を3つ挙げます。

発注ルールの明確化と共有

誰が、いつ、何を、どのように発注するのかというルールを明確に定め、関係者全員で共有することが不可欠です。担当者が変わっても業務品質が落ちないよう、業務マニュアルを整備しておきましょう。承認フローを明確にすることも、不正発注の防止につながります。

発注データの一元管理

発注に関する情報は、特定の個人のパソコンやファイルに分散させるのではなく、共有のサーバーやシステムで一元管理するべきです。データが一元化されていれば、担当者不在時でも他の人が状況を把握でき、経営層もリアルタイムで発注状況を確認できます。

下請法などの関連法規の遵守

発注の取引の内容によっては下請法などの法律が関わってきます。自社の取引が該当するかどうかを正しく理解し、法令を遵守した取引を徹底しましょう。特に、発注書の交付や支払期日の設定には注意が必要です。不明な点は、中小企業庁のウェブサイトや専門家に確認することをおすすめします。

参照:下請取引適正化、価格交渉・価格転嫁、官公需対策|中小企業庁

発注管理の見直しで、企業の競争力を高める

発注管理は、事務作業の一つと捉えられがちですが、企業のコスト構造やキャッシュフロー、さらには取引先との信頼関係にまで影響を与えます。まずは現状の業務フローを可視化し、どこに課題があるのかを洗い出すことから始めましょう。

そのうえで、Excelやスプレッドシート、発注管理システムといったツールを自社の規模や目的に合わせて活用し、業務の標準化と効率化を進めていくことが、安定した事業運営を支えるでしょう。


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