- 更新日 : 2025年10月21日
貸倒引当金は個人事業主でも使える?仕組みや確定申告での活用方法を解説
個人事業主として事業を営む中で、取引先からの売掛金が回収不能となるリスクは常につきまといます。そうした万一に備えながら、同時に節税効果も狙える制度が「貸倒引当金」です。
本記事では、貸倒引当金の基本的な仕組みや「貸倒損失」との違い、青色申告での一括評価の活用法、白色申告での対応の可否などを解説します。
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目次
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貸倒引当金とは?個人事業主にとっての意味は?
将来の損失に備えるために設けられた「貸倒引当金」は、個人事業主にとって、債権管理と節税の両面で有効な手段です。ここでは、その定義や性質、貸倒損失との違い、青色申告との関係性を解説します。
債権の損失を見込んで経費計上できる制度
貸倒引当金とは、まだ回収不能と確定していない債権について、将来的に発生する可能性のある貸倒れを見込んで、事前に損失として計上する制度です。売掛金や貸付金などの金銭債権がある場合、その取引先が経営不振に陥っていたり、支払遅延が常態化していたりするなら、いずれ回収が困難になる可能性があります。
そうしたリスクに備えるために、一定の金額を「貸倒引当金」として帳簿上で引き当てることが認められています。会計上は、この引当金として繰入れた金額を「費用」として計上するため、その年度の課税所得を減らす効果があり、結果として節税につながります。
青色申告の個人事業主にのみ認められた仕組み
貸倒引当金は誰でも利用できる制度ではありません。 所得税法上、期末の債権全体に対して一定割合を繰り入れる一括評価による貸倒引当金は青色申告者に限り認められた特例です。個人事業主が事業所得、不動産所得、山林所得などで青色申告を選択し、適正な帳簿を備えて記帳していることが前提条件となります。
白色申告者には、こうした事前の引当処理が認められておらず、実際に回収不能が確定した場合の「貸倒損失」としてしか経費計上できません。
貸倒損失との違いは未確定か、確定かが分かれ目
貸倒引当金と混同されがちな概念に「貸倒損失」がありますが、両者は性質が異なります。貸倒損失は、取引先の破産や夜逃げ、長期の債務不履行などにより、債権の回収が完全に不可能と確定した場合に、損失として認められるものです。これに対し、貸倒引当金はあくまで「将来的に回収不能となるかもしれない」という段階で、損失を見積もって計上するものです。
つまり、「貸倒損失」は発生後の事後処理、「貸倒引当金」は発生前の備えという違いがあります。したがって、引当金は将来のリスクを管理するための会計的な予防策とも言えます。
経費計上による節税効果
貸倒引当金を計上すると、その分、当年度の必要経費が増えるため、課税対象となる所得が減少します。期末時点で売掛金が1,000万円ある場合、法令で定められた繰入限度割合である5.5%(=55万円)を貸倒引当金として計上すれば、55万円分の利益を圧縮でき、所得税や住民税の負担を軽減できます。これは帳簿上の処理ですが、将来の回収リスクに備えながら、合法的に節税できるため、多くの青色申告者が利用している制度です。
青色申告をしていれば貸倒引当金を経費にできる?
