- 更新日 : 2024年10月21日
インボイス制度の弁護士への影響は?法律事務所の対応を解説
インボイス制度とは適格請求書を発行し、保管する制度です。インボイス制度が2023年10月1日から始まることで、消費税の課税事業者が請求書に記載する内容が変わることがあります。弁護士が発行する請求書はどう変わるのか、法律事務所の経営パターンに分けて解説します。
目次
弁護士にも影響するインボイス制度
弁護士に仕事を依頼するときには、業務に対する報酬に加え、消費税を支払う必要があります。インボイス制度は消費税の課税事業者が実施する制度です。弁護士自身にとっても、弁護士に依頼する方にとっても無関係ではありません。
インボイス制度とは
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、消費税の適用税率や税額を伝える「インボイス(適格請求書)」を交付することで仕入税額控除の適用を受ける制度のことです。消費税に関する制度のため、免税事業者の領収書の発行に関しては特に影響はなく、課税事業者のみ対応が求められます。
インボイス制度が始まると、サービスや商品の提供者側は取引相手がインボイスを求めたときには適切に交付し、また交付したインボイスの写しを取っておくことが必要です。反対にサービスや商品の提供を受ける側にとっては、売り手からインボイスの交付を受け、仕入税額控除の適用を受けることを意味します。
インボイス制度についてより詳しい情報は、以下の記事からご確認ください。免税事業者は手続き面での対応は不要ですが、取引が減るなどの影響が生じる可能性があります。記事内でも解説していますので、参考にしてください。
適格請求書発行事業者とは
インボイスを発行できるのは「適格請求書発行事業者」です。適格請求書発行事業者とは、税務署長に適格請求書発行事業者の登録を申請した事業者のことです。適格請求書発行事業者になると、消費税の課税事業者になります。以下の流れに沿って登録申請しましょう。
- 登録申請書を税務署に提出する
- 税務署による審査が行われ、登録簿に登載される
- 税務署から登録を通知される
なお登録後は、インターネットを通じて登録番号や登録年月日などを確認できるようになります。
インボイス制度によって法律事務所に求められる対応
弁護士の仕事は、消費税の課税対象となります。次のパターンに分けてインボイス制度への対応を解説します。
- 免税事業者の場合
- 課税事業者の場合
- 組合などの事業として業務を行う場合
なおフリーランスや個人事業主として弁護士の仕事を行う場合も、消費税の課税対象かどうかによって適切な対応が必要です。該当するほうの対応を確認しておきましょう。
免税事業者の場合
2年前の年度の課税売上が1,000万円を超えている場合は課税事業者となるため、開業してから最初の2年間はどの事業所も免税事業者です。また開業後2年間を過ぎても、2年前の年度の課税売上が1,000万円以下である限り、免税事業者として事業を行います。
インボイス制度は消費税の手続きに関する制度のため、免税事業者は特に対応する必要はありません。しかし顧客が課税事業者の場合、インボイスの発行を求められることになります。免税事業者である旨を顧客に伝え、インボイスの発行に対応できないことを説明しましょう。
ただし、インボイス制度に対応していないことで顧客の手間を増やすことになり、取引上不利になる可能性があります。取引先との関係を考慮した上で、課税事業者になって事業者登録することも検討しましょう。
課税事業者の場合
課税事業者として業務を行うときには、インボイス制度への対応も必要です。まずは適格請求書発行事業者として登録を済ませてから、インボイスを発行できる環境を整えましょう。
2023年9月30日までに登録を申請すれば、2023年10月1日からの制度施行に対応できます。なお適格請求書発行事業者になるかどうかは任意で選択できるため、登録しないという選択も可能です。
しかし登録しない場合には、弁護士報酬について顧客側で仕入税額控除が使えないため、消費税を納税しなければならなくなります。消費税を負担に感じている法人顧客であれば、インボイス制度に対応している法律事務所・弁護士に乗り換える可能性があるでしょう。顧客を失わないためにも、適格請求書発行事業者登録をするほうが良いといえます。
弁護士が1名の事務所(個人事業主)も同様です。課税事業者であれば、適格請求書発行事業者として登録することで、顧客にインボイスを発行できます。一方で免税事業者の場合には、適格請求書発行事業者として登録できないため、インボイスも発行できません。
組合等の事業として業務を行う場合
法律事務所(複数の弁護士で経営)の場合には、各弁護士は組合の組合員となります。組合等の事業として実施した取引については、原則として適格請求書を交付することができません。
ただし組合等の組合員すべてが適格請求書発行事業者である場合には、一定の事項を記載した届出書を提出したときのみ、例外的にインボイスの交付が認められます。組合としての届出書を提出し忘れたときは、顧客側は仕入税額控除の適用を受けられなくなる恐れがあります。
なおアソシエイト等は給与所得者であり、消費税の納税義務はありません。そのため課税売上高に関わらず、適格請求書発行事業者としての登録は不要です。
インボイス制度が弁護士の収入に与える影響
インボイス制度の施行により、弁護士の収入が変わることもあります。たとえば課税事業者でインボイス制度に対応している法律事務所・弁護士であれば、インボイス作成の手間が増えることになるため、弁護士報酬の値上げを検討し、顧客に伝える必要が生じる可能性もあるでしょう。
また弁護士報酬を変えないで対応するケースや、反対に弁護士の収入が減るケースも想定されます。それぞれのケースについて解説します。
弁護士報酬を変えないで対応するケース
もともと課税事業者として営業していた法律事務所・弁護士にとっては、インボイス制度が始まったとしても極端に業務が増えるわけではありません。消費税に対する対応にも変化はないため、弁護士報酬を変えずに対応することができます。
弁護士の収入が減るケース
事業規模が小さく、免税事業者として営業し続ける場合には、インボイス制度に対応しないため、顧客の負担が増える可能性があります。その分、報酬を値下げして対応する弁護士事務所、フリーランスもいると考えられるでしょう。
また、報酬を値下げしない場合でも、他の課税事業主との取引に切り替えられたり、課税事業主になって消費税を納める必要が生じたりすることで収入が減る可能性もあります。
インボイス制度施行後に備えておこう
インボイス制度の施行により、弁護士や法律事務所が発行する領収書にも影響を及ぼします。特に法人などの課税事業者が顧客に多い場合には、インボイスに対応していないことで業務継続が難しくなることもあるでしょう。課税事業者の場合であれば、早めに適格請求書発行事業者としての登録を済ませ、インボイスを発行できるように環境を整えておくことが必要です。
免税事業者であれば、顧客側の負担が増えることを理解し、弁護士報酬を値下げするなどの対応が必要になるかもしれません。早めに対応し、顧客の流出を防ぎましょう。
よくある質問
インボイス制度が弁護士に与える影響とは?
弁護士が課税事業者で適格請求書発行事業者の登録をしている場合には、インボイスを発行する必要があります。事業者登録がまだの場合は、早めに済ませておくことが必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
インボイス制度は弁護士報酬に影響する?
課税事業者でない場合には取引相手の業務が増えることを考慮し、報酬の値下げ対応が必要になることもあります。一方で課税事業者として適格請求書発行事業者の登録を行っている場合には、特に影響はないと考えられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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