- 更新日 : 2025年7月25日
雇用保険料の端数処理|切り捨て?五捨六入?計算シミュレーションやエクセルの活用方法も
給与計算業務において、社会保険料の計算は正確さが求められる重要な業務です。特に、雇用保険料の計算で生じる1円未満の端数処理は、間違いやすいポイントの一つ。「切り捨てでいいの?」「四捨五入じゃないの?」といった疑問をお持ちの担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、雇用保険料の端数処理に関する正しいルールと、実務における注意点を分かりやすく解説します。この記事を読めば、自信を持って正確な給与計算を行えるようになります。
雇用保険料の端数処理のルール
雇用保険料の計算における端数処理には、法律に基づいた明確なルールが存在します。給与計算の担当者は、まずこの基本原則を正確に理解しておくことが重要です。単純な四捨五入や切り捨てとは異なるため、ここでしっかりと確認しましょう。
労働者負担分は「50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げ」
被保険者(労働者)の給与から天引きする雇用保険料に1円未満の端数が生じた場合、その処理方法は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に基づいて定められています。
- 50銭以下は切り捨て
- 50銭1厘以上は切り上げ
具体的には、計算結果の小数点以下が「.50」までなら切り捨て、「.501」以上であれば切り上げて1円とします。
計算結果の例 | 小数点以下の値 | 処理方法 | 最終的な保険料 |
---|---|---|---|
3,456.50円 | 50銭 | 切り捨て | 3,456円 |
3,456.501円 | 50銭1厘 | 切り上げ | 3,457円 |
3,456.49円 | 49銭 | 切り捨て | 3,456円 |
このルールは厚生労働省の行政手引にも明記されており、企業の独自判断で切り捨てや四捨五入といった処理を行うことは認められていません。
参考:通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律|e-Gov 法令検索
厳密には五捨六入ではない
この処理方法は、五捨六入と呼ばれることがありますが、厳密には異なります。五捨六入は、「5以下を切り捨て、6以上を切り上げる」という考え方ですが、雇用保険料の端数処理はあくまで「銭」を基準とします。実務上、小数点以下第2位までで判断することが多いため結果的に同じになるケースが多いですが、法律上の正しい理解としては「50銭以下切り捨て」と覚えておきましょう。
事業主(会社)負担分は切り捨てが一般的
労働者負担分とは異なり、事業主(会社)が負担する雇用保険料の端数処理については、法律上の明確な規定がありません。そのため、慣行として全額切り捨てで処理する企業が多いのが実情です。労働者負担分と処理方法が異なるため、混同しないようにしましょう。
雇用保険料の端数計算シミュレーション
基本ルールを基に、具体的な計算例を見ていきましょう。
ここでは、2025年度(令和7年度)の雇用保険料率を例に計算します。2025年度の料率は2024年度から0.05ポイント引き下げられ、料率が改定されています。以下は、一般の事業における労働者負担分の料率(0.55%)を用いた計算例です。
ケース1. 賃金総額が300,000円の場合
- 計算:300,000円 × 0.0055 = 1,650.0円
- 端数処理:端数が生じないため、そのまま
- 労働者負担額:1,650円
ケース2. 賃金総額が332,400円の場合(端数が50銭以下)
- 計算:332,400円 × 0.0055 = 1,828.2円
- 端数処理:端数が「.2円 = 20銭」であり50銭以下なので切り捨て
- 労働者負担額:1,828円
ケース3. 賃金総額が331,000円の場合(端数が50銭ちょうど)
- 計算:331,000円 × 0.0055 = 1,820.5円
- 端数処理:端数が「.5円 = 50銭」なので切り捨て
- 労働者負担額:1,820円
ケース4. 賃金総額が332,092円の場合(端数が50銭を超える)
- 計算:332,092円 × 0.0055 = 1,826.506円
- 端数処理:端数が「.506円 = 50銭6厘」であり50銭1厘以上なので切り上げ
- 労働者負担額:1,827円
賞与(ボーナス)から天引きする場合もルールは同じ
賞与から雇用保険料を控除する場合も、月々の給与と同じ計算方法を用います。賞与の総額に雇用保険料率を掛け、労働者負担分については「50銭以下切り捨て、50銭1厘以上切り上げ」のルールに則って端数処理を行い、天引きします。賞与は金額が大きくなるため、計算ミスがないよう特に注意が必要です。
雇用保険料の端数処理でよくある間違いと注意点
正しいルールを理解していても、実務では思わぬ間違いや疑問が生じることがあります。ここでは、給与計算担当者が陥りがちな間違いや、判断に迷うポイントについて、そのリスクと正しい対処法を解説します。
四捨五入や安易な切り捨ては間違い
最も多い間違いが、四捨五入や切り捨てで処理してしまうケースです。特に労働者負担分について、法律で定められた方法以外で計算し、徴収不足や過徴収が発生した場合、後々のトラブルに発展する可能性があります。必ず50銭以下切り捨て、50銭1厘以上切り上げの原則を守りましょう。
労使協定で独自のルールは定められない
労働者に有利な条件、例えば「労働者負担分の端数はすべて会社が負担(=すべて切り捨て)」といった内容を労使協定で定めること自体は、直ちに違法とはなりません。しかし、法律で定められた額を超えて労働者から徴収することはできません。トラブルを避けるためにも、法律で定められた原則通りの運用が最も安全です。
雇用保険料の計算と端数処理を効率化する方法
毎月の給与計算を正確かつ効率的に行うために、ツールをうまく活用することも重要です。ここでは、多くの企業で利用されているExcelを使った計算方法や、給与計算ソフトのメリットについて解説します。
Excel(エクセル)を使った端数処理の方法
Excel(エクセル)で雇用保険料を計算する場合、ROUND関数では四捨五入になってしまうため適切ではありません。INT関数やTRUNC関数を工夫して使うことで対応可能です。
例えば、労働者負担分の計算式(A1セルに賃金額、B1セルに料率)は以下のようになります。
=INT((A1*B1)+0.499)
この数式は、「計算結果に0.499を足してから小数点以下を切り捨てる」という処理を行うもので、「50銭以下切り捨て、50銭1厘以上切り上げ」に近い結果を得られます。ただし、完全ではないため、給与計算ソフトの利用がより確実です。
給与計算ソフトを利用するメリット
給与計算ソフトを導入する最大のメリットは、法改正への自動対応と計算の自動化です。
- 法改正への自動対応:毎年のように改定される保険料率が自動でアップデートされる。
- 計算の自動化:端数処理も法律に基づいて自動的に行われ、計算ミスを防止できる。
- 業務効率化:手計算やExcel管理で起こりがちなヒューマンエラーのリスクを大幅に軽減できる。
正確性と業務効率を両立させるために、給与計算ソフトの導入は非常に有効な選択肢です。
正しい端数処理で信頼される給与計算を
本記事では、雇用保険料の計算における端数処理について、その基本ルールから具体的な計算例、実務上の注意点までを詳しく解説しました。
給与は従業員の生活を支える大切なものです。1円の誤差も許されないという意識を持ち、法律に基づいた正確な処理を徹底することが、従業員との信頼関係を築く上で非常に重要です。本記事が、貴社の正確な給与計算実務の一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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