個人事業主が貸倒リスクに備えながら節税効果を得るには、青色申告が有効です。青色申告を行っている場合、期末に残る売掛金などの債権について「貸倒引当金」を計上し、経費として扱うことが可能になります。
青色申告者には「一括評価」での繰入が認められている
青色申告をしている個人事業主は、期末に保有する売掛金や受取手形、貸付金などの金銭債権の一定割合を、貸倒引当金として繰り入れることができます。この制度は「一括評価による貸倒引当金」と呼ばれており、所得税法上、青色申告をしている事業者にのみ認められている特例です。2025年9月現在、この繰入限度割合は「5.5%」とされており、期末時点での債権合計額に対してこの割合を乗じた金額を、必要経費として計上できます。
また、個人事業主であっても主たる事業が金融業に該当する業種の場合は、一般事業と異なり繰入限度割合が「3.3%」に引き下げられています。これは、貸倒リスクの程度や業種特性を考慮した規定です。適用の可否については、税務署や専門家に確認すると安心です。
繰入限度額の計算方法
貸倒引当金の繰入限度額は、次のように計算します。まず、12月31日時点での売掛金や受取手形、貸付金などの事業債権の合計額を集計します。次に、その合計額に対して一律で5.5%(または金融業であれば3.3%)を乗じます。この結果が、貸倒引当金として繰り入れ可能な上限金額となります。
年末時点で売掛金が1,000万円ある場合、その5.5%である55万円が繰入限度額です。この上限いっぱいまで引当金を計上することが一般的ですが、状況に応じて繰入額を抑える、あるいはゼロにすることも可能です。
節税とリスク管理を両立する有効な制度
このように、青色申告を行っていれば、将来的な貸倒れのリスクに備えつつ、経費計上によって課税所得を減らすことが可能になります。貸倒引当金を活用することは、事業運営上の健全な資金管理にもつながり、税務上も正当な処理として認められています。
制度を正しく理解し、期末の帳簿整備とあわせて適切に繰入を行えば、無理なく税負担を軽減できるでしょう。青色申告のメリットの一つとして、ぜひ活用したい制度です。
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個別評価貸倒引当金とは?どんな場合に計上できる?
個別評価貸倒引当金は、特定の債権ごとに発生が見込まれる損失を、客観的な事情に基づいて計上する制度です。債権の一部が将来的に回収不能となる可能性が高い場合、合理的な根拠をもとに必要経費として認められます。
回収不能の可能性が高い債権に限り、個別に引当て可能
個別評価貸倒引当金とは、特定の債権ごとに将来の貸倒れが見込まれる金額を評価し、その損失見積額を経費に繰り入れる方法です。取引先が民事再生手続や破産手続などの法的整理を申し立てた場合や、継続的な債務不履行が見られる場合、その債権の全部または一部の回収が困難になる可能性が高まります。このような場合に、所定の割合(例:更生計画の認可で50%など)で損失を見積もり、個別に引当金として計上します。
計上には明確な条件と根拠が必要
個別評価による繰入を行うためには、回収不能と判断できる合理的な根拠が必要です。法的倒産手続の開始、債権の一部免除が決定された場合、または1年以上取引が停止されており債務弁済の見込みがないといった状況が対象になります。これらは税法上「繰入が認められる事由」として明確に定められており、見積額の妥当性を説明する必要があります。
確定申告時には明細書の添付が求められる
個別評価貸倒引当金を計上する場合、確定申告時に「個別評価による貸倒引当金に関する明細書」の添付が必要です。この明細書には、該当債権の内容、回収困難と判断した理由、繰入額の計算根拠などを記載します。これがなければ、税務署に経費として認められないリスクがあります。
白色申告でも貸倒引当金は利用できる?
白色申告者には青色申告のような特典は多くありませんが、一定の条件を満たせば「個別評価貸倒引当金」としての処理が可能です。ただし計上には明確な証拠と慎重な判断が求められます。
一括評価は不可だが、個別評価は条件付きで可能
白色申告者の場合、青色申告者が利用できる「一括評価貸倒引当金」(期末債権残高の5.5%を繰り入れる方式)は認められていません。しかし、個別の債権に対して将来的な回収不能がほぼ確実であると判断できる場合には、「個別評価貸倒引当金」としての計上が可能とされています。これは税務上、形式的には引当金の繰入という形をとりますが、実質的には「貸倒損失」の計上に近い処理です。
たとえば、取引先が倒産した、夜逃げして所在不明となった、長期間にわたり債務の履行がないなど、明らかに債権が回収できないと客観的に判断される状況が該当します。これらに当てはまる場合、該当する金額を必要経費に含めることができます。
税務署に認められるための証拠が不可欠
白色申告者がこのような損失を経費として計上するには、慎重な判断が求められます。税務署が「回収不能」と認めるためには、内容証明郵便による催促、取引停止後1年以上の経過、法的措置の検討・断念、債務者の破産申立てなど、客観的な証拠の提出が必要です。
このような証拠を十分に揃えていなければ、経費算入は否認されるおそれがあります。現在では白色申告者にも記帳と帳簿類の保存が義務付けられていますが、簡易な帳簿付けが認められているため、青色申告者ほど詳細な取引記録を残していないケースも多く、客観的な証拠を揃えるハードルが高くなりがちです。
制度活用を目指すなら青色申告への移行が最適
以上のように、白色申告でも貸倒見込みのある債権に対する経費処理は一定条件下で可能ですが、計上には高いハードルがあります。事前に貸倒リスクに備えて引当金を計上したい、帳簿上の損益調整を柔軟に行いたいという場合には、青色申告へ移行することが現実的な選択肢です。青色申告を行えば、一定割合の一括評価が認められ、より安定したリスク管理と節税が可能になります。
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確定申告では貸倒引当金をどのように計上・申告する?
貸倒引当金を確定申告に反映させるためには、期末における債権の整理と、適切な帳簿処理、さらには書類の添付まで一連の手続きが必要です。青色申告者の場合、所定の欄に正しく金額を記入するだけでなく、個別評価を行う際には明細書の添付も求められます。
青色申告決算書の該当欄に繰入額を記入する
貸倒引当金を経費として計上する際は、まず期末の債権の状況を整理し、繰入額を算定する必要があります。青色申告決算書(一般用)には「貸倒引当金繰入額の計算」という専用の欄が設けられています。ここで、売掛金、受取手形、貸付金などの事業用債権の合計額に対し、所定の繰入率(通常5.5%、金融業は3.3%)を乗じて繰入限度額を求め、その範囲内で経費として計上する額を記入します。
個別評価の場合は明細書の添付が必要
取引先の経営状況など個別の事情により貸倒れの可能性が高い債権がある場合は、「個別評価貸倒引当金」として繰入を行うことが可能です。ただし、この場合は「個別評価による貸倒引当金に関する明細書」を確定申告書に添付することが求められます。
明細書には、債権ごとの回収不能が見込まれる根拠(例:倒産、債務免除予定など)、債権金額、見積損失額、繰入額の計算方法などを詳細に記載します。様式は国税庁が公開しており、これに基づいて正確に記載する必要があります。
前期の引当金がある場合は戻入処理が必要
前期に貸倒引当金を計上していた場合、当期の会計処理ではまず、その前期計上額の全額を「貸倒引当金戻入」として収益に計上します(これを「洗替法」といいます)。その上で、当期末に改めて債権残高から新たな繰入額を計算し、その全額を「貸倒引当金繰入」として経費に計上します。
例えば、前期末に50万円の引当金を計上したケースで考えてみましょう。
- 当期の処理として、まず収益に「貸倒引当金戻入 50万円」を計上します。
- 次に、当期末に計算した引当金の必要額が60万円だった場合、経費として「貸倒引当金繰入 60万円」を計上します。
この結果、当期の損益計算上は、差し引きで10万円の経費が増加する形となります(収益50万円 – 経費60万円 = ▲10万円)。 このように、毎年引当金を一度リセットし、期末に改めて設定し直すのが所得税法上のルールです。
証拠書類の備えも忘れずに
貸倒引当金は見積もりに基づく処理ですが、個別評価の場合は法令上、その評価の根拠となった事実を証明する書類の保存が必須です。一括評価でも帳簿や証憑の保存義務があり、税務署から確認を求められる場合があります。
債務免除通知、破産開始決定書、内容証明郵便による請求記録など、債権回収不能の根拠となる書類を保存しておくことが重要です。税務調査の際には、これらの資料が処理の正当性を裏付けるものとして役立ちます。
貸倒引当金を活用して将来の損失と税負担に備えよう
貸倒引当金は、売掛金などの債権が回収不能になる可能性に備えるための制度であり、青色申告者には「一括評価」での繰入が認められるという大きなメリットがあります。これにより、万一の損失に備えると同時に、必要経費の計上を通じて節税効果も得られます。個別評価による繰入であれば、白色申告者にも一定の対応が可能です。
ただし、いずれの場合も確定申告時には適切な帳簿処理と書類の整備が求められます。事業の信頼性を高める意味でも、制度の仕組みを理解し、計画的に運用していくことが重要です。

